日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」がユネスコ=国連教育科学文化機関の無形文化遺産に登録されると決まったことを受けて、各地の酒造りに関わる人たちからは、喜びの声が聞かれました。
日本の「伝統的酒造り」ユネスコの無形文化遺産 登録決定
【北海道】酒造りする高校生“酒造り認められうれしい”
北海道旭川市の旭川農業高校では農業科学科の生徒およそ10人が3年前から授業の一環で地元の酒造会社とともに酒造りに取り組んでいます。
生徒たちは酒米の田植えや収穫作業に加え、酒造会社で仕込み作業も体験しているほか自分たちが手がけた日本酒も販売するなど1年を通して酒造りに携わっています。
ユネスコの無形文化遺産への登録が決まったことについて、3年生の女子生徒は「酒造会社で見た酒造りは、一つ一つの作業が丁寧で職人たちの徹底した仕事で成り立っていると感じた。私たちも関わっている日本の酒造りが世界の人たちにも認めてもらえているというのはうれしいことだと思います」と話していました。
また3年生の男子生徒は「授業で酒造りを体験して、酒を混ぜるのには腕の力も使う一方で、繊細な作業でもあることがわかった。無形文化遺産に登録されるということで、将来的には世界中の人と一緒に日本酒を楽しめたらうれしいです」と話していました。
【岩手】老舗酒蔵 “今まで以上に励みたい”
南部杜氏発祥の地とされる岩手県紫波町の老舗の酒蔵では、ユネスコの無形文化遺産への登録決定を受けて、「今まで以上にこだわりを持って酒造りに励みたい」と話しています。
紫波町にある明治36年創業の「紫波酒造店」は、120年以上の歴史がある老舗の酒蔵です。
5日は、ことしの新酒の販売が7日から始まるのを前に、コメを機械で洗って水を含ませる作業やできあがった酒を瓶に入れる作業などを進めていました。
この酒蔵では、酒のもとになる「酒母」を、「酸基醴※もと」(さんきあまざけもと)という製法でつくっています。
雑菌の繁殖を防ぐために乳酸菌が使われていて、部屋の温度管理を徹底するなど細かく手を加える必要がありますが、その分、味が引き締まって奥深い味わいになるということです。
杜氏の小野裕美さんは、「きれいな水、おいしいコメ、こうした素材を生かす酒造りが世界に認められてとてもうれしい。日本酒が世界に広まっていく未来が思い浮かんだ」と喜びを語りました。
そのうえで、「日本酒は冷たくても温かくてもおいしく、海外の人にもそれぞれの国の料理とあわせて飲んでみてほしい。世界からより注目されるようになると思うので、今まで以上にこだわりを持って酒造りに励んでいきたい」と話していました。
※「もと」は「酉」へんに「元」
【埼玉】税務署でも喜びの声
川越税務署が管轄する地域には江戸時代から続く酒蔵を含む4つの酒造会社があり、良質な水を活用した日本酒造りを続けていることから酒造り文化の魅力の発信にも力を入れています。
5日の登録決定を受けて、税務署の職員が喜び合うとともに、入口に「祝・登録決定!!」と書かれた紙を貼り出しました。
登録が決まるまで、「守りつなぐ伝統の酒造り」と記したオリジナルTシャツを作ってイベントで実際に着るなどPRに活用してきたということです。
川越税務署の菅原博栄 署長は、「今回の登録で国内消費や輸出拡大に繋がり、伝統的酒造りを担う酒蔵がますます元気になることを期待しています」と話していました。
【山梨】富士山のふもとで祝い酒
【東京】酒造会社“日本酒の輸出増加を期待”
東京・青梅市の「小澤酒造」は、日本酒を海外に売り込もうと外国人観光客などの酒蔵の見学を受け入れていて、英語のパンフレットや説明の看板も用意しています。
海外からの参加者は年々増えていて、ことしはすでに1000人ほどが訪れたということです。5日もメキシコから訪れた家族6人が見学に訪れ、江戸時代に建てられた土蔵造りの蔵や、仕込み水をくむ井戸などを見てまわりました。
この酒造会社では10年ほど前から海外のコンクールに積極的に出品したり、海外で知名度が高い「東京」の地名を入れた商品の販売を始めるなど、海外への輸出を増やす取り組みを進めています。人口減少などで国内の市場が縮小しているためで、会社では無形文化遺産への登録をきっかけに、輸出がさらに増えることを期待しています。
酒造会社の吉崎真之介さんは「海外の人により多く日本酒を飲んでいただけるととてもうれしい。日本酒は飲み方しだいでいろいろな国の料理と合うので今後はその点も見学の中でアピールしたい」と話していました。
【岐阜】酒造会社 “日本の皆さんもより深く知って”
岐阜県飛騨市古川町にある明治3年創業の酒造会社では5日朝、ユネスコの無形文化遺産への登録決定を祝う催しが開かれ、会社の社長が「社員一同誇らしく思います。ふだんから日本酒を飲んで下さっている地域の皆さんにお礼を申し上げ、喜びを分かち合いたい」とあいさつしました。
