選択的夫婦別姓制度の実現を求める札幌市の佐藤万奈さん(37)と西清孝さん(32)は、新しい年を迎え、期待と不安が相半ばしている。昨秋の衆院選で導入を掲げる党が議席を伸ばした。国会で議論が進む可能性がある一方、慎重論も根強いことが気がかりだ
▲医療専門職の2人は2019年に結婚し、佐藤さんは不本意ながら改姓を受け入れた。職場では、書類からも名札からも「佐藤万奈」の名が消えていく。旧姓で呼んでもらうよう頼んだが、上司に「どうして、こだわるの」と言われた
▲ストレスが積み重なって心身の調子を崩し、適応障害と診断された。やりがいのある仕事だったが、退職を余儀なくされた。別姓を選ぶことができたら、嫌な思いをせずに済んだ。結婚も、もっとうれしいと感じられたはずだ。悔しさが募った
▲「恨んでるよ」。そう言われ、西さんも妻が抱えていた苦しみに気づいた。婚姻届を出した9カ月後、「ペーパー離婚」して事実婚となった
▲夫婦同姓を義務づける現行制度を維持すべきだと主張する人は「家族の一体感」を理由に挙げる。姓を変えたくないのは「わがままだ」となじる声すらある。しかし、個人の尊厳に関わる問題であり、人権意識が問われている
▲法制審議会が選択的夫婦別姓制度の導入を答申してから29年になる。自民党が党内の保守派に配慮し、たなざらしにしてきたが、石破茂首相は「議論の頻度を上げる」と述べた。今年こそ、佐藤さんたちの悲願に応え、結論を出すべきだ。
「婦選デー」のビラを書く市川房枝(右手前)ら=1932年3月13日撮影
大正デモクラシーが高揚する中、女性への参政権を求める「婦人参政権獲得期成同盟会」が結成されたのは、100年前の1924(大正13)年12月だった。男性の普通選挙実現の動きに沿ったもので、運動家の市川房枝らが中心となった
▲戦後、国会議員として活躍した市川は、発会式の模様を自伝に記している。出席した約80人の「ほとんどは中年の婦人」で、数人が5分ほど演説した。戦後、売春禁止運動の先頭に立った久布白落実(くぶしろおちみ)が宣言を起草した。「我が国の職業婦人はすでに400万に達せり、(中略)参政権を要求するは当然のことと信ず」との一節から、意気込みが伝わる
▲さきの衆院選で女性議員が過去最多の73人当選してから、初の本格論戦を展開した臨時国会である。来年の焦点になるとみられる選択的夫婦別姓導入を巡っても議論があった。代表質問などで与党・公明党も導入への決意を石破茂首相に促し、注目された
▲ただし、首相の答弁は機運に水を差した。自民党の反対論に配慮したのか「より幅広い理解形成が重要」と慎重姿勢を崩さなかった。首相就任前は「やらない理由がよくわからない」と語っていたが、これも封印したのか
▲国連の女性差別撤廃委員会は導入を勧告する「最終見解」を公表した。人権の観点からも、日本が主体的に解決しなければならない
▲婦人参政権運動は戦争で継続が困難となり、女性の選挙参加は敗戦を経て実現した。社会の変化に対応できるか、ここにも政治が向き合う壁がある。
この数字は何を意味するかずっと気になっている。小紙とFNN(フジニュースネットワーク)との合同世論調査で、18~19歳と20代の女性で立憲民主党と日本維新の会、共産党の支持率がそれぞれ0・0%だった件である。なぜ3党は若い女性に不人気なのか。
▼3党は、若者の情報源であるSNSでの発信が弱く拙かったのか。あるいは政治とカネの問題でいくら自民党を批判しても、票の掘り起こしにはつながらなかったのか。いろいろ考えられるが、牽強付会(けんきょうふかい)を承知でいえば、維新を除く2党が今国会で声高に唱える政策が頭に浮かぶ。選択的夫婦別姓制度や同性婚の実現である。
▼こうした主張は、これから結婚しようという人が多い世代に響いていないのではないか。自民党が自滅して比例代表で533万票も減らした先の衆院選で、躍進したはずの立民は実は7万票の微増にとどまっている。共産の得票は80万票も減少した。
▼9月の自民党総裁選時のNHKの世論調査では、最も議論を深めてほしい政治課題を6つの選択肢を挙げて尋ねていた。その結果、「年金など社会保障制度」(35%)、「経済・財政政策」(26%)、「政治とカネの問題など政治改革」(17%)…の順で、「選択的夫婦別姓」は最下位の1%だった。
▼たった1%だから議論しなくていいわけではないが、少なくとも最優先課題ではなかろう。にもかかわらず、石破茂首相は16日の国会で党内議論について「頻度と熟度を上げていく。明確な方向性を出したい」と意欲を示した。
▼それどころか、17日の国会では同性婚に関しても「日本全体の幸福度にとってプラスの影響を与える」と強調した。国民の意識や実感と政治のズレが目立つ。
夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗り続けられる。そんな選択的夫婦別姓制度の導入に向け、具体的な議論を始めるときだ。
もっとも同制度をとりまく環境が変わりつつある。経済界から早期実現を求める声が上がったのに続き、10月には国連の女性差別撤廃委員会が政府に実現に向けて民法改正を求めた。この勧告に法的拘束力はないが、2003年以降、すでに4回目である。
別姓の議論が停滞するなか、代わりに広がったのが旧姓の通称使用だ。しかし戸籍名が必要な手続きは多くあり、2つの姓を使い分けるのは大きな負担になる。パスポートのICチップに旧姓は記録されないなど、限界がある。
経団連も現状は「ビジネス上のリスクとなり得る」とみており、もはや放置はできまい。国際的にみても、先進国で夫婦同姓を義務付けるのは日本だけとされる。
家族の一体感が失われる、子どもが友人から指摘され嫌な思いをしたり、親との関係に不安感を覚えたりするといった反対論がある。だが多様な価値観・家族を受けとめる社会に変えていくことこそがいま求められている。
別姓はあくまで希望者に新たな選択肢を示すものだ。時代にあった活発な国会論議を求めたい。
立憲民主党が、どちらかの親と子供が別姓となる選択的夫婦別姓で自民党の動揺を誘っている。社会の基本単位である家族の問題を政争の具に使うのは品がないが、少数与党となった自民内にはもともと別姓推進派も少なくない。来年は、家族のあり方が大きく変わる年になるかもしれない。
▼「自民も半分ぐらいは自主投票なら賛成すると思う。あぶり出す意味でも採決はしたい」。立民の野田佳彦代表は10月の衆院選後、夫婦別姓実現のための民法改正案の国会提出に意欲を示した。また、衆院法務委員長ポストを獲得した意味についてこう強調した。「自民を揺さぶるには、非常に効果的な委員会だ」 。
▼現在は慎重な物言いとなったものの、石破茂首相も就任前は「やらない理由が分からない」と語る別姓派だった。また、国連女性差別撤廃委員会が10月、日本に対して夫婦別姓を導入することを求める勧告を行ったことも、推進派は利用することだろう。
▼経団連など経済団体も推進を求めるが、なぜそんなに前のめりなのか。内閣府の令和3年の世論調査では、夫婦別姓導入を求める回答は28・9%どまりで、同姓維持と同姓のまま旧姓の通称使用の法制度化を望む答えは計69・2%に上る。国会の動きは民意を読み違えていないか。