「探究1期生」の現高3生が受験した「新しい総合型選抜」、成果を出す高校はどこが違うのか(2024年12月1日『ダイヤモンド教育ラボ』)

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「探究入試」の志願者数が実施初年度の10倍を超えた桜美林大学(東京都町田市)写真提供:桜美林大学

2025年度入試に臨む現高校3年生は、「探究」を必修とする新学習指導要領の「1期生」。それに伴い、高校の授業で行った「探究」の成果を評価する総合型選抜を実施する大学が増えてきた。特に、年内入試での入学者割合が高まっている私立大学には、探究評価型の選抜で学生確保に注力するところも多い。一方で、高校における「探究」の指導状況はどうか。調査結果を見ながら「探究」と大学入試について考えてみたい。(アロー教育総合研究所 所長 田嶋 裕)

「探究」という名の総合型選抜が増えている

 大学入試カレンダーでは、11月は総合型選抜、12月は学校推薦型選抜の結果発表の時期だ。文部科学省によれば、これら「年内入試」で大学に入学する人の割合は、国公私立合わせて全大学入学者の50.7%。私立大学だけを見ると58.7%と6割近くに及ぶ(2023年度)。さらに、私立大学の総合型選抜入学者に絞って見てみると、21年度は14.7%、22年度は15.7%、23年度は17.3%と、その割合は少しずつ上昇している(※1)。

 総合型選抜は、従来のAO(アドミッションズ・オフィス)入試の後継選抜方式だ。21年度に名称が変わったのと同時に、選考内容も「出願書類と面接」のみから、小論文やプレゼンテーションなどによる学力面での評価が必須となった。その総合型選抜に、22年度以降は「探究」を冠する試験名が増えている。

 背景にあるのは、同年度からの高校における新学習指導要領の導入だ。新学習指導要領のカリキュラムは、知識偏重の教育を脱し、自ら課題を立て、考察し、他者に伝えるために「主体的に学ぶ力」を養う「探究」活動に重点を置いたもの。

 高校で得た知識を大学での学びにつなぐ「高大接続」に沿った入試改革の重要性がいわれてきた中で、「探究」は、大学で行う「研究」への発展・接続をより強く意識しており、25年度入試に臨む現高校3年生は、この新課程を修了する「1期生」となる。

※1 令和5年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要(文部科学省

高校で取り組む「探究」を評価する大学

 こうした動きに伴い、大学側も、高校で「主体的に学ぶ力」を身に付けた生徒を積極的に受け入れる入学者選抜の仕組みを整えてきた。海外留学などの特別な経験や、著名な賞の受賞歴などの実績を特に求めるものではなく、高校生が大学で学ぼうとする意欲と能力を評価する。その結果が、徐々にではあるが、冒頭で述べたような総合型選抜による入学者割合の増加につながりつつあるようだ。

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 入学者数の割合が一気に拡大しない理由は、大学側が1人の受験生を選抜するのに時間を要することはもちろんだが、教科書がなく、生徒ごとに学ぶ内容が異なる「総合的な探究の時間」の指導を苦手とする教員が多いという、高校の教育現場事情もある(4ページのグラフ1参照)。

 また、一口に探究型といっても、例えば、奈良女子大学文学部が21年度から実施している「探究力入試『Q』」のように、大学が事前に設定したテーマへの取り組みを評価するタイプもあれば、お茶の水女子大学が17年度から実施している「新フンボルト入試」のように、試験当日に出題する課題での評価方式など、いくつかのタイプがある。

 今回取り上げるのは、「高校の授業で行う探究の成果を評価する」探究型の総合型選抜である。一例を挙げれば、大分大学経済学部の「総合型選抜(課題探究)」や福井県立大学生物資源学科の「総合型選抜『探究力発掘』」、私立では桜美林大学の「探究入試Spiral」、関西学院大学の「総合型選抜(探究評価型入試)」、東京家政学院大学の「総合型選抜探Q入試(探究活動報告型)」など。

 その中で、25年度の探究入試の志願者数が、実施初年度(22年度)の10倍を超えた桜美林大学(東京都町田市)の例を見てみよう。

探究入試の志願者が初年度の10倍を超えた桜美林

 桜美林大学は入学定員2620人の中堅大学だが、日本の私立大学では先駆的に、航空機パイロットを含む航空業界の人材養成やリベラルアーツ教育などを独自色のある「学群制」で展開し、24年度入試では、全入試合わせて1万3000人超の志願者を集めた。

