国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)の会場に集まる参加者ら=11日、アゼルバイジャン・バクー(共同)
開幕したCOP29で世界の結束を訴えたアゼルバイジャンのムフタル・ババエフ議長=AP
COP29合意 脱炭素の加速へ結束を(2024年11月28日『京都新聞』-「社説」)
アゼルバイジャンで開かれていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が閉幕した。
途上国の脱炭素化や異常気象による被害対応を支援するため、先進国は2009年、年1千億ドル(約15兆円)を拠出することを約束し、目標より2年遅れて22年に達成した。COP29では今後の支援額などの調整が焦点だった。
先進国側は2・5倍の年2500億ドルを提示したが、途上国側は13倍の規模を要求して対立。最後は、先進国が35年までに少なくとも年3千億ドルを支援することで合意した。
世界全体では官民合わせて年1兆3千億ドルに支援を拡大し、中国や産油国など経済力のある国にも貢献を促すことも盛り込んだ。
しかし合意内容に対し、インドが「目の錯覚だ」と強く反対するなど、途上国や新興国の多くが失望を表明。国連のグテレス事務総長も「直面する課題に対処するため、より野心的な成果を期待していた」と不満を表した。
世界中で気候危機が深刻化する中、肝心の温室効果ガスの排出削減を巡る議論が進まなかったのもきわめて残念だ。
国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前からの気温上昇を1・5度以内に抑える目標を掲げる。だが現行の対策では不十分なのは明らかで、目標達成には35年の温室ガス排出を19年比で60%減らす必要があるのに、追加策は乏しい。
中国に次いで温室ガス排出量が多い米国の動向も懸念される。トランプ次期大統領は温暖化対策に懐疑的で、1期目にはパリ協定から離脱した。今回も再離脱を主張しているが、取り組みへの打撃は計り知れず、各国はとどまるよう働きかけを強めねばならない。
だが、いずれにも日本は参加せず、脱炭素化を主導する存在感を示せなかった。トランプ氏の「米国第一主義」に対し、国際協調が重要さを増す時期だからこそ、日本は役割を発揮すべきではなかったか。
COP29合意 温暖化対策へ結束を保て(2024年11月28日『西日本新聞』-「社説」)
地球温暖化は人類共通の課題である。人命を奪う猛暑や過酷な自然災害が頻発している。相次ぐ紛争や対立を乗り越え、世界が結束しなければ克服できない。
年1千億ドルの現行目標の3倍で、世界全体では年1兆3千億ドルに拡大することも目指す。先進国の資金だけで年1兆3千億ドルを求める新興国インドや途上国の一部には強い不満が残った。
大量の温室効果ガスを排出した責任と経済力に見合う資金を要求する途上国と、負担を軽減したい先進国との溝は埋まっていない。
それでも、合意に至らずに世界的な気候変動対策が停滞する事態だけは回避できた。この点は評価したい。
現行目標の1千億ドルが最初に決まった09年以降、この額に初めて達したのは22年だった。早期達成も課題だ。
COP29で存在感を示したのは、会場にいないトランプ次期米大統領だった。
トランプ氏は「気候変動はでっち上げ」と根拠のない主張を続け、大統領1期目の20年に米国を温暖化対策の国際枠組みパリ協定から離脱させた。バイデン政権になって復帰したが、来年1月のトランプ政権再スタート後は再離脱が確実視されている。
トランプ氏の返り咲きにより、温暖化対策に巨額の資金を拠出してきた世界第2の排出国、米国が方針転換する公算が大きくなった。その要素もCOP29における各国の歩み寄りを難しくした。
こうした温暖化対策の潮流に逆行する姿勢は、気候変動に懐疑的な他国の指導者を勢いづかせている。「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれるミレイ大統領は、COP29の会期序盤に自国の代表団を帰国させた。パリ協定からの離脱の是非を検討しているとの報道もある。
今回の合形成が難航する中で、日本が交渉力を発揮できなかったのは残念だ。
日本は温暖化対策に積極的な欧州各国などと連携し、トランプ新政権にパリ協定に踏みとどまるよう働きかけるべきだ。資金協力とともに、日本が果たすべき国際的使命である。
経済成長との両立には課題が山積するが、幅広い企業に行動変容を促し、化石燃料に依存する産業構造の転換や脱炭素化の技術革新を後押しするのではないか。
取引制度は、政府が対象となる企業に対し、排出量を定めた「排出枠」を無償で割り当てる。余剰分や不足分は株式のように市場で売買でき、不足を穴埋めできない企業は負担金を支払う。
企業のCO2排出量に価格を付け、費用負担を課す「カーボンプライシング」の一環。脱炭素化推進の有力な手段として欧州連合(EU)や韓国などが導入する。日本は23年度から企業の任意参加で試験的に実施している。
法的拘束力を伴う制度の導入に関し、産業界が懸念するのはCO2排出量削減の負担増による収益や競争力の低下だろう。コストを製品やサービスの価格に転嫁せざるを得ず、制度の対象外となる企業との間で不公平感が出る懸念もある。
経済産業省は、企業が削減に取り組んだ結果、値上げした製品を適正に評価する仕組みづくりなどを検討する。環境価値の高い製品に対する理解促進が欠かせず、消費者も意識変革が必要となる。
排出枠の公平な基準設定については業種の特性に応じた指標を作るほか、各企業のGX関連の研究開発投資や過去の排出削減努力なども勘案する方針だ。
一方、排出量に見合った応分の負担を求めなければ、脱炭素化に向けた歩みは停滞する。政府には配慮と負担のバランスを考慮しつつ、着実な排出削減につながる制度設計を求めたい。
対象企業が排出枠を減らす目的で取引先の中小企業に設備移転する行為や排出規制の緩い国に生産活動や投資を移す「カーボンリーケージ」への対応も、今後の課題となろう。リスクが高い業種の削減目標を緩和するなど、海外の先行事例を参考に対策を講じてほしい。
取引制度の本格導入に続き、28年度に化石燃料の輸入事業者からの賦課金、33年度にはCO2排出量に応じた発電事業者からの負担金の徴収がそれぞれ始まる。
企業への義務付け強化は、気候変動対策のコストを社会全体で負担する取り組みでもある。50年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする政府目標の達成に向け、官民一体でさらに知恵を絞りたい。
COP29閉幕 途上国への支援着実に(2024年11月26日『北海道新聞』-「社説」)
アゼルバイジャンで開かれていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が成果文書を採択し、閉幕した。
途上国の温暖化対策に充てるため、先進国が2035年までに少なくとも年3千億ドル(約46兆4千億円)を支援する目標を盛り込んだ。現行目標の年1千億ドルから3倍となる。
