労働組合の全国組織「連合」は本当に「はたらく人」の味方なのか…政治・経団連との距離感を会長に聞いてみた(2024年12月10日『現代ビジネス』)

日本最大の労働組合の全国組織
キャプチャ
連合・芳野友子会長(写真:春川正明)
「連合としては、衆議院選挙に向けて与党を過半数割れに追い込み、今の政治をリセットするという目標を掲げて、47都道府県そして構成産別(同じ業界や業種の企業別組合が集まって構成された産業別組織)の皆さんと全国の仲間がこの衆議院選挙を戦ったわけですが、過半数割れに追い込みましたので、目標は達成できたと思っています。
途中で自民党の2000万円の問題が出てから、ガラッと空気感が変わりましたので、そこからちょっと思った以上に行くかなと、なんとなく手応えは感じていました。過半数割れに追い込めるかどうかぐらいに思っていたので、追い込めたという結果を出せたのは思っていた以上です。
引き続き気を引き締めて、ここで浮かれることなく来年の参議院選挙に繋げていきたいと思います」
東京の神田駿河台にある『連合』(日本労働組合総連合会)を訪ねると、芳野友子(よしの・ともこ)会長は、今年10月27日に投開票された衆議院選挙の結果について、まずこう評価した。
日本の労働組合は、主に企業別組合、産業別組合、ナショナル・センター(全国中央組織)という3層構造になっている。
1989年に結成された日本のナショナル・センターが『連合』だ。日本最大の労働組合の全国組織で、加盟組合員は約700万人。すべての働く人たちのために、雇用とくらしを守る取り組みを進めている。
その連合が支援するのが、野党第一党立憲民主党と、今回の衆院選で『103万円の壁を引き上げて、手取りを増やす』という政策を掲げて議席を4倍に増やした国民民主党だ。この国民民主党の躍進についてはどう評価しているのだろうか。
「国民民主党はどちらかというと小さい政党で、良い政策があってもなかなか一般紙で取り上げられることが少なくて、わりとスポーツ紙やSNSを駆使して政策を幅広くお知らせし周知して行くという戦略で来ていたので、玉木さんなどもSNSを通じた比較的若い男性達からすごく人気があって、街頭宣伝などをやるとワーッと男性が集まってきて、一緒に写真を撮ったりとか。それが今回実を結んだのではないかなと思います。
「女性に人気がないんですよね。国民民主党の10周年記念の時だったかな、パーティーに行って挨拶する機会があったのですけど。玉木さんに『挨拶の中で国民民主党は女性から人気がないということを言ってもいいですか?』と聞いたら、『言ってください』ということで、その辺りを触れたんですよね。
そしたら結構会場の人たちがなんかザワザワとなって、『確かに女性に人気がないよね』と。その後、いろんな人たちから、『国民民主党は、なぜ女性に人気がないと思いますか』と聞かれて、返事には困りましたけど」
“対決より解決”を目指す
国民民主党が掲げる“対決より解決”というスローガンについて聞いた。
「政党もそうですし、私たち労働組合もそうですけど、政策を実現して行くということがとても重要ですし、課題解決型というのが今の時流ではないかなと思っているんですね。
労働組合の国際組織などでも、いわゆる過去の労働組合の“闘う”というよりは、社会的な“対話”で課題解決をして行くということで、国際組織でももう対話重視に変わってきているので、そういう点では“対決より解決”というのは、連合の方向性としては一緒なので、それは評価しています」
選挙直後に明らかになった、玉木代表の不倫騒動についても聞いてみた。
「私たち連合の役員もそうなんですけど、やはり組織のトップ、公党の代表者というのは、より高い倫理観を求められていると思いますので、ああいう行動というのは許されないと思いますし、ご本人はもちろんのこと、国民民主党の支援者に対してもある意味、裏切り行為であると思います。信用を失う行為だと思いますので、これは絶対に許されないと思っています。
(政治的責任の取り方については)ご本人が判断することだと思います。支援団体としても党の皆さんにも私が言いたいのは、やはり期待をしているからこそ厳しくあって欲しいなと思います」
衆院選後の特別国会で行われた首相指名選挙では、立憲民主党の野田代表との決戦投票の結果、自民党の石破総裁が指名された。その首相指名選挙で国民民主党は1回目も2回目の決選投票も「玉木」と書いた。
もしも国民民主党など野党が結束して決選投票で野田代表に投票していれば、政権交代していたのにという思いは、芳野会長には無いのだろうか。
「数の上ではそうですけれども、結局そうなったとしても、それぞれの政党の政策が一致していなければ、結果的に政策実現には向かいませんので、数だけで判断するというのは危険だなと思います。その前に、やはり政党間で政策のすり合わせが必要だと思います。
連合としては立憲民主党と国民民主党を支援していて、両党で政策を合わせて、最終的には大きな塊をつくり、やはり与野党が緊張感のある政治を作っていかないと意味がないと思っています。
両党に連合の組織内議員が居ますので、連合の政治懇談会のメンバーを中心に擦り合わせを行って、選挙を一緒に戦える形、政策実現ができる形にまずもって行きたいということで、この間も擦り合わせをずっとして来ているので、それを継続して行くということになります」
野党がひとつになれない理由
立憲、国民、両党の今後の連携については、どう考えているのだろうか。
「やはり今、分かれていて、この間のあらゆる選挙で、地域からは戦いづらいということと、支援産別(産業別組織)も、立憲支援産別と国民支援産別と連合の中では2つに分かれていますが、選択肢がなくなるケースだとかいろんなことを言われているので、連合本部としては早く候補者調整も立憲と国民でやって、一緒に戦える形を作っていくということが理想なので、そこにずっと力を注ぎながら、なんとか寄り添って一緒にできる形をずっと模索してきています」
