救急搬送の業務が逼迫(ひっぱく)している。一人でも多くの命を守るための対策を考えなければならない。
昨年の救急車の出動は過去最多の764万件に上り、ここ20年で約6割増えた。救急車が出払っていたり、病床が埋まっていたりして、119番の通報があってから病院が受け入れるまでの時間は年々延びている。2022年の平均は50分近い。
来月からの救急搬送患者への選定療養費徴収の方針を知らせる茨城県作製のポスター
背景には、単身高齢者や「老老介護」世帯の増加、往診する医師の減少などがある。タクシー感覚で救急車を呼ぶような不適切な利用も、逼迫の一因になっている。
このままでは救える命が救えなくなるとして、茨城県は来月から、救急搬送されたものの緊急性はなかったと医師が判断した患者から費用を徴収することにした。
紹介状なしに大病院を受診した際に支払う「選定療養費」の仕組みを適用する。200床以上の22病院で1100~1万3200円を請求する。都道府県単位では初の導入だ。
不必要な搬送を減らすことで、患者が集中しがちな大病院の負担軽減を図る。4月から残業規制が厳しくなった医師の働き方改革を後押しする狙いもある。
ただ、重篤な患者が利用を控えてしまっては本末転倒だ。緊急時に救急車を呼ぶことをためらうべきではない。
迷った場合に相談できる仕組みも必要だ。松阪市には、看護師らが電話で症状を聞き、救急車を呼ぶべきかどうかを助言する相談窓口がある。6月以降、相談件数は4割以上増えたという。
デジタル技術を活用したオンラインでの相談や、緊急度を判定するスマートフォンのアプリも役立つだろう。多様な取り組みを通じて、必要な医療を受けられる環境を整えたい。