DNA型の保管 無罪なら抹消 法整備を(2024年9月3日『東京新聞』-「社説」)

 名古屋高裁が先週の判決で、無罪確定者のDNA型などを警察庁のデータベース(DB)から抹消する法整備を強く求めた。立法に当たっては、捜査機関内部だけの検討によらず、「独立した公平な第三者機関による監督」が必要だと注文までつけた。国は、司法の指摘を真摯(しんし)に受け止め、立法措置に動き出すべきだ。
 原告は、2016年に暴行容疑で逮捕、起訴された名古屋市内の男性。その際、DNA型や指紋、顔写真を採取・撮影された。18年には名古屋地裁で無罪が確定したが、警察当局は、その後も男性のDNA型などを保有し続けたことから、男性は「プライバシー権の侵害だ」と、国に抹消を、愛知県と被害者とされた側に損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。
 地裁は22年、「無罪確定後の保管の根拠は薄い」として国に抹消を命じる一方、賠償は認めず、双方が控訴していた。
 DNA型の保管は、国家公安委員会の規則に基づくが、消去の条件は当該人物の死去のほかは「保管の必要がなくなった時」と曖昧だ。警察庁によると、DBには23年末で約175万件を保管。同年に抹消したのは、死去した容疑者らのDNA型約4千件だという。
 ドイツや韓国では、省庁の規則ではなく法律によって、無罪確定時のDNA型抹消が定められている。米国では州ごとに運用が異なるが、無罪確定が削除の要件になっている州もあるという。
 高裁判決は「無罪が確定した以上、データの保管は原告の人格権を侵害している」と、削除を命じた一審判決を支持。被害者とされた側に損害賠償も命じた。さらに国家公安委の規則に基づく管理では「捜査機関による恣意(しい)的な運用」を防げないとの見解を示し、人格権を保障する憲法の趣旨に沿った立法が望まれるとした。
 また、原告男性の捜査のケースで「DNA型採取の必要があるとは考えられない」と指摘。「ほとんど限定なしにDNA型の採取、保管が行われている」と、捜査当局の運用のあり方を批判した。
 「究極の個人情報」といわれるDNA型は、事件捜査の証拠として、もはや欠かせぬもので、冤罪(えんざい)防止にも役立っているのは間違いない。ただ、その運用ルールが雑ぱくで、法整備もなされていないのは人権上、大きな問題だ。司法の重い警告を受け止めたい。