『3000万』秋ドラマ初回注目度1位 『ライオンの隠れ家』『若草物語』が続く(2024年11月8日『マイナビニュース』)

夏ドラマに比べて高注目度
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『3000万』に出演する安達祐実(左)と青木崇高
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、19月にスタートした秋ドラマについて、初回の注目度ランキングを作成し、人気の傾向を分析した。
NHK土曜ドラマ『3000万』が、個人全体注目度73.4%で1位を獲得。7月クールの初回放送個人全体注目度は、1位の『マウンテンドクター』が68.4%だったことからも、秋ドラマの注目度が非常に高いことがうかがえる。
■ウソを重ねてしまうことで破滅の道へ
『3000万』は、平凡な夫婦が、ある事故をきっかけに突然3000万円という大金を手にし、事件に巻き込まれていく……というクライムサスペンス。社会問題となっている「闇バイト」が絡んだストーリーで、男性注目度1位、女性注目度2位と、性別問わず高い注目を集めた。
安達祐実演じる主人公・佐々木祐子は、家のローンや息子の教育費のことで頭がいっぱい。それに対し、青木崇高演じる元ミュージシャンの夫・義光は稼ぎが少ないにもかかわらず「なんとかなる」と楽観的。味元耀大演じる息子の純一はピアノの才能があり、先生に新しいピアノを買うように催促されている。そんな中、一家が交通事故に巻き込まれ、大金が入ったカバンを持ち帰ってしまったことをきっかけに、物語は動き始める。夫婦がことごとく選択を間違え、ウソを重ねてしまうことで破滅の道へと進んでいく様子に、多くの視聴者が引きつけられた。
事件に巻き込まれる夫婦が「どこにでもいる普通の夫婦」であったことも、視聴者をくぎづけにした理由の一つかもしれない。祐子がスーパーで少し高めのロールケーキを買うことを躊躇(ちゅうちょ)したり、職場でパワハラのような目に遭いながらも耐えて働く姿に共感した人は多かったのではないだろうか。また、少し無神経ながらも愚直で憎めない、義光のキャラクターも非常にリアル。「突然大金が手に入る」という現実にはあり得そうにない設定ながら、キャラクターやストーリー展開に無理がなく「もし自分がこの立場だったら……」と視聴者が自分ごとのように楽しめたのだろう。
また、このドラマは「ライターズルーム」という手法を取り入れたことでも話題に。複数の脚本家がライターズルームという場に集って共同で脚本を執筆するという、海外ドラマでよく使われる手法だ。NHKは「日本発の面白いドラマを作る」という目標を掲げ、2022年にライターズルーム方式を取り入れた「WDRプロジェクト」 をスタートさせた。今回の『3000万』は、このプロジェクトで選出された4人の脚本家によって書かれている。複数の脚本家が互いの持ち味や得意分野を掛け合わせることで、ストーリーに意外性や奥行きが生まれ、目が離せない展開に仕上がったのではないだろうか。「日本発の面白いドラマを作る」というNHKの試みは、見事成功したといえるだろう。
視聴率(※REVISIO調べ、以下同)は2.6%と奮わなかったが、SNSでは「緊張感があって面白い」「スリリングな展開に期待大!」といった声が上がっており、今後の視聴率上昇も期待できそうだ。
■謎の多い展開に目が離せない
2位はTBS『ライオンの隠れ家』。柳楽優弥のTBSドラマ初主演となる本作品は、弟のために生きる兄・洸人と、自閉スペクトラム症の弟・美路人という平穏に暮らす2人の前に「ライオン」と名乗る男の子が現れ、2人はある事件に巻き込まれていく……というストーリーだ。1位の『3000万』と同じく、男性注目度2位、女性注目度1位と性別問わず高い注目を集めた。
市役所勤めの青年・洸人(柳楽)は、弟の美路人(坂東龍汰)と2人暮らし。自閉スペクトラム症の美路人はこだわりが強くイレギュラーが苦手なため、2人は毎日ルーティン通りの生活を送っている。しかし、ある日突然「ライオン」と名乗る謎の男の子がやってきたことで、2人の穏やかな生活は一変。しかも、ライオンが持っていたスマホには「じゃ、あとはよろしく」というメッセージが残されている。ライオンは一体誰の子なのか。誰が、どんな目的で洸人と美路人に託したのか……そんな謎を軸に、ストーリーが展開していく。
「家族愛」や「兄弟愛」を描きながらもサスペンス要素が含まれており、謎の多い展開に目が離せない視聴者が多かったようだ。特にライオンが虐待を受けていたと思わせるような描写があり、母親の立場である視聴者が注目したことも、女性注目度の上昇につながったのかもしれない。
キャスト陣の高い演技力も、このドラマの魅力を高めている要素の一つだろう。主演の柳楽の、優しさがにじみ出るようなお芝居はさすがだ。今注目の若手俳優坂東龍汰自閉スペクトラム症の青年という難しい役どころだが、その演技に絶賛の声が集まっている。SNSでも「自閉スペクトラム症の息子と同じ仕草・表情でびっくりした」「めちゃくちゃリアル」という声が上がっているほど。ライオン役を演じている子役の佐藤大空も、そのかわいらしさと自然なお芝居で多くの視聴者の心をわしづかみにしている。
早くも「今期ナンバーワンドラマ」との声が上がっている本作品。初回はほのぼのした雰囲気だったが、今後謎が明らかになるにつれシリアスな展開になることが予想される。注目度がどう変化していくのか、その動向にも注目したい。
「女性の生き方」にも焦点
