教員給与に関する社説・コラム(2024年11月18日・12月1・13日)

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教員の処遇改善 負担の軽減が先決では(2024年12月13日『東京新聞』-「社説」)
 
 公立学校教員のなり手不足を緩和するために、基本給に上乗せしている「教職調整額」を増額する処遇改善案を巡り、文部科学、財務両省間で調整が進んでいる。
 ただ、調整額の増額が過重労働の原因である残業を減らすために妥当なのか疑問は残る。処遇改善とともに、教員の配置を増やすなど残業を減らすための負担軽減策を講じることが不可欠だ。
 教職調整額は、残業代に代わり教員の基本給に4%を上乗せして支払われているが、1972年の給特法施行から変わっていない。
 このため文科省は、学びの多様化や保護者対応の増加など教員の多忙化を受けて、来年度予算の概算要求に、13%への引き上げを盛り込んだ。
 これに対し、財務省は調整額を引き上げる条件として、授業以外の業務を削減して残業時間を減らす▽長期休暇を取得しやすくする-などの改革実現を挙げた。
 改革が進展すれば、翌年度の調整額を増額し、進展しなければ増額を見送る内容で、調整額は5年間で基本給の最大10%に達し、時間外勤務時間も月20時間にまで減ると想定している。
 さらに10%に達した後は調整額制度自体を廃止し、労働基準法に基づいて残業代支払制度に移行することも検討する、という。
 授業だけでなく、部活動や保護者への対応、書類作成などで残業が減らない教員自身に労働の見直しを促し、残業代支払いも将来検討するという財務省の方針は、一見、妥当のようにも思える。
 しかし、改革実現を条件にした調整額の増額案は非現実的だと教育関係団体は強く批判している。
 増え続ける教員の負担自体を減らすための対策を講じなければ、残業時間を表向き減ったように見せかけるため、仕事を自宅に持ち帰る「隠れ残業」が増える可能性もある。教員の配置を増やして学級規模を小さくする定数の改善など、残業を減らす手だてを講じることがまず必要だ。
 日本の公立小学校はコロナ禍を機に35人学級の実現に向けた取り組みが始まり、2025年度までに全学年で実現する見込みとなったが、先進国の中では依然、学級の規模は大きい。
 政府内の議論にとどまらず教育現場の意見にも耳を傾け、教員の負担軽減と処遇改善に向けて、よりよい方策を検討すべきである。

教員の待遇/まず多忙に見合う改善を(2024年12月1日『神戸新聞』-「社説」)
 
 教員のなり手不足が深刻だ。授業だけでなく、学校行事や保護者への対応など多忙を極める上に、それに見合う手当が支払われる仕組みになっていない。
 そんな「ブラック職場」のイメージを払拭し、教員不足解消につなげようと、文部科学省は、残業代に当たる「教職調整額」を現在の月給4%相当から3倍超の13%に増やす案をまとめ、2025年度当初予算の概算要求に関連費用を計上した。
 これに対し財務省が示した案は、授業以外の業務削減を進める条件で教職調整額を月給の4%から段階的に10%に増やし、順調に勤務時間が減れば実態に応じ残業代を支払う。勤務実態を明確にして、財源を削る狙いがある。
 ただ教員の仕事が直ちに大きく減らせるとは考えにくい。教員志望者を増やすためにも、まず待遇改善は欠かせない。
 教員給与は都道府県なども負担している。地方財政にも関わる問題だけに、必要な財源の確保に国は力を尽くすべきだ。
 教職調整額は、1972年施行の教員給与特別措置法(給特法)に基づく。公立校教員に残業代を支払わない代わりに、月額給与に4%相当を上乗せする。8時間分に相当するが、当時の残業時間が積算の根拠であり、現状にはそぐわない。
 文科省の2022年度調査では、月45時間の残業時間上限を超える教員は小学校で64・5%、中学校で77・0%に上る。精神疾患による休職も6千人を超え過去最多となった。取り巻く環境の厳しさがうかがえる。
 業務負担軽減のため、文科省は小学校の教科担任を2160人拡充し、中学校には不登校やいじめに対応する教員1380人を配置する案も示した。実現すれば、問題を抱える子どもを含め一人一人と向き合う余裕も生まれるだろう。
 一方で財務省が指摘するように実効性のある業務削減策も求められる。部活動の民間移管や保護者への対応の効率化をさらに進めることが重要だ。働き方改革を促し仕事と生活のバランスを保つ仕組みも必要になる。
 子どもの知性と豊かな心を育むことができる人材を確保するためにも、国は投資を惜しんではならない。

教員給与の増額 子ども本位を最優先に(2024年11月18日『北海道新聞』-「社説」)
 
 公立学校教員の残業代の代わりに給与に上乗せされる「教職調整額」の増額を巡り、文部科学省財務省が対立している。
 現行の月給4%から、文科省は一気に13%とする方針を示す。財務省は事務作業などの時間の削減を条件とした上で段階的に10%にする案を公表した。
 教員の長時間労働は深刻化する。解消に向け財務省は踏み込んだ形だが、人件費抑制の狙いが鮮明だ。文科省は必要な教育ができなくなると反発する。
 教育は未来の社会への投資でもある。両省は年末の来年度予算編成に向け協議を続けるが、教員の定数や働き方がどうあるべきかは財政面よりも、子ども本位の視点を最優先にして議論を深めることが重要だ。
 教員の仕事は自主的な教材研究を職務にするかなどの線引きが難しいとされる。残業代ではなく定額の教職調整額を支給する制度もこうした事情を受け、1972年施行の教員給与特別措置法に基づき整備された。
 月給4%の比率は当初から変わらない。今の労働実態と乖離(かいり)しており見直しは当然必要だ。
 文科省は「教師の裁量を尊重する仕組みで合理性がある」として制度を維持し、調整額の大幅増と教職員定数改善などを並行して進める考えだ。来年度予算の概算要求にも盛り込んだ。
 それでは働き方改革は進まないと財務省は主張する。教員増よりも業務削減を優先し、その進捗(しんちょく)状況を踏まえ10%に引き上げるとする。その後は調整額を廃止し、残業代を払う制度への移行を検討するという。
 確かに現行制度は残業の拡大を助長すると批判されてきた。
 児童生徒数は減っているが、学校業務は多様化・複雑化している。不登校やいじめの件数に加え、近年は日本語指導が必要な外国籍の子も増えるなど、教員の負担は重くなっている。
 職務の線引きが難しいケースは依然多く、人手を増やさずに業務を減らすのは困難だ。授業時間に影響すれば学びが脅かされる。教員や支援員の増員に向けた財政措置が欠かせない。
 文科省働き方改革を着実に実施することも重要だ。終業から次の始業まで休息時間を明確にする「勤務間インターバル」を設け、教員のメンタルヘルス対策を充実させるなど多角的に展開してもらいたい。
 現学習指導要領は英語などが増え教育課程が過密化した。教員の負担増や、授業に追いつけぬ子が不登校になる問題も指摘される。教育の質を確保するため、授業数や内容が適切なのかについても検証を求めたい。