公約めいた文言の入ったビラを撒いていた蓮舫さんは公職選挙法違反にあたらないのか(2024年6月13日『文春オンライン』)

キャプチャ
 まだ告示前なのに大騒ぎになってしまっている、俺たちの東京都知事選。ついに本命の現職・小池百合子さんも都知事選3選に向け出馬を表明するなどして、もりあがってまいりました…。
 
キャプチャ2
ハイレグ姿が眩しすぎる…1988年、クラリオンガール時代の蓮舫を見る
 東京都民でなくとも話題になるのは、ひとつの選挙の当選としては国内最大級の300万票近くでトップ当選するという「候補者の名前を書かれる(ハンコを捺される)回数がもっとも多い、民意をもっとも絶対数で反映する選挙」が都知事選だからに他なりません。
 1971年の都知事選では、2期目再選を目指す美濃部亮吉さんが3,615,299票(投票率はなんと72%)を獲得し、過去の最高得票では東京オリンピック誘致の立役者で5,000万円がカバンに入らず辞任に追い込まれた猪瀬直樹さんの12年都知事選4,338,936票でした。
5月27日に出馬表明した蓮舫さん…早いって。
 
 いまの都知事小池百合子さんも16年初戦が2,912,628票、20年再選が3,661,371票と圧倒的な強さを見せており、特に20年は得票率が6割の目前に迫る圧勝でありました。
 で、今回の2024年7月7日に投開票が行われる東京都知事選、告示が6月20日にもかかわらず、5月27日という割と早いタイミングで立憲民主党参議院議員(東京都選出)の蓮舫さんが出馬を表明しています。早いって。
 その前日5月26日には浜松対それ以外の争いとなった静岡県知事選で浜松元市長の鈴木康友さんが与党系の元副知事・大村慎一さんを下しました。また、都議補選では目黒区にて立憲系の西崎翔さんと区長の息子・青木英太さんが当選して自民党の井澤京子さんを落選させるという結果となりましたので、これを見て、その後の選挙期日的にも立候補表明は勢いのあるうちがいいということで出馬表明しちゃったんじゃないかと思われます。
 その蓮舫さん他立候補者調整で中心にいた人物こそ、立憲民主党・党東京ブロック常任幹事にして党幹事長代理を務める、衆院東京5区選出の衆議院議員手塚仁雄さんであります。前述の目黒都議選補選で勝利した西崎翔さんも元手塚よしお秘書かつ元蓮舫秘書という肩書を持ちます。
 今回の「完全無所属」での出馬のはずの蓮舫さんの出馬会見を仕切ったのも手塚仁雄事務所が連絡先になっていて、言うなれば、人気があって目立つ役者の蓮舫さんの裏にいて振付師をやっているのが手塚仁雄さんと見て間違いなかろうと思います。
 短期で終わった野田佳彦政権において広報担当の首相補佐官を務めた手塚さんは、前述・旧民主党議員だった鈴木康友さん(静岡県知事)から政経塾で同期であった野田さんを紹介され、いま自民党に移った細野豪志さん(衆議院静岡5区;三島市富士市御殿場市など)と一緒に、02年の旧民主党の党代表選で野田さんを担ぐに至ったという20年来の同志とも言えます。どちらかというと立憲の中でもリアリストで保守寄りと見られる野田さんを担いでいるのが立憲共産による野党共闘ラインを進める手塚さん、というのもいろいろ捻じれている気もしますが、政治ってどうせそんなものなので細かいことを気にしてはいけません。
告示日前のビラ配りは「事前運動」に当たるのでは?