米国のトランプ次期政権は気象変動対策の国際ルール「パリ協定」から1期目に続き離脱することが確実視される。国際協調の枠組みが揺らぎかねない。
だが温暖化は加速している。取り組みに一刻の猶予もない。海面上昇や豪雨など温暖化の被害を最も受けるのはインフラが脆弱(ぜいじゃく)な途上国だ。
資金目標を巡る先進国と途上国の主張の隔たりは大きく、一時、交渉決裂も危ぶまれたが、会期を延長して妥結に至った。
ただ1兆ドル以上を要求していた途上国側には不満が残る。
目標達成も見通せない。官民合わせた資金のうち、政府が拠出する無償資金の割合などは先進国側の意向で盛り込まれなかった。09年に決まった現行目標にしても、目標額に届いたのは22年が初めてだ。
世界全体では途上国への拠出を35年までに年1兆3千億ドルに拡大するよう呼び掛けた。中国などを念頭に協力を促した格好だが、義務化は見送られた。
中国は世界で第2位の経済大国となり、最大の排出国となった。責任を一層自覚すべきだ。
参加国は35年までの新たな削減目標を来年2月までに国連に提出する。日本は高い目標を掲げるべきである。
目標の裏付けとなるエネルギー基本計画の議論がヤマ場を迎える。石炭火発からの脱却と再生可能エネルギーの主力化に道筋を付ける必要がある。
薄氷のCOP29合意 国際協調守る努力さらに(2024年11月26日『毎日新聞』-「社説」)
温暖化の原因を作ってきた先進国の拠出額を2035年までに、現状の3倍の年3000億ドル(約46兆5000億円)へ引き上げる。1兆ドル以上の支援を求めてきた途上国が最後まで難色を示したため、薄氷の合意となった。
国連のグテレス事務総長は声明で「より野心的な成果を望んでいた」と述べ、合意内容は十分ではなかったという認識を示した。
ただ、先進国の財政余力も少ない。新興国を含むすべての当事者が年1兆3000億ドル以上への拡大を目指すことを、合意に盛り込んだのは妥協の産物だ。
中国や産油国など経済力のある国に拠出を求めるとともに、民間資金を呼び込む仕組みを整備する必要がある。
交渉が難航した背景には、米大統領選で温暖化対策に消極的なトランプ氏が返り咲きを決めたこともある。巨額の資金を拠出してきた米国が方針転換する公算が大きくなり、各国の歩み寄りをより困難にさせた。
対立の余波で、石炭火力発電の廃止時期など排出削減の具体的な議論も停滞した。昨年のCOP28では「化石燃料からの脱却」をうたう文書が採択されたが、目立った前進はなかった。
だが、温暖化防止の取り組みを止める余裕はもはやない。
今年は最も暑い1年となることが確実視され、気温上昇は想定を超えて進む。頻発する自然災害は人類の生存を危うくしている。
来年、パリ協定の採択から10年を迎える。各国は2月までに35年に向けた削減目標を国連に提出することになっている。
人類が直面する深刻な危機を直視し、脱炭素社会の潮流を確かなものにする。そのための国際協調こそ、各国の指導者には求められている。
COP29閉幕 脱炭素の負担の担い手増やせ(2024年11月26日『読売新聞』-「社説」)
再生可能エネルギーへの転換や、気温上昇に伴う災害の防止や復旧のための社会基盤整備には、どの国も巨額の費用がかかる。
先進各国が国際機関などを通じて拠出する気候資金の裏付けがなければ、途上国は温暖化対策を進めることができない。
今回は、途上国への支援目標について、現行の年1000億ドルから、2035年までに3倍の年3000億ドル(約46兆円)に増額することで決着した。
途上国側は当初、1兆ドル規模の拠出を求め、インドは強い失望を表明した。とはいえ、最終的に先進国と途上国が拠出増で合意した意義は小さくない。
合意した目標額を先進国だけでまかなうのは難しい。そもそも、09年に決めた現行目標が達成されたのは22年になってからだ。経済発展を遂げた中国や、中東の産油国にも応分の負担を求めていくことが重要である。
米国は、バイデン政権で温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰し、欧州と並んでCOPの議論を主導してきたが、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領の返り咲きが決まった。パリ協定から再び離脱するのは確実だ。
一方、米連邦政府の動きとは別に、州政府や米民間企業では、脱炭素の動きが活発化している。トランプ政権が温暖化に背を向ければ、自国の産業競争力を阻害する結果を招くのではないか。
パリ協定は、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前に比べ1・5度に抑えることを目標にしている。各国が温室効果ガスの削減目標を打ち出しているが、全ての国が目標を達成しても1・5度超の上昇が避けられない情勢だ。
このため、各国は、新たな目標を来年2月までに発表する。英国は今回のCOPで、「35年に1990年比で81%削減」という高い目標を前倒しで宣言した。
日本は2030年に、13年度比で46%削減を目標としている。35年の新目標では大幅な積み上げが期待されている。検討を急がなければならない。
COP29閉幕 中印の脱途上国が必要だ(2024年11月26日『産経新聞』-「主張」)
一挙に3倍増、3千億ドル(約46兆4千億円)に跳ね上がることになった。
アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で決まった、先進国から途上国に提供する気候変動対策資金の額である。
先進国は2035年までに年額3千億ドルの拠出達成を約束させられたのだ。地球温暖化は先進国が排出した二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)が原因とするのが、途上国の言い分だ。今年は対策資金額の更新年であったのに加え、近年の気象災害の多発が途上国の被害者意識を増大させ、資金要求の大合唱になったのだろう。
だが現行の資金提供の枠組みには看過できない矛盾が根を張っている。経済大国に成長した中国は世界1位のGHG排出国であるにもかかわらず、国連気候変動枠組み条約では「途上国」の位置づけなのだ。排出量3位のインドも同様だ。
両国は資金拠出側に加わるべきだが、COP29の成果文書には「途上国の自発的な貢献を奨励する」との無力で遺憾な表現が加えられたのみだった。
しかも、来年1月には米国でトランプ政権が発足する。トランプ氏は脱炭素に否定的で、パリ協定からの米国の再離脱が懸念される状況だ。米国の去就が今後のCOPの機能に重大な影響を及ぼすのは間違いない。米国が退場すれば、温暖化対策を通じての中国の途上国支配が予見される。トランプ氏には、この点に留意してもらいたい。
