国民常識との乖離 「法律、バカじゃない?」(2025年1月5日『産経新聞』-「主張」)
時速194キロの乗用車による死亡事故を巡る判決が言い渡された大分地裁の法廷=昨年11月28日(代表撮影)
見出しは、昨年12月16日付本紙、シンガー・ソングライターのさだまさしさんの「月曜コラム」からの転用である。
さださんは、一般道を194キロで走行して衝突事故を起こし、相手を死亡させた事故の大分地裁判決を論じ、当初は「過失運転致死罪」として起訴され、後に「危険運転致死罪」に訴因変更された経緯や判決が同罪としては短い部類の懲役刑だったニュースに、スタッフがついたため息の言葉を見出しとしたものだ。
弁護側の「真っ直ぐの道路を走ることが出来(でき)たのだから自動車を『制御』出来ていて、危険運転ではない」との主張に対して「制御出来ないから事故を起こしたのだろうに」というさださんの疑義は、まさに国民的常識にかなうものである。
社会秩序を維持するための規範である法律だが、同様の齟齬(そご)は方々に散見される。
例えば「ストーカー規制法」は「つきまとい行為」に電子メールやSNSが想定されていなかったとして、悲惨な事件の発生ごとに法改正を重ねている。時代の変遷に追いつけず、人を守るための条文が訴えや捜査をしばり、改正を繰り返す姿は情けなくさえ映る。
国の基本となる最高法規の憲法も同様だ。福岡高裁は同性婚を認めない民法などの規定について「違憲」とした。法の下の平等を定めた憲法14条や幸福追求権を保障した13条に違反するとの判断だが、一方で婚姻の自由を定めた憲法24条1項で、婚姻は「両性の合意のみに基いて成立」すると規定している。
運転の悪質さに見合った処罰ができる仕組みに変え、悲惨な事故をなくしていかねばならない。
猛スピードや飲酒運転などの自動車事故を想定した危険運転致死傷罪は、規定が曖昧で適用が狭められているとの批判が根強い。
危険運転致死傷罪は2001年に刑法に新設され、14年施行の自動車運転処罰法に取り込まれた。1999年、東名高速道路で乗用車が飲酒運転のトラックに追突されて炎上し、女児2人が死亡した事故がきっかけとなった。
ただ適用要件はあまりに抽象的だ。飲酒について「正常な運転が困難な状態」、速度について「進行の制御が困難な高速度」としている。
捜査機関が立証するのは難しく、過失運転致死傷罪にとどまる事例が多い。いったん過失運転で起訴された後、遺族らの署名活動などにより危険運転に訴因変更される事例が相次いでいる状況は見過ごせない。
大分市内で2021年に起きた事故も当初は過失運転と見なされた。一般道を時速194キロで運転し、右折車と衝突して男性を死亡させた男に対する判決で、大分地裁は法定速度の3倍超を「常軌を逸した高速度」と断じ、危険運転を適用した。
公判で男はスピードを出す理由について「エンジン音やマフラー音、加速する感覚を楽しんでいた」などと述べた。遺族が「うっかり起きた過失と一緒にされたら困る」と憤るのは当然だ。
報告書は数値基準を設けるよう明記した。速度については法定速度の「2倍や1・5倍」を例示した。飲酒については、個人差や心身の状況にかかわらず一律の設定が必要として、血中アルコール濃度などを候補とした。
検討会では一律の基準に慎重な意見もあった。事故の責任の重さは事例によって異なる、との意見は理解できる。
とはいえ多くの人が納得できる仕組みとなるには、分かりやすい一定の基準は不可欠だろう。基準に達していなくても運転技術の個人差、道路状況などによっては危険な運転となり得る。基準を設けつつ、柔軟に対応できるようにしておくことも必要だ。
今後は法改正に向け、法制審議会で協議される。社会常識にかなう要件になるよう議論を深めてもらいたい。
厳罰化だけでは悪質運転による事故は防げない。ドライバーの安全意識の向上など運転教育の充実も、同時に図らなければならない。
悪質な交通事故に適用される自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪の要件見直しを巡り、法務省の有識者検討会が飲酒や速度の数値基準を設定することなどを盛り込んだ報告書をまとめた。現行法はあいまいで適用が難しいと指摘されていた。
報告書は飲酒について「個人差や心身の状況にかかわらず、一律に要件を満たす数値基準」の設定を提案。速度に関しては「最高速度の1・5倍や2倍」との委員の意見を紹介した。ドリフトなど曲芸的な走行を対象に加えることも提言した。
飲酒運転や速度違反などを伴う悪質極まりない事故でも、危険運転とは認められなかった例がこれまであった。現行法は要件について飲酒を「正常な運転が困難」、高速度を「進行の制御が困難」としている。基準は確かに分かりにくい。
納得できない事故遺族らが見直しを求めてきたのは当然だろう。あいまいさを改め、悪質な事故に対しより適切に対処できるようにしなくてはならない。
1999年に東名高速道路で飲酒運転のトラックが乗用車に追突し女児2人が死亡した事故などを機に、危険運転罪が刑法に設けられた。飲酒運転、高速度での運転、あおり行為、信号無視など八つの類型がある。2014年に自動車運転処罰法に組み込まれた。