 前置きはこのぐらいにして、蓮舫さんがこの手塚さんに担がれる形で立憲民主党日本共産党野党共闘路線に乗っかって都知事選を狙う――までは良かったんですが、勢いで早々に出馬表明をしてしまったものの、現職・小池百合子さんがかなり強くて、どの情勢調査でも蓮舫さんに勝ち目があるようには見えません。
 というより、告示よりもずいぶん早く立候補表明してしまったので、選挙戦スタートを待たずにいきなり失速してしまっているようにも見える状況であって、あまりにも惨敗するぐらいなら蓮舫さんは都知事選から撤退するんじゃないかとまで言われ始めてしまいました。そりゃないよ。
 さらに、今回都知事選出馬にあたり、三井不動産が手がける神宮外苑再開発になぜか蓮舫さんがストップをかける話を争点に持ってきて騒ぎになっています。2015年に東京都が開発の認可を発表したのは事実ですが、もともと神宮外苑明治神宮などの私有地であり、いわゆる神宮の森のある神宮内苑とは600メートルほども離れている場所にあります。
 樹木を斬るなとか近隣住民の憩いの場だとかいろいろ言われるものの、そもそもが宗教法人としての明治神宮が私有地を開放しているだけであって、東京都は再開発にあたり認可を下したにすぎず、都市開発や景観も含めて本来は第三者が何かを申し立てられるものでもありません。
 ところが、国連のICOMOS(イコモス;国際記念物遺跡会議)なる、世界遺産の選定などに関与する団体が神宮外苑再開発は問題であると騒ぎ始め、最近でも佐渡金山の世界遺産登録においてこのICOMOSが韓国に配慮するよう勧告を出すなど、謎の職権を利用した外交への介入さえも出てくるようになりました。
 まあ言うだけなら自由かなとは思いますが、枕詞に「国連機関の」って付くと水戸黄門の印籠的な何かの作用があるのでしょうか。
佐渡金山の世界遺産登録 イコモス勧告に韓国への譲歩促すような指摘 日本「歴史戦」は
 本件では、国連ビジネスと人権の作業部会の報告書で神宮外苑再開発に関して「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」との記載がなされたことは不適切であるとして、政府は発言の削除を求めていたりもします。都心の私有地再開発で人権問題など起きようもないと思うのですが…いったい何をしているんでしょう。
選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までのみ
 これらの問題も踏まえて、蓮舫さんは告示日前に街頭演説をされたり、ビラを配布されたりしているようです。立憲本部の人に「これは事前運動に当たるんじゃないか」と尋ねたところ、人によって回答が違うのです。立憲民主党的には「(立憲民主)党として(共産党により配布されているビラは)公式のものではない」としつつ「日本共産党さんが勝手にやっているものであ」ると仰いますし、別の立憲民主党幹部は「都知事選とは無関係の、勝手連的な活動だから(公職選挙法的には)問題ない」と説明しています。そうですか。
 ところが、立憲民主党の東京都連の人に話を聞いてみると「(蓮舫)候補の選対になっている手塚(仁雄)事務所の支持によるもの」としたうえで「戸別でのビラのポスティングも(阿佐ヶ谷駅前などでの)配布も、選対が容認している」と回答しています。
 ただし、判例においては、選挙運動とは「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」を指します。そして、この選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までのみ行うことを許されており(公選法129条)、この選挙運動ができる期間を「選挙運動期間」としています。
 公選法を素直に読むと、都知事選告示前に、都知事選の立候補表明を大々的に行った知名度の高い蓮舫さんが、神宮外苑再開発の場所を視察に行ったり、阿佐ヶ谷駅前で街頭演説をしたり、(共産党によるものとしても)日時をはっきり書いて都知事選での公約めいた文言の入った蓮舫さんのビラを撒いたりすることは、明らかな違法性を指摘できます。やりすぎだっつーの。
「政治活動」であって「投票依頼」ではない?