GHGの適切な排出削減で気温上昇と自然災害の抑制を目指すCOPの機能が、不全状態に向かっている。元来、地球温暖化問題の背景には、先進国と途上国の経済格差による南北問題が存在していたのだが、気温抑制に効果がみられないまま、支援資金のみが肥大した結果が現状であるとすれば残念だ。
閉塞(へいそく)状況の打開には、気温上昇と自然変動の関係にも焦点を当てた科学研究の復活をはじめ、中印など新興国の「脱途上国」を軸とするCOPの制度改革が急務であろう。
COP29閉幕 後戻りはさせられない(2024年11月26日『東京新聞』-「社説」)
アゼルバイジャンの首都バクーで開かれていた気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は会期を2日間延長し、先進国から途上国に拠出する気候対策資金の目標額に辛うじて合意。現地時間の24日早朝に閉幕した。依然、双方の主張に隔たりは残るが、地球温暖化の影響が世界を覆う中、後戻りはさせられないという認識を共有できた意味は大きい。
化石燃料由来の温室効果ガスを大量に排出しながら経済発展を遂げてきた先進国。結果として引き起こされる異常気象の影響に対して脆弱(ぜいじゃく)な途上国-。両者の溝は深いが、産業革命前からの気温上昇を1・5度以内に抑える「パリ協定」の目標を達成するには、途上国の参加が不可欠だ。これまでに途上国が異常気象に適応し、再生可能エネルギーなどに移行して脱炭素化を進めるのに必要な資金を日本を含む先進国が支援することでは合意、既に支援も進む。
今回は、その「気候資金」の増額が最大の焦点だった。年1兆ドル(約153兆円)以上の支援を求める途上国に対し、あわや決裂かという難産の末に、従来の拠出額から3倍増、2035年までに年3千億ドル(約46兆円)以上に拡大し、さらに民間の投資を促すなどして年1兆3千億ドル(約200兆円)を目指すことで合意した。
採択直後、インドなど新興国や途上国から「目標額が低すぎる」という声が相次ぐなど、溝が埋まったわけではない。それでも瀬戸際で決裂が回避されたのは、先進国、途上国双方が地球の今と未来への危機感を共有し、ともに「気候危機」に立ち向かうほか道はないと認識しているゆえだろう。
米大統領選で、国際的な温暖化対策ルール・パリ協定からの離脱を公約したトランプ氏の再登場が温暖化対策の前途に影を落とす。だが、米国内でもカリフォルニア州やニューヨーク市、マイクロソフトといった計約5千の州や自治体、企業などで組織する全米最大の気候有志連合「アメリカ・イズ・オール・イン」は、COP29の会場で開いたイベントで、「対策を前進させるために引き続き全力を尽くす」と気勢を上げた。
立場に差異はある。しかし、国際社会の結束なくして気候危機を食い止めることは不可能だ。今回のCOPをステップに、パリ協定という「きずな」をさらに強くして、対策を加速させたい。
COP29閉幕 危うい温暖化対策の協調(2024年11月26日『信濃毎日新聞』-「社説」)
途上国と先進国との隔たりを改めて浮き彫りにした会議だった。
国連気候変動枠組み条約の締約国による第29回会議(COP29)が閉幕した。
焦点は、気象災害に備えるインフラ整備や再生可能エネルギーの導入など、途上国が進める温暖化対策への資金支援の目標額をどこまで引き上げ、それを誰が負担するのかだった。
最終的に、先進国主導で2035年までに年3千億ドル(約46兆円)以上を支援する目標設定で落着した。現在の年1千億ドルの3倍に当たるが、途上国側は10倍の1兆ドル規模を求めていた。会期の延長を余儀なくされた上、成果文書を採択した後も批判の声が上がった。薄氷の合意である。
COPは、気象災害や食糧難といった温暖化の影響を最も受ける途上国が先進国に直言できる場である。決裂させず、その枠組みを守った意味は大きい。
世界全体の拠出額を官民合わせて年1兆3千億ドル以上にしていく目標も採択されている。大事なのは合意を着実に履行し、さらに踏み込んだ目標に向け、取り組みを進められるかどうかだ。
9年前に合意した「パリ協定」の実現は厳しさを増している。産業革命前からの平均気温の上昇幅を1・5度に抑えるため、今世紀後半の温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すとしているが、上昇傾向に歯止めがかからない。
それなのに、石油や石炭といった化石燃料の「脱却」で合意した昨年のCOP28に比べ、熱気を欠いた感は否めない。
開催直前の米大統領選で、温暖化に否定的なトランプ氏の返り咲きが決まった。アルゼンチンは代表団を帰国させ、日本など主だった先進国の首脳も欠席した。
各国は来年2月までに、35年までの温室効果ガスの新たな排出削減目標を提出する。先進国がそこでどれだけ高い目標を提示できるかが対策の成否を占う鍵になる。これまでの温暖化は、先進国が排出してきた大量の温室効果ガスに起因しているからだ。
その責任の一端を担う日本の存在感が薄い。会議中に発足した石炭火力発電所の新設に反対する有志国連合に、米国とともに参加を見送った。先進7カ国ではこの2国のみだ。政府任せにはしておけない。市民も関心を高め、政治を動かしていく必要がある。
COP29閉幕/途上国との亀裂を埋めよ(2024年11月26日『新潟日報』-「社説」)
アゼルバイジャンで開催されていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が閉幕した。発展途上国の地球温暖化対策のため先進国が支援する資金目標を巡って紛糾し、会期を2日間延長して、2035年までに官民合わせて少なくとも年3千億ドル(約46兆4千億円)を支援する目標で合意した。先進国と途上国が対立する中、かろうじて合意を成立させた点は評価したい。
ただ、新興国や途上国の一部には「目標が低すぎる」などの反発が残ったままだ。国連のグテレス事務総長も「より野心的な成果を期待していた」と不満を表明した。世界で温暖化防止の取り組みが着実に進むよう、先進国は途上国との協議を継続するなど、両者間の亀裂を埋める努力を重ねなければならない。
先進国は2009年、20年までに年1千億ドルを途上国側に支援する目標に合意し、2年遅れて22年に達成した。今回の会議では、これに続く目標の決定が焦点になっていた。
先進国は年2500億ドルの支援額を提示し、合意に至らないまま閉幕日を迎えた。最終的に合意した額は現行目標の3倍で、世界全体では年1兆3千億ドルに拡大させることも求める内容になった。無償供与などの手段を活用しながら資金を拡大する枠組みも設けるとした。
それでも、途上国側が求めた年数兆ドルという額との隔たりは大きい。支援の内容が、債務増加につながる貸し付けや投資を含んでいた点も反発を招いた。各途上国は豪雨や海面上昇などの異常気象で既に大きな被害を受けており、多額の復旧資金を必要としている。途上国側からみれば失望感の残る合意だったと、先進国側は自覚する必要がある。
会議では、中国や産油国など経済力のある国に対しても資金拠出を促す点で合意した。先進各国は支援拡大に向けて、中国などとの交渉にも粘り強く取り組んでもらいたい。