法定刑の上限は懲役20年。適用されることの多い過失運転致死傷罪の7年よりも重い。悪質な事故を防ぐ目的での厳罰化だったが、「適用可否が検察官の力量に左右される」との指摘もあり、安定的に運用できているとは言い難いのが実情だ。
最近の事例では、大分市内の一般道を時速194キロで走行して衝突事故を起こし、男性を死亡させたとして危険運転致死罪に問われた被告の裁判員裁判が挙げられる。先日の判決公判で大分地裁は危険運転と認め、懲役8年を言い渡した。
検察は当初、過失運転で起訴し、遺族側が危険運転の適用を求めたことを受け、訴因を変更していた。遺族側は量刑が軽すぎると主張し控訴を望んでいるが、適用を求めなければそもそもどうなっていただろうか。
ただ運転者の状態や道路状況などは千差万別。数値ばかりに頼ってしゃくし定規な運用になっても処罰漏れを招く恐れがある。基準を下回る場合でも事故を総合的にみて、悪質さを適切に判断できる仕組みにしなければならない。
法改正議論は今後、法相の諮問機関である法制審議会で進められる。悪質な事故に対する遺族や市民の厳しい声を踏まえ、事故防止に資する法改正につなげてもらいたい。
令和3年2月、大分市内の一般道で時速約194キロで走行していた乗用車に衝突され、大破した被害者の車。被害者遺族が署名活動を行い、厳罰を求めた(遺族提供)
遺族の嘆き、疑問に強く同意する。
大分市の一般道で令和3年、時速194キロで乗用車を運転して右折車と衝突、会社員を死亡させたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死)罪に問われた被告の男に、大分地裁の裁判員裁判は同罪の成立を認め、懲役8年(求刑懲役12年)を言い渡した。
争点は、事故時の運転が危険運転の要件とされる「進行の制御が困難な高速度」に当たるかどうかだった。公判では、事故現場の路面状況が詳細に検討され、走行実験の結果やプロドライバーら複数の専門家の証言などから、「常軌を逸した高速度」と認定された。
法曹界や識者の間には「進路逸脱などの事実がないなかで結論を導いた画期的判決」との声もあった。だが量刑への不満とともに、被害者遺族の感慨は全く違う。「194キロでの運転が危険なのは当たり前。それを、これだけ専門家に語ってもらわないと証明できないのか」
これが国民常識というものだろう。法定速度60キロの一般道を200キロ近くで走行し、危険でないはずがない。実際に、悲惨な事故が起きている。
そもそも大分地検は当初、過失致死罪で起訴した。危険運転罪の適用が難しいとの判断だったとみられ、遺族が署名を集めて提出した求めに応じる形で訴因は変更された。検察も含めた司法のありようは、国民常識と大きく乖(かい)離(り)している。
法務省の有識者検討会は危険運転罪の要件について、高速度と飲酒の数値基準の設定などを盛り込む報告書をまとめた。速度は「最高速度の1・5倍や2倍」とする意見もあった。鈴木馨祐法相は「悪質な運転行為による死傷事案への対応は喫緊の課題だ」と述べた。法制審議会での議論を急いでほしい。
いわば遺族と国民の怒りが生んだ法律である。怒りの対象は事故そのものと、法のあり方にも向けられた。その後も大事故を契機とする適用対象拡大などの法改正が続いている。それは法が国民の怒りに追いつかない過程ともいえた。常識にかなわぬ法は国民を苦しめるだけだ。法曹界は、この乖離を深刻なものと受け止めてほしい。
悲惨な交通事故を招いた悪質運転に対し、市民感覚に沿った処罰をするための仕組みが必要だ。
車の制御が困難な高速度で走行したり、飲酒で正常な運転が難しい状態だったりして、死傷事故を起こした場合が対象となる。
ただ、条文の表現が曖昧なこともあり、適用されるケースは限られているのが現状だ。
2018年に津市で、時速146キロで走行していた乗用車が、前方を横切っていたタクシーに衝突し、4人を死なせるなどした。
だが、危険運転致死傷に当たらないとの判決が確定した。タクシーを避けられる速度かどうかを考慮する必要はないと判断された。
報告書では、「他の車や歩行者に対処できないスピードでの走行」を要件に加えたうえで、速度の基準を示すことが提案された。現場の最高速度の2倍や1・5倍が例示された。
飲酒運転についても、呼気や血中のアルコール濃度で数値基準を設け、達していれば処罰する方策が考えられると記載された。
実現すれば適用するかどうかの判断がしやすくなるのは確かだ。一方で数値にこだわると、交通事情や道路環境に即した対応ができなくなる恐れもある。適正な処罰に向け、議論を深めるべきだ。
政府に見直しを迫ったのは、事故被害者の遺族たちだ。実際の処罰が、運転の悪質さに見合っていないとの声が上がっていた。
危険運転で相手や同乗者を死なせた場合、最高刑は懲役20年だが、不注意による過失運転とされれば懲役7年となる。
昨年の交通事故は件数、死者数とも前年より増加した。輪禍をなくしていくための対策と取り締まりを徹底しなければならない。
悪質な速度超過や飲酒運転による重大事故に厳罰を科す危険運転致死傷罪が創設されたのに、適用が難しい現状は見過ごせない。遺族らの強い要望を受け、要件の在り方を議論していた法務省の有識者検討会が報告書をまとめ、適用拡大を打ち出した。速やかに法制審議会に諮り実効性のある制度改正を目指すべきだ。
