デフリンピックに関する社説・コラム(2024年12月1・6・16日・2025年1月3日)

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デフスポーツ振興/共に楽しめる環境づくりを(2025年1月3日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 聴覚に障害のある人が暮らしやすい本県にする。その礎をつくる1年としたい。
 「ろう者の五輪」とも呼ばれる国際総合スポーツ大会「東京デフリンピック」が11月に開かれる。日本では初開催で70~80カ国・地域から約3千人の選手の参加が見込まれている。本県ではJヴィレッジでサッカー競技が行われる。
 「デフ」は英語で「耳が聞こえない」という意味だ。身体、視覚、知的障害が対象のパラリンピックとは別に開かれていることもあって、大会の認知度が低いのが大きな課題となっている。
 県などは、11月に向けて事前イベントや手話講座などを開催しているほか、県内の学校を対象にサッカー競技の観戦を呼びかけている。大会を運営する東京都は、月末まで大会ボランティアを募っている。イベントへの参加やボランティアを通じデフスポーツに触れることで、聴覚障害者について知るきっかけにしてもらいたい。
 全日本ろうあ連盟スポーツ委員会事務局長で、県聴覚障害者情報支援センター所長の山田尚人さんは自身の経験を踏まえて、こう話す。「自身の子どものころは、耳が聞こえないと危険なのではないかと、スポーツクラブなどに参加するにも壁があった。こうした壁は子ども同士というよりも、大人が実情を知らずにつくってしまっているものだろう」
 山田さんの経験したことは、現在も大きく改善されたとは言えない状況だ。耳が聞こえないことで社会参加を妨げられるようでは、共生社会の実現はおぼつかない。
 デフスポーツの陸上競技などでは、号砲と合わせてランプが用いられ、光でスタートのタイミングを伝える。サッカーでは、主審が旗を振ったり手を上げたりして合図をする。これならば、聴覚障害者も健常者も同じルールで競い合うことが可能だ。
 これまでのルールでは対応できないからーと排除してしまうのではなく、聴覚障害者が一緒に楽しめるような仕組みを考えていくことこそが、共生社会実現の第一歩となるのではないか。
 聴覚障害者と健常者が共にスポーツを楽しむ上で欠かせないのは、手話通訳だ。病院の受診などに関しては手話通訳の同行に自治体からの助成が得られる場合があるが、それ以外のケースでは助成が十分とは言い難い面がある。
 デフリンピックの開催を契機として、聴覚障害者の暮らしや生きがいづくりを支えるための仕組みを強化していくことが、行政には求められる。

(2024年12月16日『東奥日報』-「天地人」)
 
 想像してみてほしい。音のない世界でスポーツをするということを。例えば陸上競技でスタートを伝える「バン」という号砲。聴覚障害のある人は補聴器をしていても、風の音やセミの声、観客の歓声などの音と重なり合って聞こえることがあるという。
 「聞きたい音に集中できる聞こえる人と違い、どの音がスタートの合図か迷い出遅れてしまう」。日本デフ陸上競技協会事務局次長で、東京都立中央ろう学校教諭の竹見昌久さんは12年ほど前、そんな問題意識から、スタートの合図を光で伝えるスタートランプを開発した。今は世界大会でも採用されている。
 聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」の東京大会まで1年を切った。「デフ」は英語で「耳が聞こえない」を意味する。
 きのう、青森市で開かれたデフ陸上の啓発研修会で講師を務めた竹見さん。「すべての人が同じようにスポーツに携われる社会に」と願いを語った。
 デフアスリートに声援は聞こえない。応援の気持ちは手話や文字など目に見える方法で伝えたい。2022年のブラジル大会男子100メートルの金メダリストで、研修会のゲスト講師を務めた五戸町出身の佐々木琢磨選手に、おすすめ手話を尋ねた。第一に挙げたのは「拍手」。両手を上げ手首を回し手をひらひらと動かす。手話を覚えたら気持ちを込めた表情も忘れないようにしたい。

デフリンピック 聴覚障害への理解を深めたい(2024年12月6日『読売新聞』-「社説」)
 
