プラごみ条約に関する社説・コラム(2024年12月3・4・5・6・10・12・13・16・22日・2025年1月7日)

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見過ごせないプラ汚染(2025年1月7日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 人の血液からプラスチック粒子を、国内で初めて検出―。昨年、こんな調査報告が出された。人間の健康にどこまで影響するのかは明らかではないが、プラ汚染が身近に迫った問題だとうかがわせた
▼それだけに、プラごみとして川や海に流出するのを放置した状態なのは、いただけない。農業の肥料に使われた残骸のプラ殻である。多くは田に水が入る田植え前後に用水路などへ流れ出る
▼プラ殻の肥料は成分が少しずつ染みだし、効果が長持ちして施肥作業が軽減でき、広く普及している。しかし、殻は海洋汚染が指摘されるマイクロプラスチック(直径5ミリ以下)でもある。プラを使わない代替肥料の普及は道半ばだ
▼対策として岡山県などはここ数年、田の水位を低くして殻の流出を防ぐ方法を主に推奨してきた。チラシを農家に配り、協力を求めている
▼だが、「田に傾斜がありうまくできない」といった声も根強く、効果を上げたとは言い難い。岡山市の環境団体は「毎年同じ場所やエリアに同様に殻がたまっていて改善している様子はない」と指摘する
▼明らかな環境汚染を見過ごせない。すぐにでも効果が見込まれるのは、田の排水口にネットを設けて回収するか、プラ殻が田の中や用水路にたまっている段階ですくい取ること。「今年こそ実際に成果を」の思いが募る年の初めだ。

プラごみ汚染 防止条約へ各国は協調を(2024年12月22日『西日本新聞』-「社説」)
 
 プラスチックごみが地球環境を汚染し、生態系を脅かしている。私たちの暮らしにも関わる問題だ。
 実効性のある対策を早急に実行しないと、事態はますます深刻になる。各国は合意形成に努めてほしい。
 国連環境総会は、プラごみ汚染を防止する国際条約を2024年中にまとめる目標を掲げていた。
 先月から今月にかけて韓国で開かれた政府間交渉委員会では合意できなかった。極めて残念だ。来年の再協議に期待する。
 環境汚染を防ぐには、プラスチックの原料や製品の生産から廃棄まで、全ての段階で対策が必要となる。
 会合で意見が対立したのはプラスチックの生産規制だった。環境対策に熱心な欧州連合EU)が厳しい規制を求めたのに対し、プラスチック原料の石油を産出する中東諸国は強く反発した。
 EUやアフリカ、島しょ国などは、今回は生産規制を盛り込まず、条約発効後の締約国会議で削減目標を設定することを提案したが、産油国側は一切の妥協を拒んだ。
 プラスチックの大量生産、大量消費は環境に大きな負荷を与えている。現状を踏まえると、一定の生産規制は避けられない。段階的な削減を検討すべきではないか。
 日本は「できるだけ多くの国が参加する条約を目指す」との立場で、産油国にも理解を示した。交渉ではあまり存在感を発揮できなかった。
 日本は1人当たりの使い捨てプラスチックの使用量が、米国に次ぎ2番目に多い。海洋汚染にも直面している。今後の交渉では、より積極的な役割を果たす責務がある。
 プラごみの被害は国によって大きな差がある。気候変動に比べて問題意識が世界中に浸透していないことも、歩み寄りを困難にしている。
 各国は危機感を共有しなくてはならない。経済協力開発機構OECD)によると、世界で生産されるプラスチックの量は40年に7億トンを超える見通しだ。20年の1・7倍に当たる。
 リサイクルや適切な処理をされず、環境中に流出したプラごみは年間2200万トンに上る。このまま推移すると50年までに、海へ流入したプラスチックの総重量が魚を上回るという試算もある。
 プラごみが漂着する島しょ国では、漁業や観光に影響が広がっている。海洋生物や鳥が餌と間違って食べたり、体に絡まったりして死ぬ事例は少なくない。
 直径5ミリ以下のマイクロプラスチックは人体からも検出され、健康に影響する恐れが指摘されている。
 軽くて丈夫で、安価なプラスチックは日常生活に欠かせない。すぐに使うことをやめられなくても、過剰包装の見直しなどで消費量を減らすことはできる。私たちの身近なところからプラごみの削減に取り組みたい。

プラごみ条約/生産規制へ足並みそろえよ(2024年プラごみ条約/生産規制へ足並みそろえよプラごみ条約/合意目指し議論の継続を(2024年12月16日『神戸新聞』-「社説」)
 