同罪は、1999年に女児2人が死亡した東名高速飲酒運転事故などをきっかけに、2001年に新設された。死亡事故の場合、法定刑の上限は通常の過失致死罪の懲役7年に対し、懲役20年となった。
適用の要件は、高速度が「進行の制御が困難」、飲酒は「正常な運転が困難」とするが、数値基準はなくあいまいと言わざるを得ない。
大分地検は当初、「制御困難とはいえない」として過失致死罪で在宅起訴したが、遺族らは「異常な高速運転を過失で処罰するのは不適切」として危険運転の適用を求める署名活動を展開し、地検が訴因変更する異例の経緯をたどった。
28日の大分地裁判決は「常軌を逸した高速度」として危険運転と認め、懲役8年を言い渡した。道路を逸脱しない運転に対し、危険運転を認定するのは前例がないという。一方で求刑の懲役12年を下回る量刑には遺族から不満が漏れた。厳格な適用には要件の明確化が避けられない。
報告書は危険運転について、超過速度や血中アルコール濃度などの基準を設ける方針を示した。具体的な数値は示さなかったが、委員からは「法定速度の1・5倍や2倍」などの意見が上がったという。一律の基準を設けるのは分かりやすいが、危険度は個人差や現場状況で異なる場合もある。議論を尽くし、納得できる線引きを探ってもらいたい。
危険運転と過失の刑罰の差を埋めるために、中間の刑を創設する案もある。検討会は消極的だが、危険運転の合理的な要件設定が難しければ一考に値するのではないか。過失致死傷の法定刑の上限を引き上げる方法も考えられる。
危険運転の適用拡大は、悲惨な事故による犠牲者をなくすためだ。議論を深め、安全運転の意識を高める方策を追求してほしい。
危険運転致死傷罪は適用要件があいまいで、立証のハードルが高いと指摘されてきた。
たとえ猛スピードを出していても、酒酔い運転の状態であっても、「制御困難ではなかった」などの理由から危険運転ではなく、刑罰が軽い過失運転が適用される例が多くみられた。
社会通念上も、事故が招いた結果の重大性とも釣り合いが取れているとは言い難かった。
提言には危険運転の適用要件を明確にする狙いがある。議論を深めて納得のいく法改正につなげ、無謀な運転を抑止していかねばならない。
危険で悪質な運転による事故を故意犯として厳しく罰する考え方に立つ。法定刑の上限は懲役20年で、過失運転致死傷罪の7年より格段に重い。
ところが刑事司法の場では適用が限られてきたのが実態だ。
危険運転と認定されるには、飲酒運転の場合は「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」でなければならない。
運転者が深酔い状態だったのに「事故前の運転状況にそれほど異常がない」などとして裁判所が危険運転ではなく過失運転と判断したケースは複数ある。
高速度運転は「進行を制御するのが困難」が要件だが、「事故発生まで車線を逸脱していない」といった理由で過失運転とされた例も少なくない。
検討会は、呼気や血中のアルコール濃度、走行速度が一定数値を超えれば危険運転罪を適用することが考えられるとした。
ただし数値のみに頼れば、基準以下なら大丈夫―といった誤った受け取られ方もされかねない。アルコールの影響は個人差があり、速度の危険度は運転の技量や道路状況などに左右される。事故の全体をみて判断する枠組みが求められる。
もちろん厳罰化だけで悪質な運転がなくなるわけではない。運転者教習の見直しも含めた多角的な取り組みが重要になる。
危険運転に対する司法判断は示されたが、法律の適用要件が明確になったわけではない。安定的に法律が運用されるよう、法改正に向けた速やかな議論が必要だ。
被告は懲役7年が法定刑の上限である過失運転致死罪で在宅起訴されたが、遺族の訴えなどを受けた検察側が、懲役20年が上限でより重い危険運転致死罪に訴因変更した経緯がある。
裁判長は「時速194キロでの交差点進入は進路から車を逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があった」として、危険運転致死罪を適用した。
悪質性の高い運転でも危険運転致死罪が適用されないケースがあり、批判が出ていた。不注意を意味する「過失」による事故と判断されることに、強い疑問を抱く被害者遺族もいた。
厳格であるべき法律の適用にゆらぎが生じれば、司法制度への不信につながりかねない。
前橋地裁では10月、飲酒事故について過失運転致死傷罪から危険運転致死傷罪への訴因変更が認められた。宇都宮地裁でも時速160キロ超で運転して起こした事故で同様の変更が認められている。速やかな見直しは喫緊の課題だ。
現行法における適用要件は、高速度については「進行の制御が困難」、飲酒については「正常な運転が困難」などとする抽象的な表現にとどまっていた。
検討会では具体的な数値基準は示されなかったが、高速度の基準として「最高速度の1・5倍や2倍」とする意見があった。飲酒では血中アルコール濃度を用いることなどが想定される。
危険運転を巡る議論は今後、法制審議会の場に移る。ドリフトなど曲芸的な走行行為も処罰対象への追加が提言されており、議論の深化が期待される。
一律の基準に達しなくとも悪質な運転を、どう判断するかという課題も論点になる。
