【解説】斎藤知事の公選法違反疑惑 ポスター制作70万円は「大物政治家に対応したのかな?」 選挙制度の専門家が解説 SNSの“主体的運用”がPR会社なら有償・無償に関わらず違法か(2024年11月26日)

 兵庫県知事選挙での斎藤元彦知事のSNS戦略について、公選法違反の可能性が指摘されています。知事側は違法性を否定していますが、いったい何が問題となっているのでしょうか。選挙制度が専門の日本大学法学部・安野修右専任講師に詳しく話を伺います。

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(Q.斎藤知事とPR会社で、食い違いが生じている。斎藤知事側の言い分を聞いて、どう感じる?)  70万円を選挙運動の準備行為、立候補準備行為として支払うこと自体は合法なんですが、実際問題、それが準備行為にかかる費用として、この状況で認められるのかなというのは、もっと事実関係等を明らかにしながら考えないといけないと思っています。

(Q.ポスター制作で70万円という金額は妥当な金額に思うか?)  ちょっと高いかなとは思いますが、これがポスター制作費として高額だと捉える方もいますし、低額に取られる方もいると思います。「大物政治家の方に対応したのかな」という金額だという印象はあります。

(Q.SNSの広報全般も含めての70万円だったらどう捉えるか?)  それはどう考えても安すぎます。

(Q.PR会社との契約書がないという話だが、斎藤知事はどうやって公選法に違反する事実がないと証明すればいいのか?)  実際に企画・立案に関わった経緯や作業の内容を明らかにすることで、金額が妥当であることを証明する必要があると思います。

買収罪となれば…罪に問われるのは誰?

(Q.広報全般を仕事として行ったというPR会社の投稿が事実だとしたら、どこが問題になるか?)  公職選挙法は選挙運動するものに対して、一部の例外を除いて、報酬を支払うことを禁じているので、買収罪に抵触する恐れがかなり高い印象を持ちます。

(Q.今回大きなポイントとなるのが、SNSを主体的に運用していたのが斎藤事務所なのか、PR会社なのかという点。斎藤事務所がSNSを主体的に運用していたのであれば問題はない?)  あくまで無償の範囲内で選挙運動したということになるので、それ自体は問題ないと思います。

(Q.PR会社が主体となってSNSを運用していて、それに対する報酬を受け取っていた場合は買収罪に問われる可能性が高い?)  そうですね。

(Q.買収罪ということになると、罪に問われる可能性があるのは誰になるのか?)  陣営の中にいてお金の管理をしていた人とか、あるいは総括的に選挙運動を行っていた人がいれば、その方が罪に問われるということになります。もしも直接、斎藤さんが業者の方に指示を出していたということになれば、斎藤さん本人が罪の適用を受けるようになると思います。

立件のハードル「大変厳しい そもそも事例がない」

(Q.仮にSNSの運用が無償だとしても、公職選挙法の寄付の禁止に問われる可能性が指摘されている。県の仕事を請け負っていた人が無償で働いた、これは寄付に該当する可能性があるのか?)  そのことも含めて、これから事実関係の認定をしていく必要があると思う。ただ仮に、県と契約をしていた人が斎藤さんの運動に、個人か企業かは判然としないが、無償で業務を提供していたということになれば、199条「特定の寄付の禁止」の適用を受ける可能性があると思います。

(Q.寄付の禁止に該当する可能性があったとして、立件のハードルは高いのか?)  立件は大変厳しいと思います。特別の請負等のところにあたる要件というのは、そもそも事例がないからです。この199条自体ほとんど死文化している規定で、認定するにあたっても、実際に検挙されて問題になるのは、1回に数億円を送るような契約になってきます。今回PR活動をした会社が適用を受けるかは、今までの事例としてもほとんどないだろうし、検討もされていないのではとは思います。

(Q.どちらがSNSを主体的に運用していたのかが大きなポイントになる。ここをどう明らかにしていくのかが大事になってくる?)  いろんな証拠を集めて、個別の事例を見ながら総合的に評価するということになると考えられる。1つ問題になると思うのが、後援会主催で「清き1票よろしくお願いします」とか「斎藤さんのお名前をお書きください」みたいなことが書かれてるアカウントは、どう考えても選挙運動と解釈せざるを得ない。そのアカウントの運用実態がどうなってるのか、そのPR会社が運用していたということになれば、やはり主体的にSNSを運用・立案していたのはPR会社ということになると思います。

・安野修右(やすの・のぶすけ)氏 日本大学法学部専任講師 公職選挙法を研究 選挙運動規制が日本政治に及ぼす影響について考察