逆転無罪が言い渡された「今西事件」
今西貴大さん
【今西貴大さん】「ほっとしました。胸が高鳴る」
■無罪判決受けGPS機器の装着から解放
お礼を直接伝えた
しかし、無罪判決で勾留の効力がなくなったため、今西さんはGPSを身に着ける必要がなくなりました。
【今西貴大さん】「だいぶ落ち着きました。胸が高鳴ってたのが収まってきた。(胸が高鳴りが)なくなったから、実感してきてる」
今西さんは判決から3日後、お礼を直接伝えるため、支援者の集会に参加しました。
【今西貴大さん】「やっと無罪の判決をいただくことができました。つらいこともたくさんありましたけど、闘ってよかったと実感しています。皆さんありがとうございました」
■弁護団「彼の人生が歩みを止めたままになってしまうのは、正義に反する」
川崎拓也弁護士
【川崎拓也弁護士】「20代の最後から30代半ばまで、彼の人生は一歩も前に進めないまま。彼の人生が歩みを止めたままになってしまうのは、正義に反する」
大阪高検は12月12日までに、上告するかどうかを判断することになります。
(関西テレビ「newsランナー」2024年12月3日放送)
今西さんと義理の娘
2歳の娘の頭に何らかの暴行を加えて死亡させた罪などに問われ、1審で懲役12年の実刑判決を受けた今西貴大さん(35)。
■【動画で見る】『逆転無罪』2歳の義理の娘『虐待死』問われた父「娘と僕は本当の親子。僕は無実です」逆転無罪勝ち取る「挫けず闘い続けて良かった」
およそ5年半にわたる大阪拘置所での勾留が続いていましたが、異例の保釈決定が出て自宅に戻って4カ月。ついに28日、2審判決の日を迎えました。
「逆転無罪」の旗を掲げる今西さんと弁護士ら 28日正午前
午前10時半から始まった判決で、大阪高裁は逆転無罪を言い渡しました。
主文で「一審の有罪部分を破棄する。被告人は無罪」と告げられた瞬間、目を真っ赤にさせ、ハンカチで涙をぬぐった今西さん。
今後の乳幼児虐待事件の捜査に影響する可能性のある判決となりました。
■「判決は『無罪』だったが、僕は『無実』」
今西さん 28日午後3時10分過ぎ
今西さんは、裁判後の会見で「義理の娘と僕は本当の親子として過ごしてきた。逮捕されたことで幸せな生活のすべてが破壊されました。判決の主文は『無罪』でしたが、僕は『無実』です。独房で過ごした5年半。挫けずに闘い続けて良かった」と語っています。
■「『うっ』となって、息してないです。早く来てください!」心肺停止で救急搬送された娘
今西さん ことし7月
「『うっ』となって、息してないです。早く来てください!」
今西さんは119番通報の際、慌てた様子でこう説明していました。
■意識戻らず亡くなった娘 病院の医師は「虐待の疑いがある」と通報 殺人の疑いで逮捕された父親
亡くなった2歳の義理の娘
病院に運ばれた娘は、約30分後に心肺が蘇生しましたが、意識が戻ることはなく、7日後に死亡。
体に目立ったケガはありませんでしたが、CT画像で頭の中での出血が確認されたことなどから、病院の医師は警察に「虐待の疑いがある」と通報。
■「『お前がやったんやろ、何かやったんやろ』と言われてすごく悔しい」
1回目の保釈後会見を開いた今西さん(2018年12月)
約1カ月後に保釈された際、今西さんは会見を開いて無実を訴えました。
「すごく愛情かけて育てていたのに、いきなり逮捕されて『お前がやったんやろ、何かやったんやろ』と言われてすごく悔しいです」
■肛門付近の約1センチの傷に対する強制わいせつ致傷罪など3つの罪に問われた父親 「虐待死」か「病死」か
しかし、会見の直後、再逮捕されます。
大阪地検は、肛門付近の(時計の)12時方向にある約1センチの傷に対する強制わいせつ致傷罪と、1カ月前の左足の骨折に対する傷害罪で追起訴しました。
今西さんは3つの罪に問われることになり、全ての罪を否認し続けました。
2021年2月に始まった一審の裁判員裁判。13人の専門医が証言台に立ち、死因が揺さぶりなどの強い外力(すなわち暴行)によるものか、それとも、心臓突然死だったかが争われました。
