「地元で元ヤンとデキ婚して地獄なんです」40代看護師が衝撃受けた”昭和の価値観”(2024年12月9日『現代ビジネス』)

流行語大賞は「ふてほど」
キャプチャ
Photo by Getty Images
2024年12月2日「現代用語の基礎知識選 2024ユーキャン新語・流行語大賞」が発表された。その大賞は「ふてほど」だという。
「ふてほど」とは、1月から3月にかけて放送されたテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)のタイトルの略だ。物語では1986(昭和61)年から、2024年の令和にタイムスリップした主人公・小川市郎(阿部サダヲ)が、両時代のギャップを感じながら、奮闘する様子を描いている。昭和時代に横行していた差別やパワハラやセクハラと、令和時代の「過剰に他者に配慮する」文化を鮮やかに対比した作品で、中高年を中心に人気を博していた。ハラスメントの名のもとに何でもナシになるのはむしろおかしいのではないか、コンプライアンスって結局相手を尊重すればいいのではないか。人と人のコミュニケーションが密な昭和の良さもあるじゃないか――そんなことも感じさせるドラマだった。
ただ、「昭和的価値観」の中でも問題なのが「ジェンダーギャップ」に関するものだ。「人口戦略会議」が2024年4月に発表した推計では、2050年までに若年女性の人口が半数以下になる自治体は、全国744に上るとされるという。しかもそうした地域では人口が急減し、最終的に消滅する可能性があると発表されたのだ。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「価値観の差で浮気や離婚につながることは多々あります。『不適切にもほどがある!』で描かれた昭和の価値観が“悪い形”で残るエリア、特に男尊女卑的価値観が続いている場所も多いです。実際の人間は、ドラマの登場人物たちのように柔軟に対応することは滅多にない。暴力がまかり通り、女性が差別され、不利益を被っているケースは多々あります」と言う。
山村さんに依頼がくる相談の多くは「時代」を反映している。同じような悩みを抱える方々への問題解決のヒントも多くあるはずだ。個人が特定されないように配慮をしながら、家族の問題を浮き上がらせる連載が「探偵が見た家族の肖像」だ。
今回山村さんのところに相談に来たのは、44歳の看護師・由紀代さん(仮名)だ。まさに地元で男女差別の渦に巻き込まれているという。「地元のヤンキーとデキ婚して、地獄を見ています。息子を連れて離婚したいのです」と山村さんに連絡をしてきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。
「男の浮気は妻の努力が足りないから」
キャプチャ2
Photo by iStock
今回の依頼者・由紀代さんはある地方都市から2時間かけて私たちのカウンセリングルームに来ました。看護師として県立病院で働きているといい、とてもテキパキしていますが、疲れ切っています。
「夫が絶対に浮気をしているんですが、ウチの地元では“男が浮気しているのは、妻の努力が足りないからだ”という考え方がまかり通っていて、私が悪者にされています。夫の実家は旧家なので、離婚したいと言えば“子供を置いていけ”と言うに決まっている」
今、3歳の息子は、元同僚が預かっているとのこと。由紀代さんの夫の実家の話を聞いていると、戦前の日本の価値観を聞いているかのようです。まずは夫婦について伺いました。
元ヤン夫と堅実な妻
キャプチャ3
Photo by iStock
「夫と私は中学校の同級生で、コロナ明けに同窓会で再開しました。夫はバツ2だと言っており、私も離婚歴があった。当時、夫は学校でも有名なギャル男だったんです。髪にメッシュを入れて、スボンを腰履きにしているヤンキーだったんです」
由紀代さんは県立トップクラスの学校に進学希望があり、勉強と部活中心の毎日でした。夫は友達と遊んでおり、偏差値がかなり低い高校に進学したそうです。
「名前を書けば合格する、とまで言われたバカ高校です。私は希望通り進学し、幼い頃から夢見ていた東京の看護学校に入学。看護師として働き始めました。30歳の時に医師と結婚。ここで『看護師が息子をだました』と超絶な嫁いびりに遭い、2年で離婚。今、元夫は東大卒の医師と結婚して幸せみたいです」
夫は「底辺校」と言われた高校を卒業後、家業である建設業を継ぎ、21歳で結婚。しかし、5年経っても子供ができないために離婚したそうです。
「その後、28歳の時に再婚し、また子供ができないので、35歳で離婚します。夫は義母から“子供ができなければ、結婚する意味がない”と言われているくせに、ブライダルチェックもせず、適当な女性と結婚していたようです」
子供を諦めた41歳の時に、同級生の由紀代さんと再会しました。
「地元の同級生に比べて、私は割と見た目が若い。そこに目をつけたのか、夫が隣に来たんです。昔はヒョロヒョロのギャル男でしたが、今は建設業の社長として頑張っており、がっしりしていて頼もしい感じでした。もとからキレイな顔をしていましたが、深みを増していた。口説いてくるからまあいいかと思って、ホテルに行ったんです」
41歳で妊娠、結婚へ
キャプチャ4
Photo by iStock
夫は「俺はタネなしだから」と避妊をせずに性交渉をしたそうです。由紀代さんも「私も41歳だし、妊娠はしないだろう」と思ったら、見事妊娠。
「妊娠が判明する前、同窓会の後も、東京に会いに来てくれていたんです。“こっちこいよ”とか“これ、食えよ”みたいな命令口調が男らしくてかっこいいと思ってしまったんですよね。そこで妊娠がわかったので、すごく嬉しかったです」
仕事を辞めることも迷いはなかった。コロナ禍にあれだけ頑張っても給料は上がらず、仕事の負担は増す一方。総合病院の医療現場から抜けるのは今だと思ったとか。
「結婚でもしないと、辞めさせてもらえない。昭和時代の部活みたいに“みんなで頑張っているんだから、お前も頑張れ。連帯責任だ”みたいな感じで。それで寿退社して専業主婦になりました」
妻は子供を生み、性行為をして、家事をするためだけ?