今後の懸念材料の一つは、米国の大統領に就任するトランプ氏の動向だ。産業革命前からの気温上昇を1・5度に収めるという目標を掲げる「パリ協定」からの離脱を公約に掲げている。途上国支援にも後ろ向きになれば、影響は極めて大きい。各国は国際協調の枠組みから外れないよう米国を説得すべきだ。
各国は来年2月までに、35年の温室効果ガス排出削減目標を国連に提出することになっている。日本政府は、世界をリードする踏み込んだ数値を表明できるかが問われる。
COP29閉幕 先進国は排出責任自覚せよ(2024年11月26日『中国新聞』-「社説」)
アゼルバイジャンで開かれていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国に向けた先進国の支援について、2035年までに官民合わせて少なくとも年3千億ドル(約46兆円)とする目標で合意した。
現行の3倍に上るが、途上国側には年1兆ドル超を求める声もあった。国連のグテレス事務総長は「より野心的な成果を期待していた」と不満をにじませた。
途上国への支援金はクリーンエネルギーへの転換や異常気象による被害対応に使われる。背景には、先進国が大量に出した温室効果ガスによって、ほとんど排出しない途上国の貧困層が最初に大きな影響を受けるという不公正さがある。支援の規模が小さいとする途上国の反発は理解できる。大排出国の一つである日本も責任を自覚すべきだ。
ただ支援金は、先進国にも簡単に出せる額ではない。どこにどんな対策が要るのかをはっきりさせることも重要だろう。支援の総額だけを突き付けられては困る面もある。
「気候変動はうそだ」と唱え、対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明している米国のトランプ次期大統領の存在が、議論の停滞を招いた点は否めない。
米国が支援金を出さず、日本や欧州の負担が膨れる可能性もある。トランプ氏にこの問題の重要さを分からせる努力を国際社会は惜しんではならない。支援を確実にするため、中国や中東の産油国にも資金を出させるよう仕組みを見直す必要もある。
このままでは地球は人が住めない場所になる。既に多くの国で夏の暑さは過酷で、大規模な風水害や干ばつが頻発する。世界の気温が1・5度上がると豪雨は1・5倍、干ばつは2倍になるという。対策は待ったなしだ。それなのに各国の足並みはそろわず、強力なリーダーもいない。将来への不安が高まる。
日本の存在感は薄かった。議論をリードできないばかりか、今年も環境団体から不名誉な「化石賞」を先進7カ国(G7)の一員として贈られた。温暖化対策に後ろ向きな国だと改めて非難された。
蓄積のある防災技術や、エネルギー効率化、蓄電池などの分野で日本は貢献できるのではないか。最先端技術の開発で、各国が協力する仕組みづくりを主導してほしい。
もはや経済成長か環境保全かという二者択一ではない。猛暑や災害で経済活動が制限されることによる損失は計り知れぬ。気候変動対策が長期的には経済対策になるという認識を世界で共有すべきだ。
気になるのは、迫る危機から目をそらし、都合の良い情報だけを信じて楽観する風潮が一部に見られる点だ。われわれには、安心して暮らせる環境を後世に残す責務がある。難問に正面から向き合う姿勢を持ち続けたい。
COP29閉幕 先進国は排出責任自覚せよ(2024年11月26日『高知新聞』-「社説」)
アゼルバイジャンで開かれていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国に向けた先進国の支援について、2035年までに官民合わせて少なくとも年3千億ドル(約46兆円)とする目標で合意した。
現行の3倍に上るが、途上国側には年1兆ドル超を求める声もあった。国連のグテレス事務総長は「より野心的な成果を期待していた」と不満をにじませた。
途上国への支援金はクリーンエネルギーへの転換や異常気象による被害対応に使われる。背景には、先進国が大量に出した温室効果ガスによって、ほとんど排出しない途上国の貧困層が最初に大きな影響を受けるという不公正さがある。支援の規模が小さいとする途上国の反発は理解できる。大排出国の一つである日本も責任を自覚すべきだ。
ただ支援金は、先進国にも簡単に出せる額ではない。どこにどんな対策が要るのかをはっきりさせることも重要だろう。支援の総額だけを突き付けられては困る面もある。
「気候変動はうそだ」と唱え、対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明している米国のトランプ次期大統領の存在が、議論の停滞を招いた点は否めない。
米国が支援金を出さず、日本や欧州の負担が膨れる可能性もある。トランプ氏にこの問題の重要さを分からせる努力を国際社会は惜しんではならない。支援を確実にするため、中国や中東の産油国にも資金を出させるよう仕組みを見直す必要もある。
このままでは地球は人が住めない場所になる。既に多くの国で夏の暑さは過酷で、大規模な風水害や干ばつが頻発する。世界の気温が1・5度上がると豪雨は1・5倍、干ばつは2倍になるという。対策は待ったなしだ。それなのに各国の足並みはそろわず、強力なリーダーもいない。将来への不安が高まる。
日本の存在感は薄かった。議論をリードできないばかりか、今年も環境団体から不名誉な「化石賞」を先進7カ国(G7)の一員として贈られた。温暖化対策に後ろ向きな国だと改めて非難された。
蓄積のある防災技術や、エネルギー効率化、蓄電池などの分野で日本は貢献できるのではないか。最先端技術の開発で、各国が協力する仕組みづくりを主導してほしい。
もはや経済成長か環境保全かという二者択一ではない。猛暑や災害で経済活動が制限されることによる損失は計り知れぬ。気候変動対策が長期的には経済対策になるという認識を世界で共有すべきだ。
気になるのは、迫る危機から目をそらし、都合の良い情報だけを信じて楽観する風潮が一部に見られる点だ。われわれには、安心して暮らせる環境を後世に残す責務がある。難問に正面から向き合う姿勢を持ち続けたい。
結ぶ(2024年11月26日『高知新聞』-「小社会」)
ひもが生き物のように動き「結び」が完成する。その様子を興味深そうに見ている子どもたち。今月の中旬、高知市内で県ものづくり総合技術展が開かれた。高知海洋高校の小間は子どもを対象にしたロープワーク教室でにぎわっていた。
もやい結び、本結び、巻き結び…。船に関係した結び方、意味を教員が丁寧に説明する。短い時間で手順を覚えるのは難しかっただろう。それでも、人と船の安全を守るという大切な役割が分かったはずだ。
船に限らない。衣食住のさまざまな分野で、結ぶ技術は私たちの暮らしを支えてきた。「文字の誕生」などと同等の価値が、この技術にはあると説く専門家もいる。結び方それぞれに先人の知恵が詰まっている。
国際関係でも、もっと「結ぶ」知恵を生かしてほしいものだ。地球温暖化対策を巡って発展途上国と先進国が対立している記事が昨日の本紙にあった。途上国への支援目標額が国連の会議で決まったものの、「低すぎる」と不満が出ている。