このあと、店の前ではくす玉が割られ、観光客や地元の人に升に注いだ新酒がふるまわれました。
この会社は海外から研修生を受け入れたり、外国人観光客向けに酒蔵の見学を行うなど日本酒の魅力を海外に伝える取り組みに力を入れています。輸出は県内で最も多く、売り上げの7%を占めていますが、今回の登録をきっかけに、20%まで拡大したいということです。
「渡辺酒造店」の渡邉久憲 社長は「世界にアピールする大変よい機会ですが、人口減少などで国内の日本酒の消費量が減る中、これを機に日本の皆さんにもより深く知ってもらいたいです」と話していました。
(※飛騨の『騨』のつくりは『単』)
【岐阜】「升」メーカー “升で日本酒 飲む文化 知って”
【石川】能登半島地震で被災 “酒造りの文化 継続を”
ことし1月の能登半島地震で被害を受けた石川県珠洲市の酒造会社からは、復興に向けたこのタイミングでの決定に喜びの声が聞かれました。
珠洲市宝立地区にある酒造会社、「宗玄酒造」は、ことし1月の地震で、土砂が酒蔵に流れ込み、タンクが傾くなどの被害が出ました。
本格的に酒造りが再開できたのは、機械の修理が完了した9月になってからで、5日は、日本酒の瓶を包装紙で包む出荷に向けた作業が行われていました。
今回の決定について八木隆夫 社長は「地震が起きてからもお酒を出すことを使命として作り続けてきたので、このタイミングでの決定は喜ばしいことです。登録を機に酒造りの文化が今後も継続するように広く知ってほしいです」と話していました。
【京都】“需要拡大 地域の活性化を期待”
今後、来館者がさらに増えることを見据えてこれまで非公開だった伝統的な酒造りを見学できるガイドツアーを新たに始めることにしていて、登録を追い風に日本酒の魅力をさらに発信していく考えです。
「月桂冠大倉記念館」の立花規志夫館長は「登録は非常にありがたく、励みになる。輸出を含めた需要が拡大し、伏見の活性化につながることを期待したい」と話しています。
【京都】“人材難で危機感も”
京都市伏見区にある酒蔵、「増田※トク兵※エ商店」14代目の増田※トク兵※エさんは、今回の登録決定を喜ぶ一方で、酒造りの今後に危機感も感じています。
かつて冬の醸造期間になると北陸などから杜氏や蔵人といった職人集団が訪れて酒造りを支えましたが、高齢化などで人材の確保が難しくなり、増田さんの蔵では3年前からは社員9人だけで酒造りを行っています。
こうした中、伝統の技法を受け継いでほしいと、今季の酒造りから一部機械化していた「こうじ造り」を手作業に戻すことにしました。
こうじ造りは酒の味を左右する要の工程で、手間はかかっても、酒造りの伝統を残していきたいと考えています。
増田さんは「伝統を継承していく難しさを感じている。今回の登録を機に手作りのよさも伝えていきたい」と話していました。
※「徳」の心の上に「一」。
衛の口の下が「巾」の上に「一」。
【兵庫】“世界に認められ誇りに”
伝統的な酒造りを支えてきた「但馬杜氏」のふるさと、兵庫県の新温泉町では、杜氏たちが集まって喜びを分かち合いました。
積雪の多い兵庫県北部の但馬地域では、冬の農閑期に男性たちが、県南部や京都・伏見など各地の酒蔵に赴き、杜氏や蔵人として伝統的な酒造りを支えてきました。
その伝統は職人集団の「但馬杜氏」として受け継がれています。
日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されることが決まったことを受けて、5日は新温泉町にある、但馬杜氏の歴史や技術を伝える展示施設に杜氏や、かつて杜氏をしていた人たちが集まって登録を祝う垂れ幕を掲げました。
そして、地元の人たちや観光客に日本酒をふるまい喜びを分かち合っていました。
但馬杜氏組合の副組合長で鳥取県の酒蔵で杜氏を務める池成均さんは、「世界に認められ誇りに思うとともに今後の励みになります。酒造りも機械化がすすむなど変化していますが、時代にあわせながらも伝統や文化を守り愛される酒を醸していきたい」と話していました。
また、かつて姫路市の酒蔵で杜氏として働いていた80代の男性は、「代々守ってきた技術が認められうれしいです。各地の若い杜氏が酒の造り方を知りたいと聞きに来ることがあり、伝える活動をしていますが、これからも日本の昔ながらの酒造りをくずさないよう伝承してほしいです」と話していました。
【鳥取】“造り手減少も 進化していきたい”
鳥取県岩美町の創業100年を超える酒造会社では5日、もろみを発酵させるタンクに蒸した米や水、こうじを加える「仲添」とよばれる仕込みが行われ、杜氏の池成均さんらが丁寧に作業を行っていました。