■「脳が交通事故並みの強い外力を与えられたときと同じようなダメージを受けて心肺停止になった」と検察側
脳幹のCG
検察側が重視したのは、脳の深部にある「脳幹」でした。
解剖を担当した法医学者は、「脳幹が溶けて、泥のようになっていた」と証言。
検察は、この証言を前提にした脳神経外科医の証言などをもとに、「脳が交通事故並みの強い外力を与えられたときと同じようなダメージを受けて心肺停止になった」と主張。
当時2人きりだった今西さんが暴行したとして、傷害致死罪など3つの罪が成立すると懲役17年を求刑しました。
■「病気が原因で心肺が停止し、脳が低酸素状態になって出血した」と無罪主張した弁護側
弁護側が提出した論文
一方、弁護側は、解剖写真を見て「脳幹」が溶けていることは確認できず、(事件当日の)心肺停止後から死亡まで人工呼吸器を装着したことによる症状である『レスピレーター脳』の可能性があるので、外力があったことの証拠にならないと反論。
さらに、1審の公判前整理手続きの過程で、弁護側は心臓から新たに切り出された部分を顕微鏡で検査した結果、「心筋炎」を発見。今西さんが事件直後の説明と合致するとして、「病気が原因で心肺が停止し、脳が低酸素状態になって出血した」と無罪を主張しました。
■1審の大阪地裁は懲役12年を言い渡す
弁護側の検査で心筋に見つかった「ウイルス封入体」
2021年3月、大阪地裁(渡部市郎裁判長)は、「脳の損傷は脳幹を含む広範囲のものであり相当強い外力がないと生じない」と認定。
交通事故並みの強い外力があったとする検察の主張についても「交通事故といっても態様はさまざまであり、人の手によって加えることができないものとはいえない」として、傷害致死罪が成立すると判断。強制わいせつ致傷罪の成立も認め(骨折についての傷害罪は無罪)、懲役12年を言い渡しました。
■「こんなことになるなんて…ありえへん…」父親が拘置所でつづった日記
今西さんが拘置所でつづった日記
今西さんは拘置所内で毎日つけていた日記にその時の心情を綴っています。
「もうどうでもいい、もうどうなってもいい。こんなやってもないことで、こんなことになるなんて…ありえへん…」
■控訴した父親 2審でも8人の医師が証言台に立つ異例の展開
左:秋田真志弁護士 右:川﨑拓也弁護士
2審も引き続き川﨑拓也弁護士と秋田真志弁護士らが弁護を引き受けることになり、今西さんは控訴。
検察も無罪になった骨折に関する傷害罪について控訴しました。
去年5月に大阪高裁(石川恭司裁判長)で始まった2審。
1審では13人の医師への証人尋問が行われましたが、2審でも新たに8人の医師が証言台に立つ異例の展開となりました。
■「脳幹損傷を起こすような『強い外力』を示す所見は全くない」改めて無罪主張した弁護側
去年10月の公判では、一審判決で「強い外力」がある根拠とされた頭部CT画像の解釈を巡って放射線科医2人の証人尋問が行われました。
去年11月には、頭蓋内の出血が生じた時期が、心肺停止前かそれとも後かについて2人の医師(検察側は法医学者、弁護側は小児科医)の証人尋問が行われました。
ことし5月の公判で、弁護側は「2審での検察側医師は『所見はないが隠れている』『病理所見で時期不明の出血が確認できる』と話すだけだった。脳幹損傷を起こすような『強い外力』を示す所見は全くない。1審は、硬膜下血腫があれば外力があるという予断が生んだ誤判だ」などと主張して、あらためていずれの罪も無罪だと主張しました。
■「今西被告と義理の娘が2人きりとなった短い時間で起きていることなどを総合的に評価すれば暴行があったと認定できる」と検察側
一方、検察側は「解剖時の脳の写真は一部であり、脳幹損傷の所見はないとは断定できないはず。3つの罪は一連の事案で、被告と義理の娘が2人きりとなった短い時間で起きていることなどを総合的に評価すれば暴行があったと認定できる」などとして、1審の判決を維持するよう主張しました。
