高齢者(単身世帯・孤独)に関する社説・コラム(2024年11月15・16・18・20・22・23・24・26・27日・12月2・3・7・10・16・20日2025年1月16・19日)

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高齢者の労災対策 「わが社は大丈夫」でなく(2025年1月19日『山陽新聞』-「社説」)
 
 働く高齢者の増加とともに、労働災害も増えているとして、厚生労働省が企業に対し、労災防止対策を努力義務として課すことを検討している。労働安全衛生法を改正し、職場環境の改善や作業内容の見直しを促すという。
 高齢者の労災事故は回復までに時間がかかり、深刻な被害をもたらすことが少なくない。年金が乏しく生活のために働いていたのに、事故によって歩くことさえ難しくなる人もいる。少子化で現役世代が減る中、政府は高齢者の就業を後押ししており、効果的な施策が必要なのは確かだ。
 厚労省によると、雇用者全体に占める60歳以上の割合は2023年で18・7%だったが、休業4日以上の労災に遭った労働者に占める割合は29・3%と相対的に高かった。労災の発生率が30代の2倍近いというデータもある。
 特に、墜落・転落や転倒の発生率が年齢とともに上昇している。脚立で足を踏み外して落ちたり、ぬれた床で足をすべらせたりといったものである。個人によるばらつきはあるものの、年齢とともに筋力やバランス能力が低下し、労災の危険性が高まっていることは否めない。
 同省は20年に高齢者の労災防止に関するガイドラインを作成した。手すりの設置や段差の解消、警報音を聞き取りやすい音域にするといった職場環境の改善とともに、勤務時間の工夫や、ゆとりのある作業スピードに見直すことなどを企業に求めている。
 しかし、同省の調査によると、対策に取り組んでいる企業が少ないことが浮き彫りになった。取り組まない理由としては「自社の60歳以上の労働者は健康だから」との回答が半数近くで最も多かった。年齢を重ねると労災のリスクが高まり、対策が必要という意識はあまり浸透していないと言わざるを得ない。
 「取り組み方がわからない」との回答も3割超の企業に上った。ガイドラインの周知とともに、労働現場の実態に応じて取り組みやすくすることが大切だ。
 企業の取り組みを後押しするため、厚労省は研究班を立ち上げ、高齢労働者の身体能力や認知機能を測る本格的な調査に乗り出した。調査結果をガイドラインに反映させ、職場環境の改善を促す。国が高齢者の労災防止について、こうした調査を行うのは初めてとみられる。
 けがをして従業員が長く休めば、人手不足の企業にとって痛手となる。企業には自社に合った対策が求められる。働く高齢者は自分の身体能力の把握に努めてほしい。
 高齢者の労災防止対策を審議した同省の労働政策審議会の分科会では、企業に努力義務を課すことに大きな異論はなかったとはいえ、中小企業の負担が重いとの指摘が使用者側の委員から出た。対策を広めるため、政府は企業への資金的な支援策も検討する必要があるだろう。

高齢者の交通事故 命を守る対策の徹底を(2025年1月16日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 2024年の県内交通事故死者に占める高齢者の割合が83・9%となり、「65歳以上を高齢者」と定義して統計をまとめ始めた1988年以降、最も高くなった。これまで最高だった2021年を1・8ポイント上回り、前年からは18・3ポイント上昇した。高齢のドライバーや歩行者の命を守るための対策に力を入れていく必要がある。
 
 県警によると、24年に交通事故で亡くなったのは31人。このうち高齢者は26人だった。自動車(二輪車含む)運転中に亡くなったのが17人、自転車運転中は4人、歩行者は3人、車に同乗中は2人。県による高齢者交通死亡事故多発注意報は年間3回発令され、いずれも秋以降だった。
 交通事故死者に占める高齢者の割合の推移をみると、1990年代は20~40%台だったが、2002年に59・2%となり、初めて5割を超えた。その後は50%台が多く、13年以降は6割以上が続いていた。
 県人口の高齢化と共に上昇している傾向にある。本県は今後も高齢化が進むだけに、交通事故死者数の抑制に向けては、高齢者が関わる事故を減らすことが大きな課題だ。
 24年は自動車運転中に亡くなった人が例年に比べ多いのが特徴で、前年からは7人増えた。年を重ねれば、誰でも身体、認知機能が低下していくことが避けられない。その自覚を持ち、運転に一層の注意を払わなければならない。
 一方、24年の全年齢での人身事故件数は981件、負傷者数は1141人。いずれも現在の統計方式となった1966年以降最少だった。事故件数は初めて千件を下回った。全年齢での死者数31人は前年から1人減ったが、最も少ない2021年の28人に比べ3人多い。
 全体的な事故件数が減っている中、高齢者が最も過失の重い第1当事者となる事故の割合が高まっている。24年は37・0%で、前年から3・9ポイント上昇した。
 県警は高齢者を対象とした交通安全教室を県内各地で実施している。シミュレーターなどを活用し、体験型で交通安全について学べる場となっており、積極的に参加してほしい。県警は広報を強化し、参加した経験がない高齢者に呼びかけていく必要がある。
 公共交通が衰退傾向にある本県の多くの地域では、免許証を返納した場合、日々の買い物や通院が難しくなる高齢者も少なくない。安心して返納に踏み切れるよう、自治体と交通事業者が地域の実情に合った公共交通網を整備していくことも欠かせない。
 交通事故を防ぐ社会づくりには、高齢者自身が安全に留意することはもちろん、家族ら周囲による声かけも大切になってくる。ドライバーが歩行者ファーストの意識を一層高めることも重要だ。一人一人ができることを進めていきたい。

1人暮らし高齢者増加 社会で見守り孤立を防げ(2024年12月20日『福井新聞』-「論説」)
 
