大谷選手MVP/米球史に刻まれる偉業だ(2024年11月25日『神戸新聞』-「社説」)
米大リーグで、ドジャースへの移籍1年目から大活躍した大谷翔平選手が、ナショナル・リーグの最優秀選手(MVP)に選ばれた。大谷選手のMVPは2年連続3度目で、指名打者(DH)専任でプレーした選手のMVPは史上初となる。守備に就かないマイナス面をはるかに上回る突出した成績に、投票権のある記者30人の全員が1位票を投じた。アメリカン、ナショナル両リーグでの受賞も1966年以来58年ぶりで、過去1人しかいない。球史に刻まれる偉業を心からたたえたい。
エンゼルスに在籍し、日本選手初の本塁打王に輝いた昨年、大谷選手は右肘の手術を受け、今季は打者に専念した。その結果、前人未到の「50本塁打、50盗塁」を達成する快挙を成し遂げた。54本塁打、130打点は自己最高の成績だった。本塁打王と打点王の2冠、打率もトップと4厘差の3割1分とナ・リーグ2位につけた。打者としての驚異的な能力を数字でしっかりと残した。
MVP以外でも主な表彰を総なめにした。打撃のベストナインに相当するシルバースラッガー賞を2年連続、優れた打者を選ぶハンク・アーロン賞も2年連続、活躍したDHに贈るエドガー・マルティネス賞を4年連続で受けた。ファン投票などで決める「オールMLBチーム」のファーストチームにも入った。歴史的な1年となった今季の活躍ぶりに値する栄誉といえよう。
2018年にエンゼルスに加入した大谷選手は、米球界でも投手と打者の「二刀流」を続けた。ア・リーグの新人王を手にしたのに続き、21年と23年は同リーグのMVPになった。いずれも満票での選出だった。23年にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場し、投打で日本代表の優勝に貢献した。
今季はドジャースの一員として、念願のワールドシリーズ(WS)制覇を成し遂げた。強豪のドジャースは昨年まで11年連続でポストシーズンに進みながらも、制覇は1度だけだった。チームを「世界一」に押し上げた功績は特筆すべきものだ。
順風満帆のアスリート人生のようだが、右肘の損傷などで度重なる手術を受けている。WS中に負傷した左肩も手術した。その都度厳しいリハビリなどを克服し、最高のプレーを続ける精神力には舌を巻く。栄冠はたゆまぬ努力の結晶である。
けがから順調に回復すれば、来季は「二刀流」の復活が期待される。ドジャースの開幕シリーズは来年3月に東京ドームで開催され、鈴木誠也選手と今永昇太選手が在籍するカブスと対戦する。日本のファンの前で大谷選手らがプレーする日が今から待ち遠しい。
文句なし 常識外の偉業/大谷選手、3度目MVP(2024年11月24日『東奥日報』-「時論」)
スポーツの国際舞台でこれほど高く評価され、愛される日本選手がこれまでにいただろうか。大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手がナ・リーグの最優秀選手(MVP)に選ばれた。ア・リーグ時代の2度の受賞に続く2年連続3度目の栄誉だ。東北地方出身の青年が多くの人々を魅了し続けるのはなぜだろう。
大リーグの表彰で最も権威のあるMVPは、全米野球記者協会の選ばれた30人の投票によって決まる。大谷選手は過去2回の受賞時と同様に今回もまた満票で選出された。54本塁打、130打点で日本選手初の2冠を獲得。打率3割1分、59盗塁と文句ない成績は満票での選出に値する。
ア・リーグ時代の受賞は異例の投打二刀流での活躍が評価された。昨年秋に右肘を手術し、リハビリ中の今季は指名打者(DH)に専念。守備につかないDHは総合的な評価で劣り、これまでMVPを受賞した選手がいなかった。しかし、このポジションでも大谷選手は定説を覆した。50本塁打、50盗塁を史上初めて同時に記録する無双ぶりでチームをけん引した。
