野党共闘「期待したが、全くの幻想だった」…中北浩爾・中央大教授が語った「共産党の多難な今後」

2024年2月11日 06時00分
 100年を超える歴史上初めての女性トップという思い切った人事で、新たなスタートを切った共産党。その独特の組織文化はしばしば論争の的になるが、田村智子・新委員長の下で何かが変わるのか。「日本共産党—『革命』を夢見た100年」の著書がある中北浩爾・中央大教授(政治学)に聞いた。

◆トップ交代 「田村氏が独自に判断できる余地は小さい」

共産党の田村智子委員長

共産党の田村智子委員長

 —20年以上にわたり党を率いた志位和夫氏が退き、田村智子氏が新たな委員長に就いた。
 共産党は近年、ジェンダー平等を推進し、議員や党幹部に女性を増やしてきた。その一環として高く評価する。しかし、委員長交代の内実は乏しい。国会やテレビ出演などの表向きは田村氏が担う一方で、議長に就いた志位氏が党運営全般について引き続き中心を担う。共産党は集団指導体制の下、長老支配の傾向が強く、田村氏が独自に判断できる余地は小さい。
 —刷新人事で局面打開を図った党の現状は。
 1960〜70年代は時代とマッチして躍進したが、80年代以降は党員数、機関紙「しんぶん赤旗」の購読者数、国会の議席数などで後退が続く。90年代後半の議席の増加は社会党が、2010年代前半の躍進は民主党がしぼんだ分を吸収したことが大きく、一時的でしかなかった。今年1月の党大会に向けて党員数と「赤旗」の購読者数を3割増しにする目標を掲げたが、現状維持もできなかった。なのに科学的な総括はなされず、精神論で増やせと号令するだけだ。

◆党勢低迷と組織体質 「党内にも権力制約原理を導入すべきだ」

 —党低迷の背景は。
 ソ連が崩壊し、共産主義が魅力を失ったことが最大の理由だ。共産党ロシア革命を受けて結成された政党。日本共産党が自主独立路線に転換していたとはいえ、かつての総本山が既に崩壊していることや、中国や北朝鮮の兄弟党の現状を見れば、共産主義に未来があるとは思えないだろう。イタリア共産党民主党に変わり、フランス共産党共産党のまま衰退した。日本共産党も青年組織の民青同盟のメンバー数がソ連崩壊後に激減し、党員の高齢化が著しい。
 もう一つの衰退の理由は、昔ながらの「民主集中制」という組織原則の堅持。革命のため統一的な力が必要だとして、トップダウンで派閥・分派を認めない。しかし、欧州の急進左派の主流は今や共産党ではなく、ドイツ左翼党や「不服従のフランス」など開かれた党組織を持つ民主的社会主義政党だ。
中央大の中北浩爾教授

中央大の中北浩爾教授

 —志位体制下の昨年、党改革を訴えた古参党員を除名し「強権的」との批判を浴びた。1月の党大会では、除名に異論を唱えた地方議員を田村氏が糾弾する場面もあった。
 昨年の2党員の除名処分は、従来の体質が変わらないことを示した。先の党大会では、控えめに問題提起した神奈川県議を大勢の代議員の前でつるし上げ、人格攻撃を加えた。中央委員会総会で議論した結果を田村氏が読み上げたもので、組織ぐるみのパワハラだ。地域の党組織でもパワハラが起きているとの告発が交流サイト(SNS)上で相次ぎ、「#MeToo運動」のようになっている。
 なぜ、こうしたことが起きるのか。党内のことは党内で解決するという閉鎖的な「民主集中制」が原因だ。その下で党指導部が絶大な権力を持ち、異論を唱える党員を「支配勢力に屈服した」と糾弾する。「分派を認めない」といった党規約の解釈権も党指導部が握り、簡単に除名や除籍を行い、反共の烙印を押して排除する。共産党立憲主義を唱えているが、党内にも権力制約原理を導入すべきだ。

野党共闘 「党方針と矛盾しない範囲での柔軟化にとどまった」

 —2015年に共産党が安保法制廃止を目指す「国民連合政府」を打ち出し、野党共闘のきっかけを作ったが、現在は行き詰まっている。
 当時、「市民と野党の共闘」を掲げて「柔軟路線」を取り、多くの人々が期待した。しかし、共産主義に基づいて革命を起こすという方針と矛盾しない範囲での柔軟化にとどまり、日米安保条約の廃棄や民主集中制といったコアを変えなかった。党大会で22年までに野党連合政権を樹立するという目標を立て、実現しなかったのに、その責任を誰も取らなかった。私もそれなりに期待したが、全くの幻想だった。

◆期待 「声を上げる党員が増えているのが救い」

 —中北さんは、共産党は日本政治のゲームチェンジャーになり得るとの指摘もしていた。
 その芽がもう少しあると思ったが…。野党連合政権を目指すなら、日米安保の容認など大胆な政策の柔軟化が必要だ。(共産党との共闘を否定する)国民民主党だけでなく、立憲民主党も外交・安保政策の違いを共闘のネックとしている。その場合は中道左派社会民主主義政党に移行することになる。
東京・代々木の共産党本部(中央委員会)

東京・代々木の共産党本部(中央委員会)

 日米安保条約の廃棄など急進左派の立場を続け、外から政権を批判するにしても、党勢拡大を望むならば民主集中制を改めた方がいい。自由で公正な党首選挙を行わず、前任者が後任者を推薦して承認する方法では自己改革が難しい。最高幹部の最高齢は90歳代で、組織論は党勢が拡大した1960〜70年代のままだ。世の中はリベラル化しており、社会のさまざまな組織の形も軍隊調ではなく、フラットなネットワーク型に変わってきている。自由で開かれた党組織に転換しなければ、若年層は入ってこない。
 ジェンダー平等への取り組みは評価できるし、献身的な党員や有権者のために地道に働く地方議員が多い。労働組合などの大衆団体もしっかりしている。優れた資源はあるのに、生かし切れていない。一般にはなかなか見えないが、実態は代々木(党本部)の専従活動家からなる官僚制が支配しており、その上に立つ党指導部は硬直的だ。このままだと高齢化とともに党がなくなってしまうという危機感を持ち、声を上げる党員が増えているのが救いだ。