亡くなった受刑者の遺族ら(2023年1月、弁護士ドットコムニュース撮影)
名古屋刑務所に服役していた受刑者の男性(当時71歳)が2022年3月に死亡したことをめぐり、遺族の代理人弁護士が11月6日、名古屋刑務所と同刑務所を管轄する名古屋矯正管区が11月5日に男性の遺族に対して「不適正な処遇があった」という趣旨の説明と謝罪をしたことを明らかにした。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●名古屋刑務所で発覚した暴行事件と同時期に死亡
代理人弁護士や遺族によると、男性は暴行罪で懲役10月の判決を受けて名古屋刑務所に収容された。2022年4月に出所する予定だったが、同年3月1日に多臓器不全で死亡した。
遺族が男性の遺体を引き取った際、身体中に傷や拘束された跡を発見し、名古屋刑務所に詳しい説明を求めたが納得できる対応がなされなかったという。
不信感を強めた遺族は2023年1月、この第三者委員会に男性が死亡した経緯の調査を申し入れた。そして、2023年4月に、男性が適切な医療を受けられずに死亡したとして国家賠償請求訴訟を東京地裁に起こした。
●関わった刑務所職員7人を処分
そんな中、名古屋刑務所の幹部から突然、遺族に連絡があり、受刑中に亡くなった男性について不適正な処遇があったことを認めた上で謝罪があったという。
具体的には、刑務官から男性に対して「ばかたれ」「どあほ」「ばか」「ぶっとばすぞ」などの暴言があったり、男性が「水ください」「薬ください」と求めたのに対応しなかったりした事実が確認されたとの説明を受けた。
また名古屋刑務所は11月6日、関わった職員7人を戒告などの処分にし、うち1人については私印不正使用の疑いで名古屋地検に書類送検した。
●遺族「死に追いやったことが許せない」
遺族代理人の海渡雄一弁護士は「遺族に謝罪することはある意味当然だが、これまではその当然がされてこなかった。今回の刑務所や矯正管区の対応は異例のものだと思う。それは我々も前向きに受け止めている」と述べた上で、「今回一番重要なのは、本人が胸が痛いといっているのに適切な医療処置をしなかったこと。刑務官が『ぶっとばすぞ』などと言っている状況で、まともな医療が提供されているわけがない」と話した。
また、国家賠償請求訴訟で遺族側が、心筋梗塞の症状を訴えていた受刑者に適切な医療が行われなかったことで死亡したと主張している点に触れ、「名古屋矯正管区や名古屋刑務所には、遺族にもう一歩寄り添う対応を求めたい」と述べた。
男性の遺族は、死亡の知らせを受けた際に遺体のまま引き取るか遺骨として引き取るかを選ぶように刑務所側から聞かれ、遺体で引き取ることにした経緯を明かし、「身内が刑務所に入って亡くなったらほとんどの人がおそらく遺骨として返してもらうと思うが、遺骨で返してもらったら兄の体の傷は分からなかった。焼いてしまったら証拠がなくなってしまう。同じようなことが名古屋刑務所ではたくさんあったのではないかと想像しています」と話した。
そして、「兄の死について刑務所が責任を争い続けるのはおかしい。なぜ兄だけが集中攻撃を受けたのか。兄を死にまで追いやったことが許せません」と訴えた。
弁護士ドットコムニュース編集部