仕事の成功は他人の恨みを買うもの……残念ながらこれが真実だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA
兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事を後方支援ならぬ“広報支援”していたと受け取れる内容を書いた女性社長のnoteが大炎上して話題をさらっている。なぜあの内容をわざわざ公開してしまったのかと感じるが、この騒動を見て内心ヒヤッとした人も多いのではないか。ネット上の評価がリアルに跳ね返ってくる今、自分の実績を個人が発信していくことも重要であり、それがキャリアアップの近道になる場合もある。本件を他山の石として、炎上しない自己PRを考えてみたい。(フリーライター 鎌田和歌)
● 「なぜ公開したのか……」 女性社長、驚愕の実績PR
「女性の会社はポスター制作を担っていただけ」と回答した斎藤元彦知事。それではなぜ女性が選挙カーに乗って撮影を担当していたのかを記者に聞かれると「そこはあの……含めて今、弁護士代理人のほうが対応を考えてますので……」と言葉を濁した。
その後、会見を開いた代理人弁護士は、女性社長の認識に勘違いがあったのかもしれないというような内容を語ってみせたが、その後、noteの内容が当初から修正されている点を把握していないと記者から突っ込まれ、しどろもどろとなった。
女性社長のnoteに書かれた内容が公職選挙法に抵触する証拠となり得るのかどうか、そして斎藤知事の今後がどうなるのかは、今後の追及を見守りたい。
個人的に度肝を抜かれたのは、やはり女性社長があのnoteを堂々と公開したことである。
今回の知事選は特に異様な盛り上がりとなったが、そうでなくても政治や選挙にはさまざまな人の思惑が混じり合い、同じ政党内でさえ派閥争いの中で嫉妬や憎悪、足の引っ張り合いが日々起こる。対立する相手だけではなく、仲間にも隙を見せてはならないのが政治の世界である。
立候補した政治家には必ず対立候補がいて、対立する側の支援者は少しの隙を突きまくるものだし、中傷やデマが流されることもある。血で血を洗うような世界である。
そして、現在のネット界隈がいとも簡単に「炎上」する世界だということは、3週間でもSNSを運用すればわかることである。ほとんど煙のないところにだって火がつけられることがあり、そしてひとたび火がついてしまえば、ネット上に残してきた過去の「証拠」を洗いざらい調べられ、一つ一つを突きつけられる。そんな例はこれまでにも山ほどあった。
常に一触即発といっても過言ではない政治とSNS運用。少なくとも後者には長けているはずの女性社長が、なぜあのような、屈託のない投稿を行ってしまったのか。
これは筆者の個人的な想像だが、女性社長はこれまで仕事でさまざまなSNS運用やネット上での広報PRを手がけてはいても、自身のnoteやInstagramが業界外の人からそこまで注目されることがなかったのではないか。
だから今回も、あくまでも近しい業界の人や、親しくしてきた人への「ご報告」のような気持ちで、noteをしたためたのではないか。少なくともあのnoteは、対立候補を支持した人が見たらどのような気持ちになるのかという視点が欠けていた(さらには、斎藤知事を支持した人をも微妙な気持ちにさせた)。
エコーチェンバーとは恐ろしいもので、炎上してしまう投稿も、最初は仲間からの賞賛コメントや共感リプライばかりだったりする。炎上するまでは、本人やその半径5メートルにいる人たちは、その「ヤバさ」に気づけないのだから本当に恐ろしい。
● 「自分は大丈夫と思っていたのに……」 同じ轍を踏むな、他山の石とせよ
さて、しかし当該noteに呆れるのはほどほどにして、ここは他山の石としたいところだ。ネット運用に少しでも関わっていたり、あるいはSNSで自分の仕事をPRする必要がある人であったりすれば、同じ轍を踏む可能性はあるし、「まさか自分は 裏方の仕事であったとしても、そのノウハウを求められる場面はあるし、それが次の仕事につながることもある。自分が手がけた案件を、いかにソツなく嫌味なくアピールするかは、現代社会において必要なスキルのひとつであるはずだ。
● SNSでの失敗しない 実績アピール法「5つの鉄則」
SNSなどネット上での失敗しない実績のアピール方法として心がけておきたいことを、いくつかまとめておきたい。これらは筆者がこれまで出会った“シゴデキ”パーソンたちから学んだスキルである。
1、話題のニュースに絡めて自己PRしない → 時間差を利用する
ニュースなどで取り上げられ大きな話題になっているトピックが自分の関係している案件だと、ついつい匂わせたくなってしまうのが人の常である。「アレオレ(アレはオレがやった)」を言いたくなってしまうのである。
しかし、もともと知名度が高い人、相当好感度が高い人でないと、これは逆に冷ややかに見られてしまうことがある。知名度が高い人でさえも、内心では舌打ちされていることがある。人からの嫉妬とはかくも恐ろしいものである。
こういう場合は極力さらっと簡単に触れるぐらいにしておくか、もしくはタイミングをずらして、やや話題が去ったぐらいの頃合いに「実はちょっと関わっていました。話題にしてくださったみなさん、ありがとう」ぐらいで済ませるのがスマートだ。
2、詳細にノウハウを語るのは求められた相手だけに
自分にとっては華々しい実績であっても、他人にとってはわりとどうでもいい話である。そういうものを興味深そうに聞いてくれるのは、お金をもらって人の話を聞く職業の人だけだ。
そして講演やセミナーで具体事例を語る際に、クライアントなどの関係者に許可を取るのは当然のことである。「自分の中でも最高の仕事だったと思うので紹介させてください」など、許可の取り方によっては、クライアントにむしろ喜ばれることもある。大丈夫だろう」と思っている人ほど危ない。
3、「外」の人に読まれない工夫をする
すでに説明したように、周囲の人に読まれているうちは良かったものの、身内のつながりから一歩外に出てバズった場合に、たちまち炎上することがある。SNSの限定公開機能を使ったり、タイトルや見出しをあえて引きの弱いものにしたり、専門用語を散りばめたりなど、関係者以外には興味を持たせづらくする工夫も必要だ。あえて言えば、課金内での炎上事例はほぼ存在しない。炎上はいつも無料記事である。
また、一番利用者がアクティブであり、攻撃的でもあるXと、今のところそうでもないBlueSkyやThreadsで投稿を使い分ける必要も、場合によってはある。たとえば、Xでは比較的穏便な投稿、BlueSkyやThreadsでは少し攻めてみて様子を見る、という具合である。
● 「仕事の成功は他人の恨みを買うもの」 というやるせない現実を肝に銘じよう
4、失敗事例も含めて語る
伝えたいのが自慢ではなく、試行錯誤の末に自分がたどり着いたノウハウであるならば、成功例だけではなく失敗したエピソードも盛り込む。愛される「しくじり先生」であるべきである。
5、敵が多い案件は墓場まで持っていく
仕事をして恨みを買うことは残念ながらある。そして、今は一般人であってもネット上にアンチがつく時代である。ピラニアの海を泳いでいるようなものだと自覚して、餌を与えないようにすることが重要である。
身内だと思っていた人の意外な一面や、想定していなかった部下の失敗など、小さなヒヤリを思い返して大事故に至らないよう備えよう。
これらをまとめて考えてみると、自己PRする暇もないほど目の前の案件に没頭するというのが幸せなビジネスパーソンのあり方であるような気もしてくる。プレゼンが得意な人は、ついつい時間があるとプライベートでもプレゼンしてしまうことがあるので、注意を心がけよう。
鎌田和歌