「うまずして何が女性か」発言で上川外相、総裁選レースから脱落か。“キリトリ失言”を招いたのはアドリブ力の弱さ? “ポスト岸田”レースは石破、河野、茂木の三つ巴か(2024年5月23日『集英社オンライン』)

キャプチャ
どうなる、ポスト岸田レース
岸田政権の支持率が相変わらず20%台の低空飛行を続けるなか、ポスト岸田レースの有力候補とみられていた上川陽子外相が静岡県知事選の応援演説で「うまずして何が女性か」と発言。支援する候補者を新たな知事として誕生させてほしいとの文脈だったが、「産めない女性への配慮を欠く」などの批判が相次ぎ、撤回に追い込まれた。有力候補の「自滅」を横目に、他のポスト岸田候補は虎視眈々と準備を進めている。
キャプチャ
 
立憲も警戒していた「女性初の首相候補
上川氏は5月18日、自らの女性支持者ら100人以上が集まった集会で、自民候補を新たな知事として誕生させてほしいとの趣旨で「この方(自民候補)を私たち女性がうまずして、何が女性でしょうか」と発言。
これが共同通信などで報じられ、「産めない女性への配慮を欠く」と批判が高まったことを受け、翌日には「女性のパワーで未来を変えるという私の真意と違う形で受け止められる可能性がある」として発言を撤回した。
共同通信は当初、上川氏が『私たち女性が産まずして何が女性か』と発言したと報じました。その後、共同通信は『産まず』を『うまず』と表記し、前後の文脈も加筆しましたが、上川氏が子どもを産まない女性を否定したような印象が広がりました」(全国紙政治部記者)
当初の報道が発言のニュアンスを十分に伝えていなかった側面もあり、ネットを中心に“キリトリ論争”も勃発しているが、自民党関係者はこうため息をつく。
首相候補なら、発言がどう切り取られ、どう報じられるかにも細心の注意を払わないといけない。その点で、繊細な話題である『出産』や『ジェンダー』と絡めて軽率な発言をしてしまったのは痛い。上川外相は『女性初の首相候補』が売りだったのに……」
内閣支持率が低迷するなか、上川氏はこれまでポスト岸田の有力候補とみられていた。
麻生太郎副総裁も上川氏の行政手腕を評価し、外相への就任を後押し。菅義偉元首相も同僚議員から『次は上川氏をかついでは』と言われてニヤリと意味ありげに笑っていたこともありました。自民の大物たちからも首相候補の一人と考えられていたのは事実です」(自民党議員)
上川氏を有力な首相候補とみていたのは立憲議員も同じで、「自民が『岸田首相では衆院選を戦えない』と、ポスト岸田に上川氏を立ててきたら正直、戦いづらい。『女性初の首相』を打ち出されたら、立憲の売りのひとつである『ジェンダー平等』がかすむからね」と、上川氏を警戒していた。
霞が関で懸念されていた「不適格」ぶり
その一方で「指示を受けた仕事はきちんとこなすが、自分で考えたアイデアを実現するために仲間を巻き込んでいくようなことはできず、リーダーとしての資質には欠ける」(霞が関関係者)と言われてきた上川氏。
国会審議や会見では事務方が用意した答弁書の読み上げに終始する場面が多く、突然「ポスト岸田」と報じられ始めたことに警戒感も示し、これまでも「外相としての職務に一意専心、臨んでいる」と繰り返してきた。
ポスト岸田として報じられることへの直接的な言及は避け、オフレコであっても、記者に対しては会見での答えと同じ内容に終始するばかりで、記者泣かせとしても知られる。
だが、そんな上川氏も静岡県知事選をめぐっては様子が違っていた。
「上川氏はふだん、外相としての公務が多く、最近は地元に戻っていませんでした。そんななか約8ヶ月ぶりに地元に戻り、自民候補の応援をするなかで、笑顔で『ただいま帰りました!』と少しハイになっている様子が印象的でした」(全国紙政治部記者)
今回の発言は地元での安心感も災いし、自分の言葉で発言したためにボロが出たとの見方が強い。
この発言もあり、静岡県知事選では自民が推薦する元総務官僚、大村慎一氏が、立憲などが推薦する前浜松市長、鈴木康友氏相手に苦戦中だ。
「各社の情勢調査でも大村氏が鈴木氏に数ポイント離されており、厳しい戦いが続いています。静岡県連は塩谷立氏の離党、『パパ活不倫』が報じられた宮沢博行氏の議員辞職もありましたが、大村氏が敗れると、上川氏も責任の一端は免れません。ポスト岸田レースでも後退でしょう」(静岡県関係者)
他のポスト岸田候補もうごめきだし…
一方、各社の世論調査で「ポスト岸田」に挙げられる石破茂氏は5月14日、小泉純一郎元首相や山崎拓元副総裁らと会食した。
この席では「石破氏が総裁選に立つべきだ」との意見も出たといい、本人も21日夜のテレビ番組で総裁選出馬について問われ、「いろいろな役職を務めさせていただいた。国や社会のために生かさないでどうするのか」と意欲をにじませた。
ただ「相変わらず党内に仲間はほとんどおらず、勉強会を開催しても集まるのは、石破氏の地元・鳥取選出の議員らごく一部。党OBから担ぎ上げられたところで、どこまで党内支持が広がるか」(全国紙政治部記者)と冷ややかな見方も強い。
同じくポスト岸田候補に名前があがる河野太郎デジタル相は21日、自身が所属する派閥の長である麻生太郎副総裁と会食。
前回2021年の総裁選で、麻生氏は河野氏の出馬に慎重姿勢をにじませていただけに、今回も河野氏は麻生氏に配慮する姿勢を見せつつ、総裁選出馬に向けて準備を進めたい考えだ。
そして、首相を支える幹事長の立場でありながら、総裁選への意欲を隠していないのが茂木敏充氏だ。
茂木氏は19日に配信されたインターネット番組で「総理になりたいわけじゃない。ただ、総理になってやりたい仕事はある」と語り、省庁再編など「やりたい仕事」を具体的に列挙した。
「茂木氏はもはや首相を支える気などなく、総裁選に向け、安倍派議員同士の会合に駆けつけるなど、自らの仲間づくりに必死。ただ、これまでの上から目線やパワハラが災いし、人望はほとんどない」(自民党関係者)
衆目一致するポスト岸田候補がいないなか、岸田首相も「ポスト岸田は岸田」をあきらめてはいない。
「永田町では、政治資金規正法の改正案を成立させた後、6月の通常国会会期末に野党の内閣不信任案提出を受けて解散するシナリオや、首相が局面打開のために党役員人事や内閣改造を行うシナリオなど、複数の案がささやかれています」(永田町関係者)
たった一言でも命とりになる、ポスト岸田レース。4ヶ月後に笑うのは……?
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班