一般の人にも分かりやすく納得が得られる基準の設定に向け、多角的な検討を望みたい。
作家の薬丸岳さんの小説『告解』は、飲酒運転でひき逃げ死亡事故を起こした大学生を主人公に、贖罪(しょくざい)の意味を問いかける。大切な人が突然亡くなる交通死亡事故は「さよなら」のない別れを迫る。罪を償うことは簡単ではない
◆具体的な数値基準がなく、判断が難しいとされる危険運転を認定した点は遺族の思いに沿ったものだが、人命を奪った償いが懲役8年で妥当なのか、意見は分かれるだろう
◆5年前に起きた東京・池袋の暴走事故で禁錮5年の判決を受けた受刑者(93)が先月、老衰で亡くなった。妻子を失った遺族は刑務所で面会。受刑者は深い後悔を口にしたという
◆加害者側の視点に立った『告解』は、服役で罪が償われるわけではないこと、罪を一生背負いながら生きていく覚悟を問う。善良に生きたいと思っても、何らかの間違いを起こす可能性は誰にでもある。問題はそれを認め、罪と向き合うこと。償いも更生も、人とのつながりの中でしかできないことと思う。とはいえ、避けられる苦悩もあるはずだ。あすから師走。慌ただしさが増す。まずは安全運転を。(義)
危険運転罪の成否が争点だった。
裁判では、直線道路を走る被告の車両が「進行の制御は困難」だったかどうかが問題とされた。
被告の車は法定速度60キロの3倍を超える猛スピードで走行していた。
大分地裁は判決で、たとえ直線道路であっても、当時の路面の状況などからハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱する可能性があったと指摘。「進行の制御が困難な高速度に当たる」として危険運転と結論付け、懲役8年を言い渡した。
どこまでが「過失運転」で、どこからが「危険運転」かの線引きは曖昧だ。
法改正に向けて、今後は法制審議会へ議論を委ねる。より市民感覚に即した適用と厳正な処罰につなげてほしい。
■ ■
自動車運転処罰の在り方を巡っては、1999年、東名高速道路で飲酒運転のトラックが乗用車に追突し女児2人が死亡した事故を契機に議論が活発化した。
だが判断基準は曖昧だ。
また、いったん過失と認定された後に、危険運転に変更される事案も相次ぐ。
有識者がまとめた報告書では、一定の数値を超過すれば一律に「正常な運転は困難」とすることを想定している。「最高速度の1・5倍や2倍」などとする意見も盛り込まれた。
■ ■
大切な人の命を奪った罪の重さを判断する基準が曖昧では、残された者は納得できない。大分の遺族は危険運転致死罪への変更を訴えて署名活動を行い、約2万8千筆を集めた。
今後、一定の基準が示されれば、より客観的な判断が期待できる。一方で、基準から漏れるケースも出てくるだろう。安定的な運用を目指し、さらに丁寧な議論が求められる。
車社会の沖縄で交通事故は決して人ごとではない。安全運転を徹底し、危険運転に対する意識を一層高めていくことが必要だ。
大分市で2021年、乗用車を時速194キロで運転して右折車に衝突、相手の運転手を死亡させたとして、被告が自動車運転処罰法違反(危険運転致死)罪に問われた裁判。大分地裁は「制御困難な高速度だった」と同罪を適用して懲役8年(求刑懲役12年)を言い渡した。危険運転の罪は適用条件が曖昧との批判が根強く、法務省が見直しを検討中だが、社会常識に沿う形での改正を望みたい。
同罪は、東京都内の東名高速道路で女児2人が犠牲になった飲酒運転事故を機に01年に新設された。「制御困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が難しい状態」「赤信号を殊更(ことさら)に無視」-など八つの行為のいずれかが死傷事故の原因とされた場合、過失ではなく「故意犯」として適用される。法定刑は最高で懲役20年。それまで死傷事案に適用されていた同7年の過失運転致死傷罪より格段に重い。
ただ、「高速度」や「飲酒量」の基準が曖昧で、しばしば「危険運転」の適用が見送られるなど、問題点の指摘も多かった。
例えば、津市の国道で乗用車を運転し、時速146キロでタクシーに衝突、乗客ら5人を死傷させた事故では、被告は危険運転致死傷罪で起訴されたが、一、二審とも同罪は適用されず、過失運転致死傷罪で懲役7年の判決が確定。二審判決は「車の進路を制御できなかった事実は証明されていない」とし、遺族の思いは退けられた。
大分の事故でも地検は当初、被告を過失運転致死罪で起訴した。現場は直線道路だったが、「制御困難な高速度」と判断された過去の裁判では、カーブや勾配など現場形状が重視されていたためだ。納得できない遺族は要望書や署名を地検に提出。これを受けて地検も危険運転致死に訴因変更した。
危険運転の基準については数値化の議論も進む。法務省の有識者検討会がまとめた報告書案では、目安を、高速度は「最高速度の2倍や1・5倍」、飲酒は「呼気1リットル中のアルコールが(酒気帯び運転の3倍以上の)0・5ミリグラム以上」-などとする案が示された。
法の見直しは必要だとしても、厳罰化だけでは常軌を逸した事故はなくならない。運転者への安全教育を、どう実効あるものにするかにも知恵を絞ってほしい。
無謀運転を抑止する法整備がさらに求められる。
