その結果、全会一致で無形文化遺産への登録が決まりました。
500年以上前に原型が確立した日本の「伝統的酒造り」は、
▽米や麦などを蒸す、
▽こうじを作る、
▽もろみを発酵させるなど、
伝統的に培われてきた技術が各地の風土に応じて発展し、自然や気候と深く結びつきながら伝承されてきました。
こうした技術で製造される酒は、儀式や祭礼行事などにも使われ、日本文化で不可欠な役割を果たしてきたとされています。
今回の登録で国内の無形文化遺産は23件となります。
登録が決まったあとの演説で、ユネスコ日本政府代表部の加納雄大大使は今回の登録について「伝統的酒造りが次の世代に引き継がれていくきっかけになるだろう。またそのことで、無形文化遺産への関心がさらに高まり、伝統の保護につながるだろう」と述べました。
兵庫 日本一を誇る酒どころ「灘五郷」
このうち神戸市灘区にある酒造会社「沢の鶴」は、江戸中期の1717年創業で、工場の機械化を進めながらも、米を蒸す、こうじを作る、もろみを発酵させるなどの伝統的な酒造りの技術を受け継いでいて、一部の製品では手作業での製造を行っています。
気温が下がり始めるこの時期は純米吟醸酒の仕込みが始まっていて、もろみを発酵させるためのタンクに「仕込み水」と「蒸した米」「こうじ」を入れ、2メートルほどの長い棒でかき混ぜる「かい入れ」と呼ばれる作業が行われています。
このあと20日ほど発酵させてから、もろみを搾り、熟成を経て、来年3月ごろに飲み頃になるということです。
酒造会社の西向賞雄 製造部長は「酒造りの根本に流れるのは、お米を洗って、蒸して、仕込むという伝統的な製法です。タンクがステンレス製になるなど変化もありますが、やっていることは今も昔も変わりません。日本には酒造りのすごい技術があるんだということを改めて気付いていただけるとうれしいです」と話していました。
また、灘五郷では仕込み水に「宮水」と呼ばれる地下水が使われていて、酒造りに欠かせない原料となっています。
宮水は灘五郷の北に広がる六甲山系から流れる伏流水で、西宮市の海にほど近い一角に湧いています。
江戸時代に酒造りに適した水として発見され、灘五郷の酒造会社では今も各社が、この地区に取水用の井戸を持ち酒造りに使っています。
灘五郷の酒造会社 沢の鶴の西向製造部長は「宮水を使うことで、力強い発酵のお酒になり、出来たては荒々しいですが、半年ほど寝かせるとまろやかで後口がきれる灘のお酒の特徴が出てきます。替えのきかない大切な財産なので、これからも大切に使っていきたいです」と話しています。
地球科学者「日本の酒造りに地質が関係」
日本の「伝統的酒造り」には、コメやこうじ、酵母に加えて酒造りに適した水が必要になります。
巽さんによりますと、江戸時代に発展した兵庫の酒どころ、灘では「宮水」と呼ばれる地下水が日本酒の仕込みに使われていて、この水は六甲山系からの伏流水にあたります。
山を形づくる花こう岩は「御影石」の名で知られ、石材として利用されていますが、この花こう岩を通ることで鉄分の少ない酒造りに適した水になると考えられるということです。
巽さんは「宮水の硬度が高いことが1つの要因で発酵が進み、出来上がったお酒のアルコール度数が高くなる傾向があります。そのために江戸時代に船で江戸に運ばれていた灘のお酒は、長い間船の上で揺られていても腐らないということで、酒どころとして灘が全国で名をはせる大きな要因になったと思います」と話しています。
灘とならぶ酒どころの広島の西条も周辺に花こう岩が分布しているほか、京都の伏見は背後に分布しているチャートと呼ばれる岩石に鉄分が少ないため、いずれも酒造りに適した水が手に入る条件を満たしているということです。
巽さんは地殻変動が活発な日本列島は、地震や火山の噴火などの自然災害が多い一方、気候や地質学的な特徴が変化に富んでいることが、地酒をはじめ個性豊かな食文化が育まれてきた大きな要因になっていると考えています。
巽さんは「日本の酒造りには地域の風土や、風土を作り上げる最大の要因の1つである日本列島の進化や歴史、地質が関係していると思っています。無形文化遺産への登録をきっかけに、お酒だけでなく地域の風土や地質についても再認識する機会になればいいと思います」と話しています。
石破首相「心からうれしく思う」
石破総理大臣は「心からうれしく思う。日本各地で人から人へと受け継がれてきた伝統的な技術を守り次の世代へ継承するとともに、国内のみならず海外の方にも『伝統的酒造り』を知ってもらい、地方創生や海外へのさらなる展開にもつながるよう関係者の取り組みを支援していきたい」というメッセージを出しました。
文化庁提供