斎藤元彦知事は公選法違反「疑惑」を晴らせるのか 弁護士が指摘「考えられる3つの弁明」と問題点(2024年11月25日『ENCOUNT』)

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テレビ朝日法務部長・西脇亨輔
 
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 私は弁護士という職業柄、ニュースを見ると「この人を弁護するとしたらどうしよう」と考えるクセがある。しかし、今回の斎藤元彦知事を巡る報道を見て思った。
「考えられるどの弁明をしてみても、苦しいか
西脇亨輔弁護士
 斎藤元彦知事が再選された兵庫県知事選挙で、県内のPR会社の女性社長が20日、「斎藤陣営で広報全般を任せていただいていた立場」と投稿し、波紋を呼んでいる。自らがSNS戦略を企画立案した内幕を明かしたことで、「斎藤知事側が報酬を払っていたら公職選挙法違反になるのではないか」との指摘が噴出。その状況下、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が、斎藤知事側から出る可能性がある「弁明」について考察した。
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「考えられるどの弁明をしてみても、苦しいかもしれない」
 PR会社女性社長の投稿に端を発したSNS選挙での「買収」疑惑。事実関係にはっきりしない点も多いが、投稿が真実だとすると大きな問題となり得る。公職選挙法では、有権者にお金を払って一票を買うのが「買収」なのはもちろんだが、それだけではない。選挙運動のスタッフについては「無償のボランティア」が原則。事務員や選挙カーの車上運動員(いわゆる「ウグイス嬢」)など法律が決めた「作業」の従事者以外には、報酬を支払うと「買収罪」となり、候補者も「当選無効」となるおそれがある。
 そして今回、斎藤氏側もPR会社に一定の金銭を払ったこと自体は認めたと報じられている。それでも「当選無効」とならないために、斉藤氏側が展開する可能性がある「弁明」は、3つあると私は思っている。
 1つ目に考えられるのは「PR会社に頼んだのはSNS関係の『単純作業』だけ」という「弁明」だ。
 ネットに関する業務でも、渡された原稿をホームページにアップするなどの「単純作業」なら手間賃を支払っても違法ではない。その一方、業者自らアイデアを出して「企画立案」する業務には金を払ってはいけない。ネット選挙が解禁された2013年に各党議員が集まって作ったインターネット選挙運動の「ガイドライン」には、「主体的・裁量的に選挙運動の企画立案」をした業者に報酬を払うと「買収となる恐れが高いものと考えられる」と明記されている。また、「ガイドライン」は「業者の下書きを最終的には候補者がチェックした」場合でも、業者がアイデアを出している以上、買収の可能性が高いと指摘している。
 では、今回の女性社長はどうだったか。投稿記事では自分がSNS戦略の「運用戦略立案」を担当したとし、選挙戦で使われたXのハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」の発案についてこう明かしていた。
「『#さいとう元彦がんばれ』ではなく、あえて『知事』を入れることで、『さいとうさん=知事』という視覚的な印象づけを狙いました」
 「これはどう考えても『単純作業』ではなく『企画立案』ではないか」と考えたら、「PR会社には単純作業を頼んだだけ」という弁明は通用しなくなる。
 そこで2つ目の「弁明」として考えられるのは「PR会社に支払ったのはSNS戦略の代金ではない」というものだ。現に斎藤知事側は「依頼したのはポスター制作などだ」と説明したという。
 しかし、もしそうならPR会社はネット戦略立案という「本来ならお金を取るサービスを斎藤氏に無料で提供した」ことになる。これと似た「本来は有料のネット広告を業者が無料で提供した」という場合、利益供与として「寄付」となり、企業が行うと「企業献金」扱いされている。そして、我が国では「企業献金」が許されるのは「政党等に対するもの」だけ。政党ではない候補者などに対して行うと「政治資金規正法違反」だ。
 とすると「SNS戦略サービス」という本来有料のサービスをPR会社が斎藤氏という候補者にタダで提供したら、「禁じられた企業献金」として違法のおそれが出る。だから、この2つ目の弁明も「苦しい」と言える。
女性社長は斎藤知事のもと、華やかな地位
 すると、最後に3つ目の「弁明」として残るのは「女性社長はウソつきだ」という主張。だが、投稿内容は詳しくて具体的だ。また、女性社長には「ウソ」をついて斎藤知事を陥れる動機もなさそうで、逆に斎藤知事のもと、兵庫県で華やかな地位についている。投稿記事の自己紹介欄にはこう書かれていた。
2021年より兵庫県地方創生戦略委員
2022年より兵庫県eスポーツ検討会委員
2023年より兵庫県空飛ぶクルマ会議検討委員
 さらに「これまでに150以上の行政・企業・団体の広報・PRを手掛けている」という人物がわざわざ「ウソ」を公表するだろうか。
 こうして考えていくと、斎藤知事に考えられる3つの「弁明」は、どれも通用するのかどうか疑問が出てくる。
 公職選挙法の買収罪は3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金の刑に処せられ、場合によっては「連座制」によって候補者本人の「当選無効」にもつながる重大な罪だ。事実の解明をあいまいにすることは許されない。真相は何なのか。斎藤知事やPR会社から今後どのような「弁明」が出てくるのか、私は注目し続けたい。
西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube西脇亨輔チャンネル』を開設した。