大分市の一般道で2021年、時速約194キロで乗用車を運転し右折車と衝突し、相手の男性を死亡させたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪に問われた被告の男に、大分地裁が懲役8年の有罪判決を言い渡した。
判決は、法定速度60キロの3倍以上の猛スピードでの運転を「常軌を逸した進行制御困難な高速度」だったと認定した。
悪質な運転を「故意」として「過失(不注意)」より厳しく臨む危険運転致死罪については、2001年に新設されたが、適用の線引きがあいまいで立証のハードルが高いという指摘が度々なされてきた。
現在、同罪に問うには「進行の制御が困難な高速度」や「アルコールの影響で正常な運転が困難」だったことなどの立証が必要とされる。
そのため、実態としては検察が過失致死傷罪などで起訴することが少なくない。
だが、飲酒を過失とするのは、事故遺族から批判が強く、一般的な感覚ともかけ離れていると言わざるをえない。
同罪についてはおととい、法務省の検討会が、速度違反と飲酒に関する数値基準の設定を促す報告書をまとめた。
速度については「最高速度の1・5倍や2倍」との委員の意見を紹介し、飲酒でも呼気中のアルコール濃度などの数値基準を定め、超えた場合に一律で同罪を適用することとした。
具体的な数値は、法務大臣の諮問機関である法制審議会に委ねられる。
ただ、数値だけが適用の基準になれば、「基準以下だから危険運転にはあたらない」という運用につながりかねない。留意した議論が必要だろう。
事故原因に飲酒がどの程度影響したかを総合的に判断すれば、アルコール濃度が基準値以下でも危険運転と見なす可能性はあり得るのでないか。
厳罰化だけで事故をなくすことは難しい。危険な運転を防ぐ車両の開発やインフラ面の改良に加え、ドライバー一人ひとりの安全意識を高める施策を強化したい。
国民の感覚と法に、ずれが生じることがある。テレビや落語では大岡越前が登場するが、見事な裁きで正すのは、現実の司法ではなかなか難しいようだ
▲法定速度の3倍以上の猛スピードで運転すれば車の制御も安全確保もできない。多くの人はそう思う。だが、これまでは人を死傷させても、速度だけで危険運転罪に問うのは難しかった。危険の認識と制御が困難という立証が、不可欠とされていた
▲判決の11月28日を地裁は意識したに違いない。1999年のこの日、東名高速で飲酒運転のトラックに乗用車が追突され、幼い女児2人の命が奪われた。常習飲酒の運転手はわずか懲役4年。両親の井上保孝さん・郁美さんらが厳罰化を訴え、刑罰の重い危険運転罪が新設されたのも事故2年後の同じ日である
▲厳罰化は少しずつ進むが、悲惨な事故はなくならない。まな娘の命日でもあるきのう、大分の遺族の支援に駆け付けた郁美さんは「訴え続けるしかない」と話した。その言葉が胸にしみる。
繰り返される悪質運転を根絶する契機にしなければならない。
悪質運転による事故に適用される自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪の要件見直しを議論してきた法務省の有識者検討会が報告書をまとめた。高速度運転と飲酒運転の数値基準の設定を提言した。今後、法改正に向け、法制審議会(法相の諮問機関)で議論するという。
現行法では、制限速度を大幅に超える猛スピードや飲酒による事故でも過失運転として扱われるケースがあり、遺族らは法改正を求めていた。法務省は多くの国民が納得する法律に改正する必要がある。
飲酒や高速度、赤信号無視などによる死傷事故のうち、悪質な運転を対象とし処罰する。法定刑の上限は懲役20年で、過失運転致死傷罪の懲役7年と比べて格段に重い。それだけに適用には慎重な姿勢が求められてきた。
ただ、適用の可否を巡り混乱するケースが相次いでいる。
大分地裁が昨日、時速約194キロで県道を走った車による死亡事故で危険運転致死罪の成立を認め、懲役8年の判決を言い渡した。検察側は当初、猛スピードでも直線道路では同罪は適用できないとして過失致死罪で被告を在宅起訴した。しかし、疑問を抱いた遺族から署名提出を受けた後、危険運転に訴因変更を請求し、認められた経緯がある。
背景には適用要件が曖昧であることが指摘される。現行法は高速度の対象を「進行の制御が困難」、飲酒を「正常な運転が困難」とするなど具体的な数値を定めていない。そのため、捜査機関の判断次第で過失運転と扱われることがある。法務省によると、2022年に過失運転として扱ったのは28万件余りで、危険運転は約450件にとどまる。
こうした実態を受け報告書は、車の速度や運転手の体内のアルコール濃度が一定の基準に達した場合に危険運転致死傷罪の適用対象とする考え方を示した。
速度に関しては、具体的な数値は示さなかったが「最高速度の1・5倍や2倍」との案を例示した。飲酒についても、個人差や心身の状況にかかわらず、一律に「正常な運転が困難」といえる数値基準の設定を促した。
客観的な基準が示されれば、捜査現場は判断がしやすくなるだろう。一方で基準を下回った悪質運転をどう扱うかという課題も指摘される。基準に達しない場合でもさまざまな要因が重なり、悪質運転となる場合も考えられる。数値だけでなく事例ごとに適切に判断することが求められる。