 1人で暮らす高齢者が全国で増加している。未婚であったり、配偶者と死別したり子どもが独立したりと理由はさまざま。年を取るにつれて体力や認知機能が衰え、孤独死の恐れも高まる。誰もが1人暮らしを経験する可能性があるだけに、地域社会で孤独や孤立を生まないよう支え合う対策が急がれる。
 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、世帯主が65歳以上の単独世帯数は2020年の738万から50年には47%増え1084万となる。都市部やその周辺を中心に増加は顕著で東京都は148万世帯に達する。
 福井県をみると、50年の全世帯のうち高齢者単独世帯は18・6%の4万8千世帯。全国で最も割合が低いものの20年比で1万4千世帯増えると見込まれ見過ごすことができない問題だ。
 高齢になると、賃貸住宅が借りにくくなる。社会や地域から孤立しやすくなり、病気の際の支援などを頼める人がいないなどの事態に直面する恐れがある。
 孤立を巡っては政府が今年6月に孤独・孤立対策の重点計画を決めた。NPOなどと協力して支援策を進めるとする。具体策はこれからだが、電気の使用量を見たり、情報通信技術(ICT)を使ったりして、生活の様子を見守りやすくする工夫も不可欠だろう。
 身寄りのない高齢者にとって入院や介護施設入所などの身元保証、日常の金銭管理も課題になる。こうした手続きを支援する民間サービスはあるが、近隣に事業者がなかったり、所得が低かったりすれば利用が難しい。関係法令が十分に整わず、契約トラブルなども報告されている。
 総務省行政評価局は、高齢者が安心して利用できるよう厚生労働省に求めている。法律に基づいて行政が民間事業者に目を配るべきである。孤立したまま亡くなり引き取り手がいない「無縁遺骨」も増えている。保管期間が自治体によって違い、国が一律のルールを示すべき時期に来ている。
 自治体の関係する組織で情報を共有し、高齢者の居住状況など現状を把握することから始めたい。自治体が相談窓口をつくり、1人暮らしの人を中心に頼れる家族らがいるかどうかを確認し、その人らを緊急連絡先として登録する。身寄りがなければ、亡くなったときに対応できる組織を紹介することも必要となる。
 解決には自治体と地域のさまざまな組織の協力が欠かせない。1人でも孤立することなく安心して暮らせる仕組みづくりは待ったなしの課題だ。

サ高住での不正 背後の構造的問題に目を(2024年12月16日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 

 飯山市サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に暮らしていた70代男性が、預金8千万円余を元所長らに横領されたとして運営会社などを提訴した。

 男性は2017~21年に入居。認知症で意思疎通が難しく、近くに親族もおらず、複数の預金口座の通帳などを施設に預けていた。

 運営会社は請求棄却を求めて争う方針だが、元所長は横領をおおむね認めているという。県は立ち入り検査を行う方針だ。

 この問題の背後に、支援や介護の必要な高齢者の住まいを巡る国の政策の貧弱さがある。構造的な課題にも目を凝らしたい。

 高齢になって自宅での暮らしが難しくなった時、住み替え先の候補として挙がるのが、サ高住と有料老人ホームだ。

 サ高住はおおむね60歳以上向けの民間の賃貸住宅。バリアフリー構造で、「安否確認」と「生活相談」を提供する。基本的には自立や要介護度の低い人が対象だ。

 有料老人ホームも多くは民間の運営で、サービスや費用は個々に異なる。介護付き有料ホームもあるが、要介護度が重くなると退去を求められる施設もある。

 中重度の要介護者の「終(つい)のすみか」として本来想定されるのは、特別養護老人ホームだ。介護保険施設で職員の配置も手厚い。

 だが入所待機者が多い上、厚生労働省は15年度に入所を「要介護3以上」に限った。介護保険財政の抑制のため、要介護度の低い人は在宅へ―との方針だ。

 ところが地域の在宅介護の基盤は細っている。サービスの公定価格である介護報酬は低めに抑えられ、現場は低賃金による人手不足に苦しんでいる。今春には訪問介護の基本報酬が切り下げられ、事業者の撤退に拍車がかかった。

 在宅では暮らせず、特養には入りたくても入れない。サ高住や有料ホームが、そうした要介護者の“受け皿”となっている側面がある。やむを得ず施設側が認知症の入居者らの財産管理をするケースも少なくない。

 施設側の財産管理を外部がチェックする仕組みはない。認知症や身寄りのない高齢者の財産管理や意思決定支援として成年後見制度があるが、周知は進んでいない。

 今回、問題が発覚したのは市地域包括支援センターの的確な対処によるところが大きい。日常的に高齢者と関わるケアワーカーや支援センター、行政の対応が鍵になる。現場の人手不足の解消とサービス基盤の立て直しが急がれる。厚労省の責任は重い。


単身高齢者の増加(2024年12月10日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 映画「男はつらいよ」はかつてお盆と、これからの正月前の時季に封切りされる風物詩だった。寅さんと家族らのとぼけたやりとりに心が温まった
▼「おばちゃん、今夜のうちのおかずは何だ」「お前の好きなお芋の煮っころがし」「もうちょっと何かこう心の豊かになるおかずはないかい、たとえば厚揚げだとか筍(たけのこ)の煮たんだとか」(「寅さんの人生語録 改」山田洋次朝間義隆作、PHP文庫)
▼半世紀余り前の「寅次郎夢枕」から引いた。厚揚げだと心が豊かになるかはともかく、にぎやかな食卓の会話がおなか以上に心を満たしてくれそうだ
▼よりうらやましく感じたのは、国立社会保障・人口問題研究所が先に示した都道府県別世帯数の将来推計の記事を読んでからである。岡山でも全世帯に占める単身の高齢者の割合が2020年の13%余から50年には20%を超える。交流を促す仕組みづくりが急務という
▼冒頭の文庫本に、寅さんのこんなたんかもあった。旅立つのを止める妹、さくらに対して。「炬燵(こたつ)にヌクヌクつかっているようじゃ、おてんとうさまの罰が当たる」。本当は家庭のぬくもりが恋しいに違いない
▼「1人暮らしの高齢者は、自分の情報を周囲に共有してもらうことが重要だ」。記事にあった識者の談話を、支えられる側になるかもしれない一人として肝に銘じる。

