「父=“男性”とは限らない」最高裁が下した判断―― 弁護士が選んだ“2024年の画期的判決”とは?(2024年12月31日『弁護士JPニュース』)

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最高裁の判断は社会に大きな影響を及ぼす
2024年もさまざまな事件や事故の裁判が行われ、多くの判決が下された。
立法、行政と並ぶ国家権力である「司法」の判断は、社会を変えるきっかけにもなり得る。中でも、家庭内の問題が法廷に持ち込まれる「家事事件」の判例は、家族のあり方や生活に直結する。そんな「家事事件」において、今年はどのような“画期的”な判決があったのか。また、その判決は私たちの暮らしや家族のあり方をどう変えるのか――。
家事事件を多く担当する安達里美弁護士に、今年もっとも注目した判決について聞いた。
「戸籍上女性の『父』が認められた」判決
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【図表】Yさんの性別変更のタイミングと、姉妹誕生の時系列(弁護士JP編集部)
安達弁護士が挙げたのは、6月21日に最高裁第二小法廷が言い渡した、「性別を変更したトランスジェンダー女性が、自身の凍結精子を用いて懐胎させた子どもの“父”として認められた」判決だ。
これを「画期的かつ、人々の家族観を揺さぶるほどのインパクトのあるものだった」と言う安達弁護士は、まず事実関係について次のように説明する。
性自認が女性で身体的性は男性であったYさんは、ある時点において戸籍上の性別が男性から女性になりました。Yさんには、交際していた女性(Zさん)がいて、その方との間にYさんの精子によって子どもを2人もうけました(X1さん、X2さん)。
X1さんはYさんが戸籍上男性であった際に出生し、X2さんはYさんが戸籍上女性となった後に出生しました。いずれもYさんが過去に別の目的で保存していた凍結保存精子を使っての妊娠・出産です(【図表】参照)。
Yさんは、子どもたちの父として認知届を役所に提出しましたが、Yさんが戸籍上女性であることを理由にその受理を拒否されました。
そこで、子どもたちは認知を求めYさんを相手に裁判を起こしました。もちろんYさんも認知したいという立場なので、Yさんと子どもたちとの間に争いはありません。
一審(東京家庭裁判所)ではX1さんについてもX2さんについてもYさんによる認知は認められないと判断されたので、子どもたちは控訴しました。東京高裁は、Yさんが戸籍上男性だったときに出生したX1さんの認知は認めましたが、戸籍上女性になった後に懐胎したX2さんの認知は認めませんでした。そこで、X2さんが上告。最高裁はX2さんについてもYさんによる認知を認めました」(安達弁護士)
「認められて良かった」でも…突きつけられた“難問”
この判決を「画期的」と感じた理由について、安達弁護士は社会的な事情を挙げ、次のように説明する。
「戸籍上の性の変更が認められるようになり、また、生殖補助医療も発達しています。すでに性交だけが子どもを持つ唯一の手段ではありません。過去の精子卵子でも懐胎が可能になっています。
こうした社会の変化に法律が追いつききれていない中、本件以外にもこれらの問題が複雑に絡んだ訴訟が提起されており、その数も決して少なくありません。
本件は、戸籍上は『女』である方が、『父』として子どもを認知することを認めたものであり、その点で“画期的”だと感じました」
女性による認知を認める判決を聞いたとき、安達弁護士は弁護士としてもひとりの人間としても、「認められて良かった」と感想を持ったという。
しかしその一方で、「父=戸籍上男性ではない時代が来たということで、民法をどう現実に合わせていくのか、その前提として日本という国が親子関係について何に重きをおいていくのか、議論の落としどころは見つけられるのか、非常に難しい問題が突き付けられたとも感じました」と明かす。
「今後、法律はどう変化していくのか見守っていく必要がありますし、私も含めて各自が、自分の考えを整理していく必要があるのだと思います」(安達弁護士)
すでに行政の対応は変化か…
判決を受けて実際には、どのような影響や進展があったのか。
「役所などの窓口では、すでに本件と事実関係がまったく同じ場合、認知届が受理されるようになっていると思います。仮に窓口の人が判決を知らず不受理だと言ってきても、この判決を示せば受理されるでしょう」(安達弁護士)