SNS上はアンチだらけ!なのに選挙で圧勝する「2人の政治家」(2024年11月30日『ダイヤモンド・オンライン』)

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写真はイメージです Photo:PIXTA
 選挙戦において、ネット上での評判が悪く「落ちるに違いない」と思っていた候補者が実際には圧勝した…という場面がよく見られる。吉村洋文大阪府知事小池百合子東京都知事などは、その一例だ。なぜこのような現実との乖離が起きるのだろうか?X(旧Twitter)のポストを丁寧に解析していくと、SNS政治的主張を投稿しがちな人たちの人物像が見えてきた。※本稿は谷原つかさ『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版)の一部を抜粋・編集したものです。
● 2023年大阪府知事選挙当時の 20万のSNS投稿を解析する
 2023年4月に、大阪府知事選挙が実施されました。府市一体の行政運営、カジノ等を含むIR(統合型リゾート施設)誘致等が争点となりました。当時既に大阪府知事だった大阪維新の会の吉村洋文氏が2期目として立候補し、同氏の勝利が予想されていました。実際、吉村候補は圧倒的な差で当選しました。
 この選挙を素材として、ネット世論のダイナミズムを探求します。
 収集した投稿を教師あり機械学習の方法で吉村候補に対してネガティブ、ニュートラルまたは態度不明、ポジティブに分類し、X上における言論の付置を明らかにします。
 具体的には、次の方法でデータを処理しました。X Search APIを用いて、「大阪+吉村」に言及している投稿を網羅的に収集しました(全18万8425ポスト)。
 対象となった期間は、2023年3月1日から、選挙の投開票日の前日である4月8日までの比較的長いスパンです。
 加えて、対立候補者に関する投稿も収集しました。対象とした候補者は、左派から支持されていた(といっても無所属で立候補しましたが)たつみコータロー氏です。同様にX Search APIを用いて、「大阪+たつみ」を含む投稿を網羅的に収集しました(全3万5334ポスト)。
 吉村候補に関する投稿は、ディープラーニングを使って分類しました。たつみ候補に関する投稿は、オリジナルポストの数がそれほど多くなかったので、人間の目で見て分類を行いました(この作業を根性マイニングといいます)。
● ネガティブな投稿が62%もあるのに 実際の選挙では圧勝した吉村洋文
 吉村候補に関しては、ネガティブが62.1%、ニュートラルまたは態度不明が26.1%、ポジティブが11.8%でした。予想どおり、ネガティブの言説が多く半数以上を占めています。たつみ候補に関しては、ネガティブが1.2%、ニュートラルまたは態度不明が11.1%、ポジティブが87.7%で、圧倒的にポジティブが多いという結果となりました。
 従って、X上においては、あらゆる候補者に対してネガティブな投稿が多いというわけではないようです。なお、「吉村」「たつみ」という語を含んでいても、それぞれ今回の候補者以外の人を指していると判断された場合はその投稿を除外しています。
 選挙の結果は、吉村候補の得票率73.7%に対し、たつみ候補の得票率は8.0%であり、吉村候補の圧勝でした。やはり今回の選挙でも、X上の世論と選挙結果の乖離が観察されました。
● 政治的に強い主張を持っている人が Xの投稿を「頑張り」がちな傾向
 ここで、アンケート調査により集計した吉村候補の支持度合いを見てみましょう。
 筆者は大阪府知事選挙直後に大阪府民3000人に対してアンケート調査を行いました。図表3-3は「あなたは、今回の大阪府知事選挙候補者において、吉村候補をどの程度支持していましたか」という質問に対する大阪府民3000人の回答分布です。
 政治系のアンケートでは珍しい分布結果となっています。通常、政治家の支持度合いや政策の賛否を問うと、中間的な回答を頂点とした山形の分布になるのですが、吉村候補に関してはそうなっていません。この結果を解釈すると、「全体的に支持者が多い一方で、支持していない人は全く支持していない」という感じでしょうか。
 「全く支持していない」という強い意見を持っている人々が少なくない割合で存在しているのは、自民党への感情と同じです。この人々が、X上では情報拡散を頑張ったのかもしれません。
 図表3-4は、吉村候補への支持度合いと投稿行動の関係を示したグラフです。やはり、緩やかに谷形になっています。つまり強い態度を持っている人の方がXの投稿をする傾向にあります。自民党の時と比べると、「全く支持していなかった」グループの投稿割合が突出して高く誤差も小さいのが特徴です。
● 東京都知事選においても 大阪同様の結果が観測された
 反吉村候補的な投稿約12万件の拡散の様子について、もう少し詳しく見てみましょう。
 この拡散のもととなったオリジナルポスト6313件は、2615のアカウントによってなされました。
 図表3-5をご覧ください。この図表から分かることは、少数のアカウントによるポストが世論形成の大部分を担っているということです。実際、約12万件の拡散のうち、約70%の拡散が、わずか40のアカウント(約1.5%)によるオリジナルポストによって担われています(編集部注/y軸が拡散数、x軸に拡散数が多いアカウントを上位から順に並べている。一番左端のアカウントはポスト拡散数1位のアカウント、その右隣りは、拡散数2位のアカウントとなる。ほとんどのアカウントがx軸に平行な直線のように見えるのは、多くのアカウントが拡散数1、つまり一度もリポストされておらず自身の1回のポストのみということを表している)。
 なお、拡散数1位から3位のアカウントはいずれも一般市民のアカウントでした。拡散数はそれぞれ1万2407、5777、4303でした。
 知事選挙を素材としてソーシャルメディアの研究を行ったのは私が初めてではありません。むしろ、私が選挙とXというテーマに興味を持ったきっかけは、東京大学教授の鳥海不二夫氏のYahoo!ニュース個人記事「2020都知事選で小池都知事への応援メッセージがツイッター上にほとんどなかった件」を読んだことでした。
 この記事で鳥海氏は、リポストネットワークを作成することによりXユーザの分析を行っています。
 具体的には、都知事選挙期間中に「都知事」に言及した投稿を集め、リポストしたユーザが20%以上被っている2つの投稿をリンクでつないでネットワークを作成し、そこから類似情報群を抽出しました。その結果、2つのクラスタが発見されました。
 1つは、アンチ小池百合子クラスタで、もう1つは保守系桜井誠を支持する)のクラスタでした。そこで鳥海氏は次のような疑問にぶつかります。
 あれ?そうすると小池都知事の支持層はどこにいるんだ?
 ご存じのとおり、2020年東京都知事選挙小池百合子氏の勝利でした。ところが、鳥海氏の分析においては、小池百合子氏に投票をしたはずの層による投稿がほとんど見当たらなかったのです。鳥海氏は記事の中で次のように言っています。
 誰だ?ツイッターから社会が見えるなんて言ったのは!?