東京外郭環状道路(外環道)の地下トンネル工事の影響で、東京都調布市の住宅地の市道が陥没した事故から18日で4年となった。現場周辺では地盤補修に伴う地権者の移転や仮移転が進み、地元住民は「壊された地域の絆をどうするのか」と憤る。工事の影響で現場近くの入間川では気泡が断続的に発生し、住民の不安は続く。(服部展和)
◆「地上への影響はない」はずが、人生設計も狂わされ
「断腸の思いだ」。今月上旬、現場近くに住む丸山重威(しげたけ)さん(83)は、44年暮らした木造2階建ての自宅を見上げ、つぶやいた。「家族の生活を守るため」に月内に世田谷区内へ移転すると決めた。
取り壊された住宅地跡の前で移転を決めた心境などを話す丸山重威さん(安江実撮影)
1980年、妻の両親との同居に合わせて建てた家。武者小路実篤(1885〜1976年)が晩年を過ごした邸宅に近く、文学青年だった義理の父が気に入ったこの地を選んだ。自身は共同通信記者として転勤を繰り返しながらも、家族の生活の拠点だった。
地下40メートルより深くに外環道を通す大深度地下方式の前に構想された高架方式の時代から、整備計画に反対。仕事柄、客観的な立場でいるよう努めたが、計画が進むにつれ反対運動の中心メンバーの一人となった。
地上への影響はないとされたトンネル工事での陥没事故で、人生設計の変更を余儀なくされた。自宅を担保に金融機関から融資を受ける計画は、事故の影響で破綻。自宅は移転対象区域からわずかに外れているものの、事業者側の「工事の作業場に使いたい」との申し出を受けることにした。「苦渋の決断だった」
◆地盤補修工事が始まると近くの川に気泡がブクブク
地盤補修に伴う移転や仮移転の対象は約30世帯。事業を進める東日本高速道路によると、6月末時点で約9割が移転などの契約をした。丸山さんはフェンスで囲まれた工事現場を見ながら「多くの子どもが遊ぶ光景を思い出す」と話す。
地盤補修工事の影響で気泡が発生した入間川(安江実撮影)
地盤補修工事は昨年8月に始まり、同11月に入間川で気泡が発生し中断。東日本高速は、地中への補修材注入に伴う圧縮空気が漏れたとして工事との関係を認めたが、人体に有害な「酸欠空気」ではないとして今年2月に再開した。気泡は7、9、10月にも複数箇所で発生。東日本高速は周辺環境に影響はないとして工事を続けるが、住民は「地盤の軟弱化につながるのでは」などと不安を訴える。
移転は住民団体「外環被害住民連絡会・調布」の活動にも影を落とす。参加者が減りつつあることを受け、今月12日の総会で初めて今後の方針を議論し、活動継続を確認した。丸山さんは「ここを離れても地域を守るため、活動は続けたい」と決意している。
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◆「外環ネット」など14の住民団体が事業中止を求める声明
外環道建設に反対する「外環ネット」など沿線14の住民団体は18日、国などに事業中止を求める声明を公表した。国土交通省と東日本・中日本高速道路、東京都に送付する。声明では、調布市での陥没事故に伴う地盤補修工事で、住民の「平穏に住み続ける生活権」が奪われていると指摘。事業者の謝罪と補償、事業の中止を求めている。
2024年10月18日
住民無視・人権蹂躙の東京外かく環状道路建設事業の中止を!
事故4周年にあたり、陥没事故の事業者の責任を改めて問う
外環ネット
東京外環道訴訟を支える会
他12団体
調布陥没事故から既に4年が経つ今、私たちは、改めて陥没事故について事業者が責任を果たし謝罪すること、住民無視・人権蹂躙の東京外環道事業の中止を求めます。
2020年10月18日に東京外環道のトンネル工事により調布市東つつじヶ丘の住宅地に巨大陥没事故が発生。その後、巨大空洞も3つ、確認されました。1ヶ月ほど前から住民は振動・騒音・低周波音被害を訴えていましたが、事業者は工事を強行し陥没事故を起こしました。それから4年、被害地域修復どころかトンネル直上の地盤補修工事で街は完全に壊されています。
こんな計画がなければ、こんな事故がなければ、何事もなくただ静かに余生を送リ、あるいは子育てをしているはずだった住民たちも、「健康で文化的な生活」どころか「平穏に住み続ける生活権」を奪われ、心身の健康を蝕まれる状況が続いています。
被害地域では2022年末から緩んだ地盤補修工事のため、約50戸の移転、住宅解体・更地化が始まり、並行して2023年8月から本格工事が開始されました。しかし2025年5月撤収予定が、住宅移転も含め、いまだ30%も進捗していません。2023年11月には入間川に気泡が発生し、3か月工事中断。本年7月には市道、8月には再び入間川に気泡を発生させており、周辺地盤への影響は明白なのに、杜撰な酸素濃度測定をもとに工事を強行し続けています。
