二重まぶたの形成や脱毛など美容医療の需要が高まっている。しかし、十分な安全対策を講じていない医療機関も少なくない。健康被害を防ぐ仕組みが必要だ。
美容医療は、レーザーで脱毛処理を行うといった手軽なものから、全身麻酔をかけて行う脂肪吸引のような外科手術まで多岐にわたる。美容外科クリニックは昨年10月時点で全国に2016施設あり、3年間で4割増えた。
普及の背景にはSNSで美容医療の情報が広がり、若者を中心に抵抗感が薄れたことがあるのだろう。最近は脱毛クリニックの倒産も起きている。美容医療ブームで競争が激化したためのようだ。
一方、安全性や質を保つ対策は心もとない。全国の相談窓口に寄せられる健康被害の相談は、この5年で倍増した。
脱毛によるやけどのほか、美容クリニックで脂肪吸引の手術を受けた人が、傷口から出血が止まらなくなり、他の病院に運び込まれるケースも起きている。
国の調査では、美容医療を手がける医療機関の2割以上がスタッフへの技術研修を怠っていた。施術のトラブルに対応するための研修もマニュアルもない医療機関は3割以上あった。
外科や救急の医師は不足しているのに、若手医師が美容医療に流れることも問題になっている。十分な臨床経験を積まず、技術不足の人もいるのではないか。
こうした状況を放置すれば、被害はますます増えるだろう。
厚生労働省の有識者検討会は先月、報告書をまとめ、美容医療を行う医療機関に対し、安全管理の状況を年に1回報告させる仕組みの導入を提案した。
具体的には、専門医の配置状況や、合併症や後遺症などが起きた場合に患者が相談できる連絡先などを報告させる。行政がその情報を公表することも求めた。
美容医療は、全額を自己負担する自由診療だ。国が効果や安全性を審査して認めた保険診療と違って、行政の管理が行き届かない面がある。そのためトラブルが起きても顕在化しにくい。
美容医療を行う医療機関の人員体制や安全対策などを、行政が把握できるようにすることが欠かせない。医療機関に報告義務を課すのは重要な検討課題と言える。
中には、医療資格がない従業員が診察や施術をしているところもあるという。法令違反の疑いを把握した場合、保健所は立ち入り検査し、しっかり指導すべきだ。