 プラスチックごみによる環境汚染を防ぐ国際条約を巡り、条約案を取りまとめる会合を韓国で開いた政府間交渉委員会が、各国による合意を先送りすることを決めた。代表団が1週間にわたって議論した結果、最大の焦点となったプラスチックの生産規制について、積極的に賛成する国々と反対を主張する国々との深い溝を埋められなかった。
 交渉委の議長を務めるエクアドルのルイス・バジャス氏は「私たちの作業は完了からはほど遠い」と述べた。だがプラごみによる地球規模の汚染は急速に進んでおり、協議の失敗に落胆している猶予はない。早期の合意を目指し、各国による議論を粘り強く継続してもらいたい。
 プラスチックは石油由来の合成樹脂などを主原料にしている。安価で軽く、丈夫という特長があり、衣服や電化製品、自動車、レジ袋、ペットボトルなど生活に関わるさまざまな製品に幅広く使われてきた。
 分解されにくいため、不法投棄されたごみなどが河川や海洋に漏れ出し、生態系を脅かす。生物が誤って食べて死ぬほか、マイクロプラスチックが人の体内から検出される問題も起きている。脳卒中などのリスクを高めるとする研究結果もあり、健康への悪影響が懸念される。
 にもかかわらず汚染の進行を止める国際的なルールがない。そのため国連環境総会で2022年に国際条約の策定が決まり、今年末までの条約案とりまとめを目指していた。
 合意を阻んだのは、プラスチックの生産に関し、具体的な削減目標の設定など厳しい規制を求める欧州連合(EU)や島しょ国、アフリカ諸国側と、石油の輸出減少を恐れる中東諸国、ロシアなど産油国側との対立だ。産油国側は「(条約は)廃棄物対策に絞るべき」と反発した。
 経済協力開発機構OECD)によると、19年の世界のプラスチック生産量は00年に比べて2倍になり、今後さらに増える。その間に環境流出も深刻化していく。ただし、対策を進めれば40年までに環境流出を95%程度削減できるという。生産、消費、廃棄の全段階での対策が不可欠であることは論をまたない。
 海流でプラごみが来る太平洋の島しょ国は、会合中に強く被害を訴えた。汚染の進行は日本も同様だが、日本政府は「できるだけ多くの国が参加する条約を目指す」との中立的な立場を通した。環境団体から「先進7カ国(G7)の中で一番後ろ向き」と批判されたのも当然だ。
 交渉委の会合は25年に再び開催されるとみられるが、難航が予想されている。日本は今度こそ議論をリードし、国際条約策定に向けて先進国としての役割を果たすべきだ。

プラごみ条約/生産規制へ足並みそろえよ(2024年12月13日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 プラスチックごみによる環境汚染が世界で広がっている。各国は立場の違いを乗り越え、汚染に歯止めをかけることが急務だ。
 プラごみによる汚染を防ぐための初の国際条約作りで、政府間交渉委員会は条約案への合意を見送った。生産規制を巡る意見の隔たりがあり、国連環境総会で決めた年内の合意に至らなかった。
 国連などによると、年間約1千万トンのプラごみが海に流れ出ている。人体や生態系に有害な添加物の入った製品などが、マイクロプラスチックと呼ばれる微粒子となって体内に取り込まれることによる健康被害が懸念されている。
 プラスチックの生産や焼却時には温室効果ガスが排出される。2019年に世界で8億5千万トンだったプラスチック由来の二酸化炭素(CO2)排出量は、生産量の増大に伴い、30年には日本全体のCO2排出量に匹敵する13億4千万トンに増えるとの予測がある。
 プラスチックによる汚染はオゾンホールの問題と並ぶ地球規模の課題だ。早期に会合を再開し、条約を策定する必要がある。
 生産規制を巡っては、欧州連合(EU)や、プラごみの漂着と温暖化による海面上昇の危機に直面する島しょ国などが、生産量の削減目標を含めた厳しい規制を求めている。一方、プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国などは規制に反対している。
 会合では生産規制抜きで条約を策定した後、第1回締約国会議で規制目標を改めて採択する妥協案が提案されたが、産油国は反対した。1人当たりのプラごみ排出量が世界2位の日本は、一律でなく各国の状況に応じた規制にするべきとの消極的な立場で、提案には名を連ねなかった。
 プラ製品を大量生産、大量消費する経済活動により、島しょ国の生活や日本を含む将来世代の健康が脅かされている。自国の利益を守るために妥協案すら反対する産油国や、玉虫色の姿勢を取る日本は無責任と言わざるを得ない。
 産油国などに譲歩していては、実行性の乏しい条約になりかねない。策定時からの生産規制が不可欠で、日本はEUや島しょ国と足並みをそろえるべきだ。
 日本で排出されるプラごみの約7割は、発電や熱回収されるものを含めて焼却されている。リサイクルが不十分な現状を踏まえ、企業には過剰包装を見直し、消費者にはできる限り使い捨てを減らすことなどが求められる。
 条約の策定に向けた議論を、国内のプラ製品への依存度を下げる契機とすることが重要だ。

プラごみ条約 汚染止める合意が急務だ(2024年12月13日『山陽新聞』-「社説」)
 
