勝者は出てこない
石破首相、野田代表、そして玉木代表
さる衆院選の結果について様々な分析がなされているが、一強多弱を誇った自公が過半数を失って少数与党に転落する一方、立憲民主を中心とする政権が誕生することもなく、自公が一部の野党を取り込んで新たな連立体制を敷くこともないという微妙なバランスでしばらくは進みそうだ。現状をどう見るべきなのか。新聞社の政治部デスクが反省を込めて今回の選挙とその後の動きを振り返る。
「今回の衆院選が告示される以前から“勝者は出てこないかもしれない”といったことが語られていました。自公は告示前から64議席も減らしてしまいましたが、目標に掲げていた過半数を維持していたとしてもかなりの議席を減らしていたのは間違いない。どう転んでも勝者とは言えなかったでしょう」
と、政治部デスク。その一方で、立憲民主は告示前から議席数を50も増やした。
唯一の勝者は
「その点から勝者と言う人もいますが、比例の獲得票は前回の約1149万から約1156万と7万ほどしか増えていません。比例の獲得票に連動する政党支持率が1ケタ台でしたから伸び悩むのも当然。裏金問題などを抱えた与党の敵失によって小選挙区で勝利を積み重ねることができただけで、党としての体力がついていたわけではありません」(同)
立民が精一杯背伸びした結果が今回で、これ以上の伸びしろはなかなか望めないというわけだ。
「選挙中から訴えていた政権交代を選挙後も金科玉条のように言い続けた。良いふうに言えばブレずに主張しているとも言えますが、政策面での同意など二の次でコトを進めようとしているフシがありました。いわゆる“何でも反対な野党の古い体質”を露呈し、やはり政権を任せるわけにはいかないという声がかなり大きくなっていましたね」(同)
結局、国民民主がキャスティング・ボートを握ることになった。
「“いない”と言われてきた唯一の勝者となったと言えるでしょう。選挙後も玉木雄一郎代表ら執行部の面々は野党の連帯を叫ぶ立民に安易になびくことなく、あくまでも訴えた政策実現のためにリアルな選択をしていくことを宣言しています。このスタンスの新しさが今のところ好感を持って受け止められている面はあります」(同)
番外編としての勝者は
「番外編としての勝者をあげるとしたら、法務検察ですね。自民党の派閥の資金パーティーをめぐる政治資金収支報告書への不記載問題を指摘して裏金問題として世の中に周知させたうえで関係者を訴追し、一方で当時の岸田首相に派閥解体を決断させて衆院選を通じて旧安倍派を中心に勢力をそぐことに成功しました。東京地検特捜部による一連の捜査で国民の望むような形で政治勢力が適正に配分されたという捉え方をするなら、特捜部の捜査を主導した法務検察も勝者となるでしょう」(同)
話を選挙後の永田町事情に戻そう。
「自公が少数与党となって首班指名でも四苦八苦している点について、新聞など大手メディアの多くは“与党の弱さ”を批判的に論じていますね。私が所属する会社でもそうですから自戒を込めて言いますが、旧来型の論調のままという印象です。でも、安倍政権一強の時には“政権与党の傲慢さ”を各メディアはこれでもかと指摘していたわけです。与党が弱くなったらなったで批判するというのはいささか矛盾があると見られるかもしれません」(同)
決められない政治
少数与党という現実について早速「決められない政治」になる、との批判も巻き起こっている。
「直近では、衆参両院で多数派が異なるねじれ状態に苦しんで退陣した福田康夫政権を想起させる指摘ですね。現状は自公与党にとっては国民民主を中心に野党に丁寧な対応が求められるので面倒くさい状況ではあります。が、国民の期待を受けた政党の主義・主張・政策を国政に反映させることは政権与党にとって決してマイナスではないはず。その時々でポジションを絶妙に変えて当事者を批判したり、政局優先や与野党の対決志向を盛んに煽ってきたりしたことについてメディア側も反省すべきだと思っています」(同)
一部のメディアが安倍一強時代に望んでいたのは建設的な議論ができる野党の存在ではなかったか。今回の衆院選の敗者には、旧い視点から脱することができなかった「メディア」も含まれることになるのかもしれない。
デイリー新潮編集部