 立憲民主党本部に尋ねると「投票依頼は行っておらず、政党で認められている政治活動として行っている」としていますが、蓮舫さんの候補者名と写真の入った公約も都知事選の日程も記したビラを配っておいて、政治活動であって投票依頼ではないとするのは極めて苦しいのではないかとも思います。
 というのも、公示・告示後から投票日の前日まで行うことのできる選挙期間における選挙運動とは「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」を指し、すなわち立候補届け出前の選挙運動は「事前運動」となり禁止されているのです。
 この選挙運動かどうかを決めるには3つの要件があり、「(1)特定の選挙での呼びかけかどうか」「(2)候補者が特定されるかどうか」「(3)投票を得るための働きかけといえるかどうか」で決まります。つまり、この配られたビラは思い切り(1)「都知事選 7/7」と書かれ、(2)蓮舫さんの顔写真入りのビラであり、(3)「都政に挑戦」とか「都政へ押しあげ」などの文言があり、投票依頼として違法な事前運動と見られても仕方がないことになります。
 この選挙運動については公職選挙法上は明確な記載はされておれず、選挙管理委員会警察庁(警視庁)捜査二課の判断による慣例的な指導・警告や告発などにより線引きが為されてきましたが、最高裁判所昭和38年(1963年)10月22日決定で定められています。
 ここまでくると、今回の都知事選の選挙期間中での判断は選挙管理を司る総務省ではなく警視庁捜査二課によりますが、蓮舫さんのような野党第一党(ただし離党済み)の著名な政治家がやるとなると話がややこしくなります。
 先般のつばさの党の選挙妨害事件もある中で捜査員を増員して適正・公平な選挙を行おうとしているところでど真ん中で野党第一党の看板候補である蓮舫さんが都知事選で堂々とこれをやらかしたというのはさすがに看過できるものではないでしょう。
 また、これが事前運動にあたるかどうかクロに近いグレーなのは誰もが思うところであって、最終的に、選挙管理委員会などから警告が出なかったとしても、蓮舫さんだけでなく応援演説に出た立憲有力政治家も倫理上どうなのよという感じも強く致します。誰も「これヤベェだろ」って止めなかったの?
 なお、事前運動に関しては旧民主党議員の所沢市長・小野塚勝俊さんが市長選告示前の昨年10月に行った街頭演説で「市長選挙、絶対に勝ちます。皆さまのお力を戴きたい」と投票を呼びかけて、公職選挙法違反(事前運動)の疑いで無事に書類送検になっています。
 公職選挙法の遵守という意味では、折も折、東京15区補選でつばさの党が度重なる選挙妨害で摘発された経緯もある中で、警視庁も頑張って2,000人ぐらい動員して公平な選挙になるよう取り組んでいるさなかのことでしたから、野党第一党である立憲民主党が法の精神を守らずフライングしてるってのはどうなのよと思うところです。
 まだ参議院議員を辞任していない蓮舫さんは、国会開幕中につき不逮捕特権があるだけでなく、まだ告示前ですので公選法上は「公職の候補者になろうとする者」の扱いですから、最終的には都知事選投開票日を迎えた後で、何らかの沙汰があるのではないでしょうか。これはもう蓮舫さんが好きとか嫌いとかではなく、また事前運動の内容については警察庁・警視庁に判断を押し付けるのでもなく、選挙における「事前運動とは何か」という明確な線引きを求めて誰か有志で告発し、裁判所による司法判断をちゃんと貰うべきなんじゃないかって思ってしまうところです。
コラ画像みたいなチラシを配ったり、戸別訪問を行う支援者が出たり…もう滅茶苦茶
 ただでさえ、自民党茨城県鹿沼市長選で某著名バスケ映画のコラ画像みたいなチラシを配ったり、立憲民主党による島根1区、静岡県知事選では公職選挙法違反の疑いのある戸別訪問を行う支援者が出たり、もう滅茶苦茶な面があります。演説に対する野次でも安倍晋三さんに対する野次を制止した北海道警は裁判で負ける一方、野党候補などへのつばさの党による選挙妨害ではマスコミも含めた大騒ぎになるなど、民主主義を支える大事で神聖な選挙運動に関してみんな適当なことやり過ぎなんですよ。
 本来であれば、オンライン選挙や政治活動におけるネット利用のあり方などもしっかり考えていくべきところですが、公職選挙法も生きている法律の割には都度都度パッチワークのような小幅改正でお茶を濁しながらどうにかやってきた面があります。
 本来ならば、投票したい人を有権者がしっかり吟味できるように選挙と活動と広報のあり方をしっかり見直して投票率を引き上げていかなければ民主主義は立ち行かないのです。
 政治不信って一言でみんないいますが、いわゆる政治とカネの問題も含めて、こういう政治と政党、候補に関する情報が正しく公平に有権者に届く仕組みが大事なのではないかと今回の件では強く思い直しました。
 
山本 一郎