 プラスチックごみによる環境汚染を防ぐ初の国際条約作りが難航している。最終会合の位置付けだった政府間交渉が今月初め、条約案取りまとめの先送りを決めた。今年中の策定を目指していただけに極めて残念だ。
 プラごみは適切に処理されないと海などへ流れ出る。一部は微粒子化して魚などに取り込まれる。中には加工や劣化防止のため有害性が指摘される化学物質を添加しているものもあるなど、生態系だけでなく、人体へも悪影響を及ぼす恐れが懸念される。
 気候変動や生物多様性の喪失と並び、国際社会が一刻も早く対策を進めるべき課題なのは言うまでもない。そのために、2年前の国連環境総会で条約策定に合意した経緯がある。
 交渉の焦点は生産量を規制するかどうかだった。欧州連合(EU)や、大量のごみが漂着している島しょ国、アフリカ諸国は世界一律の規制が必要と主張。対して原料となる石油を産出する中東諸国やロシアは経済的な打撃につながるとして激しく反対し、溝が埋まらなかった。
 軽くて丈夫、安価なプラは、産業や生活を支える素材として世界中で増え続けている。経済協力開発機構OECD)の推計では、2040年の生産量は20年の1・7倍に達し、この間、自然界に流出する量は1・5倍に増える。このままだと50年には海中のプラごみが魚の総重量を超すとの試算もある。
 汚染を止めるにはプラの生産から消費、廃棄までライフサイクル全ての段階で対策が欠かせない。生産して出回る総量の規制に踏み込まなければ、リサイクルや使用量削減を徹底しても流出する量を減らすことは難しい。
 交渉では、ストローやレジ袋のような使い捨て製品の製造制限などでも対立が残った一方、プラごみ削減や、河川や海への流出防止に関する部分では条約案の整理が進んだという。来年改めて開かれる次回会合では、実効性ある条約の早期実現に向け、産油国と他の国々が粘り強く妥協点を探らねばならない。
 生産規制を巡っては、日本は「一律でなく各国が置かれたさまざまな状況に応じた規制にするべきだ」との中間的な立場を取る。調整役とも言えるが、国民1人当たりの使い捨てプラ使用量が米国に次ぐ世界2位の現状を踏まえ、その姿勢を「消極的」と批判する声もある。
 国内では22年に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、再生利用が進む。プラ製品を大量に作り、大量に使い、大量に捨てる社会や暮らしのあり方を根本から見直す覚悟もわれわれに必要だ。ただ、そうした機運が企業や消費者の間で十分に育っているとは言い難い。
 政府は国際的な枠組みづくりに努めるとともに、国内での対策をより一層加速させることが求められる。

プラごみ条約先送り 削減への道筋、早急に示せ(2024年12月12日『福井新聞』-r諭説」)
 
 プラスチックごみによる環境汚染を防ぐための国際条約作りを進める政府間交渉委員会が物別れに終わった。2022年の国連環境総会で決議した策定期限の「24年末」を守ることができなかった。各国の意見の隔たりは大きいが、汚染は深刻化しており一刻の猶予もならない。再開会合では、実効性のある条約ができるよう日本も世界も努力しなければならない。
 各国は、韓国・釜山で開かれた5回目の交渉委員会で条約文案に合意することを目指した。最大の焦点は、汚染を減らすためにプラスチックの生産を規制することを条約に盛り込むかどうかだった。欧州連合(EU)や島しょ国などは削減目標などを含めた厳しい規制を求め、これに反対した中東の産油国やロシアは廃棄物の適切な処理などに限るべきだと主張。両者は最後まで折り合わなかった。
 大量生産、大量消費を続けながら適切な廃棄物処理さえしていればいいという手法では問題解決にはほど遠い。生産規制にまで踏み込んでこそ、自然界に排出されるプラごみを減らすことができるのではないか。 国連などの調べでは、年間800万~1千万トンのプラごみが海に流れ込んでいる。直径5ミリ以下の微粒子「マイクロプラスチック」の汚染は高山の頂上から深海にまで広がる。プラスチック中には人体や生態系に有害な添加物が加えられることが多く、燃やせば二酸化炭素が発生して気候危機を悪化させる。
 交渉の中で、EUや島しょ国、中南米やアフリカの発展途上国など100を超える国が問題のあるプラスチック製品や懸念のある化学物質を期限付きで禁止するといった生産規制の導入を求めた。
 プラスチック汚染対策は焦眉の急だ。次の交渉日程を早急に決め、法的拘束力や数値目標を持った実効性のある条約案に合意する必要がある。一部の強硬な抵抗国への説得を続けるとともに、条約に加盟することが各国の利益になるような仕組みを考えるべきだ。
 日本の交渉姿勢は積極的とはいえなかった。各国がそれぞれの対策を提出するような仕組みにするべきだと主張し、生産規制や数値目標には後ろ向きだった。国内で出るプラごみの7割を焼却し、減少傾向にあるとはいえ多くを輸出している背景がある。
 プラスチック代替品などの技術があり途上国支援の資金力もある日本の責任は大きい。日本政府は会合再開に向けて努力するべきだ。汚染を確実に減らす条約ができるよう力を尽したい。

プラごみ条約 汚染止める合意早急に(2024年12月10日『北海道新聞』-「社説」)
 
 プラスチックごみ汚染を防ぐ国際条約作りは合意に至らなかった。韓国で行われた政府間交渉会合は、結論を先送りした。
 プラごみは適切に処理されなければ、河川などから海へ流れ込む。劣化すると細かなマイクロプラスチックやさらに小さいナノプラスチックとなり、魚などにも蓄積する。摂食を通し人体に影響を及ぼす懸念もある。
 プラスチックによる汚染は、気候変動や生物多様性の喪失と並ぶ地球規模の課題である。
 2022年の国連環境総会では今年末を条約策定の期限とすることで合意していただけに、今回の事態は残念だ。
 汚染を止めるため、各国は立場の違いを乗り越えて足並みをそろえ、実効性のある条約を早期に策定しなければならない。
 交渉で焦点となったのはプラスチックの生産を規制するかどうかだ。欧州連合EU)などが汚染を根絶するには生産量全体を減らす必要があると主張したのに対し、サウジアラビアなどの産油国は強く反対した。
 産油国にとって、温暖化対策で化石燃料の削減が求められる中、プラスチックの生産が規制されれば、原料である石油の需要が一層減退する懸念がある。
 生産規制の目標については、条約策定後の第1回締約国会議で採択するとの妥協案も示されたが、産油国は拒否した。
 世界のプラスチック生産量は年々増加している。経済協力開発機構OECD)によると、19年に環境中に流出したプラごみは2200万トンに上る。対策を強化しなければ、60年には4400万トンに倍増する。
 根本的な解決には、生産を含む規制強化が必要ではないか。産油国は自国の利益よりも、地球の危機を救う大局的な見地に立ってもらいたい。
 肝要なのは、生産から使用、処分、リサイクルまで、プラスチックの「ライフサイクル」全体に目配りした対策だ。
 日本は一律の生産規制ではなく、リサイクルなどを含めて、各国の事情に応じた取り組みを重視する立場だ。ただ各国の努力頼みでは抜け穴が生じる。海の汚染は国境をまたぐ。世界共通の削減ルールが欠かせない。
 日本は1人あたりのプラ容器包装の廃棄量が米国に次いで2番目に多い。政府はプラスチックを再生利用する「循環経済」の取り組みを進めている。
 生産抑制の目標を定めたり、紙などプラスチック代替品への切り替えをさらに促進するなど、より踏み込んだ政策を打ち出して、条約交渉で指導力を発揮してほしい。

