飯塚事件 黒塗りの死刑執行文書 元死刑囚の遺族が開示求め提訴(2025年1月10日『毎日新聞』)

キャプチャ2
国が遺族に開示した「死刑執行始末書」。執行過程が記載されている部分は黒塗りだった=福岡市中央区で2024年12月27日午後7時31分、志村一也撮影
 再審請求の準備中に、なぜ死刑は執行されたのか――。福岡県飯塚市で1992年に小学1年の女児2人が殺害された「飯塚事件」で2006年に死刑判決が確定し、08年に執行された久間三千年(くまみちとし)元死刑囚(執行時70歳)の遺族に対し、国が開示した執行の関係資料は大半が黒塗りだった。無実を訴えていた元死刑囚に代わって再審請求した遺族側は「早すぎた執行」の真実を探るため、黒塗り資料の開示を求める民事訴訟も起こし、国と闘っている。
関連記事・ベールに包まれる死刑制度 執行の順番、ルールは?
 「早く再審請求しないと執行されてしまうおそれがある」。死刑確定から約2年後の08年9月、福岡拘置所の面会室。弁護団の岩田務、徳田靖之両弁護士が告げると、久間元死刑囚は自身も含めた確定死刑囚の名前と判決確定日が記されたリストを透明の仕切り板越しに示した。執行済みの死刑囚は横線で名前が消されていた。「まだ真ん中ぐらいだから大丈夫。時間はあるので再審請求お願いします」。久間元死刑囚はそう言って面会室を後にした。
キャプチャ
 
キャプチャ3

事件の概要
1992年2月20日、福岡県飯塚市で小学校1年生の女児2名が登校途中に失踪し、翌21日に隣接する甘木市でいずれも遺体となって発見されるという幼児強姦殺人事件が発生しました。また、翌22日に遺体発見現場から数キロ離れた場所から、被害者の遺留品が発見されました。
その後、遺留品発見現場付近、被害者の失踪現場付近で自動車を目撃したという証人が現れ、これに該当する車両は福岡県内で127台ありましたが、久間三千年氏がそのうちの1台を使用していたことから嫌疑をかけられました。
久間氏は、1994年9月23日に逮捕されましたが、一貫して犯行を否認し、無実を訴えました。
事件の経緯
第一審の福岡地裁は、「被告人と犯行の結び付きを証明する直接証拠は存せず、情況証拠の証明する情況事実は、そのどれを検討しても単独では被告人を犯人と断定できない」としながら、被害者の身体等に付着した犯人の血液の血液型、DNA型が被告人と同一である等と認定し、1999年9月29日、久間氏に対して死刑判決を宣告しました。
そして、福岡高裁は2001年10月10日に控訴を棄却し、最高裁は2006年9月8日に上告を棄却し、第一審の死刑判決が確定しました。
えん罪の疑いが強いこと
飯塚事件で用いられたDNA鑑定は、足利事件(DNA再鑑定により、2009年4月にえん罪が明らかとなった。)と同じMCT118鑑定であり、時期もほぼ同時期で、技法や技術も共通で、科警研のほぼ同様のメンバーで行われました。
しかし、飯塚事件MCT118鑑定は、足利事件以上に不出来であり、①目盛りとなる123ラダーマーカーに重大な欠陥がある、②電気泳動像のバンドの幅が広すぎ、形が悪すぎて、型判定ができない、③現場で採取した試料と被告人から採取した試料を同時に電気泳動していない等、数々の問題点があります。
また、科警研は、多く存在した鑑定試料を全て鑑定で消費してしまったと主張しており、再鑑定が不可能であるという重大な問題があります。
遺留品発見現場の目撃証言は、目撃後に相当時間が経過しているのに、内容があまりにも詳細にすぎ、実際には見えないはずのことまで証言している等の問題点があります。
被害者の失踪現場付近での目撃証言も、事件発生から何か月も経過してから証言を始めた、科警研のDNA鑑定が出た後に証言を始めた、その内容もあまりにも詳細にすぎる等の問題点があります。
現在の状況ー死刑執行に対する重大な疑問
2008年10月17日、足利事件でDNA再鑑定が行われる見通しであることが広く報道されました。しかし、その一週間後の同月24日、森英介法務大臣が死刑執行を命令し、同月28日、判決確定からわずか2年余りという極めて異例の早さで死刑が執行されました。死刑執行の時期や極めて異例の早い執行から、本件の問題点を覆い隠すための死刑執行ではないかとの疑問が指摘されています。
久間氏の遺族は、2009年10月28日、福岡地裁に再審を請求しました。再審請求では、足利事件のDNA再鑑定を行った大学教授による鑑定書が新証拠として提出されました。
しかし、2014年3月31日、福岡地裁は再審請求を棄却し、2018年2月6日、福岡高裁も即時抗告を棄却し、2021年4月21日、最高裁は特別抗告を棄却しました。
2021年7月9日、久間氏の遺族は、新たな目撃証言に基づいて、福岡地裁に第2次再審を請求しました。しかし、2024年6月5日、請求を棄却する旨の決定がなされたため、久間氏の遺族は、同月10日に福岡高裁に即時抗告を申し立て、現在審理中です。