会長として、両党が一緒になるようなスケジュール感についてはどう考えているのだろうか。
「具体的に来年の参議院選挙の前には、一緒に戦える形に持って行きたいと思っています。
党が一つになれば一番いい形なんですけど、そう簡単にはいかないと思うので、まずは共通の政策合意ができて、候補者調整も立憲と国民でできれば、それぞれの地域のところで集中して選挙をすることができるので、最低限そういういう形に持っていければと思っています」
最終的には、一つの党になった方が良いと考えているのか、聞いた。
「そうですね、やはり二大政党的体制を連合としても求めていますので、緊張感のある政治を作っていくためには、連合としては立憲民主党と国民民主党が大きな一つの塊になっていくということが重要かなと思っています」
両党が今、一緒になれない理由は『政策』だという。安全保障や防衛、エネルギー政策、原子力発電との向き合い方などの違いについて、連合が間に入って具体的に落としどころに向けての協議を主導する考えはあるのだろうか。
「まずは連合の中で具体的に考え方をまとめなければいけないというのがあるんですけれども、今の段階では、まず両党が同じ土俵に乗って議論するということがまだ出来ていないので、まずそこからですね。これ焦ったらいけないと思うので、まあじっくりゆっくりやってくしかないかなと思っています」
何年後ぐらいに両党が一緒になったらいいと思っているのか。
「それは状況見ながらですけど。あとはその議論に連合もきちんとついていけるかどうかというのもありますし。例えば、憲法などの考え方についても、じゃあ連合は一つにまとまっているかというと、まだ議論の途中段階なので。
46の構成産別の中で、すごく憲法問題を一生懸命やっている構成産別もあれば、全く運動としてはやっていないところもあるので、こちらの中もちゃんとまとめなきゃいけないと思いますから。
「まずは政党同士で議論して、そこに連合が乗っていけるかどうかだと思います。ただやっていく上で、もうまるっきり両党におまかせではなく、連合の政治センターという部門があるんですけども、そこも絡んでいくと思いますので、三者がコミュニケーション良くうまく結び付けて行くという感じになると思います」
連合と政治家との付き合い方
ところで、芳野会長はこれまでの連合会長に比べて政治的な発言が多く、共産党に対して厳しい態度だと個人的には感じていたので、そのことについて率直に本人に聞いてみた。
「いやいやいや、変わらないですよ。全然変わってないんですよ。私より(前任会長の)神津(里季生)さんのほうがもっと厳しいこと言ってましたから。
なぜ共産党について今までの歴代会長と同じことを言っているのにこんなに言われちゃうんだろうと思っていたら、周りの人たちが昔の記事を集めてくれて、『いや神津さんのほうがもっと厳しいことを言ってたから大丈夫ですよ、芳野さん』とかって言われました。
メディアが政治ばっかり聞くからです(笑)。私が会長になった時が2021年 10月で、ちょうど総選挙の真っ只中だったんです。その時に共産党との関係で『あり得ない』とかって言って、それが見出しになって、凄くそこが取り上げられていて、そこからなんか共産党アレルギーとか凄く書かれて。連合の記者会見でも、政治のことばっかり聞かれて」
自民党など与党の政治家との付き合い方についてはどう考えているのだろうか。一部報道で、『こんな時期に自民党の人とご飯食べないでください』と連合幹部に叱られたという記事が書かれたことについても、聞いてみた。
「えっと多分その叱られたのは麻生先生とお会いした時で、ちょうど春闘の時でお叱りを受けたんですけど、それも本当はもっと前に決まってたんですが、ちょっと日程が合わなくてずれ込んでそこになってしまったんですよね。
私、自民党の先生とお会いしても、『支援する』とは一言も言っていなくて、むしろいい距離感で信頼関係を持っている。要は仲間が居るってすごく力強いことじゃないですか。
そういう意味では、やはり信頼関係をいろんなところに作っておくってとても大事だと思いますし、お会いして連合の考え方をお伝えして行く。
伝えたからってすぐそれが実現するわけではないですけれども。こちらの考え方をやはりご理解いただく方をたくさん増やしていくということも、結果的には連合組合員のメリットにはなるので。
まあいろいろ言われましたけど、今誰も言わなくなっています(笑)。いろんなことが実現出来ているので、政労使(政府、労働組合、企業経営者)の意見交換とか、地方版政労使会議だとか、こちらからの要請に対して政府が答えてくださっているというのは、やはり一定程度の信頼関係があるので。
信頼関係って結びついたということではなくて、“話せる間柄”になったっていうんでしょうかね。こちらの考えもちゃんとお伝えすることができるようになったので、自民党サイドからしても、“いいものはいい”という判断で、多分そこの考え方があって、政労使会議など要請に基づいてやってくださっていると思うので。
労働組合としては政策実現に向けて私は是々非々だと思っているので、自民党だけではなくて、公明党さんともお話をして、こちらの考え方をお伝えします。連合として政策を実現して行くためには、政治の力がとても必要なので」
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直接お会いする前は、失礼ながら怖い感じの人なのかなと思っていたが、実際にお会いした芳野会長はいつもニコニコしていて、そのミュニケーション能力の高さは、相当なものだと感じた。
「いやいやいや、私全然コミュニケーション能力ないと思いますよ」
政治家にならないかと、誘われたりしないのだろうか。
「しないです。(過去にないですか?)ありましたけど、ないです(笑)」
春川 正明(ジャーナリスト)