 AO入試の時代から一般選抜以外の選抜方式にも力を入れており、25年度の総合型選抜と学校推薦型選抜を合わせた「年内入試」の定員は1448人、一般選抜と共通テスト利用選抜による定員は1017人、国際学生選抜154人という配分になっている。

「高校での探究」を評価する総合型選抜を初めて実施したのは、22年度入学者向けの選抜を行った21年だった。入学部部長の高原幸治氏は、「一部の高校では、新課程までの移行期間としてすでに19年度から探究活動に取り組んでいた。生徒たちのエネルギーはすさまじく、彼らの取り組みをそのまま入試で評価したいと思った」と、そのいきさつを振り返る。

 まずは高校生に新しい入試に関心を持ってもらうため、「探究入試Spiral」導入の発表と同時に「合否判定の評価基準」を公開した(※2)。しかしながら、「授業で行った探究が評価される入試」をさまざまな高校を回って説明しても、当初は全国でも前例が少なく生徒が尻込みし、出願まで至らないケースが多かったという。

 それでも、初年度(22年度)の志願者数18人に対し、翌23年度は39人に倍増、24年度には52人、25年度の志願者数は、初年度比10倍以上の214人となった(数値の出所はいずれも桜美林大学)。これについて同大学は、「高校で探究が必修となった影響も一つの要因」 とみている。

 探究入試入学者の入学後の成績には個人差があるものの、「これが好き!」という思いを強く持っている学生が多いことは間違いなく、学びやその他の活動にも主体的に向き合うタイプ(高原氏)だという。25年度は初年度入学者が4年生となり、彼らの卒業後の進路が具体的に見えてくる。そうなれば、一般選抜入学者も感化されていくだろう。こうした要因も加味しながら、来年度以降も探究入試の仕組みを少しずつ改善していく意向だ。

※2 桜美林大学「探究入試Spiral」参照

探究の授業がなければ見逃されていた資質

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ダイヤモンド教育ラボ

「探究入試」を実施する大学が増加傾向にある半面、必須科目となった「総合的な探究の時間」の指導が苦手という高校教員は少なくない。アロー教育総合研究所が行った「探究学習」に関する調査結果(上のグラフ)【1】を見てほしい。

 教員の探究の指導に関する悩み事で最も多いのは「指導に時間がかかることによる教員間の業務負担格差」(19.1%)であり、次いで「指導法が定められていない」(11.7%)ことだ。評価の基準はもちろん、何を教えたらよいかすら分からないという理由から「探究」への取り組みに消極的な高校は多い。その一方で、教科学習では伸ばしにくい生徒の潜在能力を引き出す機会として「探究」に注力する高校もあり、教育現場は二分しているのが現状だ。

「必修になったので、ひとまずSDGsをテーマに『探究』を行うが、教員も生徒も何をしているのか分からないという学校の話を聞いた」(都立高校教員)

「『総合的な探究の時間』に、英語や数学などの補習授業を行う高校もある」(同)

 このような声がある一方、“積極派”の高校では、全校参加の「探究コンテスト」で生徒同士が「探究」の内容を競い、専門家も驚くような成果を上げるケースもある。例えば、他の教科の成績がいまひとつでも、大好きな「生物の研究」で探究に取り組んだ生徒が、高校生国際シンポジウムの最優秀賞を受賞するような事例も出てきている(都内私立中高一貫校の教員)。探究の授業がなければ見逃されていた資質だった。

 また、グラフ【2】を見ると、企業や団体と連携(16.8%)、大学と連携(8.0%)して「探究」の授業を行っているケースも少なくない。高校の外の世界に問いかければ、惜しみなく協力してくれる企業や団体、大学や研究機関は存在する。外部との連携は「何を教えたらよいか分からない」を解消する有効な手段の一つだ。

 特に大学との連携は、高校卒業後の学びと直接結びつく要素が大きい。次回は、関西学院大学の「探究評価型入試」の例を紹介しながら、高大連携、高大接続入試改革の現状について考えてみたい。