 障害の有無にかかわらず、誰もが安心してスポーツを楽しめる社会を実現することが大切だ。耳が聞こえない、聞こえにくい人たちへの理解を深める契機としたい。
 来年11月に日本で開催される聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」まで、残り1年を切った。70~80の国と地域から約3000人の選手が参加する予定で、12日間で東京を中心に陸上や球技など21競技が行われる。
 全日本ろうあ連盟が招致活動を展開し、東京五輪パラリンピックの開催決定を追い風に、2022年に日本初開催が決まった。
 第1回の大会は100年前にパリで開かれ、パラリンピックより歴史が長い。日本開催を機に、官民挙げて、伝統ある大会を盛り上げたい。選手たちが実力を発揮できるよう、サポートすべきだ。
 競技の基本的なルールは五輪と同じで、陸上や水泳のスタートはランプで選手に知らせる。競技会場では、条件の公平を期すため補聴器などは使用できない。
 聴覚障害者の意思疎通に重要な手話は、国や地域によって異なる。そのため大会中は、選手同士の対話や交流に「共通語」とされる「国際手話」が用いられる。
 大会には日本のろう者がスタッフとして協力する予定で、すでに国際手話の講習を受けた。スムーズな意思疎通ができるよう、さらに技量を高めてほしい。
 今大会では、五輪のような選手村は設置されない。そのため多くの選手や関係者らが民間の施設に宿泊することになる。ホテルのフロントに、従業員の音声を文字化して表示する機器を設置するなど十分な配慮が求められる。
 日本は大会に1965年から参加している。2022年の前回ブラジル大会は、新型コロナウイルスの流行で、途中での辞退を余儀なくされたが、メダルの獲得総数は過去最多の30個だった。
 競泳男子の茨隆太郎選手は、400メートル個人メドレーなど「4冠」を獲得した。バレーボール女子も強豪として知られている。
 「音のない世界」で競技に集中する選手たちのひたむきな姿に、エールを送りたい。
 デフリンピックは、社会的な認知度が高いとは言えない。東京都が昨年、都民に実施した調査では、パラリンピックを知っていた人が93%だったのに対し、デフリンピックは15%にとどまった。
 認知度が上がれば、支援する企業も増えるはずだ。来年の大会を将来につなげたい。

デフリンピックまで1年 聴覚障害理解する契機に(2024年12月1日『毎日新聞』-「社説」)
 
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デフリンピックを手話で表しながら、大会をPRするデフサッカー日本代表の関係者ら=福島県楢葉町Jヴィレッジで2024年11月17日午後3時4分、柿沼秀行撮影
 聴覚障害への理解を深め、耳の不自由な人が暮らしやすい社会を作る契機とすべきだ。
 聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」の東京開催まで1年を切った。1世紀の歴史を持つが、日本で開かれるのは初めてだ。
 大会名称は、耳が聞こえないことを意味する英語「デフ」とオリンピックを組み合わせたものだ。国際ろう者スポーツ委員会が主催し、夏季、冬季大会がそれぞれ原則4年に1度開催されている。
 東京大会では、福島、静岡両県の会場も使いながら夏季の19競技を実施する。70~80カ国・地域から選手や役員を合わせて、約6000人が参加する。
 第1回大会は1924年にパリで開かれた。第二次世界大戦で負傷した兵士のリハビリを起源とするパラリンピックよりも長い伝統を誇る。
 聴覚障害者は音声によるコミュニケーションが難しく、手話通訳などの助けを必要とすることも多い。このため、身体、視覚、知的障害を対象とするパラリンピックには参加してこなかった。
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東京デフリンピックに向けて、手話を学ぶ都庁職員ら=東京都新宿区で2024年7月10日午前10時55分、田原和宏撮影
 競技のルールは健常者のスポーツとほぼ同じだが、障害に合わせた工夫も取り入れている。
 陸上や競泳のスタート時には、電子音ピストルと連動して発光するランプが用いられる。柔道の審判は選手の肩をたたいて「始め」や「待て」を知らせる。サッカーではレフェリー全員が旗を持ち、多方向から選手に判定を伝える。
 3年前の東京五輪パラリンピックはコロナ下で大半が無観客となり、大会を間近に観戦できる機会が失われた。
 今回は現場で競技を観戦でき、3000人のボランティアが大会を支える。子どもが手話などに関心を持つ機会にもなるだろう。
 だが、認知度はまだ低い。日本財団パラスポーツサポートセンターの調査によると、国内では、パラリンピックを「知っている」「見たり聞いたりしたことがある」と答えた人が97・9%に上ったが、デフリンピックは16・3%にとどまった。
 障害の種類や有無に関わらず、誰もがスポーツに親しめる。そうした共生社会の実現に向けて、大会への機運を高めていきたい。