「70万円あまりを11月4日に支払った」 斎藤兵庫県知事代理人が内訳も明かす 知事選の選挙活動めぐり公選法違反の可能性との指摘を受け対応 近く「請求書を公開する」とも(2024年11月25日『ABCニュース』)
 
 出直し選挙で再選した兵庫・斎藤知事の選挙活動で、PR会社への報酬をめぐり公職選挙法違反の可能性が指摘されていることについて、斎藤知事側は近く「請求書を公開する」方針を明らかにしました。
 斎藤知事の選挙活動について、兵庫県内にあるPR会社の代表が「(広報の)監修者として、運用戦略立案などを責任を持って行った」などとするコラムをネットに投稿し、「公職選挙法に抵触するのではないか」という指摘が相次ぎました。
 斎藤知事の代理人は「広報やSNS戦略の企画立案について依頼をしたというのは事実ではありません」と違法性を否定しています。
■税込み70万円の内訳は…
 斎藤知事の代理人は25日、ABCテレビの取材に応じ、PR会社に対して税込みで70万円を支払ったと明らかにしました。
 内訳は、
 ■メインビジュアル企画・制作(10万円)
 ■チラシのデザイン(15万円)
 ■ポスター・デザイン制作(5万円)
 ■公約スライド制作(30万円)
 ■選挙公報デザイン制作(5万円)  
 の5項目で、消費税10%を含め11月4日に代金を支払ったとしています。
 PR会社が制作した公約スライドは県知事選挙が告示される前の先月23日に開かれた斎藤氏の記者会見などで使用されましたが、斎藤知事の代理人は「選挙の事前運動にはあたらず『政治活動』になる」と重ねて違法性を否定しています。
 今回の選挙運動費用の収支報告書は12月2日までの提出が義務付けられていますが、斎藤知事の代理人は一連の疑惑の指摘に対して、収支報告書の公表前に「(業者からの)請求書を公表する」方針だということです。

公選法違反疑惑の斎藤元彦知事、全国知事会議に出席 報道陣の声かけには特に応じず会場入り(2024年11月25日『日刊スポーツ』)
 
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全国知事会議に再選後、初めて出席するため会場入りする兵庫県の斎藤元彦知事(撮影・中山知子)
 11月17日投開票の兵庫県知事選で再選された斎藤元彦知事(47)は25日、東京都内で開かれた全国知事会議に、再選後、初めて出席した。
 斎藤氏をめぐっては知事選での広報やSNS戦略を手掛けたとする兵庫県内のPR会社の経営者がSNSに投稿した記事の内容をめぐり、公職選挙法に抵触する可能性が浮上している。
 斎藤氏はこの日、会場に入る際に「公職選挙法違反の指摘が出ていますが」との報道陣の声かけには、特に応じなかった。会場では、全国知事会の会長を務める宮城県村井嘉浩知事らにあいさつして回り、さっそく発言も行った。
 今回の問題は、投開票後の11月20日兵庫県内のPR会社の経営者が、インターネットの投稿プラットフォーム「note」に投稿した記事の内容が発端。経営者は、斎藤氏の陣営で「広報全般を任せていただいていた立場として、まとめを残しておきたいと思います」と記し、プロフィル写真の撮影の様子や、X(旧ツイッター)の公式応援アカウントの立ち上げや運用などを手掛けたこと、キャッチコピーを「躍動する兵庫」から「兵庫の躍動を止めない!」と提案したことなどを詳細に記載。
 「ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました」(現在は削除)とし、広報やSNS戦略を手掛けたのは自分たちだとアピールする内容も記された。
 公職選挙法は、選挙活動で報酬を支払える対象を、事務員や車上運動員、手話通訳者などに限定。また総務省は一般論として「業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行う場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬支払いは買収となるおそれが高いと考えられます」としている。
 斎藤氏側は「法に抵触することはしていない」としている。

片山善博氏「議会は足を引っ張らない方が良い」斎藤元彦知事の全国知事会出席に賛成(2024年11月25日『日刊スポーツ』)
 
 元鳥取県知事の片山善博氏(73)が25日、TBS系「ひるおび」(月~金曜午前10時25分)に生出演。兵庫県知事選で再選した斎藤元彦氏(47)について言及した。
 斎藤氏は25日、政府主催の全国知事会出席にするため、証人として出頭を求められていた百条委員会を欠席する意向を表明していた。片山氏は「政府主催の全国知事会は年に1度だけ。私も全部出席しましたけど、今回は出席された方が良いと私も思います」と主張した。
 続けて「百条委員会も重要な議会の調査委員会で、正当な理由がない限りは絶対に出席。正当な理由がないのに出頭しなければペナルティーとなっているので、知事会に出ることが正当な理由かという判断になります」と説明。その上で「県政全体を考えて議会の日程をやりくりするのは可能だと思いますから、延期とか、別の日を設定することがあっても良いと思う」と私見を述べた。
 知事会について「私も知事をやっていたので、知事の立場でモノを言っているかもしれませんが」と前置きした上で「全閣僚が出てくる知事会で懸案を伝える数少ない機会でもあるので、そう言うときに議会は足を引っ張らない方が良い」とコメントした。