フジテレビ系「ワイドナショー」(日曜・午前10時)が1日に放送され、再選された斎藤元彦兵庫県知事の選挙運動を巡り公職選挙法違反の疑いが浮上している問題を取り上げた。
斎藤知事の再選にあたっては、PR会社の社長が「広報全般を任された」などとSNSに投稿した内容が、公選法など違反の疑いが浮上している。番組に出演した選挙コンサルタントの藤川晋之助氏は「我々は黒子。こういうことやりました、なんて全く言わない。なんてヤバイこと言うんだろう」と、PR会社への感想を率直に述べた。さらに「やり方が違う。あんなバカなことはしない」と厳しい言葉を重ねた。
今回の疑いは専門家の間でも見解が分かれている。公選法は1950年制定で時勢を反映していない部分もあり、藤川氏は「グレーゾーンが難しい。なんとか違反にしないように、警察当局とも話し合いながらやっている」という。藤川氏によれば、公示・告示日から投票日前日まで一定の条件下で政治活動が許される「確認団体」を設立し、選挙運動とは別の動きをするなど、違反しないような戦略があるという。PR会社の投稿を見た際は同業者間で「こんなことされたら我々、仕事ができなくなる。全て危ない、となってしまう」と危機感を口にしあったという。
藤川氏はこれまで146回の選挙をサポートし7月の都知事選で石丸伸二氏の選対事務局長を務めた兵庫県知事選前には斎藤知事から直接電話がきて「明日から1人ぼっちで駅前に立とうと思っている。スタッフは数人」と言われたことを明かした。自らは別な選挙の手伝いがありサポートはしなかったが、「私は私なりに応援しています」と伝え、知人らにサポートを依頼したという。
■「主体性」が争点となる中、専門家は「主体性を持ってやったかどうかは問題ではなく、お金を払っているかどうかがポイント」
投稿を削除訂正した理由について、元東京地検特捜部・検事の中村信雄弁護士は、「変更された表現・削除した点を見ると、主体的・裁量性を持っていろいろ提案し、その通りに活動を行ったと強く推認されてしまう。今回の行為の違法性立証の裏付けになる可能性があり、それが嫌で消したのでは」との見解を示しています。
Q.斎藤知事の代理人弁護士は「SNS運用の主体性は斎藤知事側にあった」としていますが、『主体性』が今回大きなポイントになるんですか? (赤堀順一郎弁護士) 「行政見解でそういう回答があったので、『主体性』が一人歩きしています。しかし、選挙運動に対してお金を払っているかどうかがポイントなので、主体性を持ってやったかどうかは問題ではないです。主体性を持ってやったから違法だ、そうではなかったら適法だ、という話には全くなりません」
(赤堀弁護士) 「今、71万5000円が支払われたことだけが明らかになっています。主体性を持っていようがなかろうが、それ以外の部分でお金が払われたのかどうかだけが問題です。もちろん『公職選挙法の買収』と『政治資金規正法の寄附』という問題は両方あるので、それとは分けて考えないといけませんが、“業務に対してお金が払われたのかどうか”にだけしっかり焦点を絞っていかないと、かなり問題が拡散していて、よくわからなくなっているんだと思います」
■「何が会社か・何が個人か、切り分けが非常に難しい」グレーゾーンも多い中、“証明”に必要なこととはー
今回、焦点の一つが、「個人か」「会社か」という部分です。政治資金規正法では「企業・労働組合などは政治家個人(公職の候補者)への寄附は一切禁止」としているため、個人ではなく会社として行っていた場合は、寄附に当たる可能性があるとの指摘もあります。
斎藤知事の代理人・奥見弁護士は会見で、「社長は個人的に選挙を手伝ってくれた。演説会場に社員さんがいたことは確認できたが、何をされていたかは、ちょっと確認できていない」と話しました。 ただ、この会見の内容についても様々な見解があります。元検事・中村弁護士は、「演説会場で社長が撮影し、社長の指示で社員が配信を手伝っていれば、会社としての活動とみられる可能性。“ボランティア”は苦しい言い訳にみえる」との見解を示しています。
