賃金と消費の好循環へ長期の戦略を急げ(2024年11月16日『日本経済新聞』-「社説」)
定額減税による消費押し上げ効果も一時的に終わる可能性(総合スーパーでの関連セール、東京都品川区)
賃金の高い伸びにもかかわらず、日本経済の成長ペースは鈍いままだ。個人消費は底堅さをみせたが一時的な要因も多い。内閣府が15日発表した2024年7〜9月期の国内総生産(GDP)統計からは、そんな姿が読みとれる。
政府は短期の需要刺激策を重ねてきたものの、長引く物価高もあって消費者心理の改善は弱々しいままだ。消費の回復を確かなものにするには、経済全体の生産性を引き上げ、賃上げを持続させる長期的な成長戦略が欠かせない。
7〜9月期の実質GDPは前期比の年率換算値で0.9%増えた。2四半期連続のプラス成長だが、4〜6月期の2.2%からは低下した。半面、年率0.7%前後だった市場の事前予想はやや上回った。個人消費が前期比0.9%増と予想外に伸びたためだ。
高い賃上げ率が月給に反映され夏のボーナスも着実に増えるなど、所得環境が上向いている点は前向きにとらえてよいだろう。
働く人が得た報酬の総額を示す雇用者報酬は名目で前年同期比3.6%と高い伸びが続き、物価高の影響を除いた実質でも0.9%増と2四半期連続で増えた。
だが、消費増には一時的な要因が多い点も忘れてはなるまい。
自動車の認証不正問題の影響が一巡し、乗用車の販売回復が続いた。台風や地震などで宿泊などのサービス消費が停滞した半面、飲料などの備蓄需要が高まった。
6月から実施した定額減税をめぐり、エコノミストらには消費を一部押し上げた効果を指摘する声もある。これも、少なくとも一時的な押し上げにとどまる。
消費以外では企業の設備投資が前期比0.2%減と2四半期ぶりのマイナスに転じた。人手不足による工事の遅れが心配される。
輸出の伸びは中国向けを中心に0.4%増へ鈍った。米大統領選で高関税政策を掲げるトランプ前大統領が勝利し、この先の海外経済も気がかりな要素が多い。
政府は月内にも経済対策をまとめる。賃金と消費が持続的に増える好循環には短期の効果しか見込めない減税や給付を繰り返すより、企業に人や設備への投資を促す仕組みを整える策が有効だ。
特に人手不足の制約を乗り越えるには、労働者の技能を高め、成長分野に移動しやすくする具体策が求められる。与野党は知恵を持ち寄り、長期的な成長につなげる対策づくりを急いでほしい。