熱かんはお酒だけに(2024年12月6日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 キジが日本の国鳥と呼ばれるように「国菌」と言われるものがある。こうじ菌だ。国菌に認定した日本醸造学会の宣言に、古来いろいろな食品に用いられており、わが国の豊かな食文化に貢献してきた―とある
▼代表例の一つが日本酒だろう。こうじ菌の働きで、コメに含まれるでんぷんを糖に変える。糖に酵母を加えてアルコール発酵させる作用も一つの容器で同時に進める「並行複発酵」は世界的に珍しいとされる
▼その伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録された。各地の風土や気候の知識とも結び付けながら杜氏(とうじ)や蔵人(くらびと)らが築き上げてきた技術が評価を受けた。酒どころ岡山県にとっても朗報だ
▼その担い手の一人、真庭市杜氏・辻麻衣子さんは“暑い秋”に頭を悩ませる。10月から今季の作業を始めたが、蔵の温度が例年より5度ほど高く、発酵のタンクの外側に取り付けた冷却装置の水量を最大限にした対応が続いた
▼タンク内の温度が高いと、発酵が早く進み過ぎ、酒の味が薄くなるという。気温が下がり始めて何とか対応できるとのことだが、来季以降も心配の種になりそうだ
気象庁によると、今年9~11月の日本の平均気温は平年より1・97度高く、3年連続で最も暑い秋となった。「地球沸騰化」とまで言われる時代。だが、熱かんはお酒だけにとどめておきたい。

泡盛無形文化遺産 沖縄が育んだ宝 次代へ(2024年12月6日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 泡盛や日本酒、本格焼酎などの「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。沖縄の歴史と風土、文化が育んだ酒が世界に認められたことを誇りに思う。芳醇(ほうじゅん)な香りと深いこくを多くの人に堪能してもらいたい。
 沖縄関係では2010年の「組踊」、18年の宮古島パーントゥなど「来訪神 仮面・仮装の神々」に次いで3件目となる。
 伝統的酒造りは手作業を中心とした日本独自の技術で、風土に応じ杜氏(とうじ)や蔵人が伝統的に培ってきた技術の価値が認められた。泡盛は黒こうじ菌を使うのが大きな特徴。クエン酸を大量に生成することで他のこうじ菌よりもろみの酸度を高くすることができる。雑菌による腐敗を抑え、温暖多湿の沖縄に適している。
 若い酒をつぎ足し古酒を育てる「仕次ぎ」など貯蔵法も独自性を持つ。琉球王国時代から約600年の歴史を持ち、沖縄戦までは100年、200年といった古酒も家宝として数多く存在していたという。
 ユネスコの政府間委員会は、伝統的酒造りの知識と技術が「社会にとって強い文化的な意味を持つ」と評価。泡盛は神事やシーミー(清明祭)、ウガン(御願)、ハーリーなどに欠かせないもので、重要な役割を果たしている。
 酒造業界からは、国内外での知名度アップや好調な外国人観光客の需要増への期待も高まる。同時に、地元でも泡盛の良さを再認識する機会にしたい。
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 王国時代から育まれてきた泡盛だが、79年前の沖縄戦では、製造の中心地であった首里も大きな被害を受けた。工場や蒸留機などの設備が戦火にさらされた。
 戦後、酒造関係者たちは、泡盛造りに欠かせない黒こうじ菌がない、という問題に直面した。
 1946年、幸いにも首里の酒造所跡で灰土に埋まっていたむしろを見つけた。泡盛を造るとき、米を広げて黒こうじをまき、米こうじをつくるためのものだ。半ば朽ち果てたような状態のむしろの繊維をもみほぐし、蒸した米の上に落とした。
 24時間後の朝。蒸した米の表面は緑がかった黒色に一変していた。戦後、泡盛の復興が始まった瞬間だ。
 物資不足の中、泡盛を口にした時に、戦世がようやく終わったことを実感した県民も多かったという。
 関係者は「平和でないと酒造りはできない」と語っている。
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 泡盛はカラカラや抱瓶などの優れた酒器の発達を促した。琉球料理との関係も深く、ラフテーなどの豚肉料理、豆腐ようなどには調理の際に泡盛が使われる。
 泡盛の出荷量は減少傾向でビールやハイボール、ワインなど好みの多様化、飲酒の機会が減るなど社会的な要因で、増加に転じるのは容易なことではない。
 泡盛の魅力はもちろん、文化や歴史を伝える酒造所見学ツアーや海外でのプロモーション強化など、ユネスコ効果を最大限にする地道な取り組みが必要だ。