むろん、悲惨な事故を防ぐには厳罰化だけではなく、交通安全教育の徹底も必要だ。悪質運転の危険性を繰り返し周知し、ドライバー一人一人の安全意識を高めたい。
危険運転罪の成否が争点だった。
裁判では、直線道路を走る被告の車両が「進行の制御は困難」だったかどうかが問題とされた。
被告の車は法定速度60キロの3倍を超える猛スピードで走行していた。
大分地裁は判決で、たとえ直線道路であっても、当時の路面の状況などからハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱する可能性があったと指摘。「進行の制御が困難な高速度に当たる」として危険運転と結論付け、懲役8年を言い渡した。
どこまでが「過失運転」で、どこからが「危険運転」かの線引きは曖昧だ。
法改正に向けて、今後は法制審議会へ議論を委ねる。より市民感覚に即した適用と厳正な処罰につなげてほしい。
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自動車運転処罰の在り方を巡っては、1999年、東名高速道路で飲酒運転のトラックが乗用車に追突し女児2人が死亡した事故を契機に議論が活発化した。
だが判断基準は曖昧だ。
また、いったん過失と認定された後に、危険運転に変更される事案も相次ぐ。
有識者がまとめた報告書では、一定の数値を超過すれば一律に「正常な運転は困難」とすることを想定している。「最高速度の1・5倍や2倍」などとする意見も盛り込まれた。
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大切な人の命を奪った罪の重さを判断する基準が曖昧では、残された者は納得できない。大分の遺族は危険運転致死罪への変更を訴えて署名活動を行い、約2万8千筆を集めた。
今後、一定の基準が示されれば、より客観的な判断が期待できる。一方で、基準から漏れるケースも出てくるだろう。安定的な運用を目指し、さらに丁寧な議論が求められる。
車社会の沖縄で交通事故は決して人ごとではない。安全運転を徹底し、危険運転に対する意識を一層高めていくことが必要だ。
飲酒や高速度運転の悪質性を重視し、適用条件に飲酒量や速度の数値基準を設けることなどが示されている。
これまで危険運転の適用は線引きが不明確で、悪質としか思えない事例も過失運転として処罰されることが少なからずあった。たたき台は「処分が軽過ぎる」と感じる交通事故遺族の思いに応える点でも評価できるものだろう。
ただ数値基準だけで問題は解決できない。国民感覚にかなう基準はどうあるべきか。議論を深めてもらいたい。
危険運転致死傷罪は飲酒や高速度、信号無視などが招いた死傷事故で特に危険、悪質なケースに適用されてきた。懲役20年が刑の上限になっており、懲役7年の過失運転致死傷罪よりはるかに重い。
故意と過失で量刑に大きな差があるのは分かる。だが、二つの罪の要件の違いは「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」「進行を制御することが困難な高速度での走行」といった曖昧な内容にとどまってきた。
処罰に柔軟性を持たせる狙いがあることは否定しない。ただ、検察庁が2022年に過失運転とした28万件余りに対し、危険運転はわずか454件。よほど悪質性がない限り、危険運転に問われてこなかったことも事実である。
大分地裁では今、時速194キロの車が交差点で対向の右折車と衝突した死亡事故の公判が進んでいる。猛スピードでの走行が過失運転とはとても思えない。それでも被告側は「直線道路で車線をはみ出さずに走行できていた」として危険運転ではなかったと主張しているようだ。
たたき台では飲酒運転、高速度運転への数値基準のほか、ドリフト走行なども新たな処罰対象に追加するよう示している。しかし、危険運転と認定する速度や飲酒量の基準をどう定めるかでは意見が分かれているようだ。
数値基準を厳格に線引きすれば、むしろ基準を下回った悪質な運転を摘発できなくなることも考えられる。とりわけアルコールの摂取量は個人差が大きい。基準超えだけでなく、下回った場合でも個別に判断できるように、基準を「二段構え」とするような想定が必要だ。
悲惨な事故が起きるたびに最高刑を懲役20年に引き上げたり、刑法から自動車運転処罰法として独立させたり、あおり行為なども処罰対象に加えたりしてきた経緯がある。
それでも痛ましい事故はなくならない。厳罰化に頼るだけでなく、どうすれば事故を減らしていけるのか。社会全体で考えていく課題だろう。
車の危険運転 遺族の訴えを生かせる改正に(2024年11月22日『読売新聞』-「社説」)
車の悪質な運転者が厳しく裁かれない現状に、遺族が不満を募らせるケースが相次いでいる。無謀な運転を抑止するためにも、厳正に処罰できる法律に改める必要がある。
法務省の検討会が、自動車運転死傷行為処罰法の「危険運転致死傷罪」について、要件の見直しを求める報告書案をまとめた。猛スピードや飲酒運転による事故に適用する際、速度や飲酒量の数値基準を導入するよう促す内容だ。
ところが、実際には全国各地で法適用の混乱が見られる。
大分市では、法定速度60キロの道路を194キロで走った車による死亡事故で、運転者が当初、過失運転で在宅起訴された。群馬県伊勢崎市で飲酒運転のトラックに衝突されて家族3人が死亡した事故も、起訴は過失運転とされた。