身寄りのない高齢者 家族依存、抜け出す知恵こそ(2024年12月7日『河北新報』-「社説」)
 
 老後の暮らしを家族が中心となって支える日本流の「家族依存型福祉」が限界を迎えているのは明らかだ。
 入院や施設入所時に求められる身元保証、死亡後の遺体引き取りや埋葬手続き、家財処分など、まずは家族の存在を前提にしてきた諸制度の見直しが急務だろう。
 未婚化の進展などに伴い、65歳以上で配偶者と、子など3親等以内の親族がいない「身寄りのない高齢者」は2050年には、現在の286万人から約1・5倍の448万人に急増する見通しだ。
 日本総合研究所が、国立社会保障・人口問題研究所による世帯数の将来推計(4月発表)などを基に試算した。
 子がいない高齢者は50年には現在の459万人から1032万人に倍増。そのうち配偶者もいない人は371万人から834万人に増える。
 高齢者数は全体で約3900万人に達し、このうち「身寄りのない高齢者」が11・5%を占めることになる。
 3親等以内の親族は民法上の扶養義務があり、自治体によっては死亡時に遺体の引き取り手を探す際の照会先としている。
 当然、遺体の引き取りだけでなく、家財の処分など、必要となる死後対応も担い手が見つからないケースの急増が懸念される。
 そもそも日本の福祉制度は家族がいることを前提としてきた。
 例えば、入院や施設入所時には、判断能力が不十分な場合は成年後見人制度の利用が可能だが、判断能力はあっても身寄りのない高齢者には代替できる公的サービスがほとんどない。
 生活支援や身元保証、死後手続きなどのサービスを提供する民間事業者は広がっているが、一方で契約を巡るトラブルも後を絶たない。
 国民生活センターによるとこうしたサービスに関する相談が23年度は355件あり、20年度(114件)の3倍以上に達したという。
 政府は6月に事業者が守るべき指針「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を公表し、事業者の認定制度の創設も検討しているが、現状では監督官庁や規制する法律はない。
 高齢者を支えるために家族が担ってきた機能は元々多様で、生活に不可欠なものだ。
 将来的には誰もが身寄りのない状態になるリスクがある以上、必要なサービスを厳選しつつも公的な支援が必要になるのは間違いない。
 家族が担ってきた機能のうち必須な要素を地域が提供できるよう、介護保険制度の拡充を検討すべきだろう。
 家族以外に頼み事のできる友人・知人や近所の人が少ないのも、日本の1人暮らし高齢者の特徴だ。
 孤立予防を兼ねて、人とのつながりを生み出す自治体や地域の取り組みにも、いっそうの後押しを求めたい。

単身世帯の増加/孤立させない仕組み整えよ(2024年12月3日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来世帯数推計で、本県の全世帯に占める1人暮らしの割合が21年後の2045年に4割を超えることが分かった。人口減少で世帯総数が25年以降、減り続けるなか、未婚者の増加や高齢化で単身世帯の割合が増える。65歳以上の高齢者は約4人に1人が単身世帯になる見通しだ。
 家族の在り方や人生観、価値観が多様化し、親や子ども、孫などとの同居を選択しない人、生涯にわたり独身でいることを選ぶ人が増えている。しかし急病など緊急時の対応、防犯などに不安を抱えている人が少なくない。
 高齢者の場合、社会との関わりが少なくなると、孤立しやすい傾向にある。地域との関わりを持たないまま、定年を迎え退職した男性などは、自宅にこもりがちになるケースがある。こうした人にどう支援の手を差し伸べ、孤立を防ぐかが課題だ。
 1人暮らしでも友人や知人などとのコミュニケーションを増やせば、孤立のリスクを低減できる可能性はある。単身者が何らかの形で社会とつながり、安心して暮らせる仕組みづくりが急務だ。
 住民同士の声かけや見守り活動の重要性は増すだろう。県内の一部自治体では社会福祉協議会などが中心となり、高齢の単身世帯などに定期的に食事を届けるボランティア活動も行われている。
 親しくなくとも地域の人とあいさつを交わしたり、清掃などの自治会活動や地域のイベントに参加したりすることは、単身者が外部とコミュニケーションを取るきっかけになる。県や市町村は、自治会や民間団体などが企画する交流事業を支援し、地域住民と関わる機会を増やすことが重要だ。
 地域に密着し、単身の高齢者などのさまざまな相談に乗り、支援が必要であれば行政などにつなぐ民生委員の役割も大きい。単身者の安否確認などを日ごろの重要な活動としている委員は多く、医療や介護のサービスが必要となった人の命、健康を守ることにも貢献している。
 しかし全国的に高齢化や業務負担の拡大で、民生委員の担い手不足が進んでいる。今後、単身世帯が増えれば、民生委員の負担が大きくなるのは避けられず、人材の確保、育成は喫緊の課題だ。
 民生委員は専門的な知識が求められるものの、無報酬であることが担い手不足の一因と指摘されている。国や自治体は、委員の業務負担の軽減や効率化、処遇の改善などを進め、単身世帯を支える人材を確保すべきだ。

