【悼む】楳図かずおさん 忘れられない初対面の15分間 常人を超える好奇心とサービス精神に感服(2024年11月6日『東京新聞』)

 
 「漂流教室」や「わたしは真悟」など恐怖をテーマにした作品で知られ、タレントとしても活動した漫画家の楳図かずお(うめず・かずお、本名・楳図一雄)さんが10月28日、死去した。88歳。楳図さんは和歌山県生まれ、奈良県出身。葬儀は関係者のみで執り行った。胃がんを患い、施設で療養中だったという。
インタビューにこたえる漫画家の楳図かずおさん(2018年撮影)

インタビューにこたえる漫画家の楳図かずおさん(2018年撮影)

 18歳だった1955(昭和30)年、グリム童話ヘンゼルとグレーテル」を翻案した単行本「森の兄妹」でデビュー(山路一雄名義)。グロテスクな外見よりも心理描写を重視した「恐怖マンガ」を自ら名乗り、「へび少女」などの作品で第一人者となった。
 小学校が丸ごと荒廃した未来へタイムスリップする「漂流教室」(1972~74年)は未来人との対決といったSF的な展開とともに、子どもたちの間の権力争いやカルト的な信仰の誕生など人間心理の恐ろしさも描いた。
楳図かずおさんの代表作『漂流教室』(左)と『まことちゃん』(いずれも小学館提供)

楳図かずおさんの代表作『漂流教室』(左)と『まことちゃん』(いずれも小学館提供)

 1982~86年の「わたしは真悟」は産業用ロボットが自我を獲得し、人類を超越していく物語。現在の人工知能(AI)やインターネットの発展を予見したような壮大な作品で、2018年にフランスのアングレーム国際漫画祭で日本人3人目の遺産賞を獲得した。
 一方、ヒット作「まことちゃん」などギャグも得意とし、作中に登場する左手のパーの中指と小指だけ折り曲げた「グワシ」の決めポーズは、子どもたちの間で流行した。
 1995年の「14歳」完結後は休筆状態となったが、2022年から楳図作品の芸術性に焦点を当てた展覧会「楳図かずお大美術展」が開かれ、日本各地を巡回。同展で27年ぶりの新作となる「わたしは真悟」の続編を発表した。
 そのほか、赤と白の横じまシャツ姿でテレビのバラエティー番組にも出演。映画監督や俳優、作詞など多彩に活動した。
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◆「子どもって何者かになるための元をいっぱい持ってる」

 「私のひいおじいさんは北の方から来たんです。で、日本人のルーツは(中国の)四川省らしくて…」
 2018年11月、東京・吉祥寺の仕事場で会った楳図かずおさんは、あいさつの時から強烈だった。
 名刺を渡しながら名字の「楳図」について何げなく聞くと、家族史から人類の起源がアフリカだという話まで、一気に話し続けた。両手で私の名刺を持ち、15分以上も直立のままで。
 その後のインタビューを通して分かったのだが、これは単に奇矯な言動なのではなく、常人を超える好奇心とサービス精神のためだった。こちらの質問に対して、楳図さんは自分が持つすべての知識を動員して答えてくれる。例えばロボットについて聞けば「では、機械と生物の違いってどこにあると思いますか?」と、問い返しも多弁だった。
インタビューに答える楳図かずおさん=東京都武蔵野市で(2018年撮影)

インタビューに答える楳図かずおさん=東京都武蔵野市で(2018年撮影)

 同年に受賞したフランスの漫画賞についての取材だった。「フランスで漫画は9番目の芸術と言われているのに、日本では地位が低い。きちんと評価されなければ、作家は目標が分からず売れ筋ばかりに走り、レベルが上がらない」と日本の漫画界を心配していた。
 「漂流教室」「まことちゃん」「わたしは真悟」「14歳」など代表作の多くは子どもが主人公。
 「古代、マンモスを倒せたのは大人だろうけど、弱い者には弱い者の良さがある。子どもって当たり前のことを『何で?』と聞けるし、何者かになるための元をいっぱい持っている。大人の腕力だけでは、人類はひ弱な存在なんです」
 子どもの自由さを信頼した言葉が、楳図さん自身の姿にも重なり、印象に残った。(谷岡聖史)