「ああまた不正が」有権者は政治を諦めてしまっている(2024年2月配信『東京新聞』)

<政治とカネ考>上智大教授 三浦まりさん

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は、繰り返される「政治とカネ」の問題の根深さを浮き彫りにした。リクルート事件に端を発した平成の政治改革から約30年。当時の改革に足りなかったものは何か。問題の根絶には何が必要か。各界の識者らに聞いた。

 三浦まり(みうら・まり) 1967年生まれ。専門は現代日本政治論、現代行政学ジェンダーと法。東京大社会科学研究所研究機関研究員などを経て2010年現職。著書に「私たちの声を議会へ 代表制民主主義の再生」(岩波書店)「さらば、男性政治」(同)など。

◆裏金で当選した人は辞職しなければならない

 ―自民党派閥の裏金事件の問題点は。
 「重要なのは、裏金が何に使われたのかということだ。法律上は政治資金収支報告書の記載漏れによる政治資金規正法違反だが、裏金をつくるために組織的にやっていたわけで、道義的な問題も大きい。おそらく私腹を肥やしたわけではなく、選挙のために使っていたのだと推測するが、政治資金として報告できない使い方とは一体何だったのか。それが核心だ。なぜ裏金をつくる必要があったのかを突き詰めないといけない」
上智大の三浦まり教授は「なぜ裏金をつくる必要があったのかを突き詰めないといけない」と指摘する

上智大の三浦まり教授は「なぜ裏金をつくる必要があったのかを突き詰めないといけない」と指摘する

 ―選挙のため、とは。
 「一番腐敗があるとすれば選挙買収。買収までいかなくても、支援を得るために飲食を伴う会合を頻繁に開くとか、地方議員に資金を渡すなど、不透明で問題のある使い方がなされていた可能性がある。仮に裏金を使って当選した人がいたとしたら、フェアな選挙で選ばれていないことになる。その候補者は民主的に選ばれたとは言えず、議員辞職しなければならない」
 ―自民党の動きをどう見るか。
 「1990年代の政治改革と比べても鈍い。派閥から還流を受けていた人たちも入った党内の議論では刷新になりようがないし、そもそも彼らは、なぜそういうことが起きたかの説明もしていない。当時の自民党は、89年の参院選社会党に改選第1党を奪われ、身を正さなければ次の選挙で落とされるという危機感や緊張感があった。今はそういう緊張感がない。政権交代が起きそうもなく、ある程度やればそのうち世論は収まるだろうというふうに見ているのではないか。有権者も『ああまた不正が起きた』とすっかり政治を諦めてしまっている。追及すべきマスコミにも当時ほどの熱量はなく、社会として静かに衰退していると感じる」

◆不公平への諦めがあるから経済も成長しない

 ―社会の衰退とは何か。
 「不公平なシステムがいろいろとできあがってしまっている。(生まれてくる子どもが親を選べない)『親ガチャ』ということが言われるが、世襲議員の多さが問題視されないことに象徴されるように、ラッキーな運命のもとに生まれたのならそれでもいいんじゃないかというような周囲の諦めがある。その諦めがあるから経済も成長しない」
 ―当時の改革の積み残しも踏まえ、今回の政治改革でやるべきことは。
 「まずは議員の多様性を確保すること。当時の改革では全く話題にもならなかった。積み残しというか、積んでもいない。議論の場にも女性はいなかった。今回はその問題も含めてやらないといけない」

献金の存在と民主主義の維持は別次元の話

 「積み残しという意味では、政党交付金の導入と企業・団体献金の廃止をセットでやったはずが、結局、企業・団体献金は残ったという二重取りの問題。企業献金は一時減ったが、最近はまた増えている。日本は約320億円という世界最大規模の政党交付金を認めながら、企業・団体献金もでき、かつ透明性がない。こんなのは全く民主的ではないし、欠陥だらけだと思う。政治資金規正法違反に問われる議員が所属する政党が、なぜ政党交付金を受け取ることができるのかも、問うていく必要があるだろう」

 政党交付金 1995年施行の政党助成法に基づき、国庫から政党に支給する。毎年の交付総額は、直近の国勢調査による人口に250円を乗じた金額。所属国会議員数と国政選挙の得票率に応じ、年4回に分けて配る。受給するには▽国会議員5人以上▽直近の国政選挙の選挙区または比例代表で全体の得票率が2%以上—のいずれかを満たす必要がある。2024年の交付総額は315億3600万円で、うち自民党は最多の約160億円。制度に反対する共産党は受け取っていない。平成の政治改革の一環で、企業・団体献金を廃止する前提で設けた経緯がある。

 ―財界からは、企業献金について民主主義を維持するコストと主張する声もあがる。
 「個別の政党や議員を資金で応援することと、民主主義を維持することは、全く別の次元の話だ。有給で選挙休暇を取れるようにしたほうが、よほど民主主義が健全に維持されるのではないか。会社を辞めなければ選挙に出られないとなると、リスクが大きいので二の足を踏んでしまう。政治家になりたい人が会社を辞めずに選挙に出られ、仮に落選しても復職できるよう企業が支えることもできるはずだ。実際にやっている企業があるわけで、企業判断でできる」

◆多様性のない政党の交付金を減らす方法も

 ―公費で賄われる政党交付金の意義は。
候補者の多様性などについて話す上智大の三浦まり教授

候補者の多様性などについて話す上智大の三浦まり教授

 「政党のガバナンスに監視の目が入るのであれば、民主主義の存立基盤として重要な役割を果たすことができるだろう。民主主義の存立基盤は、いろんな定義があると思うが、一つには候補者の多様性の担保が挙げられる。例えば、男女比の偏りが大きい政党は交付金を減額するという手法もある。フランスで導入している。もちろん多様性は性別だけじゃないので、世代や障害の有無、世襲やそれ以外の人などいろんな観点で考える必要がある。多様な候補者を擁立する仕組みが整うと、もともと多くいる男性候補者も多様になっていく。こうしたことをやらない政党には交付金を減らすという選択肢もある」
 ―90年代の政治改革では二大政党制を目指したが、そうはならなかった。今回の政治改革で選挙制度まで踏み込むべきか。
 「二大政党制かどうかが焦点ではなく、どうやってより競争的で公平なシステムを作るのかがポイントだ。現状の腐敗と不正が正されないのは、政権交代が起きそうにないと多くの人が思い込んでいることが一因だ。今度は衆院だけでなく、参院都道府県議会、市区町村議会を全部一緒に考えないといけない。選挙制度を含めて、多様な人が出やすく、競争的で、権力のチェックアンドバランスがなされる政治制度に向けた総点検が必要だ」(聞き手・坂田奈央)