ペットと高齢者 世話が難しくなる時も考えて(2024年12月2日『読売新聞』-「社説」
 
 ペットを飼うことで、生活に安らぎを得る人は多いだろう。ただ、高齢者の場合は、病気などで世話が難しくなるケースもある。そうした事態に備えることも大切だ。
 一般社団法人ペットフード協会の昨年の調査によると、全国で飼育されている犬は680万匹、猫は900万匹で、ペットを飼っている世帯は全体の1割に上る。
 高齢者に犬や猫を飼う効果を尋ねたところ、「生活が楽しくなった」「心穏やかに過ごせる」との回答が目立ったという。
 犬の飼い主は、飼っていない人に比べて認知症のリスクが40%低いという研究結果もある。犬の散歩で運動する習慣がつくうえ、その際に出会う飼い主同士で会話が生まれやすいためだとされる。
 独り暮らしの高齢者が増えている。かけがえのない家族として愛情を注ぐ人も多いに違いない。
 ただ、高齢化に伴って、体力が衰えたり、病気やケガで入院したりして世話ができなくなることもあるので、注意が必要だ。
 動物愛護管理法は、ペットが寿命を終えるまで適切に飼育するよう求めている。餌やりやトイレといった身の回りの世話に加え、感染症対策や不妊手術など飼い主が果たすべき役割は少なくない。
 日常生活を問題なく送れる健康寿命の平均は、男性が72歳、女性が75歳とされる。一方、犬や猫の平均寿命は15年前後だ。
 ペットも晩年は介護を要することが珍しくない。自分の年齢を踏まえ、面倒を見切れるかどうか、飼う前によく検討してほしい。
 犬や猫を飼うと、餌代や医療費などで1匹あたり250万~150万円程度の費用がかかる。金銭的な負担についても、事前に考えておくことが大事だ。
 高齢になるほど、寿命の長い子犬や子猫を飼い始めるのは難しくなる。そうした場合は、成犬や成猫を迎えることも検討したい。
 飼い主は、自身の入院や死亡といった事態に備えておく必要がある。親族に頼むなど、あらかじめペットを託す先を決めておくべきだ。有料で世話をしてくれる施設や、新たな飼い主を探してくれる団体に相談する方法もあろう。
 ペットが増えすぎて面倒を見られなくなる「多頭飼育崩壊」が問題化している。飼い主と連絡がつかず、家には80匹近い猫や排せつ物が放置されていた例もある。
 各自治体は高齢者宅を訪問する介護事業者らと連携し、実態把握に努めてもらいたい。飼い主が相談できる仕組みも欠かせない。

高齢者の労災 防止へ法的な取り組みを(2024年11月27日『西日本新聞』-「社説」)
 
 多くの高齢者が働くようになり、労働災害も増えている。安心して働ける安全な職場環境を速やかに整備しなくてはならない。
 厚生労働省によると、雇用者全体のうち60歳以上の割合は年々増え、2023年には18・7%に上っている。
 一方で労災による死傷者数(休業4日以上)は60歳以上が29・3%にも達し、高齢者が労災に遭いやすい傾向がある。労災発生率も60歳以上は30代に比べ男性が約2倍、女性が約4倍になっている。命に関わる事態であり見過ごせない。
 人手不足が進み、事業者が高齢の働き手に頼っている現状がある。慣れない職場に配置されたことに起因する事故も増えている。
 具体的には男女とも「墜落・転落」「転倒」が多い。工場や建築現場など、危険性が懸念される製造業や建設業に限らない。飲食店のほか社会福祉施設など介護の現場でも、加齢に応じて発生率が高くなる傾向にあるという。高齢になるほどけがは重症化しやすく、休業期間も長くなっている。
 個人差はあるが、加齢とともに筋力やバランス能力など身体機能は低下する。労災増加の大きな要因だ。
 厚労省は20年、働く高齢者の安全確保に関する指針を公表した。
 具体策を例示し、事業者に対策を求めている。通路の段差解消や階段の手すり設置、作業場の照度確保、聞き取りやすい中低音域への警報音の設定などだ。定期的な健康診断の実施や体力チェックの取り組みも挙げている。
 ただ事業者の動きは低調だ。60歳以上が働く事業所は全体の8割近くあるが、高齢労働者の労災対策に取り組んでいるのは2割にとどまる。
 驚くのは指針を知っている事業者が23%しかいないことだ。労災対策に取り組んでいない事業所の半数近くは「自社の60歳以上は健康である」と理由を挙げる。身体機能低下による労災リスクへの理解が進んでいない。
 雇用主は労働者を守る責任がある。まずは高齢労働者の状況を正しく理解し、事故を減らそうという意識改革が重要だ。人手不足で戦力として活用していくのであればなおさらだ。国は指針を周知し、労災対策に取り組むよう働きかける必要がある。
 国は法的な体制の拡充を検討している。現行の労働安全衛生法は、中高年齢者の労災防止のために「適正な配置」のみを努力義務にしている。これではあまりに曖昧で不十分だ。
 指針で示す具体策などを努力義務として、指針に法的根拠を与える改正を目指している。法整備を実効性ある対策への一歩にしたい。
 国は年金受給年齢を引き上げるなど、高齢者の就労を制度面で促してきた。高齢者の実情に応じた労災防止の仕組みを整えるのは当然である。

単身高齢者増加 孤立生まない仕組みを(2024年11月26日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 2050年、県内では全世帯の半数近くが1人暮らしで、このうち半数が高齢者-。
 国立社会保障・人口問題研究所が発表した都道府県別世帯数の将来推計だ。
 50年に全世帯に占める1人暮らしの割合が40%を超えるのは、県内(44・9%)を含む27都道府県とする。また、県内(21%)を含む32道府県で65歳以上の高齢者の1人暮らしが2割超となった。
 単身世帯の増加は未婚の人が増え、少子高齢化が進んでいることが背景にある。
 中でも県内では増え方が急だ。20年から50年の30年間の増加率は31%で全国1位。埼玉(24・1%)、滋賀(23・3%)と続く。
 県内では特に男性の未婚率が高い。離婚率の高さも要因となって、1人暮らしが急増していると推測される。
 1人暮らし高齢者の増加率はさらに抜きんでている。
 50年に14万世帯と推計され、20年からの増加率は86・6%だった。全国平均の2倍近い速さで増えることになる。
 75歳以上の後期高齢者の1人暮らし増加率も高い。
 ライフスタイルの変化もあるが、県民所得や持ち家率が全国一低いという経済的要因も複雑に絡んでいるのではないか。
 高齢になれば医療や介護の必要な人が多くなり、見守りが欠かせない。地域で孤独や孤立を生まないよう支え合う体制の整備が必要だ。
■    ■
 1人暮らしの高齢者は、社会との接点が減って孤立しやすい傾向にある。
 特に男性高齢者の増加には留意が必要だ。
 地域にうまく溶け込むことができず、定年退職をきっかけに自宅にこもりきりになるという男性は多い。女性に比べて孤立する傾向が強いとされる。
 県内の自治体では民間と協力してテレビを使った双方向の見守りや、配食サービスなどやさまざまな形で高齢者を支援する取り組みが始まっている。
 従来の自治会や民生委員など地域とのつながりに加え、こうした官民による動きをさらに広げ、県内どこの地域に住んでいても孤立することのないようにしてほしい。
 介護保険のデイサービスやデイケアでも、男性が利用しやすいメニューを取り入れるなど工夫を凝らしたい。
■    ■
 生き方は多様になっている。生涯1人暮らしを選択するという人も増えるだろう。それぞれが家族以外に頼れる関係性を築いておくことも重要だ。
 今春、国の孤独・孤立対策推進法が施行され、重点計画が決まった。自治体やNPO法人の活動支援、市民ボランティアの養成などを柱とする。
 日本の社会制度は家族がいることを前提としたものがほとんどだ。
 身寄りのない高齢者の意思決定を専門家が支援する成年後見制度など、個人を支える制度の充実を急ぐべきだ。

