【不倫余波続く玉木雄一郎氏】脇は甘かった、それでも政策を実現せねば永久に訪れない不倫と政策とのデカップリング(2024年11月19日『JBpress』)

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週刊誌報道があった当日の衆院本会議後、取材に応じる国民民主党玉木雄一郎代表=11月11日、国会(写真:共同通信社
 (渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表)
■ 不倫報道の3時間後にはあっさりと認めたが
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衆院財務金融委で笑顔を見せる安倍首相と麻生財務相(いずれも肩書は当時)。「彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」。安倍氏も、消費税増税延期をめぐってそう振り返ったという
 「私の人生も素晴らしい女たちとの出会いによって形づくられてきたことは確かだ。何かの歌の文句にもあったように『所詮この世は男と女』であり、あのハリウッドの名作『カサブランカ』の主題歌『As Time Goes By』(時の過ぎゆくまま)の通りとすれば、私の放蕩も言い逃れできるに違いない」(石原慎太郎
 「カネも女(男)も権力も、3点満点になったヤツは必ず失脚する。田中角栄しかり、三越の岡田しかり。平等社会の日本では2点でもアウトだ。権力を持つ政治家の許容限度はせいぜい1、2だ。多少お喋りだとか、多少大酒飲みだとか、だな」(ミッチー語録)
 先の総選挙で4倍増の28議席を得てキャスティングボート勢力となった国民民主党玉木雄一郎氏がいきなり女性スキャンダルに見舞われた。
 選挙中に逢引きに使ったであろう高松市内のホテルのエレベーター前や、選挙3日後に密会した都内ワインバーからパーカーのフードを被って出てくる玉木氏の写真が撮られており、否定し難い証拠となった。
 玉木氏は不倫報道の3時間後には、あっさりと認め、妻に全てを話し謝罪したことを明らかにした。
■ 妻やオカンに叱られて家庭内別居処分になった党首も
 街頭演説やテレビ討論番組でも謝罪を繰り返したが、党内の倫理委員会にかけられることになった。不満は渦巻き、代表交代の可能性もないとは言えない。
 今後、本格的な第2弾が出るのか、妻が庇うのか、SNSやメディアが「炎上」するのか、などの要因で様相は変わってくるだろう。
 第3極の党首の女性スキャンダルとしては、橋下徹氏がタレント時代に付き合っていた北新地の女性との関係が暴露されて叩かれたケースがあったが、妻やオカンに叱られて家庭内別居処分になったことなど公表し、事なきを得たことがあった。
 国政政党化する直前だったが、初期消火に成功した事例と言えよう。
 議員辞職に至ったケースとしては、自民党「魔の○回生」議員だった宮崎謙介氏や「パパ活」の宮沢博行氏の例がある。中川俊直氏は経済産業政務官の役職辞任。
 米山隆一氏が新潟県知事を辞任したのは「援助交際」。広瀬めぐみ氏の場合は不倫+秘書給与詐取疑惑で辞任した。
 議員辞職に至らなかったケースとしては路チュウ写真を撮られた細野豪志氏、中川郁子氏。そのほか、山尾(菅野)志桜里氏、山田太郎氏も私生活が報じられた。
 「セクハラ」が新語・流行語大賞の新語部門金賞となったのが平成元年。その年に、愛人から告発されて「三本指」(月30万円のお手当)が炎上し、選挙でボロ負けして総理を辞めていたのが宇野宗佑氏である。
 小沢一郎氏にとってもまた、妻との離婚と「告発」の政治的インパクトは大きかったように思う。
 作家でもあった石原慎太郎さんは、亡くなってから出版された「『私』という男の生涯」の中で5人の赤裸々で衝撃的な女性遍歴を、そこまで書くか、という筆致で綴っている。氏の現役中はその一部が漏れ伝わってきたものの、スキャンダルとして炎上するレベルには全く至らなかった。
 同様に愛人・隠し子が報じられた木原誠二氏(玉木さんの大蔵省同期)は、別宅があっても今は誰も話題にしない。これは開き直りで消火した事例と言える。
■ 「財務省の陰謀」なのか? 