Q.ボランティアだったかどうかは、会社の勤務記録なども照らし合わせて確認していくことになりますか? (赤堀弁護士) 「今回は公職の候補者で、『会社として』の寄附は一切できません。ただ、何が会社か・何が個人かは、小さな会社になればなるほど切り分けが非常に難しいと思います。組織的一体性を持って選挙活動に協力しているとなれば、『会社として』に近づきます。どれぐらいの人数が関与したのか、社長と社員の間でどんなやり取りがあったのか、社員は『行きたくない』と思ったけど社長の指示で行ったのか、それとも志を同じくする社員が集まって『我々で進めていこう』という、個人の集合体としてやったのかなど、そこは勤務記録などを細かく見ていかないと、判断は簡単ではないと思います」 Q.気持ちの話にもなりますし、何が組織的一体性かは判断しづらいですよね? (赤堀弁護士) 「今、『個人のボランティアか』『会社の業務か』のどちらかに切り分けられる二者択一のような話になっていますが、グレーゾーンはかなりありますので、どこまでハッキリと言い切れるかどうか。そこまでハッキリと言わないといけないです」 (横須賀解説委員) 「白黒ではなく、かなりグレーで、その条文をどのように読み解くかというのは専門家・エキスパートの仕事だと思います。勤務実態についても、ちゃんと記録に残っている勤務時間やLINE・メールのやり取りなどをしっかり証拠として裏付けて、勤務なのかボランティアなのかを立証していくことが、説得力という部分で大切になってくると思います」
■3年間で謝礼15万円は“特別な利益”に当たる?「人によって捉え方はいろいろ」
『会社として』ではなく『個人として』でも、公職選挙法199条には「地方公共団体と特別の利益を伴う契約の当事者である者は、寄附をしてはならない」とあります。PR会社代表は県の有識者会議に参加し、3年間で謝礼15万円が県から支払われていました。
ただ、ここも『特別の利益』をどう読み解くか、解釈に違いがあります。斎藤知事の代理人・奥見弁護士は、「委員としての謝金は、3年で約15万円。規模が大きい“特別の利益を伴う契約”と評価することはできない」としています。“規模が大きい特別の利益”とは、例えば額も規模も大きい公共工事などが一例として挙げられます。 一方、元検事・中村弁護士は、「自治体の地方創生の委員などを務めたことで、PR会社の信用力が高まり、営業利益を得ることができるとなれば、少額とはいえ委員としての報酬を得ていたことも考えると、“特別の利益”となる可能性」との見解を示しています。 Q.法律家の間でも見解が分かれているんですね? (赤堀弁護士) 「原則は、金額で考えるべきでしょう。実際の稼働時間に裏付けられないような大きなものや、1回出たらいくら貰えるというような、自分の時間を使った結果金額が支払われるものなど、全体としての自分の行動と、その対価としての大きさとして考えるべきでしょう。『信用力が』とは言いますが、それは評価の問題で、人によっては信用がつくだろうし、逆にそれを既得権益だと言う人もいるだろうし、捉え方はいろいろなので、私は15万円を“特別の利益”とみなすのは、なかなか難しいのではないかと思います」
■「SNS運用そのものについて話し合う時に来ている」重要戦略としてウエイトが高まる中、今後の課題とは―
今回、浮き彫りになったのが、『SNS運用』についての問題点です。斎藤知事の代理人・奥見弁護士は、「SNSに関して、社長の活動は記載事項のチェック、動画の撮影・アップロードなど。中身は斎藤氏が確認して、GOサインを出している」として、主体性は斎藤陣営にあると主張しています。 一方で、元検事・中村弁護士は、「斎藤陣営のスタッフがいても、SNSの専門知識を持ったPR会社の社長が関わっていれば、斎藤氏のイメージアップ戦略設計を主導したと判断される可能性」と話すなど、人によって見解が分かれている状態です。