さらに大きな心配の種は米国のトランプ次期政権だ。温暖化対策の国際枠組みから再離脱するかもしれない。世界が一枚岩となって気候変動に対処できる日は来るのだろうか。
高知海洋高の小間―。錨(いかり)にひもをくくる方法も子どもたちは教わった。いまは鎖もあるとはいえ、船を固定するための伝統的で重要な結び方になる。漂流しそうな世界には重い錨が必要だ。
COP29合意後も分断回避へ努力続けよ(2024年11月25日『日本経済新聞』-「社説」)
第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、途上国への支援目標を2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった。
防災インフラが未整備な途上国では、地球温暖化に伴う気候災害が頻発する。COP29では年1兆ドル以上の要求に対し、先進国がどう応えるかが焦点だった。紛争や分断が続くなか、結束できるかが試されていた。妥協の産物とはいえ、分裂は避けられた。
インドなど途上国の一部は金額を不満として抵抗。協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策につなげねばならない。
合意した金額を先進国の公的資金だけでまかなうのは厳しいだろう。資金が足りないと途上国の対策が滞る。世界全体の排出削減の遅れを避けるには、様々な形で資金を集める必要がある。
まず出し手を増やす努力を続けたい。温暖化ガスの世界最大の排出国である中国や中東産油国などは余力があるはずだ。20カ国・地域(G20)は世界の温暖化ガスの約8割を排出する。裕福な国や地域は協力する責任があると改めて認識してもらいたい。
国際的な炭素市場のクレジット(排出枠)基準が承認されたことは前進だ。国連が支援する二酸化炭素(CO2)削減事業に国や企業が出資し、成果を排出量の相殺に当てられる。民間投資を促す起爆剤になると期待できる。
日本は今回のCOP29では交渉を主導できず、影が薄かった。途上国は資金だけでなく、防災の技術やノウハウも求めている。日本には災害対策の蓄積がある。供与を積極的に進めることで世界に貢献し、存在感を高めたい。
世界2位の排出国の米国では、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領が返り咲く。来年1月の就任後、国際枠組み「パリ協定」から再離脱すると懸念される。温暖化による被害は米国内でも広がっている。日欧などはパリ協定から抜けないように説得すべきだ。
トランプ政権の動向にかかわらず、気候危機は進む一方であり、対策が急務だ。あらゆる手段を総動員することが重要になる。
トランプ氏再選 岐路の温暖化対策 パリ協定離脱は禍根残す(2024年11月15日『毎日新聞』-「社説」)
熱波や豪雨、森林火災など地球温暖化に起因する深刻な自然災害が各国を襲っている。どの国も被害を免れることはできず、国際協調の歩みにブレーキをかけてはならない。
温暖化対策に消極的なトランプ前米大統領が復権する。2017年からの1期目に、温室効果ガスの排出を削減する国際ルール「パリ協定」から離脱した経緯がある。米国はバイデン政権下で復帰したものの、選挙公約には再離脱の方針が盛り込まれている。
国際的な温暖化対策が大きく後退しかねない。各国は連携して翻意を促さなければならない。
今年の世界の平均気温は、観測史上最高だった昨年を上回り、最も暑い1年になる見通しだ。産業革命前からの気温上昇幅を1・5度以内に抑えるという目標は風前のともしびとなっている。
削減機運が失速の恐れ
気候変動対策のための資金支援額
11日にアゼルバイジャンで開幕した国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、この危機的状況からどう脱するのか、各国の姿勢が問われている。
最大の焦点は、先進国による途上国支援の増額である。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は、甚大化する被害の軽減や温室効果ガスの排出削減には、年1兆ドル以上が必要だと主張している。
しかし、日米欧は上積みに慎重な姿勢を示す。米国に次ぐ経済大国で、最大の排出国となった中国など新興国にも負担するよう求めている。
トランプ氏の再登板によって、資金増額の機運がしぼむ可能性がある。支援強化をあてに排出削減に取り組もうとしていた途上国の意欲もそがれかねない。
来年1月に就任するトランプ氏がパリ協定からの再離脱を表明すれば、世界的な排出削減に向けて新興国の協力を取り付けることがより難しくなる。
影響は離脱期間が実質3カ月だった1期目より深刻だ。今回は大統領の任期が切れる29年までの長期に及ぶことになるからだ。
トランプ氏は自国の石油・ガス産業を重視し、「掘って、掘って、掘りまくれ」と化石燃料の増産を訴えている。1期目には過去の環境規制をほごにするなど温暖化対策を後回しにした。
バイデン政権下で脱炭素投資を促す「インフレ抑制法(IRA)」が成立したが、それも見直すとみられている。
しかし、排出削減は世界の潮流である。
米国では、カリフォルニア州が電気自動車(EV)の導入を促進するなど各州が独自の環境対策を進め、企業に変革を促してきた。
こうした動きを後押しすることこそが連邦政府の本来の役割のはずだ。産業競争力の強化という観点からもメリットは大きい。
国際協調が試される時
温暖化交渉の鍵を握る米国は長年、政権交代のたびに方針を変更し、国際社会を翻弄(ほんろう)してきた。
クリントン政権は、先進国に初めて温室効果ガスの排出削減を義務づけた京都議定書の採択に弾みをつけた。ところが、次のブッシュ政権は一転して「国際競争力の低下」を理由に参加を取りやめ、議定書の発効が遅れた。
オバマ政権は中国と歩調を合わせてパリ協定を批准した。世界の排出量の4割超を占める両国の決断は早期発効に道を開いた。
すべての国・地域が温暖化対策に取り組むことを求めたのが、パリ協定である。短期的利益を追求する一国の都合で空洞化するようなことがあってはならない。
国連環境計画(UNEP)は、このままでは今世紀末までの気温上昇幅が3・1度に達すると予測する。国連のグテレス事務総長はCOP29の首脳級会合で「もう時間がない。温暖化対策は選択肢ではなく責務だ」と訴えた。
世界各地で記録的な大雨や洪水、猛暑による被害が起きている。地球規模の温暖化を抑えるには、現状を見据えて世界が結束し、対策を強化することが不可欠だ。
国際的な温暖化対策を議論する国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)がアゼルバイジャンで開かれている。
世界気象機関(WMO)は、今年の世界平均気温は観測史上最も高くなる見込みだと発表した。今年1~9月の平均気温は、産業革命前と同程度である1850~1900年の推定気温に比べて上昇幅が1・54度を超えた。
