「若い女性の流出を食い止めろ!」が的外れな議論になりがちなワケ(2024年12月10日『ダイヤモンド・オンライン』)

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写真はイメージです Photo:PIXTA
 「女の子は進学も就職も地元で良い」このような言葉で進路を狭められている地方女子の問題に立ち向かうのが、江森百花氏と川崎莉音氏だ。2人はNPO法人#Your Choice Projectの代表として問題に取り組み、2024年にはForbes Japanによって、世界を救う希望「NEXT100」に選ばれている。都会に出た地方女子が地元に戻らない原因を探り、対策を講じなければ、地方に未来はないだろう。※本稿は、江森百花・川崎莉音『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
● 地方の女性流出、 その深刻な現実
 「地方女子学生が首都圏の大学に進学できていない」という課題に触れる時、避けては通れないのが地方からの女性の流出という論点です。
 地方からの人口流出が叫ばれる昨今、私たちの主張に対して、これ以上女性の流出を促進するのかとの批判を受けたこともありました。ここでは、地方創生と女性の活躍の関係を探りたいと思います。
 地方の人口流入・流出を測る指標の1つが、「転入超過数」です。市区町村または都道府県の転入者数から転出者数を差し引いた数をいいます。転入超過数がマイナスの場合は、転出超過を示します。
 住民基本台帳人口移動報告(総務省統計局)によると、2022年度で転入超過なのは1都3県に加えて福岡・大阪・滋賀・長野・山梨・茨城・宮城の計11都府県で、それ以外は全て転出超過となっています。
 さらに、転出超過の県のうち、29道府県で、男性よりも女性の方が転出者数が多くなっています。特に顕著なのが若年女性の流出で、20代女性は東京都や大阪府などの5つの自治体を除く都道府県で転出超過となっています。
 2040年時点で、若年女性人口が現在の5割以上減少している自治体は、その後人口が急激に減少して最終的には消滅してしまう可能性が高いと言われています。若年女性の課題にフォーカスしない限り、地方創生を達成することはできないのです。
● 「女子学生の流出」は 食い止めるべきなのか
 若年女性の地方からの流出は顕著なトレンドになっています。「地方から首都圏の大学に進学できない」女子学生が多くいることを問題視する私たちのプロジェクトは、この事実に逆行するようにうつるかもしれません。
 地方からの若年女性の流出が顕著なのだから、流出は食い止めなければならない。より多くの女性が地元の大学に進学し、地元で就職する流れを促進しなければならない……。
 しかし、本当にそれは、本質的に課題を解決しているでしょうか?
 私たちは、地方が抱える本当の問題は、若年女性が「出ていってしまう」ことではなく「帰ってこない」ことだと考えています。
 LIFULLHOME’S総研の調査によると、東京圏に住む30代以下の「地方出身者」に対して、出身道府県への「Uターン意向」を聞いたところ、男性(20.0%)よりも女性(15.5%)の方がUターン意向が低いという結果が出ています。
 30代の女性に至っては40.5%が「戻りたくない」と回答していることからも、地方が、1度地元を離れた女性にとって帰りたい地域ではなくなっていることがわかります。
 この問題を解決しない限り、地方に順応できる女性ばかりが地元に残り、一度出ていった女性は帰ってこないという現状は変わりません。
 地元にはない機会(高度な教育・最先端の技術・大企業での就業経験など)を享受し、吸収した人材が帰ってきて地方に還元することこそが、地方の産業が新しい視点を得てより発展していくことにつながるのではないでしょうか。
● 地方からの流出を防ぐには 原因を考えることが必要
 しかし残念なことに、人口流出に悩む多くの地方自治体は、この流出の原因の追究・改善を十分に行わないまま、曖昧な子育て支援や引き止め政策に走っています。
 2022年のM-1グランプリさや香のネタ「佐賀は出れるけど入られへん」で取り沙汰された佐賀県は、進学を機に県外に流出してしまうのを食い止めるため、新たに県立大学を創設し、なんとか若者を県内に進学させようとしているそうです。
 県内進学しか認められない生徒にとっての選択肢や、地域課題の研究機関としての役割等、他に目的があるものとは思いますが、このような「食い止める」施策だけしていても、長期的な人口減は解決しません。
 地方自治体は、なぜ人々が流出しているのか・なぜ帰ってこないのかの原因を県外に出る選択をした方たちの意見を聞いてきちんと考え、意味のある施策を講じるべきです。
● 女子を東京へ出すと 帰ってこないのはなぜか
 地方女子学生が、地元への進学を求められる理由の1つに、「女子を東京へ出すと帰ってこない」という言説があります。
 地方から離れた若年女性が戻ってきていないことは、先ほども述べた通り事実です。
 しかし、女性ばかりが地方に戻ってこないという現状は、「女性を地元外に出さない」ことで本人の可能性を制限して食い止めるのではなく、女性が戻りたいと思える地域を作ることによって解決すべきです。
 そのためには、なぜ地元を離れた女性が戻りたくないのかを知る必要があります。
 従来は、就職先が充実していないことや所得の低下、不便であること等が主な要因とされてきました。国や地方自治体もこのような要因に対処する施策として、雇用の創出や子育て支援・移住支援などに取り組んできましたが、未だ目に見えた成果は出ていません。
 もちろん、雇用や子育て支援への対策が不十分であることは間違いないのですが、雇用や所得の問題だけではUターン率の高い地方・低い地方の違いを説明できません。
 例えば沖縄県は、可処分所得可処分所得から基礎支出を引いた差額(経済的豊かさ)のどちらに関しても47都道府県中最下位ですが、Uターン意向が最も高い県でもあるのです。
● 女性を地方から流出させる 要因は「寛容性の欠如」
 先述のLIFULLHOME’S総研の調査では、女性を地方から遠ざける「ファクターX」を、「寛容性」であると結論づけています。
 「女性の生き方」「家族のあり方」などの6つのジャンルで在住者の寛容性を測るアンケート調査を行ったところ、在住者が感じる地域の寛容性は、地方出身者のUターン意向と強い相関関係があるというのです。
 このような地方の「空気感」は、まさに地方のジェンダー意識の低さと密接に関係しています。
 「女子だから」勉強はしなくていいのよ、結婚が大事よと言われる社会に、自立を志す女性が帰ってきたいはずがありません。
 女性の多様な生き方が許されない非寛容な社会が改善されない限り、地方はこの先も女性に選ばれない「地方」であり続けると、私たちは考えます。
江森百花/川崎莉音