【独自】斎藤知事はこうして捜査され、こうして逮捕される…いま検察が考えていること(2024年12月7日『現代ビジネス』)

なぜ県警と地検の両方?
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公職選挙法違反の買収疑惑につき、兵庫県の斎藤元彦知事の炎上が止まらない。
12月2日、元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士と神戸学院大学の上脇博之教授が記者会見した。斎藤氏と、merchu(兵庫県西宮市)の社長・折田楓氏を公職選挙法違反で刑事告発したと明らかにしたのだ。ご存知、折田氏は兵庫県知事選で斎藤知事のSNS展開を「監修者」として主体的に請け負ったと、みずからnoteで「自白」した人物だ。
すでに記者会見を行った斎藤知事と代理人の奥見司弁護士は、こう述べている。
「71万5千円を折田氏の会社に支払った」
「ポスターなどの代金で、公職選挙法違反にはあたらない」
いっぽうで告発状は、こう告発の事実を記している。
《被告発人折田と同人が代表取締役を務める「株式会社merchu」が、被告発人斎藤に当選を得させるための上記選挙運動をしたことの報酬として、被告発人折田が代表取締役を務める「株式会社merchu」に71万5000円の金銭を供与し、もって、選挙運動をすることの報酬として、選挙運動者に対して金銭を供与。
被告発人折田は、同日、被告発人斎藤に当選を得させるための上記の選挙運動を行ったことの報酬として、被告発人斎藤から「株式会社merchu」の代表取締役として、71万5000円の供与を受け、もって、選挙運動をすることの報酬として、金銭の供与を受けた》
以上を告発事実として、公職選挙法違反にあたるとしているのだ。
今回注目すべきなのは、兵庫県警と神戸地検、2つの捜査機関に告発していることだ。
選挙違反は一般的に、警察のテリトリーである。衆議院選挙などの大型選挙があれば、全国の警察では「選挙違反取締本部」が設置され,手間がかかる選挙違反の立件に多くの警官が集められる。
だが、他の選挙と異なり、知事選で選挙違反の「取締」が行われる例は実際にはそう多くない。都道府県知事は、警察の予算を執行する側で、ある意味警察より上の立場にある。知事は県警を指揮、指導できる立場なので、取り締まることは困難なのだ。
河井事件から学んだこと
そこで、独自捜査で起訴権を有する検察の出番となる。しかし、先にも述べたとおり、選挙違反は警察が摘発するのが一般的だ。兵庫県警で選挙違反を手掛けたOBのひとりはこう証言する。
公職選挙法違反で捕まえる、立件するにはかなりの人手と時間が必要になります。検察には人手がないので、選挙違反は警察がやるものと相場が決まっている」
今回、郷原氏と上脇氏が兵庫県警と神戸地検の両方に告発したことを、このOBはこう評価する。
「検察は独自捜査で人手のある警察を使うことができる。また検察が警察を上からコントロールしてもやれる。斎藤知事や兵庫県から圧力あっても『検察の指示』ととの理由もたつ」
検察が選挙違反で直接乗り出すのは前例もある。2019年夏の参議院選挙で、広島選挙区で河井案里氏が当選したものの、夫の河井克行元法相が現金2900万円あまりを100人にばらまいた公職選挙法違反事件だ。
河井氏の事件は、当初はウグイス嬢への15000円以上の日当を支払っているという
秘書や選挙の責任者をターゲットにしており、「連座制」も視野に河井夫妻を狙っていた。
しかしマスコミ報道などで、「さらに闇が深い」(当時の捜査関係者)として、広島地検が独自に河井夫妻の自宅を家宅捜索した。そこで「バラまきリスト」を押収した。
広島県警広島県から予算をあてがってもらっている。それに事件はかなり大規模だったのでとても県警は捜査はできないと、検察の独自捜査となったのです」