温室効果ガスの排出は2023年に史上最高レベルに達し、24年も上昇が続いているという。
削減を急がねばならないが、条約事務局によると、各国が現在掲げる削減目標を実現できても、30年の削減幅は19年比2・6%減にとどまるという。1・5度目標の実現には43%減が必要とされ、隔たりが大きい。
会議では、南太平洋の島国の首脳らが、温室効果ガスの早期削減を訴えている。氷床の融解や温まった海水の膨張で海面上昇が加速し、浸食や洪水で家屋の半数が失われた島国などもあるためだ。
50年までの30年間で東京で13センチ、大阪で27センチ、海面が上昇するとの推定もある。日本にとっても人ごとではない。
大量排出国の中国や米国、ドイツの首脳は今回、会議への出席を見送り、石破茂首相も欠席した。主要メンバーがそろわない中で、対策強化の流れに向け、各国が協調できるか試される。
温暖化対策で気がかりなのは、トランプ次期米大統領の動向だ。
米国は第1次トランプ政権の20年にパリ協定を離脱した。バイデン現政権下の21年に復帰したものの、先の大統領選ではトランプ氏が再離脱を公約し、当選した。
気候分野の米中協力を模索するなどしてきた現政権の気候変動対策は覆る可能性が高い。
米国がパリ協定をはじめ国際枠組みを撤退すれば影響は大きい。トランプ氏は、米国でも甚大な気象災害が起きている実態を踏まえ、冷静に判断するべきだろう。
COP29 温暖化対策、結束し前へ(2024年11月14日『秋田魁新報』-「社説」)
温暖化対策を協議する国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が22日までアゼルバイジャンで開かれている。高温、大雨、干ばつといった世界で相次ぐ異常気象は温暖化との関連が指摘され、人々の暮らしを脅かしている。温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を減らす地球規模の一層の取り組みが急がれる。
先進国が発展途上国の温暖化対策を支援する資金をどれだけ上積みできるかが今回の焦点となる。現状の目標は年1千億ドル(約15兆円)。途上国側は、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギー拡大などに資金が必要として年数兆ドルを求め、先進国側が難色を示している。
温室効果ガスを多く排出してきた先進国には、途上国の取り組みを後押しする一定の責任があるだろう。一方で途上国の一部も支援側に回るべきだとする意見もある。支援額や負担を巡る議論は難航が予想されるが、一致点を見いだし、各国が結束して対策を前に進める姿勢を打ち出してもらいたい。
昨年、世界各地で記録的な猛暑が発生し、グテレス国連事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代になった」と危機感をあらわにしたことは記憶に新しい。日本でも今夏の平均気温が昨年に並び2年連続で最も暑い夏となった。
温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」は世界の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べて1・5度に抑える目標を示しているが、既に1・1度上昇している。化石燃料の燃焼で排出されるCO2の増加傾向にはなお歯止めがかかっておらず、世界的な対策強化は必須だ。
トランプ氏は今回の大統領選で「資源を掘りまくれ」と原油増産を主張した。協定からの再離脱を検討しているとされる。中国に次いで大量に温室効果ガスを排出する米国が非協力的な対応を取れば、排出削減へのマイナス要因となる。
温暖化は海面上昇や生態系への影響も危惧される世界共通の課題。対策の歩みを止めることはあってはならない。
各国は2035年以降の温室効果ガス排出の削減目標を来年2月までに定めることになっている。目標を上積みしなければならない状況だが、日本は現行の目標さえ達成が危ぶまれている。石炭火力発電への依存度が高く、再エネ導入も欧州諸国に比べて遅れが指摘される。
政府はこうした現状にもっと危機感を持つべきだ。先進国として踏み込んだ目標と達成への具体策を打ち出し、世界の温暖化対策の促進につなげなければならない。
COP29開幕 トランプ復権で脱炭素に暗雲(2024年11月14日『読売新聞』-「社説」)
国連の気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が、アゼルバイジャンで始まった。
近年、世界各地で豪雨や猛暑などの異常気象が相次ぎ、地球温暖化の脅威が顕在化している。スペインでは10月、200人以上が死亡する洪水が起きた。
今後10年間の取り組みが、将来の気温上昇幅を大きく左右する。今回の会議は、途上国への資金支援や、各国の温室効果ガス削減目標の引き上げについて議論し、脱炭素を加速する狙いがある。
ところが、開幕直前の米大統領選で、温暖化対策に消極的なトランプ氏が勝利し、先行きが一気に不透明になってきた。
トランプ氏はかねて「気候変動はでっちあげだ」と述べている。1期目では、世界の平均気温上昇幅を産業革命前と比べて1・5度以内に抑えるという「パリ協定」から離脱した。
バイデン政権で復帰したが、トランプ氏は再び離脱すると表明している。石油や天然ガスの掘削を進める方針も示している。
米国は、世界第2位の温室効果ガス排出国である。その米国がパリ協定から再び抜ければ、今後、最大の排出国である中国に対し、排出削減や、途上国への資金支援を迫る国際的な圧力が弱まることが強く懸念される。
ただ、米国内では、市民の環境意識の高まりを背景に、州政府や企業、金融業界などが積極的に脱炭素を進めている。ここで再生可能エネルギーへの転換が遅れれば、米国企業の技術力や競争力も損なわれるのではないか。
COPでは長年、温室効果ガスを大量に排出してきた先進国と、影響を受けてきた途上国が対立してきた。だが近年は、途上国側にいた中国などの排出量も増えて対策を迫られるようになり、利害の調整が難しくなっている。
また、米国の指導力が低下し、温暖化対策を主導してきた欧州でも排外主義的な急進右派が台頭したことで、温暖化対策への取り組みの勢いが失われつつある。
こうした中、日本の役割は大きくなっている。米国や中国が責任を果たすよう説得を続けるとともに、日本自身が2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという政府目標を達成できるよう、努力せねばならない。
パリ協定と米国 再離脱を止めなくては(2024年11月14日『信濃毎日新聞』-「社説」)
米国は世界第2位の温室効果ガスの排出大国である。その米国が削減に後ろ向きでは温暖化対策の枠組みそのものが壊れかねない。憂慮すべき状況だ。