白い塀と防音幕、緑色の目隠しに囲まれた住宅地は、さながらコンビナートのようで、10㍍を超すクレーンや圧縮ポンプなどが発する不気味なうなり声と振動・騒音・低周波音が伝わる工事現場に変わり果てています。この地で何十年も生活し、子どもを育て、老いた父母を見送ってきた住民たちが、喜びも悲しみも生活も断ち切られ、悲しいやり場のない思いを抱えて引越しをせざるをえない状況に追い込まれています。一方で、補修区域外の住民は,騒音・振動・低周波音被害の中で、逃げ出すこともかなわず捨て置かれています。
2023年秋、野川沿いの遊歩道に起きた陥没を、外環事業者は管理者である狛江市に届けず、無断で補修しました。2024年春には、陥没地域の住民やマスコミらを監視・盗撮し、プライバシーを侵害していることが発覚しました。いずれも脱法的行為であるのに、まともな対応も謝罪もなく、住民に重ね重ねの我慢を強いたまま、地盤補修工事が進められているのが現実です。
2024年だけでも、トンネル工事による事故は、岐阜県瑞浪市でのリニアトンネル工事による地盤沈下と湧水枯渇被害、鹿児島県北薩トンネルでのトンネル壁面出水崩落事故、圏央道横浜環状南線桂台トンネル工事による地上での振動・騒音・低周波音健康被害、広島市西区雨水管シールドトンネル工事による道路陥没事故等と相次いでいます。
東京外環道工事においても、東名JCTの作業員死亡事故に始まり、野川・白子川での気泡噴出事故、大泉JCTでのシールドマシン自損事故、東名JCTでのシールドマシンテールシール破損事故などなど、調布陥没事故以外にも事故を繰り返しています。8月末の大雨時には東名JCTランプトンネル函体部脇の地表面陥没事故を起こし、土留壁崩壊を防ぐために函体部を水没させる応急対応が現在も続いています。
このような東京外環やリニアのトンネル工事でのいくつものトラブル・事故をも勘案すれば、地下開発の技術が「未完成」であることは明らかです。にもかかわらず、事業者はトンネル工事による周辺の自然環境破壊、住環境破壊に無頓着・無責任であり、監督すべき国交省や地域を守るべき自治体も無自覚です。この技術のなさへの無自覚こそが、この問題の根本にあります。
事故の度に、東京外環トンネル施工等検討委員会で「安全性が確認された」として工事を再開。しかし、「地下のことは掘ってみなければわからない」などと嘯く学者が座長である委員会による再発防止策には実効性がなく、事故は繰り返されています。
現在トンネル掘進中の本線トンネル大泉南工事、仙川下5mを通過する中央JCT南側ランプ工事、東名JCTランプ工事においても、いつ重大事故が起きても不思議ではありません。さらに、「世界最大級の難工事」である地中でトンネルを直径約35mにも広げる地中拡幅工事が外環沿線8か所で控えています。地上に影響が出ない保証はどこにもありません。
東京外環道計画は「重厚長大経済」時代の高架による高速道路計画で、1966年に都市計画決定され、住民の反対運動により凍結。石原都知事が「地下開発」として再浮上させました。「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(大深度地下法)」が2000年に制定され、40㍍以深の地下を直径16㍍の世界最大級のシールドマシンで掘進する事業が認可されました。
大深度地下法は「所有権はこれまでのまま。使用権を認めるだけだ」と、ローマ法以来の土地所有権の原則も、憲法に定められた公共事業としての住民の承諾や補償も無視する法律です。「地上に影響は及ばない」との非科学的な触れ込みで、都市計画事業が承認・認可され、住宅街の地下を地権者に無断・無補償で掘り進む外環道の工事が始まりました。
しかし、十分な地盤調査を行わず、未熟な地盤調査評価技術や掘削技術を自覚せず、杜撰な掘進を強行した結果、陥没事故を起こし、安全神話は崩壊しています。陥没事故により、裁判所から、東名JCTから井の頭通りまでの約9km区間の気泡シールド工法による工事差止の仮処分が決定され、再開の見通しは全く立っていません。大深度地下法の「違憲性」は明らかです。
今起きている問題は、国民の「平穏に暮らす」という当たり前で決して侵してはならない基本的人権、幸福追求権の問題です。私たち外環沿線住民は、既に起きている陥没事故について、事業者が全ての責任を引き受け謝罪・補償することを求めるとともに、国が問題を直視し、住民無視・人権蹂躙の東京外環道建設事業を中止し、大深度地下法を廃止することを、改めて求めます。
「憲法に基づく政治を」は、安全保障問題だけではありません。私たちは、人権と民主主義に基づき、国土開発政策の抜本的な見直しをも求めます。
以上
賛同団体(順不同)計14団体
・外環ネット
・とめよう「外環の2」ねりまの会
・元関町一丁目町会外環対策委員会
・外環道検討委員会・杉並
・外環を考える武蔵野市民の会
・市民による外環道路問題連絡会・三鷹
・外環道路予定地・住民の会
・調布・外環沿線住民の会
・野川べりの会
・外環道検討委員会
・外環いらない!世田谷の会
・東名JCT近隣住民の会
・東京外環道訴訟を支える会
連絡先: 外環ネット E-mail: info-gaikannet@gaikan.net