満票を投じた選考委員には技量の評価に加えて野球に取り組む姿勢への共感もあるはずだ。二刀流での成功。本塁打を狙うパワーと走塁でのスピードの両面で力を発揮する「50-50」達成の偉業。野球の常識外に果敢に挑んで結果を出し続ける姿にファンともども胸を打たれたのだろう。
大きくて柔軟な体と天性の素質があってのまれな好成績ではある。二刀流にせよ、本塁打と盗塁の量産にせよ、前例のない難しい目標に立ち向かうチャレンジ精神はどうやって育まれたか。
岩手県の花巻東高校時代、プロ入り後の日本ハム時代。いずれの指導者も大谷選手を型にはめず、伸び伸び育てた点をあらためて指摘したい。投手はこう、打者ならこう、という固定観念に縛られていればこんな選手は生まれまい。そんな環境で感性はさらに豊かになり、技術が磨かれた。心身とも成長曲線は大リーグ移籍後も右肩上がりだ。
度重なる故障もあった。困難に見舞われても、悲壮感がないのがいい。いつも楽しそうに笑顔を絶やさずにプレーする。30歳になっても、純朴な野球少年の素顔を維持しているのは驚きだ。マナーもすがすがしい。打席に入る際は相手チーム、審判にさりげなく会釈する。周囲に敬意を示す謙虚な振る舞いが見る者の心を温かくする。
昨季終了後にエンゼルスからドジャースに10年総額7億ドル(1千億円超)のスポーツ史上最大の大型契約で移籍した。現役では最多タイとなる3度のMVP、2年連続本塁打王に打点王。ドジャースをワールドシリーズ優勝にも導いた。大谷選手はかつて「世界一の野球選手になりたい」と語っていた。誰もが認める球界最高のスターになり、その夢はかなった。
日本時間の午前中に放送される大リーグ中継で日本の多くのファンが大谷選手の活躍に元気づけられ、そのしぐさに癒やされた。ワールドシリーズでは左肩をけがして手術を受けた。本格的な二刀流復活を目指す来季は、右肘に加え左肩を気遣いながらの始動となる。
頂点を極めたとはいえ、ドジャースでは10年契約の初年度を終えたばかりだ。故障を克服して、球史に残る快記録をさらに積み上げてほしい。
大谷選手3度目MVP 野球超える「時代の顔」に(2024年11月24日『毎日新聞』-「社説」)
ドジャースへ移籍した今季は右肘手術からの回復を優先し、投手としての登板はなかった。しかし、指名打者として54本塁打、130打点で2冠に輝き、59盗塁を記録した。「50本塁打、50盗塁(50-50)」の達成は史上初だった。
メジャー挑戦への決意とファンへの感謝を述べる佐々木朗希(中央)=千葉市で2024年11月17日午前11時47分、岸本悠撮影
MVPは全米野球記者協会の記者30人の投票で選出され、大谷選手は「満票」を集めた。指名打者専任でプレーする選手が選ばれた例は過去になかったが、ワールドシリーズ制覇にも貢献し、異論を挟む余地はなかったに違いない。
今シーズンオフの注目は、23歳の佐々木朗希投手(ロッテ)の米国移籍だ。
ロッテでは投げ過ぎによる故障を避けるため、5年間での登板は64試合にとどまった。
日本で十分な実績を残さないまま、米国への移籍を認めるロッテに対し「メジャーリーグに人材を供給する養成機関になり下がってしまう」との厳しい見方もある。
だが、より大きな舞台で自分を試してみたいとアスリートが考えるのは自然なことだ。それを尊重する球団の姿勢も理解できる。
大谷選手も日本ハム在籍5年で米国に渡り、それから7年で世界的なスーパースターに成長した。若い選手は予想もつかない可能性を秘めているものだ。
サッカーが盛んで、野球には関心の薄い英国やスペインのメディアまでもが「50―50」達成のニュースを歴史的価値を踏まえて報道した。今や大谷選手は国境や競技の枠を超えた「時代の顔」だ。
来季は投打の「二刀流」復活が待ち望まれている。どれだけファンを沸かせてくれるか、今から期待が膨らむばかりだ。