国連気候変動枠組み条約の締約国が集う第29回会議(COP29)がアゼルバイジャンで始まった。最大の懸念材料に浮上しているのが、トランプ氏が大統領に返り咲く米国の動向である。
条約に基づく対策の国際ルール「パリ協定」からの再離脱を訴え大統領選で勝利した。
「米国第一」を掲げるトランプ氏はこれに背を向けている。協定は国内の雇用や産業に不利益をもたらし、中国などの他国に有利になるとの主張だ。第1次政権時の2020年に離脱し、バイデン政権で復帰した経緯がある。
世界気象機関(WMO)は今年1~9月の世界平均気温について、産業革命前の水準からの上昇幅が1・54度を超え、今年の平均気温は観測史上最も高くなりそうだと発表した。1・5度以内に抑えるとの協定の目標達成は険しくなってきている。
少なくとも向こう4年間、米国が脱炭素に消極的になるのだとしたら、その影響は見過ごせないものになるだろう。
COP29では、途上国に対して先進国が拠出する温暖化対策資金の上積みが焦点になっている。現状目標の年1千億ドル(約15兆円)を大きく上回る年数兆ドルが求められているが、どこがどう負担するのか、合意は容易でない。
世界最大の排出国で、かつ世界第2位の経済大国なのに途上国扱いの中国、インドなどの新興国の協力を引き出すためにも、とりわけ先進諸国は国際協調の足並みを乱すべきではない。
長期的に見て脱炭素が共通の利益になることを粘り強く説き、米国が協定にとどまるよう、日本をはじめ各国は強く働きかけていく必要がある。
米国は温暖化対策の歩みを止めるな(2024年11月13日『日本経済新聞』-「社説」)
世界の温暖化対策を話し合う第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が始まった。
米国のトランプ次期大統領は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する構えをみせる。世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、脱炭素に向けた歩みを止めるべきでない。
記録的な猛暑や干ばつ、巨大台風、豪雨、洪水などの災害が世界各地で多発する。温暖化による被害は米の経済や企業、住民にも及ぶ。米国がパリ協定から抜けないよう日本や欧州は説得すべきだ。
2024年の世界の平均気温は23年を上回り、過去最高となる見通しだ。COP29の冒頭で、ムフタル・ババエフ議長は「温暖化対策を軌道に乗せる最後のチャンス」と各国に呼びかけた。
最大の焦点は、先進国による途上国への金融支援の増額だ。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は年1兆ドル以上を求める。難色を示す先進国との隔たりは大きいが、少しでも対策を前進させるよう妥協点を探るべきだ。
先進国からの技術や資金を前提に、排出削減を進めようと考える途上国は多い。支援額の上積みが進まなければ、世界全体の排出削減の遅れにつながる。
米国が資金を打ち切れば、途上国の削減機運をそぐ恐れがある。温暖化は人類共通の課題で、一国の政権交代に左右されては困る。
日欧は削減技術や人材育成など途上国支援を打ち出し、議論をリードすべきだ。世界最大の排出国の中国や中東産油国にも資金を出すよう促すことも必要になる。資金力のある国には、相応の責任が求められよう。
米国内でも、州や産業界ではトランプ氏の方針とは距離を置く動きが目立つ。脱炭素に積極的なグローバル企業や機関投資家も多い。投資しやすい環境や制度づくりにも知恵を出し、民間資金のさらなる活用に道筋をつけたい。
国連環境計画の報告書によると、現状の対策のままでは産業革命前からの気温上昇が最大3.1度に達する。各国は35年までの削減目標を25年2月までに提出する必要がある。削減強化に向けた機運醸成も大きな課題だ。
COP29開幕 排出大国の責任問いたい (2024年11月13日『産経新聞』-「主張」)
気温の上昇傾向が続く中、今年も地球の平均気温は前年を上回る勢いだ。世界各地で猛暑や旱魃(かんばつ)、洪水などの気象災害が多発した。国連は産業革命前と比べた気温上昇幅を1・5度以内に抑えようとしてきたが、今年はそれが突破されるとの事前情報も公表されている。
こうした諸状況に囲まれたCOP29では、加盟国に二酸化炭素など温室効果ガス(GHG)排出削減目標の積み上げが求められよう。また5年ごとに各国は削減目標を見直し、次は2035年の新目標を国連に提出しなければならないが、その期限は来年2月に迫る。COP29は先進国に削減増の圧力がかかる厳しい会議となるだろう。
同時に、途上国への「気候資金」の増額も主要議題だ。異常気象などを伴う温暖化に脆(ぜい)弱(じゃく)な途上国は、災害防止工事や社会経済の脱炭素化のための資金提供を以前から訴え続けてきた。温暖化は工業化を進めた先進国によって引き起こされた災害であり、途上国は被害者という意識に基づく要求だ。
ここで看過できないのが中国の存在だ。現在、世界のGHG排出の32%を占める第1位の排出国で、米国に次ぐ経済規模と軍事力を持ちながら、国連気候変動枠組み条約では「途上国」の位置付けである。
温暖化問題での中国は資金援助をする側の一員ではなく、受ける側の代表格として振る舞っている。一方、日本のGHG排出量は世界の3%に過ぎない。このため日本が骨身を削る努力で半減しても世界では1・5%減にしかならない計算だ。
日本の現行目標は2030年度までに46%減(13年度比)だが、原発が減り、再稼働も牛歩の現状では達成は容易でない。これ以上、削減目標を引き上げれば排出量取引で、不足分を海外から高額で購入する事態に陥ることになるだろう。
化石燃料を重視するトランプ政権への移行で、米国のCOP離脱も現実味を帯びる。地球温暖化問題はGHGを軸とする経済戦争でもある。COPでの交渉は理想論とはほど遠い。各国の利害が交錯する現実を忘れると日本の将来が危うい。
COP29開幕 気候危機を直視せねば(2024年11月13日『東京新聞』-「社説」)
地球温暖化対策を話し合う国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が22日までの日程で、アゼルバイジャンのバクーで始まった。温暖化によるとみられる異常気象が世界を覆う。国際社会の結束を再確認し「気候危機」回避の道筋を見いだしたい。
最大の焦点とされるのは、条約が拠出を義務付ける先進国から途上国への対策資金の増額だ。
温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1・5度までに抑える目標を掲げている。そのためには、経済成長の途上にある国々の対策強化も欠かせない。
2009年のCOP15で、先進国から途上国に対し、年1千億ドル(約15兆円)を提供することで合意した。今回は25年以降の支援のあり方を話し合う。途上国側には数兆ドル規模の需要があるとされる中、上積み額や拠出の分担を巡り難しい議論になるだろう。
