なぜ日本人の小児性愛者はラオスに向かうのか  「10歳児」集めた部屋の異常【東南アジア少女買春の罪(上)】(2025年1月11日『47NEWS』)

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中学生ぐらいの少女が集められた売春拠点の部屋と買春客(右)=ラオスビエンチャン(共同)
 東南アジアの内陸国ラオスの首都ビエンチャンに、一部の日本人が少女買春を目的に訪れている実態がある。隣国タイなどが国際的な批判を受けて未成年の摘発を強化する中、小児性愛者は取り締まりの緩さにつけ込んでラオスに狙いを定め、情報を拡散している。地域情勢に詳しい日本の専門家は「最近5~10年で少女買春者の存在感がラオスで増している」と指摘。客の増加に比例して、従事する少女の数も増えている懸念があるという。
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飲食店を装った売春拠点の店内=ラオスビエンチャン(共同)
 ただ、ラオス人民革命党一党独裁体制下で情報は限られる。今回、共同通信記者が実態を探るために現地で日本人客に接触。複数の売春拠点を訪れ、小学生高学年ほどの「10歳」前後が集められた部屋などを確認した。上下の2回にわたって報告する。(共同通信バンコク支局 伊藤元輝)
 
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買春客(左)と一緒に部屋から出た少女=ラオスビエンチャン(共同)
 「10歳」の少女達もまた、それぞれスマートフォンを持っており、ショート動画を見ながら指で画面を手繰っていた。客たちは身を乗り出して少女を選ぶ。
 先ほどの中学生ぐらいの少女達がいた部屋と少し様子が異なる。少女達が無邪気なのだ。こちらに全く興味がなさそうにスマートフォンから目を離さない子もいたが、多くは不思議そうに視線を投げかけてきた。中には立ち上がって笑顔を向ける子もいた。学童保育で過ごす子どもたちのようだと錯覚する。
 客は管理人と値段交渉を始めた。150万キップ。日本円換算で1万円程度の金額で折り合った。最初に案内された中学生ぐらいの子たちよりも年齢が下がったことで、価格は倍になった。
 客の1人は「楽しみだ」との趣旨の軽口をたたき、指名した子の手を引いた。男と少女の後ろ姿が目に入る。体格差が歴然としている。別の日本人客もそれぞれ少女を指名し、別の部屋に向けて移動した。その場で客の買春を制することはできなかった。記者の身分を隠しており、怪しい行動を取れば、管理人らに拘束される恐れがあった。
 ラオスでの児童買春、帰国後に日本で処罰も
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売春拠点にあった少女の靴=ラオスビエンチャン(共同)
 管理人は記者にしきりに少女の指名を促した。「初めて来たので緊張している。少し外でビールを飲みたい」。あらかじめ用意していた言い訳をスマートフォンの翻訳アプリで示した。管理人は引き下がり、記者は敷地外に出た。
 客に同行したこの拠点以外にも、飲食店を装った小規模の売春拠点を複数確認した。日本人以外にも中国人とみられる客が出入りしていた。東アジアの客が多く、他に欧米からも訪れるという。
 日本の児童買春・ポルノ禁止法では刑法の国外犯規定に基づき、海外での18歳未満の子どもを買春した場合も処罰対象になる。ただ、インターネット上では隠語を交えて活発に情報が交換され、継続的に小児性愛者がラオスを訪れている。
 違法性を認識していないとみられる書き込みもある。現地でラオス人少女を無許可で撮影したとして、わいせつ動画の販売をうたう悪質なサイトの存在も確認した。2019年にはラオスで女児の裸などを撮影したとして、警視庁が児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で医師の男を逮捕している。氷山の一角とみられる。
 ▽FIRE達成した男の言い分 ▽看板のない売春拠点、腕を引っ張られ中へ
 「レディ?レディ?」。2024年後半、ラオスの首都ビエンチャンで訪ねた売春拠点のひとつで、若い男がそう声をかけてきた。うなずくと、ぐいっと腕をつかまれ、敷地の中へ引っ張られていく。周囲には看板も人通りもない。交通の便も悪く、情報がなければ売春拠点とは判断がつかない場所だ。
 実態を把握するために記者は客を装い、偶然近くにいた日本人客3人に同行する形で売春拠点に入った。客はいずれも30代ぐらいの男だった。
 建物内は閑散としていて、管理人はわれわれを部屋のひとつに案内した。扉が開くと、少女7~8人ぐらいがプラスチック製の椅子に座り、スマートフォンを見たり、おしゃべりしたりしていた。中学生ぐらいの年代で、発育が遅い可能性を考慮しても、彼女たちが未成年であることは明白だった。
飲食店を装った売春拠点の裏手にあるわいせつ行為をするための小部屋=ラオスビエンチャン(共同)
 「この部屋にいるのは14歳で、70万キップだ」。管理人が少女を指さしながら、選ぶように迫ってくる。日本円で5千円ぐらいということになる。少女達はちらちらとこちらに視線を投げながら、またスマートフォンに目を落とす。目から警戒感が伝わってくる。
 ▽「もっと若い子を」。客の要望に管理人は
 同行した3人の客はしばらく少女たちの様子を眺めた後、スマートフォンの翻訳アプリで、より若い少女を希望すると管理人に伝えた。すると、近くで待機していた他の男が立ち上がり、われわれを建物内の別の部屋に案内した。
 部屋の前のげた箱が目に入った。子ども用の靴やサンダルが並んでいて嫌な予感がする。扉が開くと、室内は半分ぐらいマットレスのようなものが敷き詰められていた。そこに小学校高学年ぐらいの少女約10人が寝転がっている。
 管理人は「この部屋にいるのは10歳だ」と言う。驚いて年齢を改めて問うと、手元の電卓で「10」と打って示してきた。
 店に同行した3人のうちの1人に、ビエンチャンの別の場所で面会する機会を得た。記者の身分を明かして取材を申し込んだ。男は30代ぐらいで、投資などで安定収入を得て、早期退職した「FIRE(ファイア)」を達成した状態で、生活には余裕があるという。
 取材依頼に驚きながらも、ひとつひとつの質問にためらいながら答えた。まず、指名した少女が「小学生ぐらいの年代だった」と認めた。部屋での様子について、少女が「部屋でずっと電子たばこを吸いながらスマートフォンを触っていて、中年男性と関わるのが嫌な様子だった」と語った。
 インターネット上でラオスの売春拠点に関する情報がやりとりされていると話を振ると「穴場だと知った人が集まっている」と説明。さらに「少女が動画撮影をされないかどうか警戒していた」とも明かした。
 日本の児童買春・ポルノ禁止法では刑法の国外犯規定により海外での18歳未満の買春も処罰対象になることから、罪の意識を問うた。男はやや感情的になって「(少女達は)金に困っているのだから、正義感を振りかざすより、金で援助する方が合理的だ」と発言した。
 こうした主張はインターネット上にもあるが、実際には多くの問題をはらむ。先進国の日本と途上国のラオスの間には大きな経済格差がある。少女買春はラオスの貧困と取り締まりが脆弱な環境を利用している。ラオスは日本人に対し、観光・ビジネスのいずれの目的でも15日以内の滞在ならビザなしでの入国を認めているが、日本人による犯罪行為の横行は両国の信頼関係に悪影響を与える懸念もある。
 少女達は意思に反してこうした環境に置かれている可能性が高く、人身売買によって売春拠点にたどりついたとみられる。ラオスの少女たちが買春に従事せざるを得ない背景は何か―。
(下に続く)
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