天皇、皇后両陛下の長女愛子さま(22)が10月11日からの2日間で、待望の単独地方公務デビューを果たされた。多くの人にすがすがしい印象を残して行った愛子さまだが、誰もが認める好感度の高さは、どういった振る舞いから生まれるのだろうか。訪問先の佐賀県で、接した人々に改めて愛子さまの印象を尋ねて回った。(共同通信=大木賢一)
▽緊張を解く魔法
以前、園遊会の席で、佐賀出身で日本赤十字社の創設者である佐野常民について説明しようとしたところ、すかさず「最初のテストで出たんですよ」と話しかけられたという。愛子さまの勤務先は日本赤十字社。入社後の確認テストで、初代社長のことが出題されたようだ。
「愛子さまがテストを受けられたことにも、え?と驚きましたが、それが普通のことのように話されている言葉に、あっけないほどの飾り気のなさを感じました」と山口知事。「自然な形で言葉がぽんぽん出てくる。だからちょっとお話ししていると、あっという間に緊張もほぐれていくんです」
話は変わるが、私は皇太子時代の天皇陛下と何度か話したことがあり、当時全く同じ感想を持った。とても緊張していたはずなのに、終わってみるとやたらと楽しかったことしか覚えていない。
「陛下も愛子さまも、何か魔法でも持っているかのようです」と、佐賀城本丸歴史館を案内した考古学者の七田忠昭館長。人の緊張を一瞬で解いてしまうのは、きっと愛子さまが父から受け継いだ人付き合いの資質なのだろう。
▽喜びに共感してくれる
工房「名尾手すき和紙」を見学される愛子さま
愛子さまのピュアな感性と、他者への共感性の高さを感じさせてくれたのは、工房「名尾手すき和紙」の職人、田中ももさん(25)の話だった。愛子さまの手すき体験を補助した田中さんは「水が冷たくて大変ですね」といった言葉を予想していたが、違った。愛子さまは、苦労に同情するよりもまず、その仕事の楽しさ、心地よさの方に目を向けてくれたという。
田中ももさんと手すき体験をされる愛子さま
「私、ここで働くのがすごく楽しいんです。だから、愛子さまに、水の冷たさとか、流れる音とか、紙の感触とか、そういうのが新鮮で心地いいですね、みたいなことを言われて、そうなんです!そうなんです!って、嬉しくなってしまいました。大変さを上回る楽しさとかやりがいを持ってやってるので、大変ですねって言われるよりは、そういう風に言ってもらった方が、そうなんですよっていうふうになってしまいます」。田中さんは、自分の中にあるポジティブな喜びの部分を引き出してもらって幸せな気持ちになった。
「名尾手すき和紙」の谷口祐次郎社長と話される愛子さま(47NEWS)
後ろで見守っていた谷口祐次郎社長は、年の近い二人が並んで紙をすきながら、きゃっきゃと笑っている姿をほほえましく感じ、若い田中さんを案内役にしてよかったと思った。社長が最後に「来てくださったおかげで、この地区もすごく活性化になります」と言うと、愛子さまは「そう言っていただくのが一番嬉しいです。それが私の一番の願いです」と話したという。
▽笑顔を引き出してくれる
国民スポーツ大会のロイヤルボックスで、愛子さまに柔道競技を解説したのは、全日本柔道連盟の西田孝宏副会長だ。30分ほどの間、愛子さまにずっと話しかけられた。愛子さまはバッグから眼鏡を取り出して「実は私、よく見えないんです」と話した。「あまり眼鏡姿はお見かけしませんが」と言うと「普段はしないようにしているんです」と答えた。
西田副会長は後日、写真や映像を見た多くの知人に「すごく素敵な雰囲気で話してましたね」と声を掛けられた。そうだったかな、と思って写真を見ると、ふたりで目を合わせて笑い合っている写真がたくさんあって、「自分はこんなに笑顔で話せていたのか」とびっくりしたという。「振り返ると自分の笑顔も引き出されていたかのようです。不自然な背伸びのようなものが何もなくて、本当に自然体の方でした」
▽心からの関心を示してくれる
佐賀城本丸歴史館に同行した佐賀県の橋口泰史文化・観光局長は、愛子さまが、自分が知りたいこと、関心があることを正直に話してくれるのが嬉しかった。「佐賀の偉人についても、知っていただきたいと思うことに、ご自分から共通の話題を持ってきてくださる。相手に対する『興味がありますよ』というメッセージが伝わります。ビジネスじゃなくて、心からコミュニケーションしたいというお気持ちを感じられて、とても嬉しい。説明する側としても気持ちの入り方が全然違ってきます」
佐賀県赤十字血液センターの鷹野誠所長、佐賀災害支援プラットフォームの山田健一郎代表理事も、愛子さまの示す「関心の深さ」に感じ入った。若者の献血が思うように伸びないという課題の説明を受け、採血室を見学した際、矢継ぎ早の質問があった。「中高年の方が献血の中核になっているのは、何か献血についての教育を受けておられるからなのですか」「学生献血推進協議会ではどのような活動をしておられますか」「献血の最初のきっかけは何ですか」
一方、山田代表理事は、自分たちの取り組みに対して愛子さまが「平時の取り組みが、災害の有事に生きるのですね」と言ってくれたことが印象深かった。「地方の一活動の非常に実務的な話でしたが、丁寧に真剣に聞いてくださり、分からないことは教えて下さい、という気持ちがよく伝わってきました。そして理解していただきました」
鷹野所長はかつて大学の医学部で生理学を教えていたことがあり、愛子さまの振る舞いを見ていて、こう思った。「もし愛子さまが自分の教え子だったとしたら、こんなに教え甲斐がある学生はいない」。強い好奇心をもとに、素直な疑問をよどみなく投げかけてくれるからだ。
愛子さまが自分の経歴を細かく把握していることを知り、「私に対してこんなに関心を持ってくださるのか」と感激した人もたくさんいた。
▽聞いた話をすぐ吸収してくれる
「こちらの話したことをあっという間に吸収して自分のものにしてくれる」というのも、今回よく耳にした感想だ。
陸上競技を案内した日本陸上競技連盟の尾縣貢会長は元10種競技の日本王者。やり投げの話をしていると、パリ五輪女子金メダリスト北口榛花さんの話題になった。「北口さん、かわいらしいですね。カステラ食べておられましたね」とにこにこする愛子さまに、尾縣会長は、やり投げにおける追い風と向かい風の影響や、1980年代にやりの重心が4センチ前に移動したことなどを話した。
競技を観戦される愛子さま
約20日後に東京で開かれた園遊会で再会すると、愛子さまは「さっき北口さんと、やり投げの重心や追い風と向かい風のことを話して、盛り上がりました」と笑っていたという。ちなみに、報道によると、愛子さまと北口さんはこのとき、北口さんが競技の合間に食べていたカステラのことも話題にしたという。
歴史館の七田館長も、話したことに質問を返して確認していく愛子さまの態度に、説明を自分のものにしようとする一生懸命さを感じた。見学の最後の方になると、佐野常民の業績がもうすっかり頭に入っていて、医者であり、軍人であり、科学者であり、東京国立博物館をつくったり、美術界を牽引したりしたことをひっくるめて「多様な能力を持ったマルチな人だったんですね」とまとめてくれたという。
子どもたちに声をかけられる愛子さま(47NEWS)