もう一つの焦点は、パリ協定に基づく国別の温室効果ガス削減目標(NDC)の引き上げだ。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「1・5度目標」を達成し、気候危機を回避するには、25年までに世界の温室効果ガス排出量を減少に転じさせ、35年までに19年比で60%削減する必要があると指摘している。
一方、国連環境計画(UNEP)が先月公表した「排出ギャップ報告書」は現行のNDCがすべて達成されたとしても、世界の平均気温は今世紀中に2・6~2・8度上昇すると推測、現状の削減ペースが続くとすれば、最大3・1度上昇する恐れがあり、人々の暮らしに壊滅的な影響を及ぼすと、強く警鐘を鳴らしている。
パリ協定では、各国に5年ごとに目標を引き上げるよう義務付けており、35年以降の新目標の国連への提出期限が来年2月に迫る。
かねて「地球温暖化はでっち上げだ」と主張し、先の大統領選でパリ協定からの離脱を公約したトランプ氏が世界第2位の排出大国である米国の大統領に返り咲き、交渉の行方に影が差す。
しかし凶暴化するハリケーン、森林火災頻発や干ばつによる食料不足、熱中症患者の激増…。身に迫る温暖化の現実を直視して先進国と途上国の間に横たわる溝を埋め、今ここにある気候危機にともに立ち向かう機運を高める会議にしたい。いや、せねばならない。
COP29/気候対策の着実な前進を(2024年11月13日『神戸新聞』-「社説」)
国連の気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が、アゼルバイジャンで開幕した。深刻さを増す地球温暖化を抑えるため、同条約に参加する約200の国と地域が出席し、22日までの日程で途上国に対する資金支援などについて話し合う。実効性のある気候変動対策に向けて、参加各国の議論を着実に前進させなければならない。
2015年のCOP21で採択された温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、平均気温の上昇幅を1・5度に収めることを目指す。
ところが欧州連合(EU)の気象情報機関の発表によると、今年の世界平均気温は1850~1900年の推定平均気温を1・55度上回り、初めて1・5度を超える見通しになった。今年夏の世界平均気温も過去最高になったとみられる。会議の参加各国は、パリ協定の目標達成が極めて厳しい状況になっているとの共通認識を持つ必要がある。
各国は来年2月までに、2035年以降の温室効果ガス排出の削減目標を策定し、国連に報告する。条約事務局によれば、各国の30年時点の削減目標が達成されても削減幅は19年比2・6%減にとどまる。35年には19年比60%減が望ましいとされ、各国が踏み込んだ目標を掲げることが欠かせない。会議では対策強化への国際協調を進めてほしい。
焦点になるのは、途上国の再生可能エネルギー拡大などに向けた資金支援目標だ。途上国側は今の目標である年1千億ドル(約15兆円)を大きく上回る年数兆ドルを求める。先進国が大量の温室効果ガスを排出し、途上国が海面上昇や干ばつなどの被害を受けてきた経緯がある。先進国側は負担の増加に難色を示すが、真摯(しんし)に議論に応じる責務がある。
先進国は、経済的に急成長し、温室効果ガスを多く排出している中国などの新興国にも資金の拠出を期待する。だが会議では新興国側の反発も予想される。温暖化防止という共通の目標に近づくため、冷静に合理的な議論を深めてもらいたい。
米大統領選で共和党のトランプ氏が勝利した結果も会議の懸念材料となっている。トランプ氏は温暖化対策に後ろ向きで、前回の大統領在任中にもパリ協定から離脱した。中国に次ぐ温室効果ガスの排出国である米国が今回も離脱となれば、影響は計り知れない。先進国としての立場を自覚すべきである。
同様に日本にも課せられた責任も重い。国内対応を優先する石破茂首相は出席を見送る方針だ。各国首脳らが顔を合わせる中、存在感を示せないのは残念だが、先進国の一つとして、気候危機回避への議論をリードする役割が求められる。
COP29開幕 温暖化防止、改めて決意を(2024年11月13日『中国新聞』-「社説」)
日本列島は11月半ばなのに汗ばむ陽気の日がある。南の海は今なお台風ラッシュだ。ことしは能登半島を含め、世界中で異常気象による豪雨や猛暑、干ばつが多発した。
その状況下で、190以上の国・地域の代表が集う国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が、アゼルバイジャンで開幕した。温暖化対策の具体論を深める場でありたいが、国際協調の行方に暗雲が垂れ込める。
化石燃料の活用を公言し、温暖化対策に否定的なトランプ氏が、米大統領選で復活当選したからだ。国際枠組みの「パリ協定」から1期目に続いて離脱する準備に入ったと伝えられる。世界2位の温室効果ガス排出国が抜ければ世界の機運の低下は明らかだ。協定に復帰した米バイデン政権と曲がりなりにも協調してきた排出量1位の中国のやる気も損なわれかねない。
逆風はほかにもある。脱炭素化をリードする欧米諸国の選挙で右派が勢力を伸ばし、温暖化対策の後退が懸念されている。地球規模の環境などどうなっても構わないとする発想が先進国にもはびこるのは当然、看過できない。
だからこそ気候変動に立ち向かう国際社会の決意を改めて示したい。温暖化で何が起きるのか。全ての国と地域が科学的な根拠を基に、議論を仕切り直すべきだろう。
COP29に合わせ、世界気象機関(WMO)が公開した分析はそれだけ衝撃的だ。1~9月のデータを見ると2024年の世界平均気温が観測史上最高となり、温暖化指標の産業革命前と比べ、1・54度高い見通しという。
9年前に合意されたパリ協定は将来目標として上昇幅を「1・5度以下」と定めた。その上限を初めて突破するのは深刻な事態に違いない。さらには23年分の世界の温室効果ガス排出量が過去最高だったとする推定もある。手をこまねいていいはずはない。
ことしの会議はただでさえ難航が予想される。途上国の再生可能エネルギー拡大などに対する資金援助の新たな目標の設定が焦点のようだ。現状の目標、年1千億ドル(約15兆円)から10倍以上に引き上げてほしいと途上国側は主張し、先進国は難色を示す。新興国の中国やインドなどにも出させるべきだとする声も強いが、仮に米国が協定を離脱すれば、この枠組みについても一段と迷走しかねない。
それでも各国は来年2月までに、35年以降の新たな削減目標を国連に提出しなければならない。この会議に臨む姿勢で本気度が問われよう。
日本はどうか。毎年の会議のたびに環境団体に火力発電への依存を指弾され、旗色が良くない。今回は再生エネ拡大に向け、エネルギー貯蔵量の6倍増を目指す「有志国誓約」に加わることを打ち出すという。前向きな話とはいえ小手先の印象は拭えない。
世界が求める再生エネ拡大に日本がもっと強く貢献し、国際世論の形成で先頭に立つ姿勢を出せないか。同盟国としてトランプ氏に直談判し、離脱を思いとどまらせるぐらいの気構えもあっていい。