「豆や恵方巻きをのどに詰まらせないように」──消費者庁は節分を前にこう注意を呼びかけていた。のどに詰まらせる食品というと、もちが有名だが、豆や恵方巻きも窒息リスクがあるという。おなじみの食品も食べ方や体調によっては、窒息を起こしかねない。どんなことに注意すればいいのか。
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豆については、4年前に島根県松江市で悲劇が起きている。当時4歳だった男児は、保育施設の節分イベントの最中に突然、床に倒れ、職員が119番通報。搬送先の病院で亡くなり、大豆が気道に詰まったことによる窒息死と判明した。
その後、市が原因究明に乗り出し、イベントの冒頭で豆を口にしたことは分かったが、いつ豆が気管に詰まったかは分からなかった。事故を受けて市内にある104の保育施設では、節分イベントでの豆の使用をやめ、丸めた新聞紙などを鬼に投げているという。
厚労省の人口動態調査によると、2019年までの6年間に食品を誤嚥して窒息死した14歳以下の子供は80人。そのうち5歳以下が9割の73人だった。
大豆の大きさは極小粒から大粒まで4つに分けられる。直径は極小で4.9ミリ、大粒は品種によって7.9~9.1ミリ。大粒でも1センチに満たないが、このサイズでも窒息してしまうのか。作家で「米山医院」院長の米山公啓氏が言う。
■大人の気管の直径は2センチ、5歳児は1センチ
「大人の気管の直径は2センチほどですが、小児は1歳で5ミリほど、5歳で1センチ程度です。また、3歳くらいに乳歯が生えそろってしっかりと奥歯で食べ物をすりつぶすことができても、かむ力は大人の5分の1程度。子供が節分行事などで大豆をたくさん口に入れながら、十分にかみ砕くことができず、それが食道に送られずに気管に落ちると、窒息する恐れが高いのです」
消費者庁が「5歳以下の子供には豆やナッツ類を食べさせないで」とアピールするのは、そのためだ。仮に子供が5歳として前述の気管の直径と大豆の粒の大きさを比べると、大粒は当然ハイリスク。極小粒でも2、3粒が気管に引っ掛かると危ない。「乾燥豆も体液を含むと、膨張するはずですから、より高リスクです」という。
では、どんなことに注意すればいいか。大人のケースも含めて、米山氏に聞いた。
東京消防庁がまとめた「救急搬送データから見る日常生活事故の実態」によると、東京消防庁管内で2021年に救急搬送された人は12万3445人。これを事故種別に見ると、「ころぶ」が全体の6割近くを占める7万1086人で、「ものがつまる等」は第4位ながら3531人と2.9%にとどまる。
のどにものを詰まらせて搬送されたケースを年代別に分けたのが〈表1〉。軽症から死亡まで含む全体では、4歳まで小児がダントツで、70代以上の高齢者に多いことが見て取れるが、若者をはじめ働き盛りの現役世代も少なくなく、すべての年代で発症している。
死亡や重篤などの重症例に限ると、高齢者に集中するが、50代以上は2ケタで若い世代も無視できない。厄介なことに事故種別ごとに、初診時に死亡や重篤など重症だった例をみると、「ものがつまる等」は383人。重症例全体の37.1%でトップだ。「おぼれる」との2つで7割を超えている。
消防庁のデータが示しているのは、「ものがつまる等」の事故は救急搬送事例全体の中では多くないものの、万が一、事故を起こしてしまうと呼吸に直結するだけに生死を分けるリスクが高いということだ。しかも、21年のデータでは、「5~9歳」「10代」を除き、すべての年代で重篤例が認められる。誤嚥による窒息事故は、乳幼児や高齢者に限られるわけでは決してないのだ。
死亡・重篤の原因でおかゆは2位。もちは?
〈表2〉は、死亡や重篤などのケースを年代別にまとめたもの。10代以下の子供や乳幼児は、たばこや洗剤、包装紙など食べてはいけないものを口に入れたことが命を危うくしている。
一方、20代以上は、詳細不明な「食物」がトップだが、原因が判明しているものでは意外にも「おかゆ類」が目立つ。窒息との関連で話題になる「もち」は60代以上の3位にランクするが、「パン」や「ご飯」「肉」などと大差がない。
20代以上の成人でも、50代以下と60代以上では事情が異なるという。
「50代以下は、大量に一気に食べたり、酩酊して吐いたものが逆流したりするなど無謀な食事が原因のことが多い。60代以上は加齢によって咀嚼力や、のみ下す力が少しずつ衰えていき、それによって本来、食道にのみ下すべき食べ物が気管に落ちてのどを詰まらせることがほとんどです」
5年前には、女性ユーチューバーがこぶし大の赤飯を一気食いする動画をライブ配信している最中に、赤飯をのどに詰まらせ、意識を失うというショッキングな事故があった。その後、女性は救急搬送先で死亡が確認されている。
こぶし大の赤飯を丸のみするのは通常では考えられないが、米はもちとともに要注意だという。
「米は粘着度が高いため、たくさん詰め込んで、よくかまずにのみ込むのは危ない。しかも、ノリが唾液を吸収してのみ込みにくくなることもあるのです。日本には、恵方巻きのように、ご飯にかぶりつく文化がありますし、丼をかき込んだり、おにぎりや寿司を早食いしたりする人は、もちと同じように要注意です」
■ブドウやミニトマトなど球状食品は盲点に
〈表3〉は、食品ごとの窒息リスクを示している。内閣府食品安全委員会が10年6月にまとめたもので、1億人がその食品を1口食べた場合、窒息事故がどれくらい起きるかを表す。ミニカップゼリーと、こんにゃく入りを別に分けているのは、08年にこんにゃくゼリーの死亡事故が発生したことを受けたものだ。
「もち」は1億人当たり7、8人でダントツ。これに続くのが子供に多い「ミニカップゼリー」や「アメ」だ。子供がのどが乾いた状態でカップゼリーを口にすると、ゼリーがのどに付着する恐れがある上、ゼリーはのどの形に合わせて付着することもできるため窒息しやすいという。それらに比べると、パン以下のリスク数値はそれほどでもないが……。
「パンはパサついているので、やっぱりのどが乾燥しているとよくありません。肉は、繊維をかみ切れないと、つまりやすい。果物や野菜はブドウやミニトマトなど球状のものが危険で、丸ごと食べたときにツルッと滑って気管に落ちることがあるのです」
そこで対策だ。
「食事の前には、お茶や水を飲んでのどを潤し、かつ米やパンなど唾液を吸いやすい食品のときは、こまめに水分を補うのが1つ。
もう1つは、硬い食品やかみ切りにくい食品はやわらかく調理したり、細かく切り分けたりすること。
3つ目は、よくかんで、早食いをしないことです」
前述の消防庁のデータでは、ステーキを食べた60代が肉を詰まらせて意識を失った重症例が紹介されている。60代とはいえ、食事にステーキを選ぶような元気な人でも、ちょっとした食べ方のミス生死をさまようことになるのだ。油断しない方がいい。