こう振り返るのは、当時事件の弁護を手掛けていた元東京地検落合洋司弁護士だ。
「今回の斎藤知事の案件では、兵庫県警はまだ知事選の捜査本部に人手を残しているので、捜査はやりやすいはず。検察が県警を使うことも可能です。
河井夫妻の事件では、100人にカネをばらまくという前代未聞の事件で、大量に検事が駆り出されたが、今回は、買収も被買収も範囲がそこまで広くない。斎藤知事には、政党の支援がなく、折田氏の会社も上場企業のようなものではない。
現実的には、神戸地検もしくは大阪地検特捜部などの検察が、兵庫県警へ応援を依頼し、捜査を進めていくと思う」(落合氏)
スマホを押収するとここまでやる
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河井夫妻の事件では、検察の強制捜査で「ばらまきリスト」のペーパーが、広島市の自宅から発見された。パソコンから削除されたデータも、ハードディスクの復元によって存在が明らかになった。
当時、県議や地方議員、河井夫妻の後援者など取り調べを受けた人は、ほぼ全員がスマートフォンを検察に提出させられ、情報提供に応じた模様だ。そこから追跡され、
河井夫妻からカネを受け取っていた容疑で起訴された。
実際にスマートフォンを押収された元広島市議はこう振り返る。
スマートフォンがなくて困ったので、すぐ取り調べ後にショップに行って買ったよ。数日後、検察に呼ばれ取り調べに行くと『ここで河井夫妻に会ってない?』と追及された。スマートフォンの位置情報で特定されていたんだね。スマホのメールやSNSもチェックされており、カネをもらったと認めるしかなかった。あとは、どういう理由、趣旨のカネかという点で抗弁するしかなかった」
斎藤知事の捜査が進んだ場合、どういう手順で進められるのか。検事をやめたあと、Yahoo!での勤務経験もありデジタルやインターネット全般に詳しい前出の落合弁護士はこう語る。
「河井氏夫妻の事件からみても、まず任意で斎藤知事と折田氏、それに選挙にかかわった人を呼ぶ。その事情聴取と並行して、パソコン、スマートフォンのデータをおさえるはずです。
斎藤氏や折田氏の周辺の人も呼ばれるでしょうから、急に連絡がつかなくなれば、スマートフォンを検察に提出か押収されたということになりますね。
スマホからはSNSやメールだけではなく、位置情報まで細かく情報をとり、事情聴取するはずです。
もちろん折田氏のnoteは重要な証拠になりますから、執筆に使ったパソコン本体、どのソフトやアプリを使ったのかも捜査の対象となる。
noteの問題の記事がどう削除、変更されたか。その時、誰から連絡や指示があったか。
SNSやメールで斎藤知事陣営やmerchuの社員とどうやりとりしたのかも調べられる。折田氏だけではなく、merchu社員のスマートフォンやパソコン、サーバーのデータ、銀行口座などからも裏どりしていく。仮に証拠隠滅の可能性がある場合は、河井事件と同様に兵庫県庁の知事室や折田氏の会社なども強制捜査されるでしょう。
検察が乗り出せば、そう難解な事件ではないと考えます」
折田氏はnoteで自身が書ているように、斎藤知事の選挙戦周辺で、スマートフォンライブ配信SNS展開をしていたことがしている。捜査機関から見れば、スマートフォン、パソコンなどデジタル機器に証拠が「凝縮」されているのだ。
いま、「闇バイト」が石破茂首相の演説でも指摘されるほど深刻になっている。そのツールも、スマートフォンだ。匿名性や秘匿性が高いとされるテレグラムやシグナルなどの通信アプリさえ、裁判では解析、復元されて証拠となっている実例がある。
「パソコン、スマートフォンなどでデジタルを使ってグレーなことをやれば、証拠を消そうとしても消せないのが現実なのです」(落合氏)
斎藤知事と折田氏の「Xデー」はそう遠くないのか?
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現代ビジネス編集部