深刻すぎる…人材不足で地方公務員が「ブラック労働」に陥る未来(2024年11月26日『現代ビジネス』)

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この国の人口はどこまで減っていくのだろうか。今年1年間の出生数が70万人割れになるかもしれず、大きな話題となっている。
そんな衝撃的な現実を前にしてもなお、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。
ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。
※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。
人口減少の影響は、地方公務員も無関係ではない。小規模の市役所や町村役場の場合、採用試験の応募者はそこの出身者であるとか、学生時代に下宿していたとかといった何らかの縁を持っている人が大半だ。
ところが、総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2022年1月1日現在)を見てみると、2021年は128の自治体で出生数が10人未満だった。このうち2つの地方自治体は出生数ゼロだ。年間1桁しか子供が生まれない地方自治体では、20年もしないうちに公務員試験の受験者不足に陥る可能性が大きい。
そもそも、すべての若者が地方公務員志望ということではない。出生数の減少が続いていけば、多くの地方自治体で計画通りの採用ができなくなる。日本は、人口あたりの公務員数が極端に少ない国とされるが、総務省の「地方公共団体の総職員数の推移」によれば、2021年の地方公務員の総数は280万661人(このうち一般行政は93万4521人)だ。
住民の高齢化が進み、きめ細やかな個別対応を求められる場面が増えてきているが、バブル経済崩壊以降の地方公務員数は減ったままだ。最多だった1994年の328万2492人と比べると2021年は14.7%も少なくなっている。
地方公務員がブラック化する未来
一方で、住民数のほうも減っていくのだから地方公務員数が少なくなっても業務に差し支えないようにも思えるが、そう単純ではない。
人口が増加していた時代においてすでに過疎地だった地区はある。こうした地区の住民がただちにいなくなるわけではないので、これまでと同規模の自治体職員数を必要とするからだ。むしろ、こうした過疎地域では今後、生活環境が厳しくなることが予想され、これまで以上に職員数を増やさなければならなくなる可能性もある。
平成の大合併を経て、地方の小規模自治体には広大な過疎地域を抱えることとなったところが増えた。総じて出生数が少なく、公務員のなり手も乏しい「地方」の小規模自治体ほど、住民が減っても地方公務員を減らしづらいのである。
これについては、総務省が、2040年に必要となる地方公務員数(教員、警察職員は含まない)を推計し、2013年と比較する形で減少率を公表している。政令指定都市のこの間の人口減少率は9.2%だが、公務員数はほぼ同じ9.1%減らすことができる。一方、人口1万人未満の町村は人口が37.0%減るのに24.2%しか減らすことができないというのだ。
総務省の人口推計によれば、2021年10月1日現在の20~64歳の日本人人口は6669万5000人だが、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば2045年には4分の1ほど少ない4905万4000人となる見込みだ。ここまで減ると、地方公務員の確保も相当難しくなる。
小規模自治体ほど人手不足が深刻
日本総合研究所の推計は、2045年に現行水準の行政サービスを維持するには地方公務員数が約83万9000人必要だが、約65万4000人しか確保できず、充足率は78.0%まで低下するとしている。自治体規模別では大都市(政令市、中核市特例市)が83.0%、一般市が74.5%、町村が64.6%で、小規模自治体ほど人手不足が深刻になる。
 
これを裏付けるようなデータがある。公益財団法人東京市町村自治調査会の「自治体における窓口業務改革に関する調査研究報告書」(2020年)が生産年齢人口の減少率を基に窓口業務にあたる住民課正規職員数の増減率を計算しているのだが、2045年には2018年と比べて、多摩市30.3%減、八王子市29.2%減、町田市24.2%減など軒並み激減となる。
市役所や町村役場などが最低限必要とする職員数を2~3割も欠いたならば、窓口対応だけでなく、政策立案能力が低下する。そうでなくとも、平成の大合併自治体の面積が拡大したところが少なくなく、1人の職員が受け持つ担当エリアはかつてに比べて拡大傾向にある。そうした状況でマンパワーが足りなくなったのでは、迅速な対応ができない場面が増加するだろう。
ごみの収集コストが高くなる
行政サービスの劣化が進む要因は、職員数の不足だけではない。
住民数が減り、しかも年金収入を中心とする高齢住民の割合が増えることで、個人住民税や地方消費税、法人事業税、法人住民税といった地方税収(都道府県税と市町村税)が少なくなっていく。地方税収が減れば地方自治体の単独事業を廃止、縮小せざるを得なくなり、ますます行政サービスは質を保てなくなる。
人口密度が低下した地域ではごみの収集コストが高くなっている。ごみ焼却施設の老朽化や道路の補修が遅れたり、地域包括ケアシステムなどが十分に機能しなかったりといった事例も出てきている。行政サービスや生活を支える公的サービスが十分に届かないケースが今後は増えそうだ。
つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)

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未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること (講談社現代新書) 新書 – 2022/12/15
河合 雅司 (著)
 
人口減少日本で各業種・職種や公共サービスに何が起こるのか?
実人数が減り消費量が落ち込む「ダブルの縮小」に見舞われるこの国は一体どうすればいいのか?
瀬戸際の日本にこれから起きる大変化を詳細かつ大胆に描きつつ、「戦略的に縮む」という成長モデルの手順を深掘りし、「未来のトリセツ」として具体的に示す。
【目次】
序章 人口減少が日本にトドメを刺す前に
第1部 人口減少日本のリアル
●革新的ヒット商品が誕生しなくなる
――製造業界に起きること
●整備士不足で事故を起こしても車が直らない
――自動車産業に起きること
●IT人材80万人不足で銀行トラブル続出
――金融業界に起きること
●地方紙・ローカルテレビが消える日
――小売業界とご当地企業に起きること
●ドライバー不足で10億トンの荷物が運べない
――物流業界に起きること
●みかんの主力産地が東北になる日
――農業と食品メーカーに起きること
●30代が減って新築住宅が売れなくなる
――住宅業界に起きること
●老朽化した道路が直らず放置される
――建設業界に起きること
●駅が電車に乗るだけの場所ではなくなる
――鉄道業界に起きること
●赤字は続くよどこまでも
――ローカル線に起きること
●地方に住むと水道代が高くつく
――生活インフラに起きること
●2030年頃には「患者不足」に陥る
――医療業界に起きること1
●「開業医は儲かる」という神話の崩壊
――医療業界に起きること2
●多死社会なのに「寺院消滅」の危機
――寺院業界に起きること
●会葬者がいなくなり、「直葬」が一般化
――葬儀業界に起きること
●「ごみ難民」が多発、20キロ通学の小学生が増加
――地方公務員に起きること
●60代の自衛官が80~90代の命を守る
――安全を守る仕事に起こること
第2部 戦略的に縮むための「未来のトリセツ」(10のステップ)
ステップ1 量的拡大モデルと決別する
ステップ2 残す事業とやめる事業を選別する
ステップ3 製品・サービスの付加価値を高める
ステップ4 無形資産投資でブランド力を高める
ステップ5 1人あたりの労働生産性を向上させる
ステップ6 全従業員のスキルアップを図る
ステップ7 年功序列の人事制度をやめる
ステップ8 若者を分散させないようにする
ステップ9 「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を維持する
ステップ10 輸出相手国の将来人口を把握する
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