検察が危険運転の適用に慎重になる背景には、現行法の曖昧さがあるとされる。危険運転は「制御困難」な速度や「正常な運転が困難」な飲酒での事故などに適用されるが、明確な数値基準がないため、立証のハードルが高い。
そのため検討会は今回、基準となる速度や飲酒量を定め、それに達すれば、一律に危険運転とみなすよう求めた。数値基準があれば判断のばらつきも少なくなるはずだ。妥当な提案であり、国は基準作りを進めてほしい。
ただ、基準ができても、それだけに頼っていては、正しく判断できない事例もあるだろう。速度が基準を下回っていたとしても、飲酒などの複合的な要因が加わることで全体として危険運転と評価されることは十分あり得る。
数値基準を活用しながら、最終的には、事故の全体像を捉え、適切に判断することが大切だ。
当然のことではあるが、速度超過や飲酒の状態で車を運転しないという意識を、社会全体で改めて徹底することも欠かせない。
飲酒運転や制限速度を無視した猛スピードでの走行を「過失」とするのは、市民感覚から大きくかけ離れている。
痛ましい事故は厳罰化だけでは防げないとはいえ、常識的な交通道徳に反する無謀運転には明確な線引きと厳格な対応が不可欠だろう。
飲酒運転や高速度運転の悪質さに関する要件をより明確化するため、数値基準を設ける方向を打ち出したのが特徴だ。
飲酒運転や高速度運転、赤信号無視などを対象としているものの、要件があいまいで立証のハードルが高いとの批判が絶えなかった。
例えば、飲酒運転で死傷事故を起こした場合、危険運転と認められるには「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」でなければならず、直前まで操作を誤った形跡がないことなどを理由に、過失運転致死傷罪が適用される例が少なくない。
「進行の制御が困難」であることが要件とされる高速度運転でも、時速200キロ近い速度を出していながら、過失犯とされたケースもある。
危険運転致死傷罪の法定刑の上限は懲役20年なのに対し過失運転致死傷罪は懲役7年。被害者・遺族の心情を考えれば、適正な処罰の実現に向け、法改正を急がなくてはなるまい。
今回の報告書案は、飲酒運転については呼気や血中のアルコール濃度が一定の水準に達した場合とするほか、高速度運転では現行規定とは別の新類型を設け、一定の速度以上を対象とすることが考えられるとした。
ただ、アルコールの影響は個人の体質や体調によって差があり、速度も道路状況や運転技能に左右される。アルコールや速度の測定結果が裁判の場などで争われる事例も珍しくない。数値を上回ったことを証明する立証技術の確立が課題となる。
一方、数値だけが物差しとなれば「基準以下だから危険運転ではない」という発想を生む余地も生じかねない。
検討会では高速度運転について「常軌を逸し、対処を放棄しているといえるような数値基準」を基本とし、基準を超えれば一発アウト、下回った場合でも個別判断する「二段構え」を想定する声が多かったという。妥当な方向と言えるのではないか。
車のハンドルを握る以上誰もが加害者となり得る。危険運転か否かは運転者に対し常識的に求められる責任に照らして判断されるべきだろう。
同罪は、東名高速道で飲酒運転のトラックが女児2人を死亡させた事故をきっかけに平成13年に創設された。法定刑の上限は20年で、過失運転罪の上限7年とは大きな開きがある。
現行法は高速度の対象を「進行の制御が困難」、飲酒を「正常な運転が困難な状態」とし、具体的な速度や数値を定めていない。報告書案は一定の速度以上を高速度の対象とし、「法定速度の2倍や1・5倍」とする意見もあった。
令和3年2月、大分市内の県道交差点を右折する会社員の車に、当時19歳の少年が運転する直進車が衝突し、会社員は死亡した。直進車は法定速度の3倍を超える194キロで走行していたが、大分地検は「直線道路で走行を制御できていた」として過失運転致死罪を選択した。
そもそも制御できなかったから、事故は起きたのだ。納得できない遺族は署名を集めて訴因変更を求めた。補充捜査を経て訴因は危険運転致死罪に変更されたが、なお争われている。
遺族の声による訴因変更こそが要件の曖昧さを象徴する。一定の数値設定は必要である。
ただし、要件に定めた速度や数値が厳罰逃れの指標となってはならない。
例えば法定速度の2倍を高速度と定め、60キロ道路で120キロ以上のスピードで事故を起こせば「危険運転」となるが、これ以下の速度であっても「ながら運転」や飲酒などの複合要因で悪質な運転と判断されるケースはあり得る。数値を唯一の基準とすべきではない。
遺族らの強い処罰感情は、ただ怒りに任せたものではない。同じ不幸を経験する人がなくなるよう、事故そのものを恨み、撲滅を目指すものだ。
厳罰化や処罰対象の明確化が悲惨な事故の減少に寄与することは、飲酒運転の取り締まりが証明している。
飲酒や猛スピードの悪質さをより客観的に立証できるよう、数値基準を設ける方向を示した。
今は条文があいまいで、酒酔い運転の状態でも、時速200キロ近い速度を出していても、刑の軽い「過失」とされる例があり、遺族らが疑問の声を上げていた。
