吉田大八監督と主演の長塚京三
第37回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが11月6日、東京・TOHOシネマズ日比谷で行われ、日本映画「敵」が東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀監督賞(吉田大八)、最優秀男優賞(長塚京三)の3部門を受賞した。原作は筒井康隆の同名小説。穏やかな生活を送っていた独居老人の主人公の前に、ある日「敵」が現れる物語を、モノクロの映像で描いた。日本映画が最高賞に輝くのは第18回(2005年)の根岸吉太郎監督「雪に願うこと」以来、19年ぶりとなる。
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俳優デビュー50周年、12年ぶりの主演作となった「敵」で最優秀男優賞を受賞した長塚は、「年をとり、ひとりぼっちで助けもなく“敵”に閉じ込められてしまう役柄でしたが、実際には味方もいるんですね。味方でいてくれた人、ありがとう」と受賞の喜びをコメント。「引退しようかなと思っていた矢先なので、うちの奥さんは大変ガッカリするでしょうけど、もうちょっと(笑)」とさらなる俳優道に意欲を燃やした。
東京グランプリを受け取った吉田監督は、「長塚さんもおっしゃっていましたが、意外と味方が多いことに気づけることができて良かったですね」と安どの表情。「僕も長塚さんも、皆さんの敵であり、味方でありたい。何を言っているかわかりませんが(笑)。これからも映画をよろしくお願いいたします」と呼びかけた。また、監督賞を授与された際には「自分が良い監督なのか自信が持てませんが、皆さんのおかげでいい映画になった」と、長塚をはじめとする出演者やスタッフ、関係者に感謝を伝えた。
今年のコンペティション部門は2024年1月以降に完成した長編映画を対象に、110の国と地域から2023本の応募があり、審査委員長を務める俳優のトニー・レオンをはじめ、橋本愛(俳優)、エニェディ・イルディコー(映画監督・脚本家)、キアラ・マストロヤンニ(俳優)、ジョニー・トー(映画監督、プロデューサー)が審査員として、コンペティション部門の全15作品を審査した。
各賞の発表を終え、レオンは「緊張しつつも、刺激的な経験でした」と審査を振り返り、「最終的には全員一致でグランプリにふさわしい作品を見つけることができた。心からおめでとうございます。またお会いできれば」と総評を述べた。
クロージング作品は「マルチェロ・ミオ」(クリストフ・オノレ監督)。今年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門に選出された作品で、審査委員の1人でもキアラ・マストロヤンニが、実の父であるマルチェロ・マストロヤンニのようになってしまうという設定で、同じく実の母であるカトリーヌ・ドヌーブと共演したことでも話題となった心温まるフレンチコメディだ。
解説
筒井康隆の同名小説を、「桐島、部活やめるってよ」「騙し絵の牙」の吉田大八監督が映画化。穏やかな生活を送っていた独居老人の主人公の前に、ある日「敵」が現れる物語を、モノクロの映像で描いた。
大学教授の職をリタイアし、妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋にひとり暮らす、渡辺儀助77歳。毎朝決まった時間に起床し、料理は自分でつくり、衣類や使う文房具一つに至るまでを丹念に扱う。時には気の置けないわずかな友人と酒を酌み交わし、教え子を招いてディナーも振る舞う。この生活スタイルで預貯金があと何年持つかを計算しながら、日常は平和に過ぎていった。そんな穏やかな時間を過ごす儀助だったが、ある日、書斎のパソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。
主人公の儀助役を12年ぶりの映画主演になる長塚京三が演じるほか、教え子役を瀧内公美、亡くなった妻役を黒沢あすか、バーで出会った大学生役を河合優実がそれぞれ演じ、松尾諭、松尾貴史、カトウシンスケ、中島歩らが脇を固める。2024年・第37回東京国際映画祭コンペティション部門出品。( 映画.com)
2025年製作/108分/G/日本
劇場公開日:2025年1月17日
「第37回東京国際映画祭」全受賞結果は以下の通り。
コンペティション部門
▼東京グランプリ/東京都知事賞:「敵」(監督:吉田大八)
▼審査員特別賞:「アディオス・アミーゴ」(監督:イバン・D・ガオナ)
▼最優秀監督賞:吉田大八(「敵」)
▼最優秀女優賞:アナマリア・ヴァルトロメイ(「トラフィック」)
▼最優秀男優賞:長塚京三(「敵」)
▼観客賞:「小さな私」(監督:ヤン・リーナー)
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