家でも「唐十郎」貫いた父 次男、大鶴佐助語る 「旅行体験を戯曲にしろ」とむちゃぶりも(2024年11月14日『産経新聞』)

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劇作家の唐十郎
アングラ演劇の旗手と呼ばれ、時に警察と衝突しながら野外に紅テントを張って演劇活動を続けた劇作家、唐十郎(1940~2024年)が今年5月、84歳で死去してから半年が過ぎた。次男で俳優の大鶴佐助(31)が、舞台「ヴェニスの商人」出演を前に、父について語った。
家族旅行も戯曲化
「父は家でもずっと唐十郎のままで、座長として常に自分を鼓舞しているように見えました。でも(平成24年に)倒れてからは、本名の大靏義英に戻り、穏やかな時間を過ごしているように見えました」
東京都内の自宅には稽古場があり、生まれたときから劇団員が常に一緒。家族も劇団員も全く同じ扱いで、同じ食卓を囲む環境で育った。演劇漬けの環境だっただけに、俳優の道を選んだのも自然だったが、唐は大鶴の幼少時、劇作家になることを望み、英才教育を施したという。
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都内の自宅庭で、父の唐十郎(左)と遊ぶ大鶴佐助=平成11年ごろ(本人提供)
「小学校時代は家族旅行に行くと、『旅行体験を戯曲にしろ』などとむちゃを言われ、書斎に閉じ込められました。次の日、添削され、しかも劇団合宿でそれを劇団員に読ませる。恥ずかしくて本当に嫌でした」
平成19年にはNHKドラマ「わたしが子供だったころ~劇作家・演出家・俳優 唐十郎~」で、「無自覚なまま」父の幼少期を演じた。中高生時代に反抗期を迎えると、「演劇はやらない」宣言をした時期もあったが、父の作品「ビニールの城」を見て、せりふの美しさに心が震え、泣いてしまう自分もいた。「反発もするけれど、認めざるを得なかった」と複雑な思いを抱きつつも、同じ演劇の道を選んだ。
本名に戻った12年間
「落ち込んでいる姿を、見たことがない」(大鶴)ほど24時間、パワフルに活動していた唐だったが、12年前に自宅で転倒し、脳挫傷の大けがを負った。自身が主宰した状況劇場や劇団唐組の舞台映像をよく見て泣き笑い、大鶴が舞台に立つようになると、客席で涙をこぼす場面もあった。
「父はナルシシズムの塊でしたから、自分と見た目や演技、言い回しが似ている息子を見て、自分で自分の分身に、感動していた節があります」
特に大鶴が、舞台で独創性や個性を発揮すると、人懐っこい笑顔で喜んだ。晩年、戯曲が書けないつらさはあったはずだが、家族の穏やかな時間を過ごした。「演劇しか能のなかった人が、本名に戻って生き直したようでした。でも亡くなって半年たった今、やはり、〝唐十郎〟の姿しか浮かびません」
舞台にやりがい
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「父は家でもずっと〝唐十郎〟でした」と話す大鶴佐助(安元雄太撮影)
野田秀樹作品への出演や、劇団ヒトハダ座長としての活動など多忙な大鶴。12月6日からは、シェークスピアの「ヴェニスの商人」(森新太郎演出)に、グラシアーノ役で出演する。高利貸のユダヤシャイロック(草彅剛)から、友人の信用を元手に借金をするバサーニオの友人役だ。
ユダヤ人迫害の歴史を知っている分、差別的にも読めて、単純な勧善懲悪の話とは読めない」と大鶴。借金のカタに1ポンドの肉を要求するシャイロックの人肉裁判は、キリスト教徒の欺瞞も暴く。その中で、グラシアーノは、多弁で陽気、かつはみ出す存在だ。
「多面的な物語で、文字より舞台で見る方が面白く、やりがいを感じます」。父と同じ道を、誇りを持って歩んでいる。(飯塚友子)
ヴェニスの商人」の東京公演は12月22日まで、日本青年館ホール。26~29日、京都劇場。問い合わせはこちら。来年1月6~10日、名古屋・御園座(052・222・8222)。
から・じゅうろう 劇作家、演出家、俳優、小説家。東京都出身。昭和37年に明治大卒業後、劇団「状況劇場」を結成。新宿・花園神社境内など野外に紅テントを設える上演スタイルで、寺山修司らと並ぶアングラ演劇の中心的存在として活躍した。代表作に「少女仮面」「腰巻お仙」「泥人魚」など。小説「佐川君からの手紙」で芥川賞を受賞。

 
草彅剛が遂に挑む!
シェイクスピア不朽の名作!
時代を超えて愛され続ける数々の名作を世に残しているが、中でも『ヴェニスの商人』は深い人物描写と痛快な展開で圧倒的な人気を誇る最高傑作のひとつ。
演出を手掛けるのは、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞に輝き、現代演劇界で最も実力のある演出家の一人である森新太郎。
古典の常識を覆す新しいアプローチで、歴史ある名作を現代のエンターテインメントに生まれ変わらせる!
稀代の悪役・シャイロックを草彅剛がどのように演じるのか、2024年最大の注目作が幕を開ける…。
Story
貸した金を返せなかったら、あんたの体から、
きっかり1ポンド、切り取らせてもらおうか ―――
高利貸しのシャイロック(草彅剛)は高潔な商人・アントーニオ(忍成修吾)にそう突きつける。
親友・バサーニオ(野村周平)が富豪の美女ポーシャ(佐久間由衣)に求婚する為の資金を援助したいアントーニオはシャイロックの申し出を受け入れる。
アントーニオの助けを得てバサーニオはポーシャのいるベルモントに向けて旅立つ。供の友人・グラシアーノ(大鶴佐助)がポーシャの侍女ネリッサ(長井短)と恋仲になるなど、全ては順調に運んでいた。
一方で、シャイロックの娘・ジェシカ(華優希)がバサーニオらの友人・ロレンゾー(小澤竜心)と駆け落ち。それを知ったシャイロックは激昂する。
更に、アントーニオの財産を積んだ船が海に沈んでしまう。
シャイロックは「肉1ポンド」の契約をかざし、容赦なく冷酷にアントーニオを追い詰める……。
Cast&Staff
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