無事に息子が生まれたまでは良かったけれど、地元に暮らすと、その「男らしさ」が過剰なことに驚いていきます。まるで妻は子供を生み、夫と性行為をし、家事をするためだけにあるような扱いなのです。また、教育方針に食い違いが発生したと言います。
「夫は“地元では敵なしの腕っぷしの強い男にしたい”と言う。私は広い世界を見て多くの選択肢を得てほしい。まさにドラマ『不適切にもほどがある!』のムッチ先輩と純子の価値観くらい差がありますよね。まあ、ドラマはファンタジーだから他者を尊重するけど、現実は相手を屈服させるか、屈服するしかないという戦いです」
英語を習わせようとする由紀代さんに、夫は「地元の土建屋に横文字は必要ない」と怒鳴る。
「夫婦関係が悪くなるうちに、義両親が家に来るようになり、私のことはお手伝いさん扱いで息子にべったり。私の実家に行けば“嫁に行ったのだから、もうウチの子ではない”と追い返される。このままでは私のメンタルもやばいし、息子も保育士さんに見てもらった方がいいと、1年前に託児施設のある県立病院に就職しました」
由紀代さんが家にいる時間を減らすうちに、夫は浮気をするようになったそうです。
「相手は、隣町の花屋の店員さんで、25歳。夫と同じ高校卒業で、相手も既婚者です。浮気を知ったのは、中学校の同級生が夫を目撃し、“あいつが展望台でキスしてて、車も揺れていたよ”と教えてくれたんです」
「お前がさせてくれないからだ」
そのことを問い詰めると夫は、「お前がさせてくれないからだ」と怒鳴る。確かに夜勤の時間もありますし、息子の世話で望むままにはできませんが、全部していないわけではありません。由紀代さんが理詰めで言い返すと「すみませんでしたー」と一応謝り出かけてしまったそう。
「夫は息子を愛しているので、その母である私にはこれまで暴力はふるってはいなかったのですが、私に対して昨日、物を投げつけてきた。それで義実家に抗議をすると、“離婚するなら孫は置いていけ”と言われる。義父も夫も武闘派なので何をされるかわからない。実家も頼りにならないので、ネットで調べたら、浮気の証拠を押さえることが大切だとあり、ここに来ました」
夫が物を投げつけた理由は、夫が予約していたテーマーパークへの家族旅行を、由紀代さんがキャンセルしたこと。
「浮気している人と旅行なんて行けない。それに夫のことだから、私たちをごまかして、浮気相手と行くに決まっている。結婚してから3年、本当に価値観の違いにうんざりなんです」
「浮気相手の夫」にも不安
加えて、由紀代さんが心配しているのは、夫の浮気相手の女性の夫だそうです。
「浮気相手の夫というのが、ケンカっ早い人で、警察のお世話に何度もなっているし、反社との繋がりもささやかれている人なのです。女性の夫が浮気に気づいて、ウチに来て息子や私に危害を加えたらと思うと、怖くて眠れない! ドラマの“ケツバット”とは異なり、ガチの暴力ですからね。早く縁を切りたいんです」
由紀代さんの切実な表情に、事態は一刻の猶予もならないと感じ、カウンセリングからすぐに現地に飛びました。
◇看護師として自立していた由紀代さんにとって、女性が家事育児と性行為のためだけにあるかのような扱いは耐えがたかったことだろう。さらに暴力も恐怖だ。そこから逃れることはできるのだろうか。
調査の結果とその後は後編「「ガキは置いてけ!」地元に帰って元ヤンと結婚した40代看護師が地獄から恐怖を逃れるまで」にて詳しくお伝えする。
山村 佳子(探偵事務所代表)