石破外交に関する社説・コラム(2024年11月21・27日)

石破外交/日本の存在感を示さねば(2024年11月27日『神戸新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相が、ペルーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議とブラジル開催の20カ国・地域(G20)首脳会議に相次いで参加した。首相としての本格的な外交デビューである。
 ロシアによるウクライナ侵攻は長期化し、中国は強権姿勢を改めようとしない。来年1月のトランプ政権発足で米国は再び内向き姿勢に転じるのではとの懸念も重なり、国際社会に暗雲が垂れ込める。
 日本の立ち位置はこれまで以上に問われる。力ばかりに依存するのではなく、法の支配と民主主義を重視する価値観に基づいて存在感を示し、多国間の連携強化をリードする外交が求められる。
 首相はAPEC開催中の15日、中国の習近平国家主席との初会談に臨んだ。福島第1原発の処理水放出を巡り、中国による日本産水産物の輸入再開合意を「きちんと実施する」と両首脳が確認したほか、首相が要請した邦人の安全確保について習主席は「日本人を含む全ての外国人の安全を確保する」と明言した。首相は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、中国で拘束中の邦人の早期釈放も求めた。
 会談は中国側が申し入れた。従来に比べ踏み込んだ文言は、日本との関係改善を意識したゆえだろう。
 ただそれが、石破外交の成果とは言い難い。関税強化や半導体規制など対中強硬策を掲げるトランプ政権発足を前に、米国と同盟関係にある日本と距離を縮めておこうとの狙いが透けて見えるからだ。
 G20首脳宣言は物足りない内容に終わった。保護主義への反対姿勢を明確に示さず、ロシアを名指しする批判も避けた。トランプ氏だけでなく、ロシアのプーチン大統領への忖度(そんたく)もにじむ。
 かつてのリーマン・ショックを契機に、先進国や新興国が結束して国際社会の課題解決に取り組むのがG20の理念だった。しかし今回は2日間の日程でありながら初日に首脳宣言が公表されており、議論を積み重ねた結果とは受け取れない。形ばかりの会合を繰り返すのでは、求心力を高めるのは到底難しいのではないか。首相が積極的に各国首脳と言葉を交わす様子も見られなかった。
 アジア版NATO北大西洋条約機構)創設や日米協定見直しなど、首相が掲げる外交政策は実現性に乏しいとも指摘される。国益を踏まえつつ、できるだけ多くの国々が賛同するビジョンを示すことが重要だ。
 首相が南米からの帰途に模索したトランプ氏との会談は実現しなかった。トップ同士の信頼構築は重要だが、その前に緻密な外交戦略を練り上げることが不可欠である。

「大統領がピッチャーなら私はキャッチャー…(2024年11月21日『毎日新聞』-「余録」)
 
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石破茂首相が欠席し、バイデン米大統領が後列右から2番目に追いやられたアジア太平洋経済協力会議APEC)の集合写真=リマで2024年11月16日、AP
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バイデン米大統領(前列左端)が加わって撮り直された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の集合写真。前列中央は議長国ブラジルのルラ大統領、前列右端は中国の習近平国家主席リオデジャネイロで2024年11月19日、AP
 「大統領がピッチャーなら私はキャッチャー」「いや野球ではキャッチャーがサインを送る。どんどん送ってくれ」。レーガン米大統領中曽根康弘首相の「ロン・ヤス関係」強化が演出された1983年5月の日米首脳会談である
▲続く米ウィリアムズバーグ・サミット。集合写真で中曽根氏がレーガン氏の隣の目立つ位置に立った。2人は話しながら撮影場所に移動した。中曽根氏は「しめたとばかりそばから動かなかった」と回想している
▲撮影前にロンがヤスの腕を引っ張ったという目撃証言もある。冷戦下、中曽根氏は異例の対ソ強硬発言でレーガン氏を援護した。立ち位置などを決める議長国の配慮があっても不思議ではない
▲南米で続いた国際会議で集合写真をめぐる「事件」が相次いだ。ペルーではフジモリ元大統領の墓を参った石破茂首相が事故渋滞で撮影に欠席し、バイデン米大統領は後列の隅に追いやられた
▲ブラジルでは就任後日の浅い石破首相が最後列で無事写真に納まったものの、バイデン氏ら3カ国首脳が間に合わず撮り直す事態に。バイデン氏も2度目は前列中央に立ったが、終始前列中央だった習近平中国国家主席との違いに焦点が当たった
▲いずれの会議も陰の主役は保護主義に動き、ウクライナ支援や地球温暖化には関心が薄いトランプ前米大統領。もし出席していたら議長国はもっと気を使っただろう。石破首相には気の毒のようだが、儀礼とはいえ集合写真は時に国際政治の現実を映し出す鏡にもなる。

日本の評判下げた〝外交〟 不作法な石破首相(2024年11月21日『産経新聞』-「産経抄
 
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APEC首脳会議の記念撮影に臨む各国首脳。石破首相は参加しなかった=16日、ペルー・リマ(共同)
 米・ウィリアムズバーグでのサミットに出席した中曽根康弘首相を、軍楽隊が「軍艦マーチ」で出迎えた。1983年のことである。元海軍主計少佐の首相に敬意を払った演奏だが、日本の一部メディアは「不見識だ」と騒いだ。
▼日本側の批判を米側が気にしている―。伝え聞いた中曽根氏は会議後、レーガン大統領に「心配ない。日本では名曲だ」と伝えた。肩を並べて歩くうち記念撮影の場に。中央に立つレーガン氏の横を中曽根氏は動かず、後から来たサッチャー英首相に挟まれ写真に納まっている。
▼当時は首相就任から約半年。まだ「顔」ではなく、慣例に倣えば立ち位置は隅の方だ。「あれは愛国心。隅っこでは国民に申し訳ない」とは中曽根氏の回想である。レーガン氏への接近には、記念撮影を見越した計算があったというから恐れ入る。
▼約40年を経ても、元首相の気負いには湯気立つような熱を感じる。さて、南米に赴いた石破茂首相である。閉幕したAPECでの振る舞いは、酷評を受けた。握手を求めてきた外国首脳に、座ったまま応じる。他国の首脳同士が歓談するのをよそに、スマホいじりに他念がない。
▼腕組みして式典に臨む姿も報じられた。海外では敵対的行為とされる不作法だ。渋滞に巻き込まれ、各国首脳が集う記念撮影を欠席したとも聞く。検索ワード「#日本の恥」はトレンド入りした。日本の評判を下げる〝外交〟だったのは疑いない。
▼中国の習近平国家主席は、APECとブラジルでのG20で「反保護主義」を言い募った。トランプ次期米大統領に対し、あくまで〝善玉〟を演じる腹だろう。いかにも下手な芝居だが、「米国の裏庭」と呼ばれる南米での立ち回りには、計算の跡がうかがえる。