プラごみ条約先送り 生産規制への道筋模索を(2024年12月5日『毎日新聞』-「社説」)
 
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プラスチック汚染根絶を訴える、有志国でつくる「高い野心連合(HAC)」の記者会見の様子=韓国・釜山で2024年12月1日午前10時4分、大野友嘉子撮影
 プラスチック汚染が地球規模で拡大しているにもかかわらず、解決の道筋を見いだすことはできなかった。国際協調の停滞は憂慮すべき事態である。
 プラごみ汚染の根絶を目指し、韓国・釜山で開かれていた条約交渉会議が決裂し、策定が先送りされた。最大の焦点は生産量の規制に踏み込むかどうかだった。
 出席した約180カ国・地域のうち、欧州や島しょ国など100カ国以上が、プラ素材や製品の生産量の削減目標を設定するよう提案した。一方、原料である石油を産出するサウジアラビアやロシアなどは規制に反対を続けた。会議では、相手側を非難する発言が飛び交った。
 条約の議長草案には、ストローやレジ袋のような使い捨て製品の製造を禁止する項目も盛り込まれたが、合意には至らなかった。
 来年、この案をもとに会議を再開することで一致したものの、開催の時期や場所は未定だ。溝を埋められる見通しも立っていない。
 日本は一律の規制ではなく、各国の事情に応じて対策を進める案を掲げた。調整役を担う目的だったが、存在感を発揮できなかった。人口1人当たりで世界2位の排出大国という点からも、積極的に貢献すべきだった。
 経済協力開発機構OECD)によると、適切に処理されず廃棄されるプラごみは年2200万トンに上る。もはや、それぞれの国や業界の取り組みだけで解決できない状況にある。
 リサイクルや処理で排出を完全に抑えることは難しく、生産規制に踏み込まなければ十分な効果は期待できない。
 紫外線や波で砕かれたプラスチックを海洋生物が摂取している。2050年には海洋プラごみが魚の総重量を上回るとの予測もある。魚を食べた人の健康に影響が出ることも懸念されている。
 国際社会はこうした危機感を共有していたはずだ。22年に開かれた国連環境総会で、生産から消費、廃棄までの「ライフサイクル」を通じて削減する条約を作ることで一致した。
 交渉の原点に立ち返る時だ。実効性のあるルールの策定に向け、合意点を探る努力を尽くさなければならない。

プラごみ条約 削減対策で合意あきらめるな(2024年12月5日『読売新聞』-「社説」)
 
 自然界では分解されないプラスチックごみが国境を越えて広がり、深刻な環境被害をもたらしている。国際社会は立場の違いを克服し、具体的な削減対策で合意すべきだ。
 プラスチックごみによる汚染を防ぐ国際条約の策定に向けた政府間交渉委員会が、韓国で開かれた。だが、参加国の意見が対立して合意は見送られた。来年以降に会合を再開し、協議を続ける。
 国連は2022年に条約策定に関する議論を開始し、5回目となる今回の会合で内容を固める予定だった。期限内に合意に至らなかったのは残念だ。対策がさらに遅れることが懸念される。
 環境意識の高い欧州や、大量のごみが漂着している 島嶼 とうしょ 国は、プラスチック製品の生産そのものを規制することを提案している。
 これに対し、プラスチックの原料となる石油を生産するロシアやサウジアラビアなどは、経済的な打撃につながるとして、生産規制条項を条約に盛り込むことに強く反対している。
 今回の会合でも双方の主張の溝は埋まらず、今後も議論が難航することは避けられない。
 安価で丈夫なプラスチックは、包装や自動車部品など多くの分野で利用が増えている。リサイクルなど適切な処理が行われずに廃棄されるプラごみは、年間2200万トンに上り、一部は川や海に流れ込んで世界中に広がっている。
 海中で分解されなかったプラスチックが、紫外線や波で細かく砕かれ、「マイクロプラスチック」となって海を漂い、魚などに取り込まれている。人体や生態系に悪影響を与える恐れもある。
 プラ製品は、生産や焼却の過程で二酸化炭素を排出する。放置すれば地球温暖化防止にも逆行する。一方で、海岸に大量のプラごみが漂着する島嶼国などを除けば、被害を感じにくく、危機感が共有されているとは言い難い。
 しかも、1人当たりの使い捨てプラごみ排出量が世界最多の米国では、来年1月にトランプ政権が発足する。1期目に温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱したように、プラごみでも消極的な姿勢をとる可能性がある。
 今後の国際交渉では、欧州に加え、日本も議論を主導する役割を担うべきではないか。
 理化学研究所などの研究チームは、海水中で自然に分解される新たなプラスチックを開発した。技術革新でプラごみ問題の根本的な解決に貢献する道を探っていくことも重要になるだろう。