悲惨な事故をなくしていくために、開かれた場でさらに議論を重ね、多くが納得できる新たな適用の要件を導き出したい。
飲酒、高速度、信号無視、あおり運転などによる死傷事故のうち、とくに危険、悪質な運転に適用される。刑の上限は懲役20年で、「過失運転致死傷罪」の懲役7年よりずっと重い。
「過失」との分かれ目は、悪質さ(故意)が認められるかどうかだ。だが、条文にあるのは「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」や「進行を制御することが困難な高速度」といった文言でしかない。
アルコールの影響は体質や体調によって差異があり、速度も道路状況や運転技能に左右されうる。罪状の解釈に幅が生じ、起訴後に訴因が変わる例も相次ぐ。
3年前、大分市の一般道で時速約194キロで乗用車を運転し右折車と衝突、男性会社員を死亡させた事故では、県警が危険運転容疑で書類送検したのを、検察が過失運転で起訴。その後、再び危険運転に切り替えている。
いずれも遺族が危険運転での審理を訴えてのことだ。今月、大分市の事故の裁判員裁判で被害者の姉は「遺族が声を上げなくても危険運転で起訴されるべき事故はきちんと起訴される世の中になってほしい」と語っている。
今後、一律で危険運転と判断できる速度やアルコールの体内濃度の検討が続く。ただ、数値だけに縛られると、基準以下の悪質な運転に対応できないことも考えられる。どんな要件が適切か、多角的な議論が求められる。
被害者遺族らに理不尽な思いを抱かせない第一歩にしたい。悪質な運転で人を死傷させた際に適用される自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪を巡り、要件の見直しを議論してきた法務省の有識者検討会が報告書案をまとめた。曖昧さが指摘されてきた飲酒と高速度の規定を明確にする方向性を打ち出している。
危険運転致死傷罪は、飲酒や赤信号無視、高速度、あおり行為などが対象となる。1999年に東名高速道路で飲酒運転のトラックが乗用車に追突し女児2人が死亡した事故などを機に2001年、刑法に新設された。14年には交通事故に関する規定を刑法から独立させた自動車運転処罰法に組み込まれた。
悪質事故を「不注意」ではなく「故意」と捉える考えを軸としており、刑の上限は懲役20年。同じ処罰法の過失運転致死傷罪の懲役7年と大きな差がある。だが、条文が抽象的なため、法定速度を大幅に超えていたり信号無視で事故を起こしたりしても適用されないケースが相次ぎ、亡くなった被害者の遺族らが疑問の声を上げていた。
その報告書案は、現行法で処罰の対象を「正常な運転が困難な状態」とした飲酒、「進行の制御が困難」とした高速度について、それぞれ数値基準を設けることを提案している。被害者遺族らでつくる団体は1月、法改正を求めて法相に提出した要望書で、現行の要件では危険運転の罪が適用されにくいとして「制限速度の2倍以上」など具体的な内容に改めるべきだと訴えていた。数値基準を明確に示すことは、遺族をはじめとする市民の感覚に沿ったものと言えよう。
今後の課題は具体的な数値基準の設定だ。報告書案は、飲酒について呼気1リットル中のアルコールが「0・5ミリグラム以上」「0・25ミリグラム以上」「0・15ミリグラム以上」、高速度は「最高速度の2倍や1・5倍」といった選択肢を提示しているが、結論付けてはいない。
客観的な数値基準を設定する難しさを指摘する専門家もいる。アルコールや速度の測定が裁判の場で争われる事例もあり「数値を上回ったと証明する技術は確立されているのか」と疑問を呈する。また、酒の影響は体質など個人によって異なり、速度に関しても道路状況や運転技能といった要素に左右されるとして、客観的な数値設定自体が困難とする向きもある。
検討会はさらに協議し、報告書をまとめる。その後、法務省は法制審議会での議論など法改正の準備作業に入る予定だ。悪質な交通事故の撲滅には適切な罰則適用が欠かせない。議論を尽くし、基準となる数値の最適解を導き出してもらいたい。
現行法は要件があいまいで立証のハードルが高いとの批判があり、適用基準を明確にするなどの方針を示した。さらに議論を深め、悲惨な事故の撲滅につなげなければならない。
危険運転致死傷罪は2001年に新設された。東名高速道路で飲酒運転の大型トラックが乗用車に追突し、女児2人が死亡した事故がきっかけだ。飲酒や高速走行、信号無視、あおり運転などによる事故が対象で、法定刑の上限は懲役20年と過失運転致死傷罪(同7年)より重い。
だが同罪に問うには「進行を制御することが困難な高速度」や「アルコールの影響で正常な運転が困難」だったことを立証しなくてはならない。「事故を起こす前まで正常に運転していた」などの反論が認められる可能性があった。
飲酒を「過失」とするのは市民感覚からかけ離れ、立法趣旨にも反しよう。遺族らが納得できなかったのは当然だ。
報告書案では、速度や呼気中のアルコール濃度などの数値基準を定め、超えた場合に一律で同罪を適用することとした。具体的数値はこれからの検討課題になる。
厳罰化だけで事故を根絶することはできない。ドライバー一人ひとりの安全意識を高めるため、交通教育や啓発を充実させる必要がある。