増える単身世帯 孤立化防ぐ体制整えたい(2024年11月24日『新潟日報』-「社説」)
 
 1人暮らしでも安心して過ごせる社会を目指したい。増える単身世帯を孤立させないよう地域のつながりを強め、社会全体で支え合う体制を築くことが求められる。
 
 国立社会保障・人口問題研究所が、全世帯に占める1人暮らしの割合が、26年後の2050年に27都道府県で40%を超えるとする将来推計を発表した。
 65歳以上の高齢者が1人で暮らす割合は地方を中心に高くなり、本県など32道府県で20%を上回る見通しだ。
 1世帯の平均人数は減少を続け、50年に1・92人となる。全世帯に占める1人暮らしの割合は全国で20年の38・0%から50年に44・3%へ上昇する。
 未婚者が増え、少子高齢化で共に住む家族数も減るのが要因だ。
 孤独や孤立を生まないためにはどうすればいいか。1人暮らし世帯がさらに増える前に、知見を蓄積し、支え合う仕組みを整えねばならない。
 身寄りのない高齢者が増える可能性がある。地域での見守り活動や防犯対策強化、医療介護の体制整備などが重要になってくる。
 県内では燕市が、受診や健康診断に長期間行っていない75歳以上の高齢者宅を訪ね、必要な医療や介護につなげ、重症化を防ぐ取り組みを進めている。
 20年時点で65歳以上の1人暮らしの割合が22・4%と、県内で最も高い阿賀町は急病時の緊急通報装置の設置を支援している。
 新潟市は高齢者宅で異変を見つけた宅配業者などから連絡を受けるネットワークを12年から続けており、現在の協力事業者は約350と13年度の5倍以上に増えた。
 見守り活動は民生委員が担うことが多いが、なり手不足が顕在化している。マンパワーに限界がある中、自治体は各地の取り組み事例を参考に、それぞれの実情に合った対策を講じてもらいたい。
 「雪下ろしは誰がやるか」といった具体的な困り事にも早めに手を打っておく必要がある。
 孤立化を防ぐには、地域のつながりが大事だ。1人暮らしの高齢者が自分の情報を周囲に共有してもらうことも大切になる。
 老後の施設入居や入院時に求められる身元保証人、遺体の引き取り手がいない人が増えることが懸念される。自治体に緊急連絡先を登録したり、親族と話し合ったりしておくことも重要だ。
 身元保証人を求められても疎遠な親族に依頼しにくく、ケアマネジャーら第三者の仲介で引き受けてもらうケースはあるが、限界はあろう。家族や親族以外の人がどう関われるかの議論を深めることが欠かせない。
 日本は家族の役割が大きかった。だが今後は高齢で1人暮らしの環境に置かれる可能性が誰にでもある。自分のこととして捉え、より良い社会づくりを考えたい。

単身高齢者増加 孤立防ぐ仕組み構築を(2024年11月23日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 国立社会保障・人口問題研究所が公表した都道府県別世帯数の将来推計によると、2050年には本県の4世帯に1世帯が1人暮らしの高齢者となる。高齢者の孤立を防ぎ、安心して暮らせる社会とするために、地域全体で見守り、支え合う仕組みを一層充実させたい。
 研究所の推計によると、本県の65歳以上の高齢者世帯は50年に約16万5千世帯となり、このうち1人暮らしは4割の約6万6千世帯。全世帯に占める高齢者の1人暮らしの割合は、20年の15・2%から24・2%まで増加すると予想される。
 全国的な背景として、未婚者の多い団塊ジュニア世代の高齢化がある。地方では少子高齢化や若者の都市部への流出が進み、割合がさらに高くなるとみられている。
 1人暮らしの高齢者は、社会との接点が減って孤立しやすい傾向がある。家族の支えがないため、家事や買い物、通院などに助けが必要だ。強盗や特殊詐欺などの犯罪に巻き込まれたり、災害時に逃げ遅れたりする懸念もある。公的支援や民間サービス、住民同士の共助など、多様なサポート体制を整えていかなければならない。
 ただ、支える側の現役世代の減少が続く。少子高齢化が著しい本県では特に、人手不足が深刻化している。
 元気な高齢者が困っている高齢者を助ける共助組織や、NPOなどが既に各地で見守りなどの活動をしているが、持続的に活動していくためには、行政による支援の拡充が不可欠。民生委員と民間の連携強化や、安否確認に情報通信技術(ICT)の活用を進めることなどが求められる。
 本県では若者が高齢者の困りごとを解決するビジネスモデルを構築する動きがある。そうした取り組みを支援することによって担い手確保につなげたい。
 75歳以上の1人暮らしの割合も増加する見通しだ。本県の全世帯に占める割合は、20年の8・6%から50年には15・9%に上昇。高知や和歌山などに続き、全国で8番目に高くなる。高齢になるほど認知機能や体力の衰えが懸念されるため、医療・介護サービスの充実も今後ますます重要になる。
 男性高齢者の1人暮らし世帯の増加にも留意しなければならない。本県では女性が20年の約3万9千世帯から50年には約3万8千世帯に減少する一方、男性は約1万9千世帯から約2万8千世帯に増えることが見込まれる。男性の未婚率が女性より高まっているためとみられる。
 仕事中心だった男性は定年退職後、地域にうまく溶け込むことができず、女性に比べて孤立する傾向が強いとされる。男性が参加しやすいイベントを官民で企画するなど、地域と交わるきっかけづくりに工夫を凝らしたい。日頃から近隣住民と交流を深め、困ったときには助け合える関係を築くことが重要だ。

