【見限りは時間の問題か】おろしは回避も…石破首相が陥った「ポスト明け渡し」で国会大紛糾の地獄絵図(2024年11月14日『FRIDAY』)

新人議員が「まさかの大失態」
キャプチャ
第二次石破政権を発足させた石破首相
「まだ終わってませんよね?」
11月7日夕方5時半過ぎ、均整の取れたスタイルが目を引く美女が、自民党本部の出入り口にたまった記者団に慌てた様子でそう尋ねた。
キャプチャ
 
両院議員懇談会に2時間半も遅刻してきやってきた、その女性は――、元タレントで比例代表東北ブロックで初当選した自民党森下千里衆院議員(43)だ。新人候補では全国で唯一、単独2位と名簿で優遇されていた。慌ててエレベーターに駆け込み、彼女が向かったのは修羅場と化していた901号室だった。
「私に至らぬところが多々あった。深く反省し、お詫びをしなければならない」
衆院選で大惨敗を喫した石破茂総理(67)は深々と頭を下げた。
石破総理は予定を1時間延長し、3時間にわたって陳謝。懇談会ではじつに50人が発言し、石破総理や党執行部の責任を問う声が相次いだ。辞意を表明すべきだ、と批判の口火を切ったのは、青山繁晴参院議員(72)だ。
「年末に予算編成をするわけで、その前に潔く辞意を表明されるべき」
会の終了後も怒りは収まらず、囲み取材で青山氏はこう吠えた。
「はっきりと辞意を求めたのは私一人でしたが、事実上、賛同した方が7~8人いました。麻生政権が都議会議員選挙で負けた際、石破さんは『あなた辞めなさい』と麻生太郎さん(84)に迫った。安倍政権が参院選で敗北したときは安倍晋三さんに辞任を求めた。今度はご自身が総選挙で負けているわけです。それで辞意を表明されないのは誰がみてもおかしい。世界中そう思う。総選挙の結果ですから」
不満続出の元凶となったのは、非公認候補が支部長を務める自民党の党支部に公認候補と同額の2000万円が支給されるという党の失態。選挙戦終盤で『しんぶん赤旗』にすっぱ抜かれ、自民党への逆風が強まった。
◆麻生元総理の動きは…
森山裕幹事長(79)から「法にのっとった対応」との説明があったものの、「幹事長の説明はよくわからなかった」(西田昌司参院議員)と、誰がいつ支給を決めたのか、決定に至るまでの詳細な説明はなかった。
ただ、3時間に及んだ懇談会は船田元元経済企画庁長官(70)が「一丸となり難局を乗り切らねば与党でいられなくなる」と収めて、「石破おろし」には至らなかった。
「総裁選から1ヵ月半ほどしか経過しておらず、現状の少数与党の状況で総裁を変えたところで事態は打破できない。『今更、誰かに代わっても同じだから、とりあえず石破政権で乗り切ろう』という消極的な容認論が広がっている」(旧岸田派の中堅議員)
懇談会では麻生氏の所作に注目が集まっていた。麻生派所属の猪口邦子少子化担当相(72)が振り返る。
「麻生さんが最初から最後までいたことは意味があるんじゃないですか。3時間の長丁場で、一切の言葉を発しなかった。目はつぶっていましたが、居眠りすることもなく、姿勢を崩すこともなく、ずっと座っていました。最後まで議論を見守っていたのは、かつて石破総理に『麻生おろし』をされたけど、“今は耐え忍んで頑張れよ”と無言のエールを送ったのではないでしょうか」
石破総理は頭を低くして両院議員懇談会を切り抜け、特別国会での首相指名選挙での決選投票による選出で自らのクビをつないだ。年内に退陣に追い込まれることはなさそうだが、「前途多難」であることに変わりはない。
「国会で委員長・会長職を野党に譲ったことで、政権運営が綱渡りとなってしまった」
厳しい表情で語るのは、選挙プランナーの藤川晋之介氏である。
衆院選大敗を受け、特別国会で自民党は17ある常任委員長職のうち、7つを野党に譲ることとなった。特別委員会や審査会の5つのポストも野党に奪われ、衆院予算委員会の委員長には安住淳国対委員長(62)、憲法審査会会長に枝野幸男元代表(60)が就任。あわせて12の委員長・会長ポストが野党のものとなった。
◆「論戦」という一縷の望み
予算委員会には総理を筆頭に閣僚全員が出席し、与野党で論戦が繰り広げられる。その委員長を野党議員が務めることは異例。テレビ中継も入り、『国会の花形』と呼ばれる予算委では予算の審議だけでなく、与党のスキャンダルも議論されてきた。与党優位であれば、野党側がスキャンダルにまつわる証人を国会で喚問しようとしても数の力で突っぱねることができたが、委員長職も奪われてしまった。スキャンダルが出れば、国会でそのまま論戦となる可能性が出てきた」(藤川氏)
政治倫理審査会や証人喚問を行うことになれば、裏金議員らの招聘も可能となるだろう。これまでのような強行採決も乱発できず、与党の都合で国会運営はできなくなる。
年末の臨時国会、来年の通常国会もおそらくは「政治とカネ」一色で、石破総理は防戦一方にならざるをえない。野党側は政治活動費廃止や毎月100万円が支払われる調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開を求めるだろう。そこで自民党が譲歩し、国民の求める成果がある程度出たとしても手柄は野党のものとなり、石破政権の得点とはならない。
「政活費廃止や旧文通費の公開は自民としても譲歩できなくはない。だが、自民党の資金源となる企業団体献金の廃止や政治資金パーティーの廃止を打ち出されたら、当然のめない。石破総理が野党の追及をどうかわすのか。うまく逃げられれば石破政権はボロボロでも存続できるが、無理なら党内から石破首相を見限る声が出てくるだろう」(全国紙政治部記者)
就任直後からはやくもサンドバッグと化した石破政権。打開策はなさそうだが「希望はある」と言うのは、自民党ベテラン秘書だ。
「予算委員長を立憲民主党に明け渡したが、委員長職についたのは安住氏。森山幹事長が国対委員長を務めていた時の相手が安住氏で、裏ではこの二人を中心に与野党で手を握り合っていた。その後も森山氏と安住氏の蜜月は続いている。今回も裏で意思疎通を図り、『政治とカネ』の問題もほどほどで収まるだろう。
また石破総理自身は論戦は得意で、論理的に語れる野党議員とは噛み合う。野田代表は穏健保守で石破総理と政策も近く、政策面でもめることは少ないだろう。四面楚歌と目される予算委員会で、逆に総理の株が上がる可能性もある」
衆院選の大敗により、皮肉にも「石破おろし」は起きなかった。
だが、両院議員懇親会において新人議員に遅刻されるような総理・総裁の未来が明るいと言えるだろうか――。
取材・文:岩崎大輔