斎藤知事と折田氏(折田氏のnoteから)
11月の兵庫県知事選で斎藤元彦知事を当選させる原動力となったSNS戦略をnoteなどで公開したPR会社「merchu」(兵庫県西宮市)社長の折田楓氏は、その記述内容から公職選挙法違反の疑惑が浮上した後は沈黙を続けている。しかし、黙っていても疑惑が晴れるわけではない。merchuに仕事を依頼している他の自治体からは、「折田氏も説明責任を果たしてほしい」という声があがっている。
かっぽう着を身に着けて研究する姿も話題になった小保方さんはこちら
兵庫知事選の後、折田氏は斎藤氏の知事選に関与したことをnoteに公表。
〈(斎藤氏は)私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました〉
など、選挙応援を業務として担ったと思われる書き込みをした。
さらに自身のYouTubeでも、
「人生過去一忙しいと言い切れます」
「兵庫県知事選挙にかかわっていまして、激忙しの日を過ごしています」
などという動画を配信。
これらの発信により、選挙運動で報酬をもらったという公選法違反疑惑が浮上した。
この疑惑について斎藤氏の代理人弁護士は11月27日に会見を開き、折田氏のnoteの記述の一部を否定。
「(折田氏は)個人としてのボランティア」
「事実である部分と事実でない部分がある。盛っている」
などと、折田氏が間違った内容を公表したことが問題だと主張した。
メディア各社は折田氏側にも話を聞こうと取材依頼を続けているが、折田氏は応じていない。記者も折田氏の会社に10回以上電話をしたが、現在まで応答はない。
折田氏の経営するmerchuは、兵庫県から「令和6年度ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」に選ばれた。折田氏は11月29日の表彰式に出席予定だったが、直前にキャンセルした。
12月2日には、元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士と神戸学院大学の上脇博之教授が、斎藤氏と折田氏を公職選挙法違反(買収・被買収罪)で刑事告発したと発表。折田氏はさらに逆風にさらされることになった。斎藤知事側は違法性を否定したが、この告発についても折田氏側は沈黙を守っている。
姿を見せない折田氏だが、SNSなどで疑惑を指摘された後、noteのブログに記していた疑惑に関する部分の記述を削除したり、書き換えたりを繰り返している。折田氏の会社のホームページも、一部が削除され見えなくなっている。
■「説明してもらわないと議会から追及される」
「折田氏の会社の提案はしっかり審査した上で落札され、仕事をしてもらっています。仕事の内容は契約通りにやっていただいている。ただ、今回のようにnoteに斎藤知事の選挙を手掛けたと具体的に書かれるのは自治体にとっては困ったことです。あたかもうちの自治体が斎藤知事を応援する企業を選んだかのようにとられますからね。折田氏のnoteが炎上して、うちにも問い合わせがきて大変でした。うちの幹部は『こんなことなら、別の業者にしたほうがよかった』とグチってます。斎藤知事側はとりあえず答えているので、折田氏も説明責任を果たすべきでしょう。そうしてもらわないと、問題がある会社に発注したのかと議会にも追及の動きがあり、困っている」
報告書には、斎藤氏から後援会に対して、
〈メインビジュアル企画・制作 110,000
チラシデザイン制作 165,000
ポスターデザイン制作 55,000
選挙公報デザイン制作 55,000〉
と、計38万5000円(税込み)を支払ったという記載がある。
斎藤氏の代理人弁護士は会見で、merchuに対して、ポスター制作など公選法で認められた5項目の「成果物の対価」として計71万5000円を支払ったことを内訳とともに明らかにしていた。上の4項目はその中にあった。
代理人弁護士の説明では、上記の38万5000円は斎藤氏が後援会に支払い、後援会がmerchuに支払ったという。報告書には残る1項目の「公約スライド制作費」の33万円(税込み)の記載がないが、これは斎藤氏の後援会が「政治活動費」としてmerchuに支払ったため、選挙運動の報告書には記載されていないという説明だ。斎藤氏が意図的かどうかはわからないが、後援会を間に入れることで、斎藤氏からmerchuへの支払いの実態がわからなくなっている。
■本当に「成果物の対価」だけだったのか
収支報告書には、公費で支給されるポスターやビラの印刷費用も別に記載されている。印刷代は約260万円(税込み)となっていた。
しかし、前回の報告書にはチラシデザイン制作やポスターデザイン制作という支出はない。
これについて、選挙プランナーの藤川晋之助氏は、こう疑問を呈する。
「通常はポスターのデザイン、制作も印刷会社が一括で請け負う。選挙のポスターやビラは経験がある印刷会社に依頼することで、不備があれば指摘してもらえるし、法に触れないという“保険”でもある。請求も印刷会社から選挙管理委員会に直接、公費でというのが選挙時の普通の流れだ。なぜ今回、報告書にポスターとチラシのデザインという費用が新たに計上されているのか不思議です」
斎藤氏から折田氏側への支出は、本当に「成果物の対価」だけだったのだろうか。折田氏が書いたように、〈広報全般〉を担ってもらったことへの報酬が含まれていなかったのかという疑問が生じてくる。
斎藤氏や折田氏を刑事告発した上脇教授は、こう語る。
「折田氏はnoteに真実を書いてしまったが、ネットで公職選挙法違反を指摘され、問題となりそうなところを削除、修正したのではないでしょうか。しかし、それが逆に最初に書いたことが真実ではないかとさらに疑惑を拡大させていると感じる。折田氏の会社はSNSや広報が専門とホームページに記載しています。説明責任の重要性はわかっているはず。自らの疑惑について、記者会見できちんと説明すべきです」
折田氏はXなどのSNSで今もトレンド入りするなど、「時の人」状態が続いている。
民放のテレビ局スタッフによれば、
「折田氏にテレビ出演してもらえれば一気に数字がとれると、幹部から『インタビューを取れ』とはっぱをかけられている」
という。
■問題と異なる部分で注目浴びた小保方氏と折田氏
「似たような状況で思い出すのが、小保方さんではないか」
2014年に万能細胞の「STAP細胞」についての研究論文を発表し、「ノーベル賞級の発見」と注目された理化学研究所発生・再生化学総合研究センター(神戸市)のユニットリーダーだった小保方晴子氏。当時30歳という若さや、かっぽう着姿で研究する容姿も注目され、一気に「時の人」となった。
しかし、わずか1カ月ほどで論文に捏造疑惑が指摘され、記者会見で、
「STAP細胞はあります」
落合弁護士は言う。
「小保方さんの時も若く女性らしい容姿に注目が集まり、STAP細胞の研究はそっちのけで小保方さんを取り上げる世論が生まれた。STAP細胞の研究やその問題の本質が見えにくくなった。折田氏も自ら公開しているSNS映えするブランドもののバッグや、お嬢様ぶりという、告発されたこととは関係ないことでも注目されている。小保方さんのときよりも、今はSNSなどでバズる、炎上するトピックに人々が殺到する時代。YouTubeなどのネットユーザーもお金になるので、よけいです。ただ、折田氏は選挙という民主主義の根幹に深くかかわっていたと自分で言っているのですから、自身の言葉できちんと話すべきではないか」
折田氏は、業務かボランティアかは別にして、SNS戦略によって斎藤氏を当選させた実力も、自負もあるはずだろう。雲隠れするばかりでなく、自らの言葉できちんと語るべきではないだろうか。
(AERA dot.編集部・今西憲之)
今西憲之