■超異例の電撃保釈
保釈された今西さん ことし7月
今西さんは、再逮捕後は一度も保釈が認められず、大阪拘置所で5年以上勾留が続いていました。
弁護側の弁論の最後、主任弁護人の川﨑拓也弁護士は「二審での3年半、今西さんは拘置所にただ一人…彼の人生は歩みを止めている」と声を詰まらせ、それを聞いていた今西さんが涙をぬぐう場面もありました。
保釈後の今西さん
それから2カ月後の今年7月。
急に事態が動きます。再逮捕後、退けられ続けてきた今西さんの保釈請求が認められたのです。
■逆転無罪
判決直前の今西さん 28日午前
一審で長期実刑判決を受けているにもかかわらず、判決直前に保釈が認められる異例の決定で、逆転無罪の公算が高まっていました。
ただ、GPS装着による行動把握などの保釈条件で、今西さんの生活には制限があることは変わらず、今西被告は希望と不安な気持ちのままようやく判決の日を迎えました。
午前10時半から始まった判決で、大阪高裁は、傷害致死罪について「頭に外力によるケガの痕を残さず、脳の深い部分に損傷を与える方法について、どうやったらそれができるのか。その機序・程度について科学的に説明する必要がある。検察がその具体的立証をともなって、はじめて暴行を推認できる。しかし、その立証はされておらず、外力を認定することは困難。一審判決は論理の飛躍があり、死因が外力か内因かに立ち入るまでもない」などと指摘。
また、「今西さんの供述や女児の母の証言を通じてみても、今西さんが身体的虐待を加えていたことを示す事情は見いだせない」として無罪を言い渡しました。
■ハンカチで涙をぬぐった今西さん。静かな法廷に響く裁判長の声。
28日の法廷 大阪高裁
主文で「一審の有罪部分を破棄する。被告人は無罪」と告げられた瞬間、隣に座っている秋田真志弁護士の方を向いた今西さん。
秋田弁護士は、傍聴席から見ていても分かるくらい、強い握手を交わし、今西さんの目は真っ赤になっていました。
その後、今西さんは川﨑拓也弁護士にも何か声を掛けました。
判決文の朗読が始まるとハンカチで涙をぬぐった今西さん。
再び法廷は静かになり、裁判長の声だけが法廷に響き続けました。
■「逮捕ですべてが破壊された」
今西さん 28日午後3時10分過ぎ
そして裁判の後、28日午後に行なわれた会見で、今西さんは溢れる思いを語りました。
【今西貴大さん】「希愛と僕は、本当の親子として過ごしていました。希愛が亡くなって、僕が逮捕されたことで幸せな生活のすべてが破壊されました」
「裁判を通じて、警察・検察が見落としていた『心筋炎』など、希愛が亡くなった本当の原因を見つけることができました。今は、真実がわかったことに安堵しています」
■「僕は無実です」
「判決の主文は『無罪』でしたが、僕は『無実』です」
「いわれなき罪を着せられ、刑事裁判の当事者となった僕は、人質司法、当事者に対する偏見、そして揺さぶられっこ症候群をめぐる非科学的な医学鑑定など、日本の刑事司法が抱える問題点を表と裏との両方から経験しました」
「約4年前、本日と同じ201号法廷で有罪判決を言い渡されたときは、人生のどん底に突き落されました」
■「刑事司法の暗闇を経験する人をこれ以上増やしてはいけない」
「気がつくと、僕の無実を信じてくださる仲間がたくさん増えていました。そして、みんなで一緒に無罪判決に向かって一歩ずつ歩いてきました。独房で過ごした5年半。挫けずに闘い続けて良かった、と実感しています」
「今日、皆様と一緒に無罪判決を聞くことができて、本当に嬉しいです。法廷に座っている間、傍聴席からの暖かい気持ちを心で感じていました。きっと”桜咲く”と思い続けた6年間。うれし涙を一緒に流そうといった皆様との約束を、ようやく果たせました」
「支援をしてくださった支援者の皆様、学生の皆様。そして、弁護団の先生方。信じてくださってありがとうございました」
(関西テレビ 司法キャップ 上田大輔)