池成さんは「誇りに思うとともに身が引き締まる思いです。日本酒文化を守ってくれた先輩や愛飲してくれる方に感謝したいです」と話しました。
県内では、おととしの日本酒の出荷量が752キロリットルと10年前の7割弱に減少しているほか、県酒造組合に加入している酒蔵も15年前と比べて半数近くに減るなど、造り手の減少が課題となっています。
池成さんは「登録によって海外からも注目されるので、文化を大事にしながら新しい技術も取り入れて時代とともに進化していきたい」と話していました。
【広島】市役所にお祝いの横断幕
10の酒蔵がある酒どころ、東広島市の市役所ではお祝いの横断幕が掲げられました。
横断幕は長さおよそ2メートルで、「祝『伝統的酒造り』ユネスコ無形文化遺産登録」と書かれています。
また、正面玄関には登録が決まったことを伝える手作りのポスターを掲げたほか、こも樽を置いて登録を祝いました。
東広島市ブランド推進課の丹下和貴 課長は「酒のまちである東広島市にとって大変喜ばしいことです。これを追い風にしてますます地域を盛り上げていき、多くの人に訪れていただける町にしていきたいです」と話していました。
【広島】酒蔵関係者“とてもありがたい”
広島県の酒どころ、東広島市では酒蔵の関係者から喜びの声が聞かれました。
およそ350年の歴史があるという東広島市の西条本町にある白牡丹酒造では、伝統的な技法も駆使しながら酒造りを行っています。
この酒蔵では、蒸した米と米こうじに水を加えてできる「酒母」を伝統的な技法でつくる「生もと造り」を行っていて、杜氏が歌う伝統の「もと摺り唄」にあわせて蔵人らがおよそ2メートルある「かい」を力強く動かし、蒸した米とこうじをすりつぶす作業をしていました。
無形文化遺産への登録決定について、島治正 社長は「工程の多い酒造りだが、技術は本当に職人技だと思っている。登録が決まったことはとてもありがたいことで、酒を見直していただける機会になればと思う」と話していました。
その上で、「近くの酒蔵どうしで切磋琢磨してお酒の良さをこの町に来られた人に伝えていきたい」と話していました。
【愛媛】松山の酒店 祝い酒にたる酒
【徳島】酒蔵代表“これを機に新たに海外へ”
【高知】“温暖化受け 新たな品種開発を”
高知県では地球温暖化により酒米の生育に影響が出ていて、県は、急ピッチで新たな品種開発を進めています。
高知県の酒蔵では県内産の酒米などを使って日本酒を造っていますが、高知県農業技術センターによりますと、地球温暖化によってコメが大きく成長する登熟期に高温にさらされ、酒米に含まれるデンプンの主成分アミロペクチンの構造が変化し、酒米が溶けづらくなっているということです。
日本酒を醸造する際、蒸した酒米に水やこうじなどを加えて発酵させますが、酒米が溶けづらいとアルコールの度数が高まらず、香りも出づらくなります。
こうした中、高知県農業技術センターは5年前から新たな酒米の品種開発を急ピッチで進めています。
「高系420」と名付けられた開発中の新たな酒米は、溶けやすい遺伝子を含んだ品種のもち米と酒米とを掛け合わせています。
県農業技術センターが高知県内で主に使われてきた酒米「フクヒカリ」と、「高系420」に水溶液をかけて15時間後に比較したところ、「高系420」のほうがより溶け出していました。
また、遠心分離機などを使った実験では、「高系420」が「フクヒカリ」よりも米の溶けやすさを示す値が1.76倍高かったということです。
県農業技術センターでは今後、酒の仕込みに使うなどの試験を重ねて、3年後の2027年にも一般に普及することを目指しています。
【鹿児島】“焼酎の海外展開に追い風”
100を超える焼酎の蔵元がある鹿児島県で、焼酎の海外展開に力を入れている酒造会社では、今回の登録が追い風になると期待しています。
いちき串木野市にある「※ハマ田酒造」は、明治元年に創業した老舗の酒造会社で、国内の焼酎出荷量が減少するなか世界35か国に輸出するなど海外展開に力を入れています。
海外の蒸留酒がロックやカクテルのベースとして使われることに着目し、香りが強く、アルコール度数を通常の25度から40度に高めた輸出専用の商品を開発し、3年前から販売を始めています。
国税庁のまとめでは、日本酒の海外輸出額が2023年、410億円余りと年々増えているのに対して焼酎は16億円余りにとどまり、ほぼ横ばいとなっています。
この会社では、海外での売り上げが全体の数%程度にとどまっていますが、今回の登録を契機にさらなる販路拡大を目指したいとしています。
鹿児島県酒造組合の会長も務める※ハマ田雄一郎社長は、「海外マーケットの開拓に取り組んでいるところで、今回の登録は大きな追い風になると期待したい。焼酎を海外に広めていく際に、世界の蒸留酒の文化に基準を合わせていくことも必要だと思う」と話していました。
※ハマは「まゆはま」。