単身世代の増加 緩やかなつながり、地域に(2024年11月23日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 2050年、長野県は3世帯に1世帯以上が1人暮らしになる。このうち半数以上を、高齢者が占める。
 国立社会保障・人口問題研究所がまとめた都道府県別の世帯数将来推計から見えてくる未来の信州の姿だ。
 単身世帯が増えていく。孤独にさいなまれたり孤立に苦しんだりする人が出ないよう、支え合いの体制を整えていく必要がある。
 この先、結婚や出産をしない人が増え、家族や親族の人数自体が減っていくとみられる。生き方も多様化している。
 家族の枠にとらわれず、それぞれの地域で交流や見守りを促す仕組みづくりが欠かせない。自治体と住民で議論を深めたい。
 50年には人口規模の大きな「団塊ジュニア世代」が後期高齢者になっている。バブル崩壊後の就職氷河期に重なり、リーマン・ショックの影響も受けた世代だ。
 非正規雇用や低い賃金のため、結婚や出産を諦める人が少なくない。この悩みは、今の若年世代にも共通する。
 人間関係が希薄さを増す流れは新型コロナウイルス禍でいっそう深刻になった。孤独・孤立は高齢者に限らず、幅広い年代の現在の課題であることを心に留めたい。
 孤独を好む人もいる。個々の生き方を尊重しつつ、見過ごせないのは、自ら声を上げられずに望まぬ孤立に陥ってしまう人だ。
 地域コミュニティーで孤立しがちな人への声がけや安否確認を、工夫できないか。民生委員や自治組織を中心に、プライバシーに配慮しつつ、顔と顔の見えるつながりを柔軟に編み直したい。
 政府や自治体の役割は大きい。孤独・孤立対策推進法が今春施行された。人材育成をはじめ総合的に施策を展開すべきだ。海外では英国がいち早く取り組んでいる。孤独・孤立対策の担当相を置き、かかりつけ医やボランティアと連携した政策などを進める。
 国内では、神戸市の取り組みが参考になる。21年度から局横断で施策をまとめる会議体を立ち上げ、幅広い年代の孤独・孤立問題に対応する体制を整えている。
 高齢の単身世帯の増加に伴い欠かせないのが、支援や介護を必要とする人たちをケアするネットワークの拡充だ。慢性的に不足している担い手の確保が課題になる。
 認知症や身寄りのない高齢者を弁護士や司法書士社会福祉士らが後見人となり、意思決定などを支える成年後見制度も鍵となる。より使いやすい制度に変えていく必要が

身寄りない高齢者対策 安心して暮らせる基盤を(2024年11月22日『毎日新聞』-「社説」)
 
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住まいについてアドバイザー(奥)に相談する男性。住居と福祉をつなぐ取り組みが各地で進んでいる=東京都内で4月10日、藤沢美由紀撮影
 結婚しない人が増え、今後、身寄りのない高齢者が多くなると見込まれる。支える仕組みの構築を急ぐ必要がある。
 政府が「高齢社会対策大綱」を6年ぶりに改定した。注目すべきは「身寄りのない高齢者への支援」を初めて取り上げたことである。社会から孤立しやすく、支援が届きにくい人たちだ。
 背景には、就職氷河期に安定した職を得られず、結婚できなかった人が多いことがある。高齢になってからの生計が年金頼みの人は貧困に陥るリスクもある。
 国の推計によると、65歳以上の単身者のうち未婚の人は、男性が3割強、女性は1割だ。2050年には男性は6割、女性も3割になるとみられる。
 家族や親戚がいても、関係が疎遠なケースもある。こうした人も、政府は支援対象として想定しているが、実態を把握するのは容易ではない。
 頼れる家族がいなければ、入院などの際の身元保証を得るのは難しい。認知機能が低下すれば金銭管理にも支障が出る。生活全般にわたる支援が欠かせない。
 身寄りのない高齢者向けのサービスを提供する民間事業者は増えている。ただ、経済的に余裕のある人しか利用できず、料金やサービス内容などを巡るトラブルも起きている。
 本来は、必要な全ての人に支援が届かなければならない。自治体が中心になって、介護保険など公的なサービスを活用した施策も検討すべきである。
 例えば、1人暮らしの高齢者は賃貸住宅への入居を断られることが多い。政府は、高齢者が安心して暮らせるように住まいを確保する制度を実施している。
 市町村が身寄りのない高齢者を総合的に支える取り組みが今年度から試行的に始まった。
 行政サービスの手続き代行や金銭管理などの日常生活面にとどまらず、居室の原状回復といった死後の対応までを対象に、公的支援を講じる。国は課題を洗い出し、全国的な展開が可能か検討する。
 従来の高齢者政策は、家族が支えることを想定して制度設計されてきた。その前提が崩れている現実を直視し、制度のあり方を見直していかなければならない。

増える独居世帯 高齢者の「共助」が必要だ(2024年11月20日『産経新聞』-「主張」)
 
 
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介護付き老人ホームでオンライン観光を楽しむ高齢者ら =大阪市
 