 フランスの大統領は愛人がいても伝統的に問題にならない。ジスカール・デスタン、ミッテランシラク、オランド各氏は在任中に愛人の存在が報じられたが、職を追われることはなかった。
 「それがどうなの」というのがフランスの文化だそう。
 ストロスカーン元仏財務相IMF専務理事の時、ホテルのメイドに手を出し辞めたのは、それが犯罪だから。
 フランスほど寛容でないアメリカでもクリントン大統領が執務室で研修生と「不適切な関係」に陥ったが、任期をまっとうした。トランプ氏も大統領になる前、関係を持ったポルノ女優から訴訟を起こされたが、再選された。
 こうしてみると、お咎めの有無の分水嶺はゲス不倫、重婚疑惑、買春、レイプ、女性からの告発など政治家としての行為態様が悪質な場合はアウト、それ以外はセーフ、といったところか。
 石原さんのように政治家というより際どい描写で有名になった「太陽の季節」でデビューした作家のイメージが強い人は、公職より好色の許容限度が広いのかもしれない。
 玉木さんの場合は国会の「場外乱闘」を見ているようだ。スクープ報道では「香川県の政界関係者」がネタ元になっている。
 2年前から2人の密会を2回目撃したとも同筋は語っており、玉木さんと女性の両方を以前からよく知っている関係者だと推察される。
 玉木さんの脇が甘かったのは言い逃れようがない。報道後のぶら下がりでは相手の女性と別れるとは明言しなかったことから、「ガチ恋」してるとか喧しい情報が飛び交っている。ちなみにお相手女性の写真集はAmazonでベストセラー1位になったそうな。
 ネット上では「財務省陰謀論」なるものが飛び交っている。財務省に「別班」のような非公然組織があるのか? 
 そうした陰謀説が出るのは、日頃から「御進講」と称して政・財・学・マスコミ・シンクタンクなどへの刷り込み工作をやっているからだろう。
 安倍晋三元総理は語る。消費税増税延期について「財務官僚は……政権批判を展開し、私を引きずり下そうと画策した。彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」(安倍晋三回顧録)。
 つまり、財務省はクーデター計画を練っていたのである。2014年9月、財務省御用達の赤坂の割烹「小みや」に消費増税を決めた「3党合意」関係者が集まった。
 翌年の2回目の増税を延期する法案が出てきたらそれを潰し、安倍政権が弱ったところで谷垣禎一政権を樹立する、そんな共同謀議が行われた。しかし、谷垣氏は財務省の策略に乗らなかった(船橋洋一「宿命の子」安倍晋三政権クロニクル)。
 玉木さんの醜聞に関する財務省陰謀説はこうした背景から出てくるのかもしれない。ただ、財務省自身、工作には強いが防御には結構もろい。
 福田淳一事務次官の女性記者に対するセクハラ発言事件がその例。扇情的かつ洗浄的ならびに戦場的であるがゆえに面白い(小田嶋隆)と言われたこの件で、福田次官は辞任した。
■ 生き恥を晒してでも政策の実現を
 第1次安倍内閣の時には「場外暗闘」があった。絶対通るはずがないと言われた「天下り斡旋全面禁止」を盛り込んだ国家公務員法改正案を担当した私は、頭のテッペンからつま先まで調べられた感がある。
 地元のある役所では末端職員にまで私の悪口を書いた週刊誌のコピーが配られた、と地元の記者から伝え聞いた。
 安倍総理が何が何でも同法案を通すと決断した後は、当時最も歪んだ公務員制度の見本とされた社会保険庁の「消えた年金記録」などが次々とリークされた。
 私は大臣就任時に事務の官房副長官から「天下り規制なんかやろうとしたら、クーデターが起きますからね」と耳打ちされたことを思い出した。実際に起きたのである。
 玉木さんが袋叩きにあって辞任するのを見たい人もいるだろう。しかし、基礎控除の75万円の引き上げは是非とも実現して欲しい。所得の高い人ほど減税額が高くなるとの理屈に対しては、所得が高くなるほど減税率は小さくなると言いたい。
 社会保障の壁を持ち出すのは論点のすり替え。単純に30年も据え置きにしたステルス増税を是正すると考えれば良いのだ。
 地方税も含めて7.6兆円の減収だと言うに至っては屁理屈そのもの。村上誠一郎総務大臣全国知事会長の村井宮城県知事に圧力をかけ、基礎控除引き上げ反対を言わせているのは言語道断としか言いようがない。
 年収178万円まで所得税がかからなければ、働き控えがなくなり経済活動は活発になる。ここのところマイナスが続いた可処分所得はプラスに転じ、家計消費が増えるから税収はむしろ増える。
 GDP速報値(7-9月期)も年率換算2.1%増となってきたので、ここで手取りを増やす政策を採れば名目4~5%成長が恒常的に実現できるようになるだろう。
 時事通信世論調査では下げ止まったかに見えた内閣不支持率がまた上昇し、8.2ポイント増の38.3%となった。石破さんの不人気辞任を先送りするには、財務省を抑え込んで国民民主党案を丸呑みするのが一番手っ取り早いと思う。
 不倫と政策はデカップリング(切り離し)すべきだ。玉木さんには生き恥を晒してでも政策実現の「純化路線」を邁進して欲しい。
渡辺 喜美