末盛さんが上皇后さまと初めて会ったのは、皇太子妃時代の1960年代終わりごろ。その際はあいさつを交わした程度だったが、皇后時代の92年に、まど・みちおさん(故人)の詩を集め、上皇后さまが翻訳した「どうぶつたち」の出版に携わったのを機に親交が深まり、今も交流が続く。
上皇后さまは93年、皇室批判報道が相次ぐ中、お住まいの赤坂御所(現・仙洞御所)で倒れ、声が出なくなった。末盛さんは、上皇后さまの聖心女子大時代の後輩である島多代さん(故人)と共に、お見舞いのため葉山御用邸を訪れた。
末盛さんが、精神科医やカウンセラーの助けを借りることはできないのかと尋ねたところ、上皇后さまはかすかな声で、自分の立場では心の中のことをすべてオープンにするのは難しいと説明した上で、新美南吉作の童話「でんでんむしのかなしみ」の話を披露。人はみんな違う悲しみを背負っているという話で、末盛さんは「大変な状況を、小さい時に聞いたこの話を支えに乗り越えられようしていると思い、感激した」と回顧する。
上皇后さまは98年の国際児童図書協議会(IBBY)ニューデリー大会で、子供時代の読書の思い出をビデオ映像で基調講演。「でんでんむし」の話は中心に据えられ、末盛さんは講演録「橋をかける」の出版を手掛けた。
末盛さんは2002年、スイス・バーゼルで開催され、歴代皇后初の単独の外国訪問となったIBBY創立50周年記念大会にも同席。旧知の児童図書関係者らと楽しそうに交流していた上皇后さまの姿を今も鮮明に覚えている。昨年、仙洞御所で面会した際、上皇后さまは「あの頃はとてもいい時代だったわね」と懐かしんでいたという。
人生に大切なことはすべて絵本から教わった 単行本 – 2010/4/1
編集者・末盛千枝子が語った、宝物のような絵本の数々と素晴らしい人々との出会い、そして自らの半生。人間の生き方のなかに本当の美しさを見据えて伝えようとする「希望の言葉」