大谷MVP たゆまぬ努力さらなる高みへ(2024年11月24日『読売新聞』-「社説」)
けがで投げられないシーズンにあって、打撃力と走力で圧倒的な輝きを放った。新天地でも明るく熱いプレーを貫き通した。世界最高の野球選手の進化は止まらない。
大谷選手は「ドジャースの一員として(チームを)代表してもらったと思っている」と話した。
昨年、右ひじの手術を受け、今季は打者に専念した。大リーグでは走攻守でのチームへの貢献が評価の基準とされ、守備機会のない指名打者がMVPに選ばれるケースは、これまでなかった。
大谷選手がその壁を打ち破ったことは、今季の活躍がいかに傑出していたかを物語っている。
第1号ホームランが開幕から最も遅い41打席目だったのは、その影響もあったに違いない。
今季は盗塁の技術向上に励んだ。春季キャンプからスタート時の姿勢の改善に取り組み、相手投手の動きを研究した。試合では、機会を逃さずに積極的に走り、チームの得点力を向上させた。
驚異的な成績ばかりに目が向けられるが、大谷選手のプレーを支えているのは、たゆまぬ努力と強い精神力、そしてチームの勝利を優先する献身的な姿勢だろう。
今年は結婚を発表し、愛犬のデコピンも話題になった。妻と愛犬の存在が、苦しい時期の支えになったことは間違いないはずだ。
大谷選手3度目MVP ひたむきさを鑑としたい(2024年11月23日『福井新聞』-「論説」)
「快挙」や「異次元」といった偉業を指す枕ことばにも、もはや物足りなさを覚えてしまう。
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手(30)がナショナル・リーグの最優秀選手(MVP)に輝いた。エンゼルス時代と合わせ、2年連続3度目の受賞である。そのいずれもが満票だったことは、大谷選手が残してきた成績の偉大さを物語っている。
MVPは全米野球記者協会(BBWAA)の投票で決まる。今回は、指名打者として史上初の受賞なるかという点に注目が集まった。投票で最も重視されるのは勝利への貢献度である。昨秋、右肘を手術した大谷選手は今季、指名打者に専念した。打率3割1分、54本塁打、130打点をマークし、2年連続となる本塁打王と初の打点王の2冠を獲得した。
ただ、守備につかない指名打者の受賞者は過去にいない。2021、23年の大谷選手の受賞は投打「二刀流」の活躍が評価されたものだ。打撃での貢献が見込めない投手の受賞も少なく、近年は14年のカーショー投手(当時ドジャース)と11年のバーランダー投手(当時タイガース)にとどまる。走攻守での貢献度が問われる賞において、大谷選手はまたも新しい歴史の扉を開いたのだ。
大谷選手が残す数字には、野球や勝利に対するひたむきでたゆみない取り組みを感じる。
投手での起用がない今季、59盗塁を記録し「50-50(50本塁打、50盗塁)」を初めて達成した選手になった。過去の盗塁数は21年の26が最高だ。昨年からベースの規格が大きくなり、投手のけん制球に制限が付けられた。走者有利の規則変更とはいえ、2倍以上に増やすのは難しい。
見ていて学ばされるのは強い探究心である。春先のキャンプから伸ばすべき箇所を見定めて分析を重ね、実践する。うまくいかなければ原因を探り、ただす。打撃に関しても同様だった。日々続けることも結果につなげることも容易ではない。開幕直後には当時の通訳の違法賭博事件が明るみに出て、野球に集中しづらい時期があっただけになおさらだ。
「特別なことをするために特別なことをするのではない。特別なことをするために普段通りの当たり前のことをする」。日本選手で初めてMVPを受賞したイチローさん(当時マリナーズ)の言葉である。大谷選手にも通じるだろう。まさに、人をもって鑑(かがみ)と為(な)したい行いである。
ワールドシリーズ中に痛めて手術した左肩の回復具合は気がかりだが、来季は投手としても復帰する。どこまで進化を遂げるのか興味は尽きない。