 暮らしをめぐるさまざまな手続きや仕組みを、単身高齢者が増えることを前提に見直していくことが必要であろう。
 医療や介護サービスだけでなく、日々の買い物の支援から財産の管理、認知症になったときの意思決定支援、防犯や災害発生時の手助け、亡くなった後の対応まで、考えるべきはあらゆる分野に及ぶ。
 国立社会保障・人口問題研究所が都道府県別の世帯数の将来推計を公表した。国勢調査に基づく5年ごとの推計だ。
 第2次ベビーブームで生まれた世代が全員75歳に到達する令和32(2050)年の日本の世帯数は、30年間で310万減少し、5261万世帯になる。全世帯に占める1人暮らし世帯の割合は38%から44・3%に上昇する。半数に迫る勢いだ。
 中でも65歳以上の高齢者の1人暮らし世帯の割合はすべての都道府県で上昇し、全国では13・2%から20・6%になる見通しである。特に高知県徳島県愛媛県で高い。
 1人暮らしの高齢者が被害に遭う特殊詐欺や犯罪が頻発しており、高齢独居世帯の防犯対策は喫緊の課題である。個人で対処するには限界があり、地域住民らによる自主的なパトロールや連絡網の充実など、地域で協力して防ぐ態勢を整えることが望ましい。
 懸念されるのは、少子化と未婚率の上昇により、兄弟姉妹や配偶者、子供や孫といった手助けをする近親者のいない人が増えることである。
 一方で、働き手となる世代の減少も顕著に進む。政府や自治体が、すべての単身高齢世帯に医療や介護、生活の支援を不足なく届けることは困難になっている。
 この現実を踏まえ、高齢者自らの努力を促したい。支援を受けることを当然とするのではなく、日頃から近隣住民や同じ趣味を持つ仲間とのネットワーク作りを進めることなどにより、困ったときにはお互いに助け合える関係を作っておくことが重要である。
 高齢者らに一定の地域に移り住んでもらう「集住」も真剣に検討すべき時期だろう。中山間地の一部自治体のなかには、生活に支障をきたす雪の深い時期に複数人での同居を試みるところもある。自助、共助の工夫が求められている。

独居高齢者 支える仕組み再構築を(2024年11月18日『北海道新聞』-「社説」)
 
 1人で暮らす65歳以上の高齢世帯の割合は増え続け、2050年には高齢世帯のほぼ半数に達することが国立社会保障・人口問題研究所が公表した都道府県別の将来推計で分かった。
 独居高齢者は孤立や孤独に陥りがちだ。介護や見守りに加え、元気な人でも病気や事故、災害時には支援が必要となる。
 1人暮らしの増加は、家族の支え合いを前提としてきた社会に変革を迫る。誰も取り残さないセーフティーネットを再構築する必要がある。
 全国の総世帯数は30年をピークに減少に転じ、40~50年には全都道府県で減少に向かう。
 道内も20年の247万世帯から50年には202万世帯となる。うち高齢世帯は団塊ジュニア世代が仲間入りする40年に105万世帯にまで増加した後、減少に向かい、50年には100万世帯と、20年から1万世帯増える程度となる。
 このうち1人暮らしは20年の38万世帯から50年には46万世帯となる。心配なのは、75歳以上の後期高齢者の独居が9万世帯増え30万世帯に達することだ。
 高齢者の見守り役である民生委員はなり手不足が深刻だ。民生委員の高齢化も進んでおり、現在でさえ都市部を中心に希薄な地域社会の互助機能がさらに働かなくなる恐れがある。
 人手不足はあらゆる分野での共通問題であり、解消は難しい。効率化の観点から考えられるのは、住宅や病院、介護施設などを一定地域に集めるいわゆるコンパクトシティー化だ。
 ただ集住を進めれば、農村部から人が離れ、耕作放棄地を生むなど負の側面がある。
 住み慣れた土地で一生を送りたいと望む人々は多い。除雪など生活が困難な冬季間だけ集まって暮らす拠点の整備を提言する専門家もいる。自治体と地域住民がひざを交えてまちの青写真を描き、国が実現を支援することが欠かせない。
 推計では、道内の平均世帯人員は50年には1.78人と、東京都と並んで全国最少になる。
 主な要因は現役世代の未婚化だ。厚生労働省が公表した23年の人口動態統計によると、道内の婚姻数は1万7千組余と、戦後で最も少なかった。シングルの高齢者が珍しくなくなる。
 出生数も低下している。今年は全国で初めて70万人を割る公算が大きい。将来の働き手がさらに減ることを意味する。
 若者の雇用環境を充実させ、結婚や出産を希望する人たちを後押ししなければならない。
 若者政策は将来に向けた高齢者政策につながっている。

単身高齢者の増加 家族頼みでない支援が急務(2024年11月18日『京都新聞』-「社説」)
 
 少子化や未婚の増加により、単身で老後を過ごす人が増え続けている。安心して暮らすには、家族という単位にとらわれず、公的サポートの充実や地域での支え合いを促す仕組みづくりが急務だ。
 2050年には5世帯に1世帯が高齢者の1人暮らしになるとの国の推計が示された。国立社会保障・人口問題研究所によると、65歳以上の単身世帯は1084万に達し、全世帯に占める割合は20年の13%から20%へと上昇する見通しだ。
 高齢単身世帯の増加は特に地方で目立つ。京都府では20年の17万世帯が45年には24万世帯に達する。高齢者人口に占める独居率も50年には30%を上回る。
 滋賀県でも20年の6万世帯が50年には11万世帯となる。とりわけ75歳以上の単身世帯は20年から倍増し、全国2位の伸び率を示す。
 高齢になるほど認知機能や体力低下が懸念され、家事や財産管理、医療・福祉の利用などで支障が生じやすい。1人暮らしを支えるには、地域での見守り活動がますます重要になろう。4月に施行した孤独・孤立対策推進法も踏まえ、実効ある取り組みが必要だ。
 ただ、現役世代が減少し、支え手不足は深刻化している。
 地域での見守り活動を支える民生委員は担い手が減り、22年度末には全国で1万3千人の欠員が生じた。京滋でも定員に満たない自治体が増えている。厚生労働省は、委員の選定要件の緩和などで人材確保を模索するが、活動の先細りを食い止める対策が欠かせない。
 住民間のつながりやボランティアも支えたい。京滋で地域福祉を充実させる活動が広がっているのは心強い。
 大津市北部の住宅地「びわ湖ローズタウン」では、住民有志が「見守り隊」を結成。地域を巡回して積極的に声掛けをし、困り事に耳を傾ける。顔の見える関係を築いた上で、災害時の避難計画づくりも進める。
 京都市左京区では、警察に保護された認知症の人を迎えに行く活動を柱とする一般社団法人が発足した。高齢者が気軽に立ち寄れる居場所づくりも進め、さまざまな人が緩やかにつながれる地域を目指すという。
 一方、身寄りのない高齢者らに身元保証などのサービスを提供する「高齢者終身サポート」の需要も高まっている。
 法的な規制がないため、消費者トラブルも多い。政府は6月、事業者が守るべき指針を公表した。公的な認定制度などルール整備が急がれよう。
 単身者が増えれば、家族が行ってきたサポートを社会全体で担うように見直すことは不可欠だ。介護保険などの社会保障制度や住宅支援のあり方から、民間事業