(2024年12月4日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽イネから取れるものは捨てるところがない。稲わらは飼料に、米ぬかは漬物などに利用される。そして近年、コメはご飯を食べた後に欠かせない歯ブラシにも使われる。「バイオマスプラスチック」と呼ばれる製品だ。
▼▽食用にも飼料にもならずに廃棄されるコメを素材に配合する。その分、プラスチックの使用量を減らしているのが特徴。山形市のあるホテルは、愛媛県の企業が製造したこの歯ブラシやカミソリなどをアメニティーに採用し、従来比で年間194キロのプラ削減効果を出した。
▼▽背景には2年前に施行された新法がある。使い捨てプラ製品の削減が宿泊業などに義務付けられた。先のホテルによればインバウンド増加も一因だ。欧米人は環境に配慮した宿の取り組みを重視するという。感心すべき脱プラへの意識であるが、国の事情で差があるらしい。
▼▽プラごみ汚染を防ぐ国際条約案は合意が先送りされた。厳しい規制を求める欧州連合と、反対する産油国との溝は深い。ただ、対策は待ったなし。試しにコメ由来の歯ブラシを使ってみた。強度は十分で、何ら違和感なくすっきりと磨けた。足元からできることを進めたい。

プラ条約の早期実現を粘り強く目指せ(2024年12月4日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 プラスチックごみによる汚染を防ぐ初の国際条約は合意に達しなかった。韓国での政府間交渉で、結論を次回会合に持ち越すことが決まった。国連が目指す年内策定を実現できず、極めて残念だ。
 プラごみは不適切に廃棄されると、海洋汚染など国境を越えた被害を招く。経済協力開発機構OECD)は、2019年の時点で約3000万トンのプラごみが海に蓄積していると試算した。対策が進まないと、50年には魚の総重量を上回るとの予測もある。
 気候変動や生物多様性の喪失とともに、国際協調で解決を目指すべき差し迫った課題だ。実効性のある条約の実現へ、粘り強く努力を続ける必要がある。
 最大の焦点は生産量を規制するかどうかだった。欧州連合EU)やアフリカ、島しょ国は世界一律の規制が必要と主張した。原料となる石油を産出する中東諸国やロシアは反対姿勢を貫き、歩み寄れなかった。プラ製品に含まれる有害な化学物質や使い捨て製品の制限などでも激しく対立した。
 それでも、交渉が完全に決裂したわけではない。回収や再生、再利用を前提にした製品設計、プラごみの削減、河川や海などへの流出の防止に関する部分では条文案の整理が進んだ。一定の前進があったと評価してよいだろう。
 国連は改めて参加国の意見を聞き、再交渉の日程や場所を決める。今回の条約案をもとに議論を詰める。各国は利害を超えて妥協点を探し、2025年中の合意を実現しなければならない。
 リサイクルや再利用の徹底、使用量の削減だけでは根本解決にならない。いずれ、生産量も減らす規制が必要になる。
 現状、産油国と他の国々との対立は激しい。使用量削減という最低限の合意で条約を実現し、内容を徐々に強化していくのも一つの選択肢ではないだろうか。
 米国のトランプ次期大統領は環境対策に後ろ向きで、今後の交渉に参加しない可能性がある。しかし、微粒子化したマイクロプラスチックや有害物質による汚染は米国内でも深刻だ。各国は参加を続けるよう説得すべきである。
 日本は国民1人あたりの使い捨てプラスチック使用量が米国に次ぐ世界2位だ。レジ袋は有料化したものの、規制はEU各国に比べて緩い。条約の実現への努力を続けるとともに、国内対策の強化を急がなければならない。

国際プラごみ条約 政府間交渉の再開を急げ(2024年12月4日『産経新聞』-「主張」)
 
 川や海に流出するプラスチックごみ削減への国際的取り組みが先送りになった。
 韓国の釜山に世界170カ国・地域以上の代表が集い、プラごみによる環境汚染防止の国際条約作りを目指した政府間交渉委員会の会合は合意に至らないまま、2日に閉幕した。
 国際プラスチック条約の必要性は2022年の国連環境総会で提起され、政府間交渉が続いてきた。第5回の釜山での最終会合で全条文を完成させ、来年中の採択という展開が期待されていただけに残念だ。
 プラスチックは、その便利さから1950年代以降、需要が増加の一途をたどった。経済協力開発機構OECD)によると2020年時点での世界のプラスチック生産量は4億3500万トンに上る。それまでの20年間で2倍の伸びである。
 これに伴い、管理の不備や不法投棄で毎年2千万トン前後のプラごみが環境中に散逸し、世界の海洋などにたまっていると分析されている。50年には海洋プラごみが全海産魚の重量を上回るとの予測もあるほどだ。
 こうした海洋プラごみは、オゾンホール、温暖化に続く「第3の地球環境問題」として世界の人々の関心事となっている。プラスチックは石油を原料とする人工物なので、微生物によって完全に分解されることなく自然界に残り続ける。ごみ化すると極めて厄介だ。
 波などの力で小破片になったマイクロプラスチックは有害な化学物質を吸着して海洋生態系を脅かすともいわれる。
 今回の国際条約作りでは、プラスチックの生産量規制が最大の焦点だった。規制を求めた欧州連合EU)や島嶼(とうしょ)国などと、プラスチックの原料を供給する中東諸国やロシアといった産油国側との意見の隔たりが最後まで縮まらなかった。
 地球の7割が海である。それを汚染する海洋プラごみは、喫緊の対応を要する環境問題だ。政府間交渉委員会の早期再開が急務である。
 海洋プラごみの発生源はアジア諸国が多い。その中でも上位の中国は、福島第1原子力発電所からの処理水にクレームをつけた。海洋環境が気になるなら自国のプラごみ流出抑制に即刻、着手すべきだ。大気と海洋のダブル汚染で、地球を苦しめる行為は許されない。

