斎藤知事の広報問題に関する社説・コラム(2024年11月29・30日・12月5・6日)

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主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)

兵庫知事選と立花氏 選挙の公正損なう言動だ(2024年12月7日『毎日新聞』-「社説」)
 
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兵庫県知事選が告示され、街頭演説をする立花孝志氏=神戸市中央区で2024年10月31日午前10時32分、大西岳彦撮影
 公正な選挙は民主主義の土台である。脅かされるようなことがあってはならない。
 斎藤元彦氏が再選された兵庫県知事選ではSNS(ネット交流サービス)の影響が注目された。中でも物議を醸したのが政治団体NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏の言動だった。
 斎藤知事のパワーハラスメントなどの疑惑を追及してきた県議会調査特別委員会(百条委)の委員長宅前で演説をする様子を配信した。「出てこい」と威圧し、「自死されたら困るのでこれくらいにしておく」などと嫌がらせをした。常軌を逸した振る舞いだ。
 真偽が明らかでない情報を拡散させたことも深刻だ。
 知事のパワハラ疑惑を「デマ」と主張し、県議会やマスコミに対し「事実を隠している」などと批判を浴びせた。疑惑を文書で告発した元県幹部の私的情報とされる投稿もあった。告発内容とは無関係で根拠も不明だ。それらの動画が多数回閲覧された。
 プライバシー情報の拡散は当事者の名誉を傷つける。事実と異なる情報は有権者の判断を誤らせる恐れがある。
 立花氏は今回、自身の当選を目指さず、斎藤氏を応援することを公言して立候補した。
 公職選挙法が候補者1人あたりのポスターや選挙カーの数などを制限しているのは、公平性を担保するためだ。他候補の応援を目的とした立候補は想定されておらず、公選法に抵触しかねない。
 選挙をもてあそぶかのような行為が相次いでいる。
 4月の衆院補選では政治団体「つばさの党」の候補者らが、他候補の演説を妨害する様子をオンラインで生配信した。メンバーの一人は広告収入を得ることが目的と明かした。候補者らは公選法違反で立件された。
 7月の東京都知事選では、掲示板が風俗店の広告などで「ジャック」された。NHK党が内容を問わずポスターを張れると寄付を呼びかけたためだ。事実上の「販売」だった。
 選挙は主権者が自らの代表を選び、政治を託す重要な機会である。制度の信頼性を保つにはどうすべきか。日本社会全体が向き合わなければならない重い課題だ。

知事らを告発/違法性見極め制度改正を(2024年12月5日『神戸新聞』-「社説」)
 
 11月の兵庫県知事選で再選された斎藤元彦知事が、交流サイト(SNS)での選挙運動などに対する報酬をPR会社に支払ったとして、神戸学院大教授と検事出身の弁護士が知事と同社社長に対する公選法違反(買収、被買収)容疑での告発状を神戸地検兵庫県警に送った。
 公選法は、選挙運動者に金品を与え、投票や選挙運動を依頼することを買収行為として禁じている。
 インターネットを通じた選挙運動は2013年に解禁され、投票行動に対する影響力が強まっているとされる。捜査当局は告発状の内容を精査した上で捜査を尽くし、全容を解明してもらいたい。
 告発状は、社長のブログ投稿などを根拠に、PR会社が斎藤氏から知事選の広報業務を受託し、SNSによる選挙運動など全般を企画・立案する選挙運動者だったと主張する。知事側から会社に支払われた71万5千円は選挙運動への対価であり、公選法違反だとしている。
 一方で、知事側はPR会社に依頼したのはポスター制作など公選法で認められた5項目のみで、それ以外の活動は「社長がボランティアで行った」とし、違法性を否定する。現在は削除されている社長のブログについて、知事の代理人弁護士は「事実でない部分もあり、盛っているという認識だ」としている。
 双方の主張が食い違い、疑惑が晴れない現状は看過できない。委託業務とボランティアの切り離しは困難との見方も出ている。双方が説明責任を果たし、捜査にも全面的に協力する必要がある。
 選挙費用の報告の不透明さも専門家が指摘している。今月3日に公開された収支報告書にはPR会社への支払いは記載がなく、ポスター制作など4項目は後援会経由で支払い、残る1項目は政治活動費から支出したとする。なぜ、こうした処理になったのかについても疑問が残る。
 今回の知事選では、SNSが選挙結果に影響を及ぼしたとされる。陣営によって発信力に差が生じ、それが金銭によって左右されたならば、民主主義の根幹である選挙の正当性を揺るがしかねない。
 今回は斎藤氏を当選させる目的で実質2陣営がSNS戦略を駆使したとの指摘もある。落選した新人候補の陣営が虚偽の違反通報でX(旧ツイッター)を凍結されたとして告訴状を出した件も解明が待たれる。
 兵庫県知事選であらわになったSNSの功罪をどう総括するかは、今後の選挙の公正さを左右する。政府は問題点を洗い出し、検証するべきだ。捜査結果などを踏まえ、法改正も視野にネットを活用する選挙の制度設計を練り直さねばならない。