独居高齢者の急増に備えを(2024年11月16日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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高齢者一人暮らしの世帯が増えていく
 これから増えていく一人暮らしの高齢者にどう寄り添い、どうやって支えればよいのか。日本社会の大問題として対策を真剣に考えなければならない。
 国立社会保障・人口問題研究所がまとめた都道府県別の世帯数の将来推計によると、75歳以上の人口に占める一人暮らしの割合は2020年の22.4%から右肩上がりで上昇し、40年時点では27.4%になる。この割合は19年に公表された前回推計(22.9%)よりも高くなっている。
 1971〜74年の第2次ベビーブームで生まれた世代が全員75歳に到達する2050年には、山形県を除くすべての都道府県で2割を超えるという。世帯の単身化と高齢化が一段と進んでいる。
 同居家族の支えがない高齢者の暮らしを社会全体で支える仕組みづくりが急務だ。75歳以上の後期高齢者が増えるので、何より重要なのは医療・介護の在宅サポートと、いざというときに駆けつけられる見守り体制の充実だろう。
 健康上の相談に24時間体制で応じ、自ら治療するだけでなく、必要に応じて適切な専門医や介護サービスにつなぐ「かかりつけ医」の重要性が非常に高まる。登録制など踏み込んだ改革が急務だ。
 訪問介護は他産業に人材が流出するなど現時点で人手不足があまりに深刻だ。他産業に負けない賃上げによって人材を確保しつつ、各種センサーによる見守りや遠隔サポートを活用するなど業務の省人化を追求する必要がある。
 未婚率の上昇で、子どもなど身寄りのない高齢者も増える。判断力が下がった高齢者の財産を管理したり、福祉や住宅賃貸の手続きといった身上監護を行ったりする成年後見の体制づくりが要る。
 今回の推計で鮮明になったのは地方からの移住者が多い東京などの大都市にとどまらず、地方圏でも一人暮らし高齢者の比重が増えるということだ。高齢者の暮らしを支える各種サービスを人口が少ない地域で確保する対策にも知恵を絞る必要があるだろう。

【独居の高齢者】孤立防ぐ安心の社会を(2024年11月15日『高知新聞』-「社説」)
 
 世帯の単身化が止まらない。国立社会保障・人口問題研究所が都道府県別世帯数の将来推計を発表した。2050年には、全世帯に占める1人暮らしの割合が27都道府県で40%を超える。
 とりわけ深刻なのは65歳以上の高齢者が1人で暮らす割合だ。地方を中心に32道府県で全世帯の20%を上回る。最も高いのが高知の27・0%で、徳島25・3%、愛媛24・9%と続き、四国の高さが目立つ。
 未婚の人が増え、少子高齢化で同居する家族の人数も減ることが背景にある。
 誰もが1人暮らしになる可能性がある。安心して暮らせる仕組みづくりが急がれる。
 1人暮らしの高齢者は、配偶者や子どもと同居している人と比べて孤立しやすい。認知機能や体力の低下が進めば、家事や行政手続きなど日常生活で困りごとが増える。孤独死につながる恐れも高まりかねない。暮らしを支える見守り活動の重要性が高まっている。
 見守り活動を担うのは主に地域の民生委員らボランティアだ。頼れる人が近くにいない住民にとっては、同じ目線で話せる身近な相談相手であり、存在そのものが安心感につながる。
 しかし課題もある。担い手の確保が難しいことだ。
 厚生労働省によると、22年度末時点で民生委員は約1万3千人が欠員になっている。高齢期も働く人が増えたことや担い手の高齢化が進んだことが大きな理由だ。
 民生委員は見守りが必要な高齢者らを訪ね、必要に応じて行政や福祉サービスに橋渡しする。そのほか交流サロンの開催や配食サービス、災害時要支援者の把握など役割は幅広い。やりがいを感じる一方で、地域課題が複雑化し負担が増している面もある。
 政府は今年9月に高齢化対策の中長期指針「高齢社会対策大綱」を改定し、多様な選定方法を導入して担い手確保を目指す方針を示している。高知県内では民間企業などとの見守り協定の締結も進む。官民一体となり、地域社会の見守り力を高めたい。
 人手を補うために情報通信技術(ICT)を使った新たなサービスも各地で広がっている。カメラ中継やメールでの安否確認など遠隔で見守ることができる。
 中山間地域では過疎高齢化が深刻で、緊急時の対応が困難な場合がある。仁淀川町では3年前に独居高齢者の「孤独焼死」が起きた。近年は高齢者を狙った事件も相次ぐ。さまざまな手段で対策を進めたい。
 一方で社会保障制度の充実も急務だ。しかし、制度を支える現役世代は減り、介護職などサービスの担い手は不足している。医療や介護の体制維持が難しくなっている。
 国は、高齢者が住み慣れた地域で医療や介護を一体的に受けられる「地域包括ケアシステム」の推進を掲げる。取り残される人を出さない手だてを講じていく必要がある。