子どもの減少により、学校の統廃合が相次ぐ( Tim Berghman/gettyimages)
能登半島地震で被災した石川県輪島市で、9校ある市立小学校を3校に再編する案が検討されている(2024年10月21日付読売新聞オンライン)。少子化に加えて、地震による人口流出が進んでいるため。過疎地で学校をどう維持していくかが大きな課題となっている。
【図表】生徒数と学校数はどう変わっていったのか
こうした動きは被災地に限らない。長らく続く少子化を背景に、全国で学校の統廃合が相次いでいる。その動きは地方の中小都市だけでなく、大都市でも生じている。
例えば2024年9月10日のABCニュースでは、大阪市で3学年合わせて5クラス以下の中学校の統廃合を検討していることが報道された。少子化は当面続くと考えられるため、学校統廃合も今後しばらくは続きそうである。
減少ペースが上がる
こうした統廃合の結果、2022年には全国の小学校の数はピーク時の7割5分に、中学校と高等学校の数はピーク時の9割弱にまで減少した。減少したとはいえ、その減少幅は生徒数よりも小さく、生徒数が小学校、中学校、高等学校いずれもピーク時の5割強になってしまったのに比べれば、まだ数が維持されていると言えよう。図1は日本全体のこうした変化を示したものである。
赤い線が小学校、青い線が中学校、緑の線が高等学校を、一本線が学校数、二本線が生徒数を表している。1975年度の値を「1」と基準化している。
これをみると、小学校の生徒数は75年から数年間は増加し、80年代半ばにピークを迎え、その後減少に転じた。それに数年遅れるように中学校の生徒数、さらにその数年後に高等学校の生徒数がピークを迎えた後減少に転じている。
こうした生徒数の変化に比べて、学校数の変化はゆるやかで、生徒数が増えた時期にも学校数はそこまで増えず、また、生徒数が減り始めても数年間は学校数にさほど変化は見られない。しかし、生徒数の減少が続くにつれて、学校数も減り始め、近年はその減少のペースが生徒数の減少に近い水準になってしまっている。
都道府県間の違い
各地域に目を転ずると、学校数の変化は少子化だけでなく人口移動にも左右される。そのため、学校数の変化は全国一律ではなく、地域の実情に合わせて様々である。
図2は都道府県別の学校数変化率を生徒数変化率と対応させて散布図に示している。図2の上図は92年度から02年度にかけて、つまり、生徒数の減少が始まって少し経った頃の変化率を、下図はより直近の12年度から22年度にかけての変化率を表している。
図中では、赤い点が小学校、青い点が中学校、緑の点が高等学校を表している。まず、どちらの期間も生徒数の減少は都道府県により大きく異なり、数パーセントの微減の場所から20~30パーセントの大幅減のところまで様々である。
それに伴い、学校数の変化も様々であるが、その様子を整理するため、図中に45度線を点線で描いている。その線上に点があれば生徒数の変化率と学校数の変化率とが同じである。つまり、生徒数の変化にちょうど対応するように学校数が変化しているということである。
生徒数が減っている都道府県の場合、点がこの線よりも上側に位置していると、生徒数の減少に比べて学校数は相対的に減っていないことを表し、下側に位置していると、生徒数の減少に比べて学校数が相対的に大きく減っていることを表す。
92年度から02年度の10年間は、すべての都道府県の点がこの線の上側に位置している。つまり、生徒数が減少しているが、学校数は生徒数減少率に比べると相対的には減っていないのである。さらに、小学校の減少は生徒数減少とある程度連動しているように見えるが、中学校や高等学校の学校数の変化は生徒数の減少幅とあまり関係していない。
しかし、より最近の、12年度から22年度までの10年間では、小学校、中学校、高等学校全てについて、生徒数が大きく減少しているところで学校数も大きく減少している。また、小学校については、点線の下側に位置し、生徒数よりも学校数が大きく減少している都道府県も多数出てきている。
学校統廃合の人口流出への影響
もちろん、通う子供が減ればそれに応じて学校数を減らす必要はある。しかし、そのペースをどのようにコントロールするのかは慎重に判断すべきであろう。
その判断において、学校の統廃合がもたらす諸々の影響は十分に把握しておく必要がある。例えば、学校が減れば子供の教育を考える人が流出してしまう可能性は十分にあり、統廃合の人口移動への影響を定量的に把握することは極めて重要であろう。
特に、小学校の場合、中学校や高等学校に比べて子供の通学可能な範囲が狭いため、小学校の閉校は周囲の小学生のいる世帯の流出を招きやすいと思われる。しかし、こうした効果の可能性を指摘するのは簡単であるが、人口が減ったから学校が減ったのか、学校が減ったから人口が減ったのかを判別するのは難しい。
これに関して、ロンドンスクール・オブ・エコノミクスのカタルド教授とボローニャ大学のロマーニ教授による興味深い研究がある。両教授はイタリアの08年に開始された学校再編に注目し、小学校の閉校が地域経済に及ぼす影響を実証的に研究した。
イタリアの最小行政単位の自治体は約8000あり、日本の市区町村が現在1718であるので、日本とイタリアの総人口の差(日本がイタリアの約2倍)を勘案すると、イタリアの最小行政単位自治体は日本の市区町村よりかなり小さい。そのため、小学校が一つしかない自治体も多いのであるが、そうした自治体に注目し、小学校が閉校となったことの人口や所得への影響を07年から18年のデータで検証した。その際、政策の変更により小学校統廃合の基準が変わった時期があるという情報を利用して小学校統廃合が人口や所得に及ぼす影響を識別する方法を考案した。
分析の結果、小学校が一つしかない自治体で小学校が閉校になると、小学生の子供を持つ可能性の高い35~49歳の人々が1~2割減少し、自治体の総所得が約1割減少することが分かった。また、その効果は経済の中心地から遠い自治体や隣の自治体の小学校まで距離がある自治体ほど強いことも明らかになった。
地域経済政策として検討されるべき課題
もちろん、この結果はイタリアについてのもので、日本で同様の結果が観察されるとは限らない。さらに、分析対象も小学校が一つしかない自治体であるため、それが閉校になることの影響が非常に強く観察されていると考えられる。そのため、日本の多くの自治体で小学校を一つ閉校する効果はこの研究の結果よりはかなり小さいかもしれない。しかし、この結果は、少なくとも確かに学校閉校が人口流出を促してしまうことを示している。
図2で確認したように、昨今の情勢として、多くの都道府県で生徒数の減少よりも小学校数が大きく減少しており、こうした都道府県で、小学校を閉校した自治体から、それを理由にした人口流出がどの程度生じたのかは検証する価値があるであろう。
生徒の数が減れば、統廃合は致し方ない判断になるが、やり方を間違えれば、地域の衰退に拍車をかける可能性もある。どのように進めるのがよいのかを考えるためにも、学校統廃合の人口流出や所得に代表される地域経済への影響を定量的に把握した上で政策判断する必要があるであろう。
佐藤泰裕