混乱招く悪質投稿は許されぬ(2024年2月14日『読売新聞』-「社説」)

 大規模な災害時に偽情報が拡散し、支援活動などが妨げられる事態はあってはならない。政府はSNSを運営する企業と協議し、有効な対策を講じてもらいたい。

 能登半島地震では、SNS上で、倒壊した家屋の中で動けないと訴える投稿があり、警察が駆けつけたものの、そうした事実がないケースがあった。実在しない地名への救助要請も確認された。

 津波が多くの車を押し流す動画の投稿があったが、東日本大震災時の動画が加工されたものとみられるという。「地震兵器が使われた」などのデマもあった。

 虚偽の投稿は平時でも許されないが、災害時となれば、なおさら問題が大きい。救助にあたる警察や消防が混乱し、救えるはずの命が救えなくなる恐れさえある。

 総務省は、能登半島地震が起きた翌日の1月2日付で、SNSなどを手がける4社に、偽情報や誤情報への適切な対応を求めた。

 X(旧ツイッター)は、不審な寄付を募ったアカウントを凍結した。LINEヤフーやメタ(旧フェイスブック)は、明らかに偽情報だと分かる投稿を削除した。

 グーグルは一定期間、集中的に自社の動画投稿サイトを監視する体制を取ったという。

 それでも、偽情報を完全には排除できなかった。生成AI(人工知能)の登場で偽動画が作りやすくなっており、偽情報が広がるリスクは高まっている。

 SNSの広告収入を投稿者に分配する仕組みが、偽情報の投稿を助長しているとの見方がある。

 Xでは、閲覧数などが一定の数量に達すれば、投稿者が広告収入を得られるシステムが昨年夏から導入されている。閲覧数が伸びるほど収益が増えるため、注目を集めやすい偽情報の投稿を誘発している可能性があるという。

 政府は実態把握を急ぎ、問題があれば、是正を求めるべきだ。

 総務省有識者会議は、災害時の偽情報対策などについて、議論を始めた。SNSの運営企業からの聞き取り調査などを行い、報告書をまとめる方針だという。

 SNSが広く普及した今、運営企業の責任は重い。各企業の取り組みを有識者会議で検証し、新たな対策に生かしてほしい。

 2016年の熊本地震では、ライオンが逃げ出したという虚偽の投稿をした男が、動物園の業務を妨げたとして、偽計業務妨害の容疑で逮捕された。悪質な虚偽投稿に対しては、警察が厳しく対処することも重要になろう。