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3位は日本テレビ若草物語ー恋する姉妹と恋せぬ私ー』。オルコットの自伝的小説『若草物語』を原案に、令和に生きる四姉妹と恋のあれこれを描いた作品だ。女性目線の強いメッセージ性とテンポの良いストーリー展開で視聴者をくぎづけにし、見事3位にランクインした。
四姉妹の物語なだけあって、キャストの華やかさにも注目が集まっている。主人公の次女・町田涼を演じるのは、1年で13作品もの映画やドラマに出演し話題となっている堀田真由。長女の恵役には仁村紗和、三女の衿役には長濱ねる、四女の芽役には畑芽育と、今注目の若手女優たちがズラリと顔をそろえている。
このドラマの見どころは、四姉妹の恋愛模様をコミカルに描きながら「女性の生き方」に焦点を当てているところ。次女の涼は「恋愛しなきゃもったいない」「女の幸せは結婚」という価値観の押し付けに生きづらさを感じている。初回では、ドラマ制作会社で働く涼が「恋愛至上主義」の風潮に異議を唱え、大御所脚本家(生瀬勝久)に盾ついて会社を辞める……というストーリーが描かれた。そんな自分らしさを貫く涼の姿に、共感した女性は多かったのではないだろうか。
一方で、長女の恵は結婚願望が強く、四女の芽は「結婚するならお金持ち限定」と割り切って恋愛するなど、姉妹で価値観が全く違っている点も面白いポイントだ。視聴者が、自分の価値観に近いキャラクターに感情移入できる点も、注目度が上がった理由の一つといえそうだ。
また、視聴質の観点から注目したいのは、男女の注目度がほぼ同じであったという点。女性の視点から描かれたドラマのため、女性注目度が高くなるのでは?と予想されたが、男性も同じくドラマを楽しんだことがうかがえる。女性はストーリーを自分ごと化して楽しみ、男性は若手人気女優が四姉妹として共演するというキャスティングに惹かれて楽しんだ人が多かったのかもしれない。
■注目度の伸びに期待『海に眠るダイヤモンド』
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毎クール、スケールの大きな作品を生み出しているTBS日曜劇場。10月クールは神木隆之介が主演を務める『海に眠るダイヤモンド』が放送されている。長崎県端島を舞台に、現代の東京と1950年代の端島を行き来しながら物語が進んでいくという圧倒的なスケール感で、初回世帯視聴率が今期唯一の10%超えを記録。SNSでも「スケールのデカさに圧倒された」「セットが豪華で映画みたい」との声が上がっている。
視聴率の高さには、キャストの豪華さも関係していると考えられる。主演の神木は現代と1950年代で二役を演じるほか、杉咲花、土屋太鳳、池田エライザ斎藤工といった主役級の俳優陣が脇を固めている。
さらに脚本は、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『MIU404』といった数々の話題作を手掛け、映画『ラストマイル』も大ヒットした野木亜紀子氏が担当。今もっとも勢いのある人気脚本家のオリジナル作品ということで、放送開始前から注目していた人も多かったのではないだろうか。野木氏は、この作品のために約1年かけて取材を行ってきたそうで、現地のリアルな空気感もこの作品の魅力を底上げしている。
個人全体注目度は64.9%で6位と思ったより伸びなかったが、巻き返しの可能性は十分にありそうだ。スケールの大きな作品や史実を基にした作品は、初回はどうしても「説明」のパートが多くなり、視聴者が飽きてしまいがち。しかし、物語が展開するにつれてどんどん目が離せなくなり、最終回に向けて順位が上がっていくことも期待できるだろう。
女性支持が集まる『ザ・トラベルナース』
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視聴質の視点から見逃せないのは、女性注目度3位を獲得した『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日)。2022年の10月クールで放送された人気テレビドラマの第2シーズンで、卓越したスキルを持ち、フリーランス看護師として様々な街を渡り歩く「トラベルナース」たちの奮闘が描かれている。
優秀だがプライドが高い那須田歩(岡田将生)と、紳士的だが時には大ウソつきな九鬼静(中井貴一)のコンビが再び見られるとあって、多くの視聴者の関心を集めた。医療ドラマというと重苦しい雰囲気になりがちだが、本作品は歩と静のやりとりが非常に軽快でコミカル。気軽に楽しく見られる雰囲気が、前作に引き続き女性に支持された理由かもしれない。
この第2シーズンからは新たに看護師のパク・イジュン役として、日本と韓国で活動する5人組バンド「Hi-Fi Un!corn」のキム・ヒョンユルが出演しているのも見逃せないポイント。女性人気が高いバンドのギタリストなだけに、新たな女性視聴者の獲得に一役買っていそうだ。
また、前作の『民王』から9年ぶりの続編として放送される『民王R』の初回放送は惜しくもトップ3を逃したものの、REVISIOの週間注目度ランキング/コア視聴層部門では1位を獲得しており、こちらも今後の注目度推移が気になるところだ。
まだまだこれから盛り上がる秋ドラマ。初回放送は現在もTVerなどで視聴可能なものが多いので、ぜひキャッチアップして秋の夜長をドラマと共に過ごしてみてはいかがだろうか。
■ REVISIO
  独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。