プラごみ条約 国際的な対策先送り残念(2024年12月3日『新潟日報』-「社説」)
 
 増え続けるプラスチックごみへの国際的な対策がまとまらなかったことは、極めて残念だ。各国は、プラごみが環境だけではなく人体にも影響を与える恐れがあることを認識し、ルール作りに向けた機運を高めてほしい。
 プラごみによる海などの環境汚染を防ぐための国際条約作りを巡り、韓国・釜山で開かれていた政府間交渉委員会は、条約案への合意を先送りすることを決めた。
 最大の焦点だったプラスチックの生産規制で、厳しい規制を求める欧州連合(EU)や島しょ国などと、プラスチック原料となる石油を産出する中東諸国やロシアなどとの溝が埋まらなかった。
 産油国側の抵抗が大きいためだ。国際的合意を目指す交渉の難しさが、浮き彫りになった。
 安価で軽く、丈夫なプラスチックは幅広い製品に使われる一方、大量に廃棄され、流出している。環境汚染は地球規模の課題だ。
 国連環境総会は2022年、汚染を防ぐための条約作りと、そのための政府間交渉委の設置を決めた。24年末までに条約案をまとめるはずだった。
 会合は25年に再開されるが難航が予想される。生産から消費、廃棄までのあらゆる段階で、一刻も早い取り組みが必要であることを各国は忘れてはならない。
 経済協力開発機構OECD)によると、19年の世界のプラスチック生産量は4億6千万トン、廃棄された量は3億5300万トンで、いずれも00年の2倍となった。
 40年の生産量は7億トン超で20年比1・7倍、環境流出は1・5倍になると推計されるが、厳しい対策を取った場合、環境流出は95%程度削減できるという。
 これまでに川に1億900万トン、海に3千万トン蓄積された。50年の海中のプラごみ量は、魚の量を超えるとの予測もある。
 さらに問題なのは、川や海を漂ううちに直径5ミリ以下まで小さくなった「マイクロプラスチック(微少プラ)」が、人間の体内で相次いで検出されていることだ。
 頸(けい)動脈疾患の患者の血管にできたプラーク(塊)から検出されたとの報告がある。プラスチックに含まれる化学物質がホルモン機能の異常を招く恐れもあるという。
 英国の大学の研究では、20年のプラごみ流出量はインドやナイジェリア、インドネシア、中国が多い。アジアの国々からの汚染が深刻だ。日本近海は黒潮にのって運ばれた微少プラの汚染が進み、世界平均の27倍との報告もある。
 日本政府は、世界一律ではなく各国の状況に応じた規制にすべきとの立場だった。多くの国が参加できるようにとの狙いからだが、「消極的だ」という批判もある。
 こうしている間にも海洋汚染は広がっている。環境悪化を防ぐため、日本は国際社会で主導的役割を果たしていくべきだ。

プラごみの削減 条約の実現へ粘り強く(2024年12月3日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 プラスチックごみを減らす国際条約づくりの政府間交渉が物別れとなった。今年中に条約案をまとめることになっていた。来年以降に持ち越される。
 増え続けるプラごみを抑えるには、元をたどって大量生産の段階から規制する必要がある。そこが最大のネックになっている。
 欧州連合(EU)や海洋汚染にさらされる島国などは生産量の削減目標をつくるべきだと主張。一方、原料の石油を産出する中東諸国などはプラごみを減らす対策にとどめるべきだとして、溝が埋まらなかった。
 生態系はもちろん、人体への悪影響も指摘されるプラごみの削減は、国際協調で解決を目指さねばならない差し迫った課題だ。世界有数の排出国である日本の責任は極めて重い。速やかな合意に向けて、粘り強く一致点を見いだしていく必要がある。
 条約づくりは2022年に国連環境総会で決まった。主に海洋に流出するプラごみを、クジラや海鳥などが餌と間違えてのみ込んだり、絡まって死んだりする被害が注目されていた。
 プラごみはさらに増える勢いにある。国連は毎年1900万~2300万トンが湖、河川、海洋に流出していると推計。経済協力開発機構OECD)は、対策を強化しないと60年に流出量は4400万トンに達するとみている。
 生産が拡大すれば、それだけ温室効果ガスの排出も増えると予測されている。地球温暖化防止の意味でも、生産段階での規制は避けて通れない。
 人体への影響も見過ごせなくなってきた。捨てられたプラは紫外線や微生物の分解で細かくなる。直径5ミリ以下のマイクロプラスチックより小さい直径1マイクロメートル(千分の1ミリ)以下の超微粒子の存在が明らかになっている。
 国内外で人の血液から検出され、腎臓、肝臓などからはプラに添加された化学物質も見つかった。生殖機能や子どもの脳の発達への悪影響が懸念されている。こうした有害な化学物質の規制も積み残された論点だ。
 日本は、生産規制は一律でなく各国の実情に応じて行いながら、リサイクルや廃棄管理の強化を進める―との立場を取っている。まず条約を実現し、その後の締約国会議で内容を強化、充実していく選択肢もあるだろう。
 プラ製品を日々大量に消費し、捨てている私たちは当事者だ。暮らしの中にある課題として関心を持ち続けたい。

プラ条約先送り 危機感を共有し一致点探れ(2024年12月3日『京都新聞』-「社説」)
 