PRと真実(2024年11月30日『中国新聞』-「天風録」)
 
 本来の英語表記にぴんとくる日本人は少ないだろう。パブリック・リレーションズ。やはり頭文字を重ねた「PR」の方がなじみ深い。GHQが戦後、占領政策を行き渡らせようと持ち込んだ言葉という
▲今でこそ広報や宣伝の意味で通じるが、先人たちは他の日本語に訳そうと苦心したらしい。「公衆関係」という直訳は全く浸透しなかった。当時は理解されにくい概念だったに違いない
▲こちらの関係も理解に苦しむ。兵庫県のPR会社社長が、先の知事選で斎藤元彦氏の広報全般を担ったとするネット記事を公開した。事実なら公選法に触れる恐れもある。斎藤氏側は頼んだのはポスター制作だけと主張。両者の認識は食い違う
▲社長が記した戦略は具体的だ。斎藤氏の好感度を高めるためSNSに載せる写真や紹介文、ハッシュタグの細部まで工夫を凝らしたという。プロの手法だが、選挙となると民意を操る手口のような空恐ろしさを覚える
▲誰がうそをついているのか。兵庫県民の疑心は春から揺れっ放しだろう。例の会社は広島県広島市SNS戦略も請け負っているだけに、気にかかる。社長の口からはPRでも誇張でもなく、本当のことを聞きたい。

斎藤知事の広報問題 本人とPR会社が説明を(2024年11月29日『毎日新聞』-「社説」)
 
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記者からの質問に答える斎藤元彦・兵庫県知事=神戸市中央区で2024年11月27日、村田貴司撮影
 説明を代理人に委ねたままでは疑問は解消されない。
 兵庫県の斎藤元彦知事が再選された選挙戦で、県内のPR会社の関与が公職選挙法違反に当たるのではないかと指摘されている。
 PR会社社長が投稿サイト「note」で「広報全般を任せていただいた」として、選挙戦の舞台裏を明かした。SNS(ネット交流サービス)の運用戦略、ポスターのデザイン、コピーの考案過程などに関わったと記載した。
 選挙運動に対する報酬の支払いは、公選法で原則として禁じられている。金銭の支払いが認められるのは交通費などの実費、印刷や消耗品購入などに限られる。
 社長の投稿に報酬についての記述はないが、選挙期間中、陣営側が有償で広報業務を任せた場合、買収とみなされる可能性がある。
 27日に記者会見した知事の代理人弁護士は、公選法で認められているポスターやチラシの製作費として約70万円を後援会がPR会社に支払ったと説明した。それ以外の社長の関与については「ボランティアの一員として行われた」と、違法性を否定した。
 だが、社長の投稿は主体的に広報業務に携わっていたとの印象を与える。
 自身が「監修者」として「運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画」などに責任を持ち「少数精鋭のチームで協力しながら運用」していたと記している。
 投稿後に一部が修正されたのも不自然だ。SNS運用を「種まき」「育成」「収穫」の3段階で展開することを提案した資料や、斎藤氏とのやり取りに関する部分が削除されていた。
 社長は県から複数の有識者会議の委員を有償で委嘱されていることも明らかになった。
 代理人は社長の投稿について「認識の違いがある。理由は会社や社長に聞いてほしい」と述べた。斎藤知事は違法性を否定したが、根拠については「代理人に聞いてほしい」と、説明を避けている。
 選挙は公正でなければならない。公選法が買収を禁じているのは、資金力で結果がゆがめられるのを防ぐためだ。当事者である社長と知事は疑問に対し、自らの言葉で説明する責任がある。