 プラスチックごみによる環境汚染が広がり、人体への健康リスクが高まっている。国際社会で危機感を共有し、実効性あるルールづくりに向け、粘り強く一致点を探らねばならない。
 プラごみ汚染対策の国際条約作りのため、韓国・釜山で開かれていた政府間交渉委員会は、条約案への合意を先送りした。
 2022年の国連環境総会で条約策定を決め、5回目の今会合を最終と位置づけていた。
 最大の懸案事項だった生産規制で、各国の主張の隔たりが埋まらなかったという。
 世界共通の厳しい規制を求める欧州連合(EU)やアフリカ諸国、汚染に脅かされる島しょ国側に対し、原料となる石油を産出するサウジアラビアなど中東諸国やロシアは、需要減を懸念して強く反発した。
 議長がとりまとめた草案では、国際的な削減目標を設定する案を示す一方、生産規制に関しては条文に盛り込まない案も残した。両論を並立させたことは、合意の困難さを表しているといえよう。
 ただプラごみの削減や環境流出の防止を巡って、使い捨てプラの製造禁止といった選択肢が条文案に盛り込まれるなど一定の前進もみられる。生産規制にも踏み込みが不可欠だ。
 プラごみ汚染は深刻化している。経済協力開発機構OECD)によると、19年のプラスチックの廃棄量は20年前と比べて倍増した。自然に分解しにくいため海や川にそのまま流出し、50年には海中のプラごみの総重量が、全ての魚より多くなるとの予測もある。
 特に近年、問題となっているのが、5ミリ以下に砕けたマイクロプラである。えさと間違え食べた魚を、摂取することで人体から検出されており、健康被害が危ぶまれる。
 会合は来年に再び開くとみられるが、先行きは見通せない。各国が自分ごととして向き合い、合意形成へ歩み寄れるかが問われよう。
 「EU寄り」との立場を示してきた米国は年明け、環境問題に消極的なトランプ氏が大統領に就任することで、後退する可能性も出ている。
 日本は各国の状況に応じた規制をとるべきだとの中間的な立場とするが、どっちつかずの感が否めない。1人当たりのプラ容器包装の廃棄量は米国に次いで世界2位であり、「プラごみ発生大国」として削減目標を示すなどして、各国の橋渡し役を担うべきではないか。
 これまでレジ袋の有料化は導入したものの、排出量の削減や熱回収中心となっているリサイクルなど不十分と言わざるを得ない。生産部分を含めた対策に力を入れていく必要がある。
 国際機関とともにマイクロプラの調査研究などを進め、科学的根拠を示すことで対策の後押しにも尽力したい。

プラ条約合意先送り 危機感共有し努力続けよ(2024年12月3日『中国新聞』-「社説」)
 
 本来なら待ったなしの国際条約のはずだ。プラスチックごみによる環境汚染を防ぐ条約案の合意がきのう先送りされた。韓国で開かれていた政府間交渉委員会の会合が、国連の目指す年内の策定を実現できずに終わったのは痛い。
 最大の焦点はプラスチックの生産規制という、ライフサイクルの「上流規制」に踏み込むか否かだった。欧州連合EU)や島しょ国など100カ国以上は、国際的な生産の削減目標を第1回の締約国会議で採択する案を主張した。プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国は反対し、「下流規制」のリサイクル、ごみ処理や管理の対策に限定するよう求めた。
 最後まで溝を埋められなかったのは、生産規制となると産業や暮らしへの影響が大きいからだ。プラスチックは軽く丈夫で安価なため、あらゆる場面で使われる。しかし、メリット以上に、環境汚染や生態系への悪影響は看過できないレベルになった。
 条約はプラスチックごみの汚染を食い止める初の国際ルールで、使用量の削減へと反転させる象徴となる。来年に再び交渉委を開く。危機感を土台に着地点を見いだす努力を続けなければならない。
 プラスチックごみを巡ってはまず、2019年に大阪市であった20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、50年までにプラスチックごみによる新たな海の汚染をゼロにする目標で合意した。22年には国連環境総会で条約の策定を決め、今回は5回目の交渉委の会合だった。
 国境を超えたルール作りに踏み出したのは、とりわけ海洋への流出の深刻さが明らかになったからだ。島しょ国の沿岸に大量のごみが漂着する。自然に分解されず、海の生き物を脅かす。風化で細かくなった「マイクロプラスチック」が人間の体内で検出された報告が相次ぎ、健康への懸念は現実になりつつある。
 このまま規制しなければ、プラスチックの生産量は世界で40年に7億トンを超え、20年の1・7倍に増える推計も出された。もはや下流規制だけでは追い付かない。生産の規制まで踏み込まない限り、実効性が薄いのは確かだ。
 ただ海洋への流出量が多いインドなど新興国や、大量消費国の中国も上流規制に後ろ向きだ。この国々が条約に参加しなければこれまた形骸化しかねない。
 曲がりなりにも交渉を重ねた結果、各国の姿勢が明確になった。使用量削減という最低限の合意はした上で、削減目標を設定する時期を柔軟に考えるのも一つの選択肢ではないだろうか。
 日本は米国とともに、一律の規制ではなく、各国の状況に応じて上流から下流の全体でバランスを取った対策を求めた。しかし、国民1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量は、米国に次いで2番目に多い。レジ袋は有料化したものの、規制はEU各国に比べて緩い。
 条約の実現への努力と並行し、使い捨てに焦